第五十一話 旅行が終わりました
「忘れもんないよなー!?」
「ああ」
「じゃあ、帰ろうぜ!!」
大和が元気よく旅館から出て行く。俺達も後に続いた。
今は旅行三日目の朝。チェックアウトも、もう済ませていた。
長いようで短かった旅行も、今日で終わりだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ガタンゴトン、ガタンゴトン。
電車に揺られながら景色を眺める。俺達は行きの電車の時と同じ並びで座っていた。
「これで終わりかー」
「まだまだ遊びたかったな」
「うん。マジ遊び足りない!」
すげえなこいつら。まだ遊ぶ元気があるのか。
昨晩も結局就寝は遅かった。睡眠時間が確保出来ておらず、疲れが抜けきっていない。
体力のない俺とみうは特にだった。ワイワイ盛り上がっている他の連中の元気さが羨ましい。
「俺にはもうそんな気力残ってねえ……」
「私も」
二人並んでゲンナリとしていた。お家が恋しい。
「もう、清水くんもみうも元気出しなよー。そんなんじゃこっちまで暗くなってくるじゃん!」
「そう言われても、無理」
「右に同じだ」
舞鶴の言葉を華麗に受け流す。みうと俺のコンビプレーだ。
「むうー」
舞鶴がジトっとした目で睨んで来る。
いや、空気読めてないかもしれないけど本当に疲れてるんだ。勘弁してください。
そんな時だった。
ぴろん。
俺のポケットに入れていたスマートフォンが震えた。何なのかと取り出すと、そこにはWINEのメッセージが。
通信相手の名前の所に表示されていた文字は、メガネくんの五文字だった。
――ねえ、清水くん。ちょうど一週間後に僕の家から近い所でお祭りがあるんだけど、良かったら来ない?
僕と久美も行くからさ。お悩み解決部のメンバーも誘って一緒に行こうよ。
あ、花火も上がるよ!
「……」
祭り……そういえば長らく行ってないな。おそらく、前回行ったので三、四年前ぐらいだ。
花火に至っては、中学生になって以来一度も見ていない。最後に見たのは、愛がまだ生きている頃だろう。
久しぶりにあの独特な雰囲気を味わってみたいな。夏の夜の涼しさと、どこか哀愁を孕んだ陽気さは何事にも代えがたいものだ。
「なあ、みんな」
「「「?」」」
とりあえず、みんなに声をかけてみる。
「一週間後に、メガネくんの地元で祭りがあるらしいんだけど行く気はないか?」
「祭り!? マジ行きたい!!」
一番早く食いついたのは大和だった。流石だ。
「お祭り良いじゃん! 私も、みんなで行きたいなー」
次が舞鶴。みんなでと言いながら、その視線は余すことなく立也の横顔に注がれている。
分かりやすすぎやしませんか?
「焼きそば……とうもろこし……はしまき……わたあめ……チョコバナナ……じゅるり。……私も」
うん、もっと祭りに行きたい理由が分かりやすい人いましたわ。隣に。
涎、垂らさないでね?
さて、次に立也だが。表情から察するに、了承するだろうと思われた。
「なら、みんなで行くことにしようか。祭りなら夜がメインだし、部活で行けないってこともないからな」
予想通り、立也も参加するつもりらしい。京子先生は論外として、これで全員がオーケーしたことになる。
「あ、俺、その日家の用事あるから行けない……。というか、メガネくんって誰?」
……モブ田は部員じゃないので、初めからカウントしていなかった。仕方がない。
「他クラスの仲が良い友達だ。色々あって、みんな知り合いなんだ」
「へー」
ついでに言うと、メガネくんは二学期からはお悩み解決部の部員となる。メガネくんについての話はそこで終わり、祭りに関する話題へと移った。
「ねー、祭りの規模はどのぐらいなの!?」
「それは聞いてない。でも花火は上がるって言ってたぞ」
「花火!? 私、花火好きなんだー!」
「俺も俺も!」
「りんごあめ……フランクフルト……きゅうりの一本漬け……じゅるじゅるり」
一人だけズレている。
「ふむ。残念だが、私はいけないな。その日は二学期に向けての仕事をしなければならないから」
「そうですか。残念っす」
最初から京子先生が来ることには期待してなかったのだが。しかしそんなことを言えば何をされるのか分からないので、建前を言っておく。
「残念がってるようには見えないが?」
「ハハハ、イヤダナー。ソンナコトナイデスヨ」
見透かされた。しかしここで大切なのは平常心。
慌てれば最後、完全にバレてしまう。
「とりあえず、部活のみんなで行くってメガネくんに言っとくぞ」
「よろしく!」
確認を取った俺はササッと文字を打つ。そしてメガネくんにメッセージを送信した。
――みんなと行くことになった。よろしくな。
返信が返って来る。
――うん。待ち合わせの場所とか時間は、また今度決めようね。
――了解
そこで連絡のやり取りは終わる。夏休み中の楽しみがもう一つ増えた。
少し心を躍らせる。しかし疲労が消えた訳ではなかったためか、俺はいつの間にか電車で眠りについていた。
次に意識が戻ったのは、乗り換えの際、立也に起こされた時だった。その後は何とか睡魔に負けず、奮闘しながら愛しき我が家まで辿り着く。
「ただいま」
「おかーりー!」
「おかえりなさい」
二日ぶりの母さんと美弥の声に一安心する。三日間の旅行が、ついに終わった。