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遙かなる望郷の地へ-12◆「同床異夢2」

■ジョフ大公国/宮殿/大広間


“・・・ふむ。どうやら過去に何かそういうことがあったようだ・・・な。

 ・・・嫌なことを思い出させてしまったらしい。”


 エリアドは胸のうちで小さく呟くと、一礼してディンジルとヒラリーの退出をじっと見送った。

 それから、グランとレアラン姫の方を向き、おもむろに口を開く。


「・・・あまり政治向きの話はお好きではないらしいですね。まぁ、今のところ、これ以上この話は必要ないでしょう。」


“・・・実のところ、好き嫌いで避けて通れるものなら、苦労しないで済むのだろうが・・・”


「・・・けれど、あまりここに長居しない方が良いのかもしれない・・・な。」


 窓の向こうの“水晶の霧”の峰々に視線をやりながら、エリアドは呟くようにそう洩らした。


               ☆  ☆  ☆


 立ち去るディンジルとヒラリーを見て、ケイリンは小さくため息を付いた。


「あらら、なんか俺が聞いたことが変な方向に飛び火しちまったな。」


“あとで、あの2人に謝っておこう”


 そう思ったが、残りのメンバーに対してもフォローが必要だった。


「悪かったな、何か引き金を引いちまったようだ・・・」


 グランのほうを向くと。


「さっきの質問だが、俺はグランの古くからの親友だと思っている。それはどんな時でも変わらないだろう。」


 しばし、沈黙をおき、一転まじめな顔をすると。


「だが、話の流れしだいではそうも言っていられなくなる。確かに俺は国王としては失格に近いと思う。それでも、俺の行動がGKDに対して強い影響力をもっている限り、責任を負わなければならないと考えている。まあ、そういうことなので、少し準備をしてくるよ」


 と言うと、残った朝食を瞬時にたいらげて、ケイリンは広間を出て行った。


               ☆  ☆  ☆


 大広間を足早に出て行く数人を目にしながら。


「まったく、落ち着きのない奴らだ」


 とグランは一言だけ零した。

 トントンと二度ほど指でテーブルを叩きながら厳しい表情を浮かべる。


“やれやれ、何時の間にやら建前と本音を使い分ける御身分になっていようとはな・・・まぁ、ケイリンの野郎に言われるまでもなし!”


「まぁ、成ったら成った時の話、今考えても致し方ないことだ。」


 周りには何のことかわからない独り言であったが、本人は極めて不謹慎な考えを浮かべてはいた。

 それでいながら、隣から心配そうな視線を送るレアランに対しては、笑顔で言い切った。


「大丈夫だ、後は俺が何とかするさ。」


“たぶん”


 グランは、心の中でそう付け加えていた。


               ☆  ☆  ☆


「はい・・・大戦士様のことは、心から信頼しておりますから。」


 グランに向けたレアランの笑みには、不安の色が混ざってしまっていた。

 自分の杓子定規な言葉が、みんなに波風を立ててしまったのかも知れない──そう考えると、レアランは居たたまれない思いだった。

 心配そうに三人が出て行った戸口を見ていると、視線感じてテーブルに座る客人に目を向ける。


“レムリア姫さま?”


 深い、黒い双眸がじっと自分を見つめていた。

 ふっと優しげな笑みを浮かべると、レムリアが静かな声で話し出す。


「真剣に思うからこその、行動ではないか──わたくしにはそう思えるのです。このお国のこと、大戦士さま、大公女さまに対して心から真剣だからこそ、ぶつかり合うことがあったのでしょう。それは、良しとしても宜しいのではないかと・・・」


 僭越なことを申し上げてしまいました、と最後にレムリアは丁寧に一礼して締めくくった。


「レムリア姫さま・・・」


 レムリアの動じない態度に、そしてその柔らかな物腰に、レアランは素直に感じ入った。


「ありがとうございます。ジョフの大公女として、国民に不安を見せるようなことがあってはなりません。けれども、わたくしはまだ大変未熟で・・・しばしば感情を表に出してしまいます・・・」


 もっともっと頑張らなければ──隣に座って自分を護ってくれている愛しい人の手を煩わせないように。

 レアランは決意も新たに、自分の想いを言葉にした。


「それでも・・・この国に住む人々が幸福になるために、不安なく毎日を暮らして行ける為に、わたくしはどの様なことも喜んでやりたい──そう思うのです。」


「貴女は十分に頑張っていますよ。」


 グランは、柔らかい口調でレアランの言葉に続けた。


「いま、この国そして国民に一番大切なのは貴女の存在其の物なんだ。それ以外のことに気を使うのは俺でかまわないし、それくらいの仕事は残しておいて貰わないと困る。」

「はい・・・」


 僅かに、レアランの瞳は潤んでいた。長く虐げられていた祖国ジョフ。その再興を担う我が身ながら、レアランは不安と心細さで心が潰れそうな思いだった。

 だが、彼女の傍らには、この偉丈夫の大戦士がいる。そして、大戦士を友と呼ぶその仲間達もいる。

 小娘に過ぎない自分に、斯様な人々が手を貸してくれる――それが、レアランをして、自分も心を強く持たなければいけない、と思わさ閉めているのだった。


               ☆  ☆  ☆


 皆の食事が一段落した頃合いを観て、レアランが言った。


「朝食を召し上がった後、カイファート宰相が皆さまとお話ししたいことがありそうです。宜しければ、この後『宰相の部屋』に行って頂けませんか?」


 綺麗になった食器類を脇に寄せると、グランがレアランに同意して言った。


「そうか。カイファートを余り待たせるわけにもいかないしな。皆、そろそろ宜しいかな?」


 それぞれの食事の進捗を確認してからの言葉であった。

 大変お待たせしました。大戦士グランと大公女レムリアの物語の続きです。更新ペースは遅いのですが、その分面白くするように頑張りますので、今後とも宜しくお願い申し上げます。

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