始まる物語
第一章1008049年後の世界
1008049年後の春
ニホン国トウキョウのある場所にごく普通に暮らす少年がいた。
「やべー入学式遅れるなこれ。」
制服を身にまとい髪を灰色に染めたツーブロの少年「士柄実気狼」、桜が咲く道をショルダーバックを肩にかけ小走りで走っていた。
この春創設100周年の由緒ある高校、暦高校へ向かっている最中Т字路に差し掛かった。
ドスッ!
「キャ…痛~いもうちゃんと前向いといてよ!」
「あんたこそ…」
少女マンガのような展開になった二人、気狼が先に起き上がり倒れているロングヘアで赤髪の女の子に手を差し伸べる。
少女はその手を取り起き上った。
「ごめんねあたし急ぐから!」
そう言うと足早に気狼の行く方へ走って行った。
「朝から何なんだよ」
再び暦高校へ向かい走り出した。
桜が咲き誇る校門をギリギリで抜け一年A組の教室に向かうと新入生たちが隣の席の人間と話したりしていた。
気狼はここには先日越してきたばかりで友達がおらず黒板に張られた席の場所が書かれた紙を眺め自分の席を確認した。
席は教室の真中の列の最後尾にある席だった。
席に移動し鞄を横のフックに掛け座る。
隣にいるはずの女子生徒はまだ来ていなかった。
「俺の隣は確か紗衣華朱音だっけもうすぐ入学式始まるのにまだ来てないってやばくないかな?」
心配も束の間チャイムが鳴り教室に担任の教師であろう人がやってきた。
「よーし廊下に並んで入学式に向かうよ」
教師が生徒を廊下に並ばせ体育館へ向かった。
体育館につくと周りは紅白幕に覆われ式典らしい感じであった。
上級生はすでに座っており副校長の合図とともに入ってきた新入生に対し暖かい拍手を送ってきた。
式が進み来賓紹介代表の挨拶などを終え校長が壇上に登り挨拶をはじめた。
「皆さんおはようございます。
今日からこの暦高校の生徒として勉学に励んでください。
本校はこの年で100年目です、そこで少しこの土地にまつわる昔話をしましょう。
この暦高校は昔、1008049年前に童輪王国と言う王国がありました。
その国は戦争も内戦もないとても平和な国でしたがその国の国王が誤って封印されていた天災を解き放ってしまいました。その事実が世間に知れ王様は王の座を降り天災をすべて祓うまで死ねない呪いを自らにかけました。
やがて王国は廃れ城長年放置され王宮は廃墟となり取り壊されました。それが100年前のことです。
その土地には学校が立てられることが決まりました。それがこの暦高校です。
ここはかつて王国だった場所です。その場で学べることを光栄に思い頑張っていってくださいね、以上で話を終わります」
校長が一礼をして壇上を降りた。
校長が降り始めると上級生たちがざわめき始めたが教頭の声で静かになった。
(あんな昔話で何でざわつくんだよ?)
不思議に思いつつも入学式は無事終わり退場の指示が出され新入生は立ち上がり退場し始めた。
教室に戻り席に着くと隣の紗衣華朱音が座っていた。
「あ!お前さっきのぶつかった女!」
「あ!ほんとだでも何であんたがここに?」
「今日からこの学校の生徒だからだ。それよりお前入学式いたのか?」
「もちろん…滑り込みセーフってやつだけど…」
顔を下にして頭をかく少女。
「あそうだこれからよろしく!半年間はこのままの席らしいから。
ぶつかったことは水に流してさ!」
再び顔をあげ上目遣いでにっこりと笑いながらいった。
「わかった、俺は士柄実気狼だ、よろしく」
手を差し伸べ握手を求めた。
「うんよろしく私は紗衣華朱音」
差しのべられた手を握り握手をすると朱音の顔が赤くなった。
不思議に思った気狼が覗き込むと顔をそむける。
手を放そうとしても朱音は手を放そうとはせず逆に強く握りしめた。
「どうした?」
「あの…手大きくて温かくてなんか落ち着くな…ってわぁ!ご…ごめん」
握っていた手を放し机に伏せてしまった。
朱音からはブツブツと「あーもう私ったら」などと言っているのが聞こえる。
気狼も顔を赤くし席に着いた。
ちょうど担任の教師が入ってきた。
「はい、入学式お疲れ様これから一年間このクラスの担任をする喜田元昭だよろしく、まあ高校生活何があるか分らんから楽しくやってこう」
その後学校の規則の禁止事項だけを述べた。
「えーと校内でタバコ吸わないのと飲酒しなければ基本何でもオーケーだから、でもちゃんと制服は着てこいよ」
(ずいぶん緩過ぎる規則だな…)
「以上今日は帰ってよし」
起立の号令を出席番号一番の生徒がして一斉に礼をした。
生徒たちが鞄を持ち始めると。
「あ!忘れてたくれぐれも中央階段を使って地下4階にはいくなよ」
生徒たちは「ハーイ」などと返事をして次々に教室から出て行った。
気狼もカバンを肩にかけ教室を出ようとすると背中の裾をつかまれた。
「ん?どうした紗衣華さん」
「あのさ…よかったら途中まで一緒に帰らない?」
目を合わせようとはせず裾を強く引く。
「別にいいけど…」
返事を返すと顔を上げ微笑みそのまま二人は並んで下駄箱まで向かった。
もうすでに下駄箱には生徒の姿は無くみんな足早に帰って行った。
気狼と朱音も靴に履き替え並んで校門を出た。
しばらくしてあかねが口を開いた。
「ねえ士柄実君のことこれから気狼君って呼んでいい?」
「いきなりだな…まあいいけど」
しぶしぶ承諾する。
「じゃあ私のことも朱音って呼んでね気狼君!」
「え?何で?」
戸惑う気狼の手をつかむ朱音。
「私、昨日ここに越してきたばかりなの…だから友達もいなくて…」
「ならおれも同じだおれもここには初めてきたし友達もいない…
わかったよ、あ…朱音」
二人とも微笑み朱音が掴んできた手を恥ずかしさを堪え握り直しお互いの事を語り合った。
朱音には両親は朱音が幼いころに事故で他界しおらず中学までは母方の祖母に育てられていた。
高校に行くことになり一人暮らしを始めた。
気狼もほとんど同じだった。両親の顔は知らず施設に入っており中学に入った時にはもう一人で暮らしていた。
同じ境遇と言うこともあり話が盛り上がっていると朝ぶつかったТ字路に差し掛かった。
「じゃあ私はここで。また明日ね気狼君」
「ああ、また明日な朱音」
手を振りお互い家に向かい歩き始めた。