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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第五章 夏祭り編
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第五十八話 祭囃子の浮かれた音色

みなさん、とてもお久しぶりです。約一年ぶりの投稿になりますね……。話を忘れている方は、五十五、五十六話あたりから読み直すと思い返せるかもしません。

「そら姉ちゃん、早く早く!」

「もう、走らない。祭りは逃げないんだから」


 夜の暗闇が町を包む中、祭りが開かれている地域一帯はやけに明るかった。人々の気分もまたそれに応じて明るく、彼ら二人も例外ではない。


「だって楽しみなんだもん!」

「だからって周りに迷惑かけるのはダメでしょ?」


 北野天と北野満。特に、まだ幼い満はとても興奮していた。


「うっ、ごめんなさーい」


 しかし姉に怒られてしょんぼりとする。それでも、その瞳から興奮の色は抜け切ってやしなかった。


 そんな満を見て天は微笑む。


(連れてきて良かった。いつも満には我慢ばっかりさせてるから、今日ぐらいはね)


 天は、今日花火が打ち上がることを耳にした。それを聞き、お金がなくいつも思うように贅沢させてやれない満を家から連れ出したのだ。


 偶にはいいよねと、そう考えて。贅沢と言っても、回れる屋台の数は精々三つか四つが限界だがそれでも来ないよりはマシなはずだ。


「さ、人混みではぐれないよう注意して回るわよ」

「はーい」


 祭りを楽しむ人々の会話からは、花火を期待する声がチラホラ聞こえてくる。誰もが楽しみにしてるらしい。


 そんな中、天は気になる会話を耳に捉えた。


「おばあちゃんパワーすげえ!」


 人混みのせいで声の発信元を確認することは出来ないが、どこか聞き覚えのある声だった。というか、おばあちゃんパワーとは何なのだろうかと天は疑問に思う。


 だが彼女が最も気になったのはそれではなかった。その後に続く女の人の言葉だ。


「あとねー。何でもこのお祭りの花火は、昔から男女二人で見ると必ず結ばれるって言われてるらしいよ」


 天は、学校ではよく凛々しいとかカッコいいとか、まるで男のように褒められる(主に女子から)。だが彼女だって年頃の女子なのだ。


 友人との恋バナに花を咲かせたいし、優しい彼氏だって欲しい。そして今耳にした、迷信のようなロマンティックなシチュエーションだって憧れる。


(……ま、私には縁のないことね)


 家計的にも時間的にも余裕はない。ただでさえ、無理を言って剣道部に所属させてもらっているのだから文句は言えない。


 何より、男らしい自分にはそんなものは向いていないと天は考えていた。現にこれまで、一度も誰かを好きになったことがないのだから。


「あ。そら姉ちゃん、あれ食べたい! あ、あれも! あ、こっちも!」

「どれか一つになさい」

「えっと、それじゃあ……これ!」


 満が指差したのはリンゴ飴の屋台だった。


「はいはい」


 そんな無邪気な弟の様子を見て、呆れ笑いながらも天は返事する。どうせどれだけロマンティックな噂のある花火だろうと今日は満と見るのだ。


 そう思いながら、天は満と共にリンゴ飴の屋台へと向かった。


 だが、そんな天の予想は大きく外れることとなる。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 久美の爆弾発言に、空気が一瞬にして凍りついた。みんなそろってカチンコチンである。


 あの大和ですら固まっていた。


「……えっと久美ちゃん。今なんて言ったのかな? 私、聞き間違えちゃったかもでもう一度言ってくれない?」


 何とか解凍した舞鶴が、久美にもう一度と催促する。そうだ、きっと聞き間違いだろう。


 もしくは久美の言い間違い……


「んー? カズくんとペアになりたいなーって言ったんだよ」


 舞鶴、再び冷凍。かろうじて口をパクパクと動かしている。


 声になっていないが。


「「「…………」」」


 みんな沈黙していた。うん、そりゃ何言えば良いか分からないよな。


 俺だってそうだと、誰かが口を開くのを待ってるとふとメガネくんの表情が目に留まる。彼は他のみんなとは違い、呆れたような顔で額に手を当てていた。


 すると久美が、堪え切れなくなったというように腹を抱える。


「……くっ、くく……あははははは! もーみんな、冗談に決まってるじゃん!」


 爆笑し出した。


「ごめんね、こんなに空気が凍るなんて思ってなかったんだー。みんなすぐに冗談だって分かると思ったから。だってカズくんだよ?」

「ちょっと待て」

「?」


 口をω(オメガ)にして、首をかしげる久美。


「だってってなんだよ」

「説明の接続詞だよー」

「そういうことじゃねえ」


 的外れな返答だ。


「……久美、ふざけるのもそこそこにね」


 またしても疑問符を頭上に浮かべている久美になんと言おうか言葉を探していると、メガネくんが久美の頭にチョップをかました。そして一言忠告する。


「はーい……私、今回はそこまで悪いことしてないと思うんだけど」


 久美は頭を抑えながら返事をしたあとに、ボソボソと何かを言っていた。


「さ、みんな。気を取り直して、ペア分け始めようか。久美、分け方は考えてあるの?」

「うん。やっぱり、せっかくのお祭りなんだし……」


 久美はとある屋台を指差した。


「あれで決めない?」


 笑顔で指差す久美の、人差し指の先にあるものは。


「……くじ引き?」


 大和が、ぽつりと呟いた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 さて、くじ引きでペア分けだ。あれ、この前やったばかりじゃと思った諸君。


 その通りである。肝試しの時にもやった。


「で、屋台のくじでどう決めるの?」


 しかしこれからやるくじ引きは、前回とは勝手が違う。まず一つ、男女で分かれることが決定していること。


「くじに書かれてるのはただの数字だし。ルールでも決めとかないと」


 そして、この前のように記号が同じ人同士で組むといったような、やりやすい方法は使えないことだ。


「んーとね。みんな引いて、男女それぞれで数字の一番小さい人から順に組んでいけばいいかなって」

「そうだね。それが一番分かりやすい」


 メガネくんが久美の意見に同意する。俺も賛成だ。


「ネックなのは、くじ代でみんな三百円取られることかなー」

「……やっぱりくじ引きで決めるのは止め……」

「まあ、どうせ花火の後でたっぷり遊ぶんだし三百円なんて気にしてもね」

「流石兄貴、太っ腹!」

「……」

「あれ、清水くん何か言いかけてなかった?」

「いや、何も」

「そう?」


 たかが三百円だし? 気にする訳ねえし?


 と、俺がこれっぽちも三百円を気にしないでいると、すっと美弥が近寄ってくる。


「おにいちゃん!」

「どうした、美弥?」

「私、今月のお小遣いの残り少なくて……」


 うるうる。


「だめ?」

「……仕方ねえな。くじ引きだけだぞ」

「やったー! おにいちゃん大好き!」


 た、たかが三百円だし? き、気にする訳ねえし?


 全然これっぽちも一ミリたりとも三百円を気にしていない俺をよそに、美弥は両手を上げて屋台へと走って行った。そして今度は、入れ替わるようにして舞鶴が近づいてくる。


 舞鶴が何を言ってくるのか、何となく察しがついた。


「清水くん」

「……どうした?」

「私も実はねー、お金そんなに持ってな」

「お前は駄目だ」

「ちっ」


 三百円だぞ? 三百円もするんだぞ?


 うちは割と金持ちだが、俺と美弥の小遣いは一般的な額なんだ。少なくとも、舞鶴に譲ってやるお金は一円たりともない。


 いつものように舌打ちする舞鶴を放っておいて、くじ引きの屋台へと歩く。


「いらっしゃい!」


 いきなり八人も客が来たことで、屋台のおじさんは嬉しそうだった。奥には棚が設置されていて、様々な景品が陳列している。


 また、手前のカウンターにはくじの入った箱が置かれていた。その隣には一回三百円と書かれた紙が貼られている。


「おじさん、くじ一回!」

「はいよっ」


 久美が元気よく三百円を手渡した。そして「よーし」と腕まくりをし、箱の中へと手を突っ込む。


「どれどれ」


 箱の中をぐるぐる、ぐるぐると回し始めた。


「おじさん、何番が当たりなの?」

「数が小さければ小さいほど良いものがでる。一桁代はみんなすげえが、特に一番は豪華だぞ?」

「ふっふっふ、それなら一桁引いちゃうぞー」

「おいおい嬢ちゃん。そうやすやすとは引けねえぜ? いいかい、屋台のくじ引きなんてものはみなインチキなのさ!」


 いや公言するなよ。屋台のおじさんが明らかにアウトなことを口走るも、久美は無視してくじに挑む。


「私の運にひれ伏せー」


 謎の掛け声と共に箱から引き抜かれた腕。高くかざされれたその手には、しっかりと紙が握られていた。


 そして彼女は、自分だけが見えるようにくじを開き番号を確認する。


「何番だった!?」


 大和が、興味津々といったように久美に尋ねた。こういうのは、自分が引いたものでなくてもワクワクするものだ。


 だから大和の気持ちも分かった。俺も、久美が何番だったのか結構気になる。


「にしし」


 久美は歯を見せて笑った。しかし大和への返答はない。


 その代わりに、くじを開きすっと掲げ、俺達へと見せてくれた。そこに書かれていた番号は1。


 ……え?


 もう一度目を凝らして確認する。しかし数字は変わらず1のままだ。


「「「!!??」」」


 予想だにしない結果にみな固まる。


「……す」


 驚きに言葉が詰まる中、初めに口を開いたのは大和だった。


「すっげえええ! マジすげえ!! 一番じゃん!!」

「うわー! 一番って一番すごい景品がもらえる一番良い番号なんだよねっ!」


 続けて美弥が興奮した様子で声を大にするも一番一番うるさくて何が言いたいのか若干分かり辛かった。


「おいおい、完敗だよ嬢ちゃん。そう、うちは一切インチキのない馬鹿なくじ屋なのさ。よくぞ本質を見抜いた!」


 このおっさんはこのおっさんでノリがめんどうだな。


「で、一番の景品ってなになに!?」


 美弥が興味津々でおっさんに尋ねた。


「景品はブレステ4だ」


 なに!? あの最新ゲーム機だと!?


「しかも五台!!」

「そんなにはいらねえだろ」


 思わずツッコんでしまう。どうすんだよ五台ももらって。


 重過ぎてむしろ持って帰る時に邪魔になる。


「ガハハ! にいちゃん、冗談だよ」


 まあそうだろうな。


「三台だ」

「変わんねえよ」


 という訳で、久美は計三台のブレステ4を貰った。


「にしし。やったねー」

「久美、昔から運だけは良いもんね」

「おいおい兄貴。あと顔と気立てと学力と運動神経もだろ?」

「自信たっぷりだね」


 おっさんの口調がいつの間にか久美に移っていた。おいおい面倒だな?


「うーんでも、三台もいらないかなー」


 ふと久美が、渡された大きな紙袋三つを見て呆れたように笑う。


「うちでゲームやるの、私と兄貴だけだし」

「しかも久美はやるって言ってもスマホのゲームぐらいじゃない?」

「うん。だからうちは一台あれば十分だし、誰か他に欲しい人いたらあげるよー」

「「!!」」


 それは是非とも欲しい。ゲームが好きな俺と美弥は、反射的に体がピクリと反応していた。


 もうペア分けなどそっちのけでそちらに興味津々である。


「欲しい人いる?」

「私とみうはゲームしないし、いらないよ」

「うん」

「じゃあ男子陣は?」

「俺も、ゲームはやらなくなったな」


 舞鶴とみうはどうやらゲームには触らない主義らしい。女の子のゲーマーは少ないので当然だと言える。


 また、立也もとうの昔にゲームを卒業していた。確か中学に入ってすぐの頃だった。


「マジ!? みんなやらないんなら俺、欲しいんだけど!」


 しかし大和はまだ続けているらしい。俺も幼い頃からずっとやっているので、何となく親近感を覚えた。


「おっけー。カズくんとこは?」

「俺のとこも、一台欲しい」

「おにいちゃんも私もゲーム大好きだしね!」

「じゃあ、福知くんとカズくんとこに一台ずつあげるねー」


 この祭りに来てよかった。今度久美には飯を奢ろう。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 さて、その後のくじ引きは、取り立てて語るようなことは何もなく終わった。結局当たりは久美のブレステ4が三台だけだ。


 次点で大和が当てた『ぶたれたブリキュア』のおもちゃ。当然、男である大和には無用のものだったので代わりに美弥が貰った。


「ありがとう!」


 元気よくお礼を言っていた。美弥はまだブリキュアを見ているのである。


 あんな、派手な魔法少女の変身シーンから繰り出される嘘のようなブリのコスチュームの何が良いのか。捻りなく魔法少女に変身してくれる方が、俺にとっては遥かに嬉しい。


「やったよおにいちゃん!」

「良かったな」


 もちろん趣味趣向は人それぞれなので、この件に関しては何も口出ししない。嬉しそうに笑っている美弥の頭をただ撫でるだけにしておいた。


「えへへー」


 嬉しそうにはにかむ美弥。うん、可愛い。


 と、そういえば結局ペア分けがどうなったのか言っていなかった。久美の提示したルール通りに分けたら、結果はこのようになった。


 清水和夫―伊根町美海

 福知大和―伏見久美

 伏見健太―舞鶴彩

 天橋立也―清水美弥


 みんな忘れていると思うが、伏見健太とはメガネくんの本名だ。そしてまあご覧の通り。


 舞鶴は立也とはペアになれなかった。こればかりは時の運なので仕方ない。


「よろしくねー」

「よ、よよよろしく」


 舞鶴がメガネくんに声をかけると、メガネくんはキョドりまくっていた。まあ、舞鶴は顔だけは良い。


 これから二人で行動するという事態にメガネくんが上がるのも無理はないだろう。彼が舞鶴と目を合わせられずにあらぬ方向を向いている間に、小声で舞鶴に声をかけた。


「ドンマイ」

「うわ、それかなりメガネくんに失礼なんだけど。さいてー」

「そういうつもりで言った訳じゃねえよ。立也と一緒になれなかったことを励ましてんだ」


 ドンマイという発言の意図をわざわざ説明する。どうせそんなことしなくても、舞鶴は分かっているのだろうが。


 分かってて俺を悪く言って来ているのだ。なんて奴。


「天橋くんとペアになれなかったことはそりゃ悔しいけど……ま、今回は仕方ないわね」

「? えらく潔いな」

「完全に運だし。引く時はあっさり引くわよ」

「嘘つけ。いつも蛇よりネチネチしつこい……痛い痛いやめて下さい」


 下駄で足の甲を踏まれた。これはかなり痛い。


 思わず敬語で謝ると、舞鶴は足をどけてくれた。助かった……。


「やっぱり最近のあんた調子乗ってるわね」

「気をつけます」

「その気が微塵も感じられないんだけど」


 見透かされてしまう。とまあ、その辺りで会話を止め俺はみうの下へと向かった。


「よろしく」

「おう、よろしく」


 みうの、いつもの淡々とした声に返事する。しかし気のせいだろうか。


 どこか声が弾んでいるような……そうでもないような……。考えても分からないものは分からないので、さっさと頭を切り替えることにする。


 これから、花火が上がるまでの二十分ぐらいは決めたペアに分かれて別行動することになっている。花火が終わった後に、今いる場所に再集合の予定だ。


「じゃあ各自、祭りを楽しもうねー。散!」


 久美の、謎の忍者風解散宣言を合図に俺達はバラけることとなった。一ペア一ペア、思い思いの方向へと向かう。


 最後に残ったのは、俺とみうのペアだった。


「……じゃあ、俺達も行くか」

「うん」


 どうしてだろう。二人になった途端、急に暑さが増した気がする。


 時刻は午後八時前、太陽はもう沈んでいるというのに。きっと、祭りを包む人々の熱気がそう感じさせるのだ。


「……」

「……」


 右側を歩くみうから目を逸らす。額を一筋の汗が伝った。


 服の中にこもった熱い空気を逃がそうと、一旦襟元をばたつかせる。そうして生まれた風は心地よかったが、その程度でどうにかなる熱気ではなかった。


「……暑いな」

「……うん」


 祭りの夜とはこんなにも暑いものだったろうか。残念なことに、その問いに答えてくれる人はどこにもいない。


 祭囃子の音色が、やけに浮かれている気がした。

さて、今回はくじ引きの景品でブレステ4が登場しましたね。


もちろんPS4のパロディネタですが、実はPS4をくじ引きの景品にするのは犯罪なんです。法律上、くじ引きの景品はくじの値段の二十倍の価格のものまでと決められております。

つまり、今回のくじの値段は300円だったので景品として用意できるのは6000円のものが限度ということになるそうです。なのでもしPS4やスイッチを景品に出すなら、くじの値段は1500円ほどに設定しないといけません。


え、じゃあどうして作中じゃブレステ4を三台も景品にできたのかって……?


き、きっと彼らの住む世界ではブレステ4は2000円もしないんですよ。

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