第四十七話 京子先生、切れる
「あれ、舞鶴と伊根町は? あ、よく見たら清水っちもいない!」
勝男とじゃれていた大和が、三人がいないことに気づいた。驚いたように周りをキョロキョロと見回し始める。
「彩とみうが向こうの方に行ったんだが、戻ってこないから、カズがトイレついでに様子を見に行ったんだ」
「そうなんだ!」
それだけ聞くと大和はまた遊び始めた。どこから持って来たのか、矢の先が吸盤になっているおもちゃの弓矢を構え遠くに置いたスイカを狙っている。
数瞬の間をおいて放たれた矢は、見事スイカに当たった。スポンとくっつきはしなかったが。
流石は弓道部。弓の腕は一流らしい。
「福知の奴、面白そうなことをやっているな」
「京子先生」
そこに、京子先生がやって来た。逆ナンは終わったのだろうか。
「今日は本当に日差しがきつい。少し……すこーしだけ歳を取ったこの体にはこたえる」
それだけ言うと、彼女はビーチパラソルの下に潜り込んだ。そして持って来たクーラーボックスの中から、ノンアルコールのドリンクを取り出す。
「ゴクゴクゴク……ぷはぁっ!」
「良い飲みっぷりですね」
「喉が渇いていたからな。お前も何か飲むか?」
「そうですね。烏龍茶をください」
「よし」
京子先生はクーラーボックスを再び開け手を突っ込んだ。烏龍茶を取り出し、「ほら」と掛け声と共に軽く放ってくる。
「ありがとうございます」
冷えた烏龍茶は美味かった。やはり、夏はキンキンに冷やした飲み物が一際美味しく感じる。
京子先生の飲みっぷりも頷けた。
「さて、天橋」
「何ですか?」
「今は……私と二人きりだな」
「…………」
……ああ、身の危険を感じる。
「生徒に手を出したら、教師として終わりだと思います」
「お前……割りと直球だな。なに、そんな話じゃないさ。ただ、一度二人きりで話したいと思っていたんだ」
「なるほど、そういうことですか」
良かった。これで一安心……
「近頃のお前は、見ていて気持ちが良いと思ってな」
「やっぱりそういう話じゃないですか!」
「いや、そういう意味ではなく……、確かに誤解を生みかねない言い方だった。日本語というのは難しいものだ」
「何と言うべきか……」と、京子先生は頭を悩ませる。
「前までのお前から感じていたもどかしさが消えたと、そう言いたかったんだ」
「もどかしさ……?」
「天橋、お前は周りと壁を作っていただろう? それも、中途半端な」
「!!」
「ま、私の憶測でしかないんだが。どこか隔たりがあったように思えたんだ」
彼女は「ふっ」と笑う。
「それが、最近は憑き物が取れたように隔たりを感じなくなった。そう、ちょうど一学期の中間テストが終わった辺りからだ。何かあったのかと思ってな」
「……生徒のことがそこまで分かるなんて、教師って凄いんですね」
「男を見る目はないが、人を見る目はあると自負している」
京子先生は喉を鳴らし、もう一口ドリンクを飲んだ。
「同じ時に清水も変わった。まさか人を遠ざけていたあいつが、あんなに周りと接するようになるとはな」
「カズは、元々ああいう奴です」
「そうか」
遊んでいる大和達を眺める。弓を射る役は勝男に交代していて、さっきからずっと矢を放っていた。
一本も当たらず、悔しそうにしている。そんな様を、大和が指を指して笑っていた。
しばし沈黙が場を支配する。破ったのは、京子先生だった。
「お前は無駄に大人びているな」
「え?」
「いや、背伸びをしているというべきか」
「…………」
「子供でいられる時間は短く、貴重だ。社会に放り出されれば、嫌でも大人にならなければならない」
そんなことを言われても、社会に出たことがない俺には分からない。
「今から大人のフリをしていても、損なだけだぞ?」
「……そうでもしていないと、自分が嫌になりますので」
「そうか。ま、しつこく言うつもりはないさ。お前はお前のやりたいようにやればいい。ただ……」
「やりたいことを、見失うなよ?」
「……心しておきます」
その時だった。テントに置いていた俺のスマートフォンが、音を鳴らしたのは。
WINEの音でもメールの通知音でもなく、着信音。スマホの画面に表示されていた名前は、親友のモノだ。
通話のボタンをタッチする。
「どうしたカズ?」
カズは必要最低限のことしか言わなかった。そしてすぐに通話を切った。
「京子先生」
「どうした?」
「何か、問題があったみたいです」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「もうさぁ、手、出しちゃわない?」
「待て、そんなことしたらつまらねえじゃねえか。最初から最後まで、しっかりカメラに収めようぜ」
舞鶴と伊根町は、岩で陰になっている砂場まで連れて来られていた。今二人は拘束されている訳ではなく、自由に体を動かせる状態にある。
しかし、どうせ逃げ出そうにもすぐに捕まる状況だった。男達も逃さない自信があるため、動くなよと命令だけして放置していた。
「でもハル、遅すぎだろ」
「車のある所から遠いからな。ウンコもするって言ってたし」
「え、あいつそんなこと言ってたの?」
「うん」
金髪の男はそれを知り、呆れたような顔をした。
「お嬢さん達、ゴメンな。お前らも早くヤりてえだろうに」
「冗談も大概にして」
「おお、怖い怖い」
暇を持て余した二人は、舞鶴達に話しかける。未だ目をギラつかせている舞鶴に、赤髪は舌なめずりをした。
「強気な女を屈服させんのが楽しいんだよなぁ」
「きも」
舞鶴は、抱いた感情をたった二文字の言葉にする。
「惜しむべくは胸がねえことだな……」
「さ、サイテー!」
ここに来て舞鶴に痛恨の一撃。彼女は冷静さを欠いた。
「胸は仕方ないじゃない、胸は! 生まれた時から決まってるもんだし!!」
「お、おう」
急な態度の変化に、思わず赤髪も言葉に詰まった。そしてしばらく静寂する。
そこに……
「わりぃ、待たせた!」
「遅えぞハル!!」
「だからわりぃって」
能天気に笑いながらハルと呼ばれる男がやって来た。青色に染められた髪はよく目立ち、カメラを担いでいる。
「っと……!? すっげえ可愛いじゃんこの子ら!!」
「だろ? なかなかこんな上玉お目にかかれねえよ」
「やっべ、テンション上がって来た」
ハルは喜びながらカメラを起動した。少しして、起動画面からカメラの視点に切り替わる。
「良し、もういつでも録画出来るぜ!」
「俺はさっき言った通りこの強気な女とヤるからよ、お前はこっちの茶髪とな?」
「分かってる」
「あとで撮影係変わってねー。俺も楽しみたいし」
「もちろん」
「じゃあ、いっくよー」とハルが掛け声をし、同時に録画が始まった。早速、赤髪と金髪は舞鶴と伊根町に近づく。
「ようやくヤレるぜ」
「……みうには、手出させない」
「だから……無理だっつーの!!」
赤髪が舞鶴の肩を掴んだその瞬間だった。
「あのー。その二人、俺の友達なんすけど」
男の声が響く。ここにいる全員が、声のした方向へと振り向いた。
彼はスマホを前に掲げていた。そしてずっと回していたカメラを止めると、言葉を続ける。
「その手、離してもらえます?」
その声は、だるそうなトーンだった。
「清水!!」
「よっ、舞鶴。珍しいな、涙なんて浮かべて」
「なっ……!」
清水の言葉に、そこで舞鶴は気づいた。自分が少し涙ぐんでいたことに。
「な、泣いてないし」
「嘘つけ」
目尻を拭いながら否定する舞鶴を、清水はジト目で見つめる。そしてその背後に控えていた伊根町へと視線を移した。
「みうも、もう大丈夫だ」
「……うん」
それだけ言うと、清水はポチポチと何やらスマホを操作し始めた。そこでようやく、固まっていた男達は解凍した。
「なんだ、お前?」
「だからそこの二人の友達です。さっき言ったの聞こえなかったんですか? 耳悪いっすね」
「てめえ……」
彼らに睨みつけられても、清水はどこ吹く風だ。もっともそれは、そう見えるように取り繕っているだけで内心はかなりビビっていた。
「女の前だからって、カッコつけても良いことないぜ? お前は一人、それに比べてこっちは三人だ。どうすることも出来ねえと思うが」
「ああ。自慢じゃねえが万年帰宅部で筋力ゼロの俺には勝てる気もしねえよ。だから……」
清水は、スマホの画面を彼らの方へ向ける。
「少し前に、110番させてもらった」
そこには発信履歴が載っていた。最上段にはしっかりと三桁の数字が書かれていて、それを見せつけようと清水はしたのだが。
「「「…………」」」
潮風が、流れていった。
「……画面小さくて何も見えねえよ」
「あ……」
そう、清水と男達の間には距離があった。よってこの行為にはなんの意味もなく、ただ格好つけただけの形になってしまう。
清水は気恥ずかしくなった。男達はおろか、舞鶴にも冷たい目を向けられている。
「げふんっ! ま、まあそれはいい。俺が言いたいのは、さっさと逃げねえと警察が来るってことだ。証拠映像もこん中にある」
「ここは海だぜ? 警察が来るまでにかなりの時間がかかるはずだ。それまでにお前をボコして、録画データ消して、こいつらと遊ぶなんて余裕で出来る」
「……早漏なんだな」
「「「ちげえよ!!」」」
可哀想にと憐れみつつ、清水は内心冷や汗をかいていた。確かに110番には連絡したのだが、彼らの言う通りここは海。
最寄りの交番からも距離があるだろう。そのうえここは人目につきにくい。
探すのも一苦労なはずだ。だから、最後の切り札を切る。
その切り札とは……
「……あんたらの言うように、その猶予はたっぷりあるだろうな。だが、録画データを消すのだけは不可能だ」
「どうしてだ?」
「もう俺の友達に送ってるからな」
「「「!!!!」」」
その通り、清水がスマホをポチポチ弄っていたのは天橋にデータを送信するためだった。録画されているのは、赤髪の男が舞鶴の肩を掴む瞬間まで。
その前の会話も相まって、あの映像だけでも十分証拠になりえた。もし仮にここで事を起こしてしまえば、後日、必ず報いを受ける。
「クソッ……」
「何もしない方が良いと思うぞ。未遂で終わらせれば、影響はない「待てよ」……?」
「お前、嘘ついてるだろ?」
「……何の嘘だ?」
「さっき暇だから、スマホ弄ろうとしたんだけど……」
「ここ、ギリギリ圏外だったんだわ」
という、ハッタリだった。
「だから今録画したデータを送るのは不可能だ。警察に電話するのは、少し向こうの方まで行けば可能だろうがな」
データを送信しようとしていたのは真実だ。しかしいざ送ろうした時に、圏外と表示されていたことに清水は気づいた。
舞鶴のヘアゴムを拾った時は、まだ電波は届いていた。だから警察への連絡も可能だった。
「残念だったな。嘘がバレて」
「ああ、ほんとに」
「さっ、そのスマホを渡してもらおうか」
「……それは断る」
清水の切れる手札は出尽くした。そんな彼が、とった行動は……。
「お前に拒否権はねえよ。さっさと渡せば良い……」
ダッ!!
「あ、おい!!」
まさかの全力逃走だった。
これには流石の男達も面を食らった。舞鶴と伊根町ですら、ポカンとしている。
「ちょっと待て!!」
清水は優位を確信していた。警察が来るのに時間はかかるし、データの送信も不可能だったが、それでも録画映像自体はあるのだ。
彼らとしては、それだけは消さなければならない。つまり、清水を追いかけてくる必要がある。
何人で? 何人で追いかけてきて、何人を舞鶴と伊根町の監視に残す?
彼らはたったの三人しかいない。追跡と監視、割く人数は、どちらかは必ず一人になる。
人が選択を迫られた時、重要なのはリスクヘッジだ。ではこの三人の男達にとって、追跡に人手を割くことと、監視に人手を割くこと、そのどちらのリスクが高いのか。
言わずもがな、後者である。なぜなら清水を取り逃がしてしまえば、録画データは拡散されてしまうのだから。
最悪、舞鶴と伊根町を逃してしまったとしても問題はない。だから……
「ハル、追うぞ! お前はここに残ってろ!!」
「分かった!」
追跡に人手を割くはず。それは清水の予想通りだった。
監視にあてられたのはハル一人で、赤髪と金髪は清水を追いかけてきた。これで良いと思いながら清水は走る。
(一人だったら、舞鶴と伊根町に乱暴は出来ねえはずだ。ただの喧嘩だったら知らねえけど、一対二で、強姦すんのは無理だろ!)
しかしそこは清水。圧倒的な身体能力の欠如と、驚異的なまでの運動音痴。
これらが組み合わさった彼は、二人に簡単に捕まってしまう。雑魚だった。
「はあ、はあ。いきなり逃げ出しやがって。足が遅くて助かったぜ……」
息を荒くした赤髪が、清水にのしかかる。
「おい、こいつのスマホを奪え」
「分かった」
もう一人の金髪は、清水が手に持っていたスマホを奪い取った。
「……ほんと、遅え」
「何だ? いきなり自虐でも始めたか?」
二人はゲラゲラと清水を嗤った。これで目的は達成したのだ。
警察が来るまでまだ一時間弱はあるだろう。それまでに清水を動けなくなるぐらいリンチして、女子達を強姦することは可能……
「遅えよ、立也」
「悪い。途中でGPSが機能しなくなったから手間取った」
「「!!??」」
清水を取り押さえる男達の前には、天橋達が立っていた。福知大和、寺田勝男、そして丹波京子。
「時間稼ぎ、苦労したんだぞ」
「あとでジュース奢るから許してくれ」
そう、清水の一番の目的は時間稼ぎだった。わざわざ追跡と監視に人手を分けさせたのもこのため。
少なくとも、清水が追われている間は舞鶴と伊根町が襲われる心配もない。捕まえて、殴って、データを消して、時間にしたら数分はかかるはずだ。
それだけ時間がかかれば、予め、警察に連絡するよりも前に連絡を入れていた天橋達は到着するだろうと睨んでいた。最悪殴られることは覚悟していたが、読み通りギリギリ間に合ってくれたようだ。
そもそも、実は警察への電話も発信しただけだった。用件を伝えている暇もなかったため、向こうが電話に出た瞬間ぶちりと切った。
全てが時間を稼ぐため。だが清水が舞鶴達の元に行くまでに、彼女達が襲われていないことは奇跡だったと言える。
そういう意味では、ウンコをしていたらしいハルとやらには感謝しなければならないと清水は思っていた。後でお礼を言おうと、心に誓う。
「さて」
清水は、ずっと怯えていた心をようやく落ち着かせることが出来た。
「どいてくれるか? 重いんだが」
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
派手な赤色の髪をした男が、俺の上からどく。ゆっくりと立ち上がり、伸びをした。
殴られる前に立也達が来てくれて良かった……。痛いのは嫌だからな。
赤髪と金髪は固まっていた。なにせ人数はこっちの方が圧倒的に多い。
「お前達……」
そんな二人に、京子先生が声をかける。ぶるぶると、体を細かく震わせながら。
これ、怒ってるやつだな……
「襲うなら、私を襲えよ!!」
……?
「私ならいつでもウェルカムなのに! お前達の相手ぐらい、いつでも務めてやるのに!!」
ええ……。
「どうして私じゃダメなんだ!? そんなに若い女が良いのか!?」
「京子先生、落ち着いてくださ「これが落ち着いていられるか!」……」
落ち着いていられるだろ。
「どうしてだ!? 私は、いくら男に声をかけても一人も釣れなかったのに! 舞鶴や伊根町は男の方から寄ってくる!! 正直、自分で言うのもなんだが私はかなり美人だ。ナイスバディだ!! 私のどこがダメなんだ、言え!!!」
ほんとに自分で言うことじゃない。
「えっと……」
いきなり命令された赤髪と金髪は、しどろもどろになりながら答える。
「なんというか、その……がっつき過ぎな所が、ダメなんじゃ……」
「!!!!」
いや、そんな「衝撃!」みたいな顔をされても困る。満場一致で分かりきってることだ。
「ふっ……お前達」
あ、またぶるぶる震えだした。
「覚悟は、出来てるんだろうな?」
「「え?」」
なんという理不尽。京子先生の鉄拳が、彼らの顔面に炸裂した。
で。
「舞鶴、伊根町、大丈夫か?」
信号機ヘアカラーの三人組は全員顔が腫れていた。ギャグ漫画みたいになっている。
無論、京子先生が下した怒りの鉄槌だ。正直彼らには俺も業を煮やしていたのでスカッとした。
「はい」
「うん」
京子先生の質問に、二人は肯定する。何はともあれ、これで一件落着だ。
疲れたなとぼーっとしていると、ふと視線を感じた。振り向くと、舞鶴からのものだった。
目が合う。舞鶴は若干ムスッとしながら近寄って来た。
「……あ、り……が……」
一言ずつ、ゆっくりと伝えてくる。
「……とう」
初めて言われた、お礼だった。
「……なんかお前に礼を言われると気持ち悪いな」
「! 死ね!」
小さな声で罵られる。でもほんと、なんだか違和感だ。
「みうを守るのは私の役目なのに……」
「え?」
ボスッ。
何故か殴られた、痛い。声が小さ過ぎて聞こえなかったから聞き返しただけだというのに、この仕打ちはどうなのだろうか。
ついでに舞鶴は、上手いこと誰にも見えないように俺を殴っていた。流石である。
「……カズ」
すると今度は、みうがやって来た。舞鶴はふんと鼻を鳴らすと立也の横へとテコテコ歩いていく。
「ありがと」
「……おう」
舞鶴に礼を言われた時のような違和感はないが、こっちは何だかむず痒い。理由は分からない。
「来てくれた時、嬉しかった」
「そ、そうか」
「……でも逃げ出した時は、ビックリ、した」
「いや、あれは……時間稼ぎっていうか、その……」
どう伝えようか迷う。あの時の意図を、簡潔に説明するのは難しい
何とか弁解しようとあたふたしていると、みうはクスッと笑った。
「大丈夫。分かってるから」
あ、可愛い。
「それなら良かった」
どうしてだろうか。最近、みうが可愛く見える。
あれか。可愛げのない舞鶴と並んでるからか……
ジロリ。
……すいません。
舞鶴の勘の良さは、世界を狙えるレベルだろう。そんなどうでもいいことを考えながら、みうと二人で突っ立っていると。
「そろそろ行かない!? ここにいても仕方ないし、マジもっと遊びたいし!」
「そうだな」
大和が大きな声で提案した。それに立也が賛成する。
俺も心の中で同意した。大学生達のせいで、全然海を満喫出来ていないからな。
「じゃあ、行こう!!」
大和の先導に続き、俺達はビーチへと移動を開始する。だが、京子先生だけがついてこなかった。
そのことに気づいてるのは俺だけらしい。
「京子先生、行きますよ」
「ああ、すぐ行く」
京子先生は、大学生達の側まで歩いて行った。しゃがみこみ、彼らに目線を合わせると何かを告げる。
さして時間もかけず、彼女は立ち上がった。そしてこちらへとやってくる。
「何を話してたんですか?」
「何でもないさ」
「まさか夜のお誘いとかじゃない……」
「ああ?」
「何でもないっす」
いくら京子先生でも、それはないらしかった。