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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第四章 海旅行編
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第五十話 肝試し

今回、書くのに苦戦しました…

「さ、どのペアから行くか決めよ!」


 旅館から歩いて十分ちょっとで、目的の場所に着く。肝試しのスタート地点だ。


 到着と同時に、舞鶴が順番決めを始めた。


「一番最初に行きたいペアー」

「はい!!」


 その声に、勢いよく手を挙げたのは京子先生である。さっきの真面目な注意喚起が嘘のようだった。


「なに、ここは教師として最初に下見しようというのだ。本当に危険がないのか、確かめるためにもな。決して一番乗りしたいとかそういう訳じゃないさ」


 一番乗りしたいんすね。


「他に最初が良いっていう人がいないなら……」


 舞鶴は各々の表情をチェックしていたが、特に最初を希望している者はいなかったらしい。そして俺と京子先生のペアが、一番になる。


「じゃあ、清水くんと京子先生が最初にスタートしてください。その後二分おきに、各ペアがスタートする形で」

「よし! さあ、早速行こう、清水!!」

「分かりまし……た!」


 京子先生は右手で懐中電灯を突き出し、左手で俺の手を強引に引っ張った。そうして、ずんずんと前へ進んで行く。


「ケ、ケ、ケケケのケー。あさーはねどこでくーくーくー」


 古いアニソンを歌いながら。


 懐かしいな。ケケケの偽太郎ぎたろう


「……清水」

「なんですか?」


 しばらく進み、他のみんなが見えなくなった時だ。京子先生は話を切り出した。


「ずっと話す機会がなかったんでな。これを機に聞いておきたいんだが……」


 俺の手を離し、振り向いた京子先生は優しい笑みを浮かべていた。


「部を立ち上げてどうだった?」

「どうってのは……」

「得られたものはあったのかということだ」

「得られたもの、ですか?」

「ああ」


 京子先生が頷く。


「せっかく部を作ることに協力してやったんだ。何もなかったのでは悲しいだろ?」

「そうですね……」


 これまでを振り返る。大和の恋愛の手伝い、伏見家のおばあちゃんの誕生日パーティ。


 まだ三ヶ月と経過していないため、やったことは案外少なかった。しかしそれでも……


「まあ、ありました」

「具体的には?」

「……そこまで聞きます?」

「私はお前の教師だからな」


 少し言うのが恥ずかしい。それに、なんと言えば良いのかもよく分からない。


「えっと……見つめ直せました。色んなものを」

「具体的にと言ったんだが……まあいいか」


 京子先生がくすりと笑う。彼女の持っていた懐中電灯が若干揺れた。


 どこを照らせば良いのか、分からないと言うように。


「もう一つ聞きたい」

「はぁ」

「お悩み解決部は、清水のやりたいことだったか?」

「……え?」


 さっきから質問の意図が分かりづらい。


「やりたいことだったのかと聞いている」

「……そりゃ、やりたかったから、作ったんすよ」

「……なら良いんだ」


 京子先生は、また笑う。


「質問を変えよう。では、今やりたいことはあるか?」

「今、ですか?」

「ああ、今だ」

「……一つあります」

「ほお?」

「内緒ですけど」

「……そうか。ま、深くは聞かないさ」


 俺が言っているのは立也のことだ。あの日、墓参りに行った時に決意したこと。


 目下の課題・・は、それなのだ。


「実は、私にも今やりたいことが一つあってだな……」

「やりたいこと?」


 一体何だろうか。彼女の表情から察するに、きっといつものような馬鹿なことではないだろうが……


「舞鶴達を驚かしたい!!」

「なに馬鹿なこと言ってんすか」


 馬鹿なことだった。


「何故だ!? ワクワクするだろう!」

「別に」


 子供じゃあるまいし。


「嫌だ! おどかしたいおどかしたいおどかしたーい!!」

「子供か」


 三十路だ。

 

「……清水、冷静に考えてみて欲しい」

「はぁ……」

「この肝試し、ただ道に沿って歩くだけだ。もちろん、周りが木々に囲まれていて恐怖を上手く煽って来るが……このままでは盛り上がりに欠けるのではないか?」

「はっ!!」


 確かに……。


 今やっている肝試しは、立也と舞鶴をくっつけるために考えた計画の一つだ。吊り橋効果……とまでは言わないが、二人並んで歩いているだけでも親密度は上がるだろう。


 それに、よくあるお化け屋敷などに入った時のシチュエーション――


「キャッ」


 だきっ。


「ごめんね、急に抱き着いて。でも、怖くて……」

「大丈夫だよ。それどころか、嬉しいかな」

「え?」

「な、なんでもないよ。それより離れないでね。何があっても、僕が君を守るから」

「太郎くん……」

「花子さん……」


 ふぉおりんらぶぅ……


 ――なんていうことだって、再現できるのはないかと考えていた。だがしかし。


 今回の肝試しは、驚かす人間もいなければ特別ビックリするような場所もない。いわば、盛り上がるポイントがないのである。


 それはつまり、最初のハグする所から再現不可能ということに他ならない。


「私達が盛り上げてやれば、他の奴らも楽しめるだろう」

「……それもそうっすね」


 故に、京子先生に賛同する。盛り上げ役になれれば良いだろうと思って。


 ……決して、さっきまでしていた話題を逸らしたかったからではない。


「でもどうやっておどかすんすか?」

「なに、難しいことはしないさ。どこかに隠れて、声を上げて飛び出すだけだ」

「驚きますもんね。こんな暗いとこで急に出て来られたら」

「ああ。で、どうだ。やる気になったか?」

「はい」

「よし、ならさっさと進もう。上手く隠れられる場所を見つけておかなければならんからな」

「分かりました。行きましょう」


 京子先生の提案が可決される。


 せっかくだ。童心に返って楽しもう。


 前をウキウキと歩き出す京子先生。子供らしいその態度に苦笑した。


「……問題児ばかりだな、全く」


 だから、京子先生が何かを呟いたことには気づきすらしなかったのだ。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「じゃあ行って来るねー」


 清水達が行ってから二分が経った。私と天橋くんは出発する。


 あれから順番決めはじゃんけんで行って、私達が二番目に決定した。次がみうと福知で、最後が寺田だ。


 懐中電灯の明かりを頼りに道を歩く。思っていたよりも自然的な道で、人工的でない分、怖かった。


「こういうとこ歩いてると、ドキドキするね」

「そうだな。今にも何か飛び出して来そうだ」

「うん」


 みうなんかは終始震えながら歩いていそうだ。そんな友人の姿を頭に思い浮かべると、何だか笑えて来て怖さも半減する。


「どうしたんだ、あや? 急に笑って」

「あ、なんでもないよ! 気にしないで」


 しまった。こんな暗い道を歩いてていきなり笑い出す女子は変人認定されてしまう。


 みうのせいだと恨む。しかし、みうと清水をペアにしてあげられなかったのでお互い様ということにしておいた。


 この肝試しを開催するということは、みうには伝えていない。伝えておいて、さっきのくじ引きを完全な出来レースに仕立て上げるごとも可能だったけどそれは止めた。


 理由は、みうは暗い所が苦手だからだ。多分みうは、伝えたらそもそも肝試しの開催すら許可してくれない。


 だから私は、こういうのはいつもみうに隠しておいて、直前に伝えることにしてる。今回のように。


 そうすればみうも断ることはない。流石に一人で歩くことは拒否していたけど。


 あとで肝試しのこと、秘密にしてたの怒られるんだろなぁ……。


「こうして夜道を二人で歩いてると、去年を思い出すな」

「え?」


 ふと、天橋くんがそんなことを言い出した。驚き、思わず聞き返してしまう。


「ほら、クリスマスの時だ。覚えてるか?」

「う、うん。もちろん! むしろ、天橋くんが覚えてたことに驚きで……」

「なかなか衝撃的だったから。簡単には忘れられないさ」

「……それもそうだね」


 覚えててくれたんだ! 嬉しい!


 今年の四月になって、クラスが同じになってからも天橋くんはクリスマスの話題をしなかった。だからてっきり忘れたんだと思ってたけど、どうやら違ったらしい。


 だけど彼の言う通り、あの日のことを忘れるのはむしろ難しいと思う。私が変態と付き合っていたばかりに、天橋くんを面倒な目に合わせてしまった。


 でも、そのおかげで私は天橋くんに出会えた。そう言う意味ではあの変態にも感謝……は出来ないな。


「あの時が初対面だったな」

「そうだね。四月になっても何もなかったかのように接してきたから、忘れてるのかなって勘違いしてたよ、もう!」

「はは、ごめんごめん。ただ、言っていいことなのか悩んでな。トラウマになってたらどうしようかって」

「そっか。天橋くんは優しいね」

「……結局、今言ったんだけどな。あやはずっと明るいから、気にしてる様子なかったし」

「私はそんな弱い女じゃありませんっ……なんちゃって」

「そうだな」


 天橋くんと笑い合う。辺りは静かで、よく笑い声が響いた。


 だけどその前。


 一瞬、天橋くんの表情が曇ったように見えたのは気のせいだろうか。暗くてよく分からなかった。


「なあ、あや」

「どうしたの?」

「この肝試しって、どのぐらい歩いたら終わるんだ?」

「うーん、あんまり時間がかかるとあれだから、結構すぐ終わるはずだけど……」


 その時だった。


 がさり。


 左手の草むらがいきなり大きな音を立てる。


「ひっ」


 小さな悲鳴をあげてしまう。ちょっと天橋くんとの距離を詰めつつ、おそるおそる草むらに注目すると……


「わぁっ!!」


「きゃあっ」


 突然の大声に、私は次は大きな悲鳴をあげる。そして天橋くんに抱きついた。


「な、なに! 今の!?」

「……あや、右を見てみろ」

「右?」


 音を立てた草むらとは逆の方だ。天橋くんの言うことに従って、そちらに目を配ると……


「……京子先生」

「どうだ、驚いたか!」


 見慣れた顔があった。そして反対側、あの草むらの所からもう一人の人物が出てくる。


「すまん。京子先生が、おどかしたいって言い出してな」


 清水だ。


「どうだった?」

「怖かった」


 本当に怖かった。天橋くんと京子先生の前だということも忘れて、素の声を出してしまう。


「ところで舞鶴」

「……なんですか、京子先生?」


 落ち着いて声を元に戻し、京子先生に聞き返す。


「いつまで、天橋に引っ付いてるんだ?」

「え?」


 え?


「……あ、ご、ごめん!!」


 慌てて彼の腕を離した。密着していたことに気づいて、私の心臓は急に高鳴り始める。


 天橋くんは爽やかに笑うと首を振った。

 

「構わないさ。むしろ嬉しいかな、なんて」


 やだイケメン抱いて。


 ……はっ、しまった! あまりのイケメンっぷりに正気を失ってしまった。


「……イチャイチャするなら、私のいないとこでやってくれないかなァ。ああん?」

「い、イチャイチャしてる訳じゃないです!」


 京子先生の殺気が全身に襲いかかってきた。殺されないうちに否定する。


「ふっ……それでも、楽しんでいただけたなら何よりだ」


 京子先生は殺意を引っ込めると、一転して凛々しく笑った。彼女は時々……というか、割と頻繁に男らしいところがある。


 ズボラなとことか。


「もう……予定にないことだったんで、本当にびっくりしたんですからね!」

「悪い悪い。だがやはり、肝試しならスリルがなくてはな!」


 京子先生から視線を逸らし、もう一度清水を見る。あいつはいつもの若干死んでる目のままドヤ顔っぽい表情をしていた。


 なんかムカつく顔だけど、言いたいことはその表情から汲み取れた。


 どうだ、立也と引っ付けただろ。


 多分こんなことを考えてる。癪だったから、舌を出してべーっとした。


「あ、そうだ。このおどかすの、みうには止めといた方が良いと思います」

「ふむ。彼女は先程も一人で歩くことを拒否していたな。怖いものが苦手なのか?」

「怖いものというか、暗いとこが……」

「なら止めておこうか。しかし、それを知りながら肝試しをやるとは……お主も悪よのう」

「いえいえ、それほどでもー」


 もしみうが驚かされれば、私が天橋くんにくっついたのと同じように、福知とくっつくだろう。それだけはNGだった。


 だから止めるよう言っておく。ほんとはみうの驚く姿も見てみたいんだけど、ここはぐっと堪えておいた。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


 落ち着かない。俺と伊根町は、勝男だけを残して肝試しをスタートしていた。


 マジで落ち着かない。てか、落ち着く方が無理じゃない?


「……あー伊根町、大丈夫?」

「うん。なんとか」


 伊根町はけっこービクビクしていた。ここは俺がちゃんとリードしなきゃな!


 どうやら、こういうのが苦手らしいから。でも良いのかなぁ。


「……」


 かなり俺と伊根町との距離は近かった。もしなんかあれば肩がぶつかりそうなぐらい。


 マジやばい。


 でも向こうは気にしてなさそう……というか、横顔を見るに気にしてる余裕がなさそう。怖くて感覚が麻痺してるのかな。


「な、なんかあっても俺が庇うから! そこまで怖がらなくたって平気! せっかくの肝試しなんだし、楽しもうぜ!!」

「……うん。そうだね。ありがと」

「おう!」


 なんていうか、フられてる身でこれはマジ辛い。伊根町が全く意に介してなさそうな所は良かったんだけどさ。


 普通もっと気まずいし。会話の一言もないだろうし。


 でもこれ何の拷問!? 俺の精神が持たねえよ!!


「うう……」

「どうしたの?」

「いや、心がズキズキと……」

「?」


 うーん……やっぱちょっとぐらいは意に介して欲しいなぁ。ここまで来ると逆にきつい。


 伊根町がそういう女の子ってのは知ってっけど。でももうちょい気をつかってくれると助かるのに……!


「……福知」

「どうしたの?」

「改めて、お礼を言おうと思って」

「お礼?」

「うん」


 伊根町は基本気だるげだ。だけど、真面目な時とか怒ってる時とか嬉しそうな時とか、そういうのはなんとなーく……なんとなーくだけど分かる。


 ……分からない時もあっけど。とにかく今はその、なんとなく真面目そうな時だった。


「協力してくれて、ありがと」

「……うん。お礼を言われるほどのことでもないけどな。俺がしたくてしてる訳だし!」


 何のことかはすぐに分かった。清水っちのことだ。


「それに俺がするのは協力だけで、最後に頑張るのは伊根町だぜ! 今日の昼だってそう、伊根町頑張ってアピールしてたしマジすげえよ!!」

「……それは福知に、勇気、もらったから」

「え?」


 どういうこと!?


「福知が、私のことを好きだったのはあの日に知ったんだけど……」

「ああ……」


 あの日ね! 曇りの日ね! 俺がフられた日ね!!


「それで、それまでのこと思い返して……」


 伊根町の喋り方はゆっくりだ。彼女特有ののんびりな空気は周りを癒してくれる。


「福知は、頑張ってたんだって、思ったから」

「……それは、清水っちのおかげだけどね。清水っちがいなかったら頑張れなかったし。伊根町の方こそすげえじゃん。体育のサッカーとかもさ、清水っちとペア組めるように一人で頑張ってたんだろ?」

「あの時から、あやには相談に乗ってもらってた」

「あ、そうだったんだ」


 舞鶴と伊根町、仲良いもんな。聞いた話じゃ幼馴染らしいし。


「とにかく……私も頑張ろうって思えて、それで今日、頑張れた」

「そっか」


 似てるなぁと思った。あの時の、俺と清水っちの会話と。


 俺がフられたあとに、清水っちと二人で話した内容と。


「だから、ありがと」

「どういたしまして!」


 伊根町は微かに、ちょっとだけ、ほんの少し笑った。清水っちと接するようになってから、伊根町は表情豊かになってきてる気がする。


 マジで誤差程度のもんだけど。でもそのどれもが、俺には作り出せなかった表情だ。


 今の伊根町の優しい表情も。


「……」


 やっぱ、可愛いなぁ。


「どうしたの?」

「別に、何でもない!」


 ぶんぶんと首を振って前を向いた……その時。


 がさり。


「「!!」」


 何かが、草を揺らしたような音がする。ビクッと、伊根町の体が跳ねた。


 恐る恐る音の方へと振り向くも、何もない。


「伊根町、大丈夫! 多分風だし!」

「う、うん……」


 がさがさっ。


「……っ!」


 またもや別の草が音を立てる。伊根町の体がまたしても跳ねた。


「……だ、大丈夫、だと……思う」


 ひゅう。


 やばい。なんか寒気がしてきた。


 急に温度が下がったような気がする。吹いてきた風も、心なしいつもより冷たい。


「……」


 ぶるぶると震える伊根町は、キュッと袖をつまんできた。それはマジやばい!


 俺よ、惑わされるな! もう俺はフられてるんだ!


「は、早く行こ」

「だなっ!」


 伊根町の催促に同意する。このままここにいても心臓に悪い……


「あのぉ〜」

「「!!!!」」


 その声は、突然背後から聞こえた。少し低い、女性の声だ。


 冷や汗を全身にかきながら、ゆっくりと振り向くとそこには、長い黒髪をダランと垂らした女が……


「うらめしやああああああ」

「ぎゃあああああああああ」

「きゃあああああああああ」


 ・

 ・

 ・

 ・

 ・


「あや、あんなのがあるなんて聞いてない!」

「あんなの?」


 あの後、全力で駆け抜けた俺と伊根町はすぐにゴールに着いた。伊根町が、肝試しを提案した舞鶴に文句を言う。


 珍しく口調が強い。だけど気持ちは分かった。


「あれだよ! あの長い黒髪の女性!! あんなサプライズみたいなんがあるなんて知らなかったし。マジ怖かった!!」

「え?」


 舞鶴が怪訝そうな顔をする。


「京子先生。さっきトイレに行くって言ってたのってもしかして……」

「いや、私は普通にトイレにいたぞ。第一、驚かして、かつ彼らよりも早く戻ってくるのはしんどいだろう」

「ですよね」


 あれ、舞鶴も不思議そうな顔をしてる。


「みう。その黒髪の女性? には何をされたの?」

「うらめしやって、驚かされた」


 ますます不思議そうな表情になっていく。


「この肝試しには、そんなの無いはずだけど……」

「「え?」」

「実際、私達は誰もそんなことされなかったよ? 京子先生のイタズラを除けば……」


 他のみんなを見渡すも、全員が頷いていた。てことは……


「じゃあ、もしかしてあれって本物の……」


 さーっと青ざめる。


「早くここ離れない!? 怖いし! マジやばいし!!」


 そう提案すると、伊根町も賛同するように頭を縦に振っていた。俺と伊根町の様子を見てただ事じゃないと思ったのか、舞鶴は了承してくれた。


「う、うん。分かった。じゃあ戻ろっか。ずっとここにいても仕方ないしね」

「あや、あとで説教」

「うーごめん。まさかそんなよく分からないのが出るなんて思ってなかったんだもん」

「肝試しのことを、隠してた時点で罪」

「そんなー」


 みんなで旅館へと歩き出す。こんなとことはさっさとおさらばだ。


 あれ、そういえば何かを忘れてるような……?






 彼らが旅館に引き返すのと同時刻。


「この近くの旅館の飯屋・・があると聞いたのですが……」

「あ、それなら場所分かります。今僕が通ってきた道をまっすぐ行って、一つ目の分かれ道を右に行っていただければ着きますよ」

「ありがとうございます! さっきは、道を尋ねようとしたら突然逃げ出されてしまって……」

「酷い奴もいるもんですね!」


 寺田勝男は一人、長い黒髪の女性の道案内をしていた。道案内を終えた彼は、ゴールに辿り着く。


「あれ、おーい! みんなどこー?」


 彼の声が、夜空に響き渡った。

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