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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第五章 夏祭り編
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第六十二話 似合わなくていい

私生活に少し余裕が生まれたので更新を再開します。


待っていてくれた方はいるのでしょうか……?

 何の因果か、清水たちと行動することになってしまった。


「満くん。俺の側を離れるんじゃないぞ」

「はーい」


 清水が満の隣につく。満があっちこっちに動くので振り回されていた。


 清水が片手に持つ袋はそこそこ大きく、中身は知らないが重そうだ。


「清水、満は私が面倒見るから……」

「いいって。北野は自分が楽しむ暇なかったんだろ? せっかくなんだし北野も楽しめ」

「で、でも……」

「お兄ちゃんあれ何ー?」

「あれはトルネードポテトだ」


 二人がトルネードポテトの屋台へと向かう。私が言うのもおかしいが、はたからはまるで兄弟に見える。


 満たちとはぐれないよう、私と伊根町も歩き出した。


「……清水って面倒見良いんだね」

「カズは、妹もいるから」

「ああ、そうだった」

「……知ってたんだ」

「前にスーパーで偶然会っただけ。安心して。清水と私は何もないよ」

「なら良かった」


 表情の変化が乏しい伊根町の姿を、じっと見つめる。彼女が着ているものには見覚えがあった。


「……伊根町だったんだ」

「?」

「その浴衣」


 軽く指差す。


「実はさっき、満と歩いてる時に見かけてさ。そん時は伊根町だって分からなかったんだけど、浴衣が似合ってて綺麗な人だなーって思ってた」

「ありがと」


 褒めると、少しだけ嬉しそうな顔を見せる。


「…………」



 突然だけど、私は同性の友達が昔からいない。避けられてるとかじゃなく、いつも憧れのような目を向けられるのだ。


 曰く、


 ――北野さんってかっこよくてクールだよね!


 らしい。それがみんなの共通認識なようで、対等に接してくれる子は全然いなかった。


 だから、今こうして伊根町と並んで歩いてる時間が少し楽しい。彼女の私を見る目に憧憬の色はない。


 まるで女友達だ。


 だからちょっと、したくなる。恋バナとか。


「清水には褒めてもらった?」

「どうしてカズ?」

「だって好きなんじゃないの?」

「……そんなに、分かりやすい?」

「さっきの様子見てればね。それにデートじゃなくたって、好きでもない男子と二人で祭りなんて歩かないでしょ」

「二人なのは、色々あって」

「そっか。それで、褒めてもらったの?」

「……まだ」

「ふーん。やっぱあいつ気が利かないんだ」

「気は利く。けど……鈍感」

「はは。確かに鈍感そう」


 伊根町が不満げにそう言う。イメージ通りだ。


「アプローチにも、気付いてくれない」

「罰がいるね」

「向こうからは、何のアプローチもないし」

「極刑だ」

「私……恋愛対象として、見られてないのかな」

「そ、そんなことないって!」


 目に見えて落ち込んでいく。何とか励ましの言葉をかけようとするも、恋バナ経験も自分が恋をした経験もないので、何と言って良いのか分からなかった。


 結局、「きっと、あいつに女子にアプローチする度胸とかないだけだよ」と、清水を下げることでフォローする。でもフォローのためにフォロー相手の好きな人を悪く言うのは微妙に間違ってる気がする。


 落ち込んだままの伊根町。注意が散漫になっていたのか、つまずいて体勢を崩していた。


 幸いにも転びはしなかったのでケガはない。

 

「大丈夫?」

「うん」

「良かった」


 でも、ちょっとしたことでつまずいてしまうということは……


「……ねえ、やっぱり浴衣着てると歩きにくいの?」


 少し気になった。


「着たことないの?」

「……うん」

「それは、珍しい」

「浴衣って、買うのはもちろん借りるのも結構お金いるしさ。うちにそんな余裕ないから」


 笑って誤魔化す。


「それに私が着ても似合わないだろし」

「どうして?」

「え?」

「どうして、似合わないと思うの?」

「だ、だってそれは……」


 伊根町が心底不思議そうに見てくるものだから、少しだけ言葉に詰まる。


「私って男勝りしてるでしょ? だからさ、浴衣みたいな可愛いのは似合わないって」

「? よく分からない」


 私の言いたいことは、伊根町には全く伝わらなかった。


「浴衣は、どんな女の子にも似合うと思う。だって可愛い」

「だから、可愛すぎるから私には似合わないっていうか……」

「私は、北野も似合うと思う。絶対」

「!」


 それは、ずるい。


 伊根町の言葉はお世辞を感じさせなかった。


「でもほら、さっきも言ったけど、うちは貧乏だから浴衣を着るなんて贅沢できないし……どうせ着れないんだったら、似合ってるとか似合ってないとか、ね? どっちでも良いでしょ?」

「良くない」

「……! ご、強情だね」

「それが私の取り柄」


 少し自慢げに伊根町は言うが、褒めたつもりはない。


「……なんで、良くないの?」

「それは」


 そう尋ねると、伊根町は私の目を見て言った。


「北野が無理して言ってるって、分かるから」

「!!」


 無表情のまま見つめられると、全部見透かされているような気分に陥る。


「そ、そんなの、分からないでしょ。私が無理してるかどうかなんて、私にしか……」

「分かる。無理してる人はすぐに」

「どうして」

「それは……」


 伊根町が僅かに目線を下げる。


「ずっと、見てきたから」

「?」


 言っている意味がよく分からなかった。でも伊根町の表情はどこか曇っていて、聞き返すべきじゃないことをなんとなく察する。


「北野は……」


 黙っていると、伊根町が顔を上げてもう一度目を合わせてくる。


「着たくないの?」

「え」

「浴衣。着たい?」

「う、ううん。着たくない。だって、似合わないし」


 またここに話が戻ってくる。


「じゃあ、似合うとしたら、着たい?」

「!」


 その質問の仕方も、ずるかった。そんなのはいと言わせようとしているようなものだ。


 それが嫌で、私はつい声を荒げてしまう。


「も、もういいの!」

「!」

「似合わなくて、いいの」


 すぐに乱れた心を落ち着けた。


「オシャレとか、可愛い服とか、そういうの全部、私には似合わなくていいんだ」


 小さく笑う。


「女の子らしいものなんて自分には向いてないって、そう決めつけたら、お金がなくても我慢できたから。どうせそういうのにお金をかけたところで、意味はないって思ったら、耐えられたから」


 「だから私は、それでいいの」と、最後に続けた。それが本音だ。


 自分には似合わないと決めつけてしまえば、オシャレに回すお金がなくたって諦めてしまえる。もうこれ以上、このことには追求しないで欲しかった。


 それでも伊根町は、


「私が聞いてるのは、着たいかどうか、だけ」


 曲げずに言葉をぶつけてくる。


「そんなの……」


 だからもう力が抜けて、頑固だったところが消えて、言ってしまう。


「着たいに、決まってるよ。私だって、オシャレしたいもん」

「じゃあ、着よう」

「……え?」

「すぐそこに、借りれるとこがあるから。私もあやも、そこでレンタルした」


 伊根町は私の手を握ると、引っ張って行こうとする。


「ま、待って! だから私にはそんなお金ないって」

「お金は、大丈夫」

「大丈夫って、伊根町が払うつもり? そんなのなしだからね。人に迷惑かけてまで、私は」

「違う」

「? じゃあ……」

「これ」


 伊根町は懐から、すっと小さな封筒を取り出した。封筒の表面には何か書いてあるが、今は夜。


 いくら祭りで明るいとはいえ小さな文字までは読めない。


「それはなに?」

「レンタル着物券」

「!」

「さっき、くじで当たった」


 「私たちにはもういらなかったから、ちょうど良かった」と言って、私の手を握ったまま再び歩き出そうとする。


「ど、どっちにしろ待って!」

「どうして?」

「ここを離れるなら、清水と満に言っとかないと」

「……それは、そう」


 ホウレンソウは大切だ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 待ってました! 再開有難う御座いますm(__)m
[良い点] めっちゃ待ってました!!
2020/07/07 16:05 ポムポムプリン
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