始まる学校生活
気狼は帰り道コンビニでインスタントラーメンとコーラを買った。
もうすでに日は傾き始めていた。
家の近くまで来ると見たことある髪型と赤髪の女の子が歩いていた。
「まさか…朱音じゃないだろうな…」
恐る恐る歩く朱音と思われる女の子を着けて行くと気狼の家の隣のアパートへ入って行った。
気狼も入っていったのを確認し表札を確認すると。
「マジデスカ…」
二階の端にある201号室に「紗衣華」と言う名が彫ってある表札があった。
扉の前まで来て確認出来たはいいが明日なんて言おうかと悩んだ末とりあえず急いで階段を降り隣の自宅へ入った。
買ってきたカップラーメンとコーラを一回のリビングに置き二階の自分の部屋へ行く。
着替えようとブレザーを脱ぎワイシャツを脱ぎながら少し熱のこもっている部屋を換気しようと窓を開けると窓の外には、
「あ…」
「え?…」
気狼からは上下とも下着姿で手には制服を持っている朱音が、
朱音からは上半身裸の気狼が見えた。
「あ…いや…」
「いやこれはち…違う!」
「イヤー!」
叫び声を上げながら朱音がカーテンをおもいっきり閉めた。
気狼は急いでTシャツに着替え朱音の家に向かった。
インターホンを一回だけ押し声をかけた。
「なあ悪かった!頼む…出て話だけでも…」
すると中から顔だけをヒョコっと出した。
その顔は耳まで赤くしていた。
「あ…あの気狼君、なんで隣に?」
「とりあえず家来て話さない?」
その問いに黙って縦に小さく頷く。
気狼家リビング。
机のインスタントラーメンとコーラを片付けお茶の代わりにオレンジジュースを出した。
「あの…まずどうぞ、えっと、さっきのは事故です…よね?」
「うん…」
会話は進まずそのまま三十分以上黙り込み座っている。
「ねえ」
「は、はい!」
いきなり呼ばれ言葉が焦る気狼
「もしかしてここが気狼君の家?」
「ああここにはおれしかいない、っていったてこの広い一軒家に俺一人も怪しいか」
「うんうん全然…あのさっきのこと誰にも言わないでね…」
「もちろんだよ…ピンクの…」
即答で答えるが忘れようとしてたあのピンクの光景が再び脳裏によみがえった。
「もう!忘れて!」
再び朱音と気狼に笑いが戻り会話も続くようになった。
「ねえ気狼君って小学校なんかあだ名とかあった?」
話題は昔の話になりお互いのことを知ろうと二人とも必死だった。
「俺は気狼の「狼」って言うのと中学じゃ帰宅部だったけどいろんな部活に助っ人で出ていたんだけど自分で言うのもアレだけど…どの試合も勝っちゃって試合の次の日から登下校中に試合相手にたまに会うとその人たちからは「万能狼男」なんて言われ学校じゃ男子からは「狼男」とか言われ女子からは「ウルフ君」なんて言われていたかな…」
自らの黒歴史を言ってしまったことを少し後悔する気狼に対し朱音は。
「いいな~カッコいいじゃんウ・ル・フ君~♪」
「からかうなって。そう言う朱音はどうなんだ?」
「あたしは…う~んどうしよっかな~」
人差し指を唇にあて首をかしげ考えている素振りを見せるがうまく説得し聞き出した。
「私ね、小学校までこんなに髪長くなかったんだよ、おまけに生まれつき紅毛で小学校卒業するまでオカッパ頭だったのおばあちゃんの影響で…でも本当は嫌だったの、だから家にあった紅い頭巾を被って学校に行ってたの、そしたらみんなからは「あかずきんちゃん」
て言われて卒業式は髪も少し伸ばしたの。中学校で髪を長くしたら「紅毛の赤頭巾ちゃん」
って呼ばれてたかな」
「へえー「あかずきんちゃん」ね~」
意地悪に言うと朱音は「もおー」と言いながらテーブルに置いていた気狼の手を叩き始める。
「でもこうしているとあなたが「狼」で私が「あかずきんちゃん」ってなんだか童話にあった「あかずきんちゃん」みたいだね」
「ああ、そうだな考えてみれば」
「私を食べないでよ♪~」
「食べないよ!意味深発言すんな!」
そんな話をしていると時計は八時を回っていた。
「あ、もうこんな時間か…家まで送ろうか?」
「うんうんいいよ大丈夫…それより晩御飯まだでしょ」
「ああ」
すると朱音は立ち上がりそのままキッチンへ向かった。
「なにすんの?」
「晩御飯作ってあげるから一緒に食べよ♪」
朱音は持ってきた小さなポーチからエプロンを取り出した。
「何でエプロンがあるの?」
「女子力高いから♪」
早速キッチンを眺め冷蔵庫を開ける…
しかし今まで自ら料理をするなんてことは気まぐれでしていたため材料と言えるものはあまり無くあったのは豚肉が二人前とレタス一玉と調味料が一式あるだけだった。
「なんかすいません…」
「大丈夫私に任せなさい!」
「えへん」と腕を組み自慢げに包丁を握り作り始めた。
「何作るの?」
「いいから待ってて」
そう言われ少々不安を抱きつつリビングに戻りソファに座りテレビの電源を付けた。
しばらくバラエティー番組を見ているとキッチンから朱音の呼ぶ声がした。
「どうした朱音?」
「できたよ~」
皿に盛り付けてあったのはロールキャベツならぬロールレタスだった。
「キャベツの代わりにレタスでお肉をまいてみました。さあさあ運んで」
朱音に言われ冷蔵庫のオレンジジュースやコップ、お箸などをリビングのテーブルへ運び晩御飯を食べる準備をした。
最後に朱音がキッチンからロールレタスを持ってきた。
「それじゃ食べよっか気狼君」
「ああ…それじゃあいただきます…」
「はい!召し上がれ」
テーブルに置かれたロールレタスの乗った皿から小皿に移し口に運ぶ。
その様子を少し緊張しているのか顔を強ばらせ気狼を見つめる。
「う…うま!」
その言葉を聞いた瞬間朱音の強ばらせた表情が一変し笑顔になった。
「よかった気狼君のお口に合って」
口元で手を合わせ「それじゃあ私もいただきます」と朱音も小皿にロールレタスを移し食べ始めた。
「う~ん私にしては良くできたかな」
「にしてもよくあんな材料でここまで作れたな」
「おばあちゃんにいろいろ料理のことは教わったから」
いろいろな雑談をして食べているとあっという間にロールレタスはなくなってしまった。
二人で食器を運び並んで食器を洗い片付けも行った。
ひとだんらくしリビングのソファーに並んで座わった
テレビを付けると青春ラブコメ映画をやっておりそれを見た。
映画も終盤主人公が好きな子に思いを伝えるシーンであった。
「なんかいいね」
「え!あ…ああそうだな」
突然声をかけられとっさに答える。
「私もこんなハッピーエンドな恋できるかな…」
数秒の静寂の末、気狼は。
「朱音ならできるよ、きっと…おれが保証するあんなに料理もうまいから…」
しかし言いかけると気狼の右肩に何かが倒れる、と言うより寄りかかる感覚があった。
「う~ん…むにゃむにゃ…」
右肩に目をやるとそこには朱音の紅い髪の毛が見えさらに不思議な甘いにおいがした。
「え…朱音?もしかして寝ちゃった?」
確認するべく軽くほっぺたを叩いたが完全に熟睡してしまっている朱音には何の効果もなかった。
気狼は耳まで真っ赤っかにして必至に頭の中で考えた。
(この場合どどどどうしたら?!?!朱音を起こす?いやそしたらかわいそうだし…このままここで寝かしとく?いやいや高校生が男女同じ屋根の下で一夜を過ごすなどと在ってはならんだろうし…)
考えているとさっきの映画クライマックスシーンの台詞が聞こえてきた。
『好きだよ』
『私もだよ!』
と言っているとそのままキスシーンへ…
ふと気狼の中の良くない心が出てきて囁いた。
(キスしちまえよ!)
この囁きを否定しようと抵抗するが体が動いてしまった。
朱音の顔をそっと覗きこむ。
スヤスヤとかわいらしい寝息しているが分かり、なおいっそう顔が赤くなった。
目を瞑りゆっくり、そっと朱音の唇に近づく気狼の唇。
「う…やっぱだめだ!」
残り数ミリのところで理性に打ち勝ちキスは免れた。
(やっぱ良くないよな…俺のへたれ)
右肩に乗った朱音の頭を左手でそっと撫でた。
(いつか朱音もいい旦那さんをもつのかな…)
そんなことを考えていると映画も終わりスタッフロールが流れていた。
(しょうがない俺の部屋のベットに寝かせるか、風邪ひかれても困るし)
そっと朱音の頭をどかしやさしくおぶり二階の気狼の部屋まで運んだ。
ベットの布団をどかしゆっくりとベットの上に寝かせ布団をかぶせた。
朱音は「すーぴー」と寝息を立てたままさっきよりも心地よさそうな顔で眠っていた。
朱音がベットを使っているため気狼はリビングのソファーに横になり寝ていた。
いろいろ起こりすぎた長い一日がやっと終わり気狼も熟睡した。
翌朝六時
気狼は起きるか二度寝するか迷っていると何やらいい匂いがした。
しかしそれでもなかなか開かない瞼を再び閉じようとすると目の前にぼやけてはいるが誰かがいた。
「もう!起きなって朝ごはんできたよ」
(朱音?)
返事をしようとしたが口が開かず返事もできなかった。
「お眠り狼さんはあかずきんのお目覚めのキスがないと起きないのかな?」
ソファの前にしゃがみ朱音が冗談交えに問う。
しかしその問いの答えは朱音の予想した結果とは違った。
聞かれた瞬間気狼は首を小さく縦に振りまた寝始めた。
「え…え?」
自分に後悔している反面うれしい自分がいた。
「ど…どうしよう…ほんとにキスしちゃってもいいのかな…でもご飯冷めちゃうし学校も遅れ得ちゃうし…しょうがない!」
「そうこれはしかたない本人の了承も得てる」と何度も自分に声をかけ三分後。
「よし!」
仰向けで寝ている気狼の顔に近付く。
(ほっぺとかじゃ…いやキスって言うのは唇と唇を重ねないと!)
残り一センチというところで気狼が腕で朱音の頭を少し強引に近づけた。
「んっ…ふぇ?」
朱音は気狼のほっぺにキスをしていた。
そっと手を放し起き上がる気狼、座り込んでしまった朱音を見て言った。
「お目覚めのキスをどーも、おかげで今まででなかったほどに目が冴えますよ」
茫然とする朱音に手を差し伸べ朱音を立たせた。
「なんでほっぺにしたの…」
「そりゃあ俺だって男としての礼儀がないわけではないだから」
すると気狼は昨日のことを思い出し苦笑してしまう。
「あの…ありがとう…と言うかごめん!」
「全然!なんてことないさ。それより朝ごはん食べよ」
「うん!」
リビングに置いてある朝ごはんを二人向かい合わせで座り今日の授業の内容を確認しながら楽しく食べた。