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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第三章 決意編
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第三十二話 鉄棒は難しい

投稿忘れてました。

今日はあと一話、更新します。

「ふんっ、んんんん……っ、はあ、はぁ」


 快晴の空は眩しく、照りつける日差しが肌を焼く。目の前ではメガネくんが鉄棒と奮闘していた。


 久美は書道部があるとのことで今日の午前は裁縫の特訓が出来なかった。


 その為、俺もみうもメガネくんが鉄棒を練習している公園へやって来たのだ。サッカー部も活動中なので、現在ここにいるのは俺、みう、大和、メガネくんの四人だ。


「ふぅんっ! んんんん……っ、はぁ」

「「「…………」」」


 メガネくんの力む声と、蝉の鳴き声だけが俺達の耳に入ってくる。


「ふんっ!」

「……なあ、清水っち」

「ん?」

「俺、どうしたら良いんだろ」

「何の話だ?」

「どうしたら、メガネくんが逆上がり出来るようになるかな」


 頑張るメガネくんから大和へと視線を移す。大和の目は、メガネくんからサプライズの話を聞いた時の輝きが嘘のように死んでいた。


 あの時とは違う涙で濡れていそうである。


「俺には分からん」

「誰なら分かると思う?」

「……それも俺には分からん」


 大和の表情は、悟りの境地とも言えそうであった。ちなみに一番適切な言葉は諦めのドン底である。


 ここ三日間、メガネくんは毎日鉄棒の練習をしていた。色々な方法を試したが目立った成果は全く見られず、それが原因で現在の大和がいる。


 一度鉄棒に関する本を買ってみるのもありかもしれない。このままでは行き詰まりだと、そんなことを考えた。


「それにしても今日は暑いな」


 パタパタと、服の首元の部分で扇ぐ。今日はいつにもまして気温が高い。


 夏が本格的に牙を剥き始めたということだろうか。一筋の汗が、額から頬にかけて伝った。


「なあ、清水っちは鉄棒出来んの?」

「え?」


 急に大和がそんなことを聞いて来た。


「いや、ほら、清水っちも運動苦手だったからさ。どうなのかと」

「俺だって逆上がりぐらいは出来る」


 少しむっとした。流石に舐め過ぎである。


 逆上がりは小一の時から出来たのだ。


「見てろ」


 ざっと公園の砂を踏みしめ一歩前に進む。俺の実力を証明しようと、三本ある鉄棒の内の一本の前に行った。


 当然一番高い奴を選ぶ。公園の子供用の物なので、それでも俺の首の辺りまでしかない。


 鉄棒を持った。


「はっ!」


 気合を入れて足だけで助走をする。勢いをつけ、ここだというタイミングで一気に地面を蹴飛ばした。


 体が地面から離れ、より一層鉄棒を持つ手に力が込もる。宙に浮いた足はそのまま鉄棒の上空を回り……回……り……らず。


 ずさっと地面に着地した。俺の足は前方に突き出され、背中が地面と向き合いかけている。


 俺の体勢は、逆上がりを失敗した者特有の間抜けなそれになっていた。


「「「………………」」」


 皆一様に口をつぐむ。かける言葉を見つけられないで俺を見ていた。


「ひ、久しぶりだったからだ。あんまり運動してないしな」


 ……まさかこれだけ俺の力が落ちてるとは。「はっ!」とかけ声したのがかなり恥ずかしい。


 最初こそ呆然としていたが、俺の言い訳を三人とも暖かく見守ってくれた。大和はともかく、みうとメガネくんには仲間意識が湧いているのだろう。


 みうの鉄棒をしている姿は見たことないが、ある程度の想像はついた。


「俺飲み物買ってくるわ。みんな何が良い?」


 彼らの対応の優しさが逆にいたたまれなくなったので、ちょうど良いと飲み物を買いに行くことにした。


 水分無しでは熱中症になってしまう。


「何か炭酸の奴」

「僕はポチャリかアグエリで」

「甘かったら、何でも良い」


 三者三様の意見を聞き公園を出る。自動販売機は十メートルも歩けば着く、すぐの所にあった。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「ではカズくん先生、ご指導よろしくお願い致します!」

「その呼び方止めねえ?」


 何だカズくん先生って。せめて清水先生かカズくんだろ。


 心の中で、裁縫道具片手に敬礼をする久美にツッコんだ。


 現在、メガネくんの鉄棒特訓を終えカフェで昼食を済ませた午後二時。カフェを出発し俺の家へと向かっていた。


 午前中丸々あった久美の書道部が終わったので、これから久美に裁縫の指導を始める。メガネくんは俺達と一緒に昼飯を食べた後すぐにバイトへ向かった。


 サッカー部の活動も書道部と同時に終わった為、舞鶴もしっかり合流している。メガネくんがバイトに行ったことで、立也と大和はすることが無かったので帰宅することになった。


 つまり今、俺の家に向かっているのは俺プラス女子三人である。俺の家に来るのは、みうと久美は二度目だが、舞鶴は一度目だ。


 嫌そうな顔をしていたのを俺の目は見逃さなかった。


 久美の冗談を軽く流しながら歩いていると家に着いた。美弥と母さんがいるので玄関のドアには鍵はかかっていない。


 がちゃり。


 ドアを開ける。


「ただいま」

「おかえりなさい」

「おかーりー」


 挨拶をすると、母さんののどかな声と美弥のだらけ切った声がリビングから返って来た。どうやら美弥は既に夏休みモードに入っているらしい。


「お邪魔しまーす」

「お邪魔します」

「お邪魔、します」


 俺が家に入ると、女子達も順番に一人ずつ入って来る。


「久しぶりに女の人の声!!」


 ダダダと、騒がしい足音が聞こえたかと思うとリビングからさっと美弥が飛び出して来た。彼女は俺の背後に控える女子三人を見て驚愕の表情を浮かべている。


 この展開、前にも見たな。


「お母さん、おにいちゃんがまた女の子を連れて来たよ!」

「まあ」

「しかも今度は三人だよ、いよいよアウトだよ!!」

「まあまあ」

「駄目だよ、おにいちゃん。私というかわいい妹を持ちながら!!!」

「まあまあまあ」

「…………」


 前回と変わらない怒涛っぷりに、言葉を返す気力が湧いてこなかった。

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