第四十九話 不正バリバリのくじ引きです
晩飯を食べ終え、男子部屋にみんなそろって戻る。美味しいもので腹を満たされた俺は満足していた。
しかし夜はこれからである。舞鶴と目配せをした。
「ねえ、みんな!」
舞鶴が取り出したのは四膳の割り箸だった。どれも箸袋に入った状態である。
「あのさ、肝試ししない?」
「肝試し?」
「そう!」
舞鶴は割り箸を掲げて言う。
「これでくじ引きして、ペアを決めて、二人一組でするの」
「マジ面白そう! あれ、でもそれじゃあ一人余るくない?」
大和の言う通りだった。今この場には計七人がいる。
それは、完全に予想外だったと言って良い。
「うん。京子先生が来ること、知らなかったから……」
「それはすまなかった。サプライズのつもりでな」
サプライズで生徒のプライベート旅行についてくる教師がどこにいるんですか?
そう尋ねたかったがここは堪える。
「だから、余った人は一人で肝試しっていうのはどうかなってー」
「あや。それは私が死ぬ」
「みうは暗いとこ苦手だもんね。でもそれは大丈夫。みうは特別にそうならないようにしてあげるから」
「ありがと」
みうが暗い所に苦手意識を持っているというのは俺も知っていた。ディスティニーランドでスゲーッス・マウンテンに乗った時、そんなことを言っていたからだ。
「でもどうやって伊根町が一人にならないようにするの?」
「それは……」
大和が疑問を口にする。舞鶴は、実践しながら説明した方が早いと考えたのか、割り箸を箸袋から取り出した。
そして四膳全てを半分に割り、八本の状態にする。そのうち一本だけを離れた所に置いた。
「まず、ここに記号を書いて……」
割り箸の持ち手部分の方の先端に、黒のマーカーで記号をつけていく。ブレステよろしく使われた記号は〇と△と□と×。
〇、△、□の記号は二回書かれ、×は一回しか書かれなかった。これで七本の割り箸全てに記号が記されたことになる。
「同じ記号を引いた人同士でペアを組むことにするの。で、みうが引く時だけ×を書いた割り箸を取り除いておけば……」
「なるほど!」
大和は納得したように頷いていた。そうすればみうは必ず〇、△、□の記号が当てられた六本の割り箸から一本を抜くだろう。
必ずペアが組める。しかし本当なら、これは取りたくなかった手なのだ。
理由は簡単、不確定要素が出てしまうからだ。この肝試しのくじ引きでは舞鶴と立也が必ずペアになるように仕組むつもりだったが、京子先生が来たことによる×の登場がそれを狂わせた。
「じゃあ、早速始めよ!」
明るく提案した舞鶴は、さも当然と言った風に「はい」とモブ田に七本の割り箸を渡す。モブ田は呆気に取られながら「あ、ああ」とくじを持つ役目を引き受けた。
しっかり持ち手部分を握りしめて、記号と割り箸の割れ方を隠しながら割り箸を持っている。割れ方が見えたらどれがどれか分かってしまうからな。
なお、当たり前だがくじの持ち手となったモブ田にくじを引く権利はない。
「天橋くんから引いたら?」
「じゃあ、そうさせてもらおうかな」
そして舞鶴が立也に一番乗りでくじを引くよう促す。立也は基本断らないタイプなので、軽く引き受けてくじを引いた。
俺と舞鶴は願う。×の書かれた割り箸を引きませんようにと。
かくして立也が引いたのは……
「△だな」
よし。舞鶴と顔を見合わせ微笑み合う。
これで勝利確定だ。
「じゃ、次私が引くねー」
そう言って舞鶴は誰かが引く前にくじを引いてしまう。天橋と舞鶴は隣合って座っていたので、順番ずつ引いてる感が出ている。
彼女が悩む素振りを少し見せた後に引いたのは、言わずもがな△の割り箸。
「あ! 天橋くんと一緒だ!」
「よろしくな、舞鶴」
「うん、よろしくね」
などと白々しい演技を舞鶴は披露しているが、もちろん狙ってやったことである。旅行前、舞鶴はこのくじのために割り箸をじっと見つめ続けてそれぞれの特徴を覚えていたのだ。
微かな色の褪せ方やシミの付き具合をしっかり頭に叩き込み、どれにどの記号を割り当てるかもしっかり脳にインプット。だからこそ×を用意せざるを得なくなった時は焦ったが、立也が引かなくて良かった。
天橋、舞鶴と右回りにくじを引いた。次は座っている位置的にみうの番だ。
その後、俺、大和、京子先生の順でくじを引く。余った割り箸がモブ田のものになる訳だ。
みうの番がやって来たので、モブ田は一旦割り箸を握りしめていた手を開き、×の書かれた割り箸だけを除いた。シャッフルし、みうの前に差し出す。
「……〇」
みうは無言で一本の割り箸を抜いた。そして結果をぽそり呟く。
そのまま元々座っていた所に戻り腰を下ろした。モブ田がくじを元に戻す。
次は俺が引く番か。立ち上がってモブ田の下まで行くのは面倒だったので、膝歩きで近づいた。
なお、俺は割り箸の違いを舞鶴のようには覚えていない。そのため完全にランダムだ。
「□か」
口ではない、□である。くちではなく、しかく。
そして次は大和の番。彼は「つっぎはおれー!」とテンション高めに引いた。
割り箸につけられていた記号は……
「〇だ……」
大和はみうの方を見た。みうも〇を引いていたので、大和はみうとペアを組むということになる。
若干、大和の表情が曇った気がするのは、きっと気のせいじゃない。
「そりゃあ!!」
そんな大和を見ている内に、京子先生が女性らしくない掛け声で割り箸を抜いていた。□か×か、五分五分の確率である。
「□、か。よろしくな、清水」
「よろしくっす」
これで各ペアが決まった。立也と舞鶴、みうと大和、俺と京子先生、そしてモブ田が単独。
「というか、どこで肝試しをやるんだ? とりあえずくじは引いたが、教師として、もし危険な場所に行くつもりなら止めねばならん」
「実は、肝試しスポットとして有名なとこが近くにあるんです。山のふもとなんですが、肝試しのために道も整備されていてコースも決まってます」
「ふむ。明かりになるものはあるのか?」
「はい、ここに」
「あ、俺も持ってます」
舞鶴は鞄から懐中電灯を四つ取り出した。そのうち二つは俺の家にあったもので、もう二つはお盆の時に帰省した際、実家から持って来たらしい。
ペア一組につき懐中電灯は一つ。当初の予定では三つで足りたのだが、念のためにと余分に一つ持ってきて正解だったようだ。
「万全だな。それなら安全そうだ。だが肝試し中は、何か問題が起こらないようお前ら十分気をつけろよ。昼間のようなこともあるかもしれないからな」
「「「はい」」」
俺たちは、舞鶴の先導に従い旅館を出た。