表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第三章 決意編
33/75

第三十一話 メガネくんと伏見久美

(投稿忘れてたなんて言え)ないです。

「知り合い?」

「ああ」


 舞鶴の質問に頷きを以って返す。


「誰なんだ?」

「えーと」


 …………。


 メガネくんの名前って何て言うの?


 やばい、出会った当初からそう呼んでいた為に久美はともかくメガネくんの名前は知らない。立也の問いには答えることが出来なかった。


 なので誤魔化す方向で行く。


「それは二人に自己紹介して貰った方が良いだろ。何の相談か聞くついでに」

「それもそうかな」


 立也は俺の表情を見て察してくれたらしく、話を合わせてくれた。こういう時は長年の付き合いが役に立つ。


 ということで、自己紹介は彼らの口からしてもらうことになった。


「僕の名前は伏見健太。えっと、清水くんとは体育の授業で知り合った。いつもメガネをしてるから彼からはメガネくんって呼ばれてる。他の人も、親しみを込めてそう呼んで欲しいかな」


「よろしく」と、メガネくんは最後に付け加えた。サラッと言われた名前だが、俺にはかなり衝撃だった。


 ……伏見?


 最近どこかで聞いた名前である。主にメガネくんの隣に座っている少女からだ。


 ちらりと視線を送るが彼女は平然としており、自身の自己紹介を始めた。


「じゃあ次は私の番だね。私の名前は伏見久美。書道部に入ってるピチピチの十六歳JKです。趣味は読書、スリーサイズは内緒。皆よろしくね」


 あっさりと久美は自己紹介を終わらせた。そこに舞鶴が一つ質問をする。


「二人とも伏見ってことは、もしかして兄妹?」

「うん。ついでに言えば、保険の先生も私達のお姉ちゃんだから三兄妹やってます」

「へー、そうなんだ」


 ……メガネくんの名前を聞いた時点で薄々予想はついていたが、まさかメガネくんと久美が兄妹だったとは。


 そう言えば久美は初めから俺の名前を知ってたな。もしかしてメガネくんに聞いたのだろうか。


「久美。お前もしかして、メガネくんに俺のことを聞いてこの前来たのか?」

「そうだよ」

「マジか」


 最近徐々に大和の口癖が移り始めて来た。ついうっかりマジと言ってしまう。


 そこでメガネくんが話に入ってきた。


「久美、一つ確認するけど何しに行ったの?」

「勉強を教えてもらいに。カズくん賢いし」

「建前は良いから」


 メガネくんは笑顔だが、その言葉は冷たい。怖いよメガネくん。


「どうせまた清水くんをからかうために会いに行ったんじゃないの?」


 珍しくメガネくんが怒っている。久美は諦めたのかすぐに白状した。


「いやー、ついカズくんのことが気になっちゃって(・・・・・・・・)


 その時久美は、みうに目を向けた。みうは不思議そうな顔を一瞬見せるも、すぐに何かに気づいたような表情をした後、むっとした面持ちになる。


 だが何故か安心したような雰囲気が感じ取れた。久美といる時のみうはいつもより表情豊かだな。


「だって兄貴は嬉しそうにカズくんのこと喋るしさー、おねえちゃんは何か泡を吹いてたとか言ってたし。気にならない方がおかしいよ」


 泡の元凶は舞鶴なので、それの詳細は彼女に聞いてください。


「でも他人に迷惑をかけるのは駄目だと思わない?」

「えー、でもそっちの方が楽しい……」


 自分勝手な久美の頭を、メガネくんはガシッと手で鷲掴みした。ギギギと強く握る。


「どうしていつも久美は反省しないのかな」

「痛い痛いいた……くない。……兄貴、握力低過ぎるよ」


 うるうるとメガネくんを憐れむような素振りを久美は見せる。頭を掴まれながら平然としている様はシュールだった。


 メガネくんが少し恥ずかしそうにしている。彼は無言で久美の頭から手を離した。


「それに兄貴。今回は別に、カズくんをからかってなんてないよ」

「……ほんと?」

「ほんと。ね、カズくん」


 俺の方へ話の流れが来る。


「まあ、そうだな。特にそんな記憶は無い」


 妙に距離が近かったことや、胸が当たってしまったことはきっと事故だ。からかわれた訳では無いと思う。


 ……もしあれが久美流のからかい方だと言うのなら、寧ろ次からもお願いしたい。


「ね、カズくんもこう言ってるし。だから許してよ兄貴」

「……今回だけだよ」

「やった。……他にからかう相手を見つけたからなんだけどねー」

「何か言った?」

「ううん、何でもないよ」


 ぼそりと呟かれた言葉は、俺もメガネくんも聞き逃してしまった。


「それよりそろそろ本題に入ろ。いつまでもこんな話してても仕方ないしさ」

「それもそうだね」


 くるりと伏見兄妹が俺の方を向いた。タイミングが同時だったので、こういう所は兄妹らしい。


「今日相談に来たのは、おばあちゃんの誕生日にサプライズをしたいからなんだ」

「サプライズ?」

「そう。色々あって、僕達兄妹はおばあちゃんに育てられて来たんだ。小さい頃からで、ずっと世話になってるからさ」


 メガネくんと久美は二人とも笑顔だが、どこか真剣な様子が窺える。


「だから、少しぐらい恩返しがしたいなって」

「そうか」


 親孝行ならぬ、祖母孝行である。今まで世話になったお礼をしたいということのようだ。


 具体的な内容を説明してもらおうとすると、背後から「ぐすん」と声が聞こえて来た。後ろを振り向くとそこには。


「おばえら、良い奴だなぁ」


 涙をダーっと流しながら喋る、大和の姿があった。


 ええ……。


「大和、ティッシュ」

「う゛ん」


 ずずっと、立也に渡されたティッシュで鼻をかむ大和。いや、どうして泣いてるんだ。


「話どめてごべん。ずずっ。俺、家族に恩返しとかそういう話に弱くて」


 それにしても泣くのが早い。大和は伏見兄妹を褒めていたが、大和も十分良い奴だ。


「俺、マジ協力するから!」


 大和は拳をぎゅっと握りしめそう言った。あの拳の中には彼の決意が込められているに違いない。


「……で、サプライズの内容とかはもう決めてるのか?」


 止まっていた相談を再開する。


「うん。多分普通のサプライズとはちょっと違ってさ。僕と久美、それぞれ別のことをしようって考えたんだけど……まず、僕からのサプライズは、えっと」


 そこで一旦メガネくんは、みうがさり気なく出していたお茶を一口飲んだ。そしてどこか恥ずかしそうに俺から目を逸らし、話を続ける。


「逆上がりしてる姿を見せてあげたくて」

「……え?」

「だから、その、逆上がり」

「「「………………」」」


 皆一様に黙った。最初はどこから質問すれば良いのだろう。


 とりあえず一番気になったことを聞く。


「あー、まず聞きたいんだけど、逆上がりをすることがサプライズになるのか?」

「兄貴の場合はなるねー」


 答えたのはメガネくんではなく久美だ。メガネくんが恥ずかしそうに俯いている為だろう。


「何でだ?」

「そりゃ兄貴が運動音痴だから」

「ああ……」


 納得出来てしまった。体育のサッカーではメガネくんと同じチームなので、よく彼の運動している姿を見る。


 だが酷い。サッカーのチーム分けの際、列の順番を入れ替えようと提案して来た理由が分かるぐらいには酷かった。


「僕、小さい頃はおばあちゃんに逆上がりの練習に付き合って貰っててさ。でも結局一度も成功しなくて……」

「昔から兄貴、逆上がり出来ないもんねー」

「もしかして、今も?」

「もちろん」


 久美は元気に頷いているが、メガネくんは憂鬱そうに俯いている。


「じゃあ俺達への依頼ってのは」

「兄貴が逆上がり出来るよう特訓して、おばあちゃんに兄貴が成長した姿を見せてあげること」

「……了解」


 ……何というか、高校生になってやることじゃない。


 だがメガネくんは恥を忍んで依頼して来たのだ。そうとなれば俺達も全力で当たるだけである。


「次、久美の依頼は?」

「私は裁縫を教えて欲しいんだ」

「裁縫……」

「うん、おばあちゃんに手編みのマフラーでも送ろうかなって」

「この時期に?」

「冬になれば使えるし大丈夫大丈夫」

「いや、そういう問題じゃ……。まあ良いか」


 反対する必要もない。久美の言う通り、冬になれば使用出来るというのもまた事実である。


「私料理とかは出来るんだけど、裁縫だけは駄目でさー」


 アハハと久美は笑う。


「おばあちゃんが女なら家事は出来るようになっておけっていつも言うから、まあ時代遅れな考えかもしれないけど、私も成長した所を見せてあげたくて」

「なるほどな」


 詳細は分かった。メガネくんは逆上がりの練習、久美は裁縫の練習だ。


 おばあちゃんに成長の証を見せて、少しでも安心して欲しいのだろう。


 僕達は、私達は、いつまでもおばあちゃんにおんぶに抱っこしてもらう必要は無いのだと。そう、示したいのだ。


「おばあちゃんの誕生日はいつなんだ?」

「八月十五日」

「お盆のピークか」


 ついでに俺達が旅行に行く二日前である。


「なら夏休みに特訓だな。俺は運動出来ないが、裁縫は得意だから久美を教える。立也と大和は、部活の合間にメガネくんのトレーニングをしてやってくれ」

「分かった」

「メガネくん、絶対おばあちゃんに良いとこ見せような!」


 早速、部員の割り振りを行うことにした。メガネくんは運動が得意な立也と大和に、久美は俺が担当することにする。


「みうはどっちが良い?」

「私も運動、音痴ではないけど、苦手だし、裁縫が良い」


 みうは、「音痴ではないけど」と最後にもう一度付け加えた。どうやらそこに妙なプライドがあるらしい。


 これで、メガネくん、久美にそれぞれ二人ずつ振り当てたことになる。


 残りは……


「えっと、舞鶴はメガネくんの方が良いのか?」


 舞鶴である。正直、彼女はどっちが良いのかまるで分からない。


 女子ということもあり、彼女はそこまで運動が出来る訳ではない。体育の様子を見てもそれは分かる。


 かといって裁縫が出来るのかも怪しい。あの料理技術が招いた惨劇を思い出せば、家事全般が苦手でもおかしくはない。


 舞鶴は少し考えた後、口を開いた。


「私も、裁縫かな」

「……出来るのか?」

「う、うん!」


 思わず聞き返してしまう。流石に女子に対してこれは失礼だな。


 舞鶴は元気に頷いていたが、よく見ると額に汗をかいていた。これは期待出来なさそうだと溜息をつきたい気持ちを堪え、伏見兄妹の方へ体の向きを戻す。


「ということで、メガネくんは立也と大和で。久美は俺とみうと舞鶴で教える。それで良いか?」

「うん、良いよ」

「カズくん、ハーレムだねー」

「うるせえ」


 久美が茶化しを入れてくる。


「ならそれで決まりだ。二人の都合が良いなら、今日から始めても良いが……」

「待って、実はもう一つ頼みがあるんだ」


 メガネくんが話を中断し、先程までよりも真剣な目で俺を見て来た。


「実は。今話した奴以外にもおばあちゃんにしたいサプライズがあって……」


 メガネくんは最後のサプライズの説明をしてくれる。内容を聞き、俺達はその依頼も引き受けることにした。


「じゃあ、よろしくね」

「ああ、任せろ」


 そうして、相談は終わる。メガネくんと久美の都合もあり、今日は特訓は行わないことにした。


 結局、キリが良いので夏休みが始まると同時に特訓を開始することになる。時間も良いので、今日は部活を終了し、どこで特訓をするか場所だけ決めて解散にした。



 そして、三日後。七月二十五日、土曜日。


 夏休みが始まった。

本格的に書き溜めとテスト勉強に入ります。次回の更新の目処は立っていないですが、土曜日には更新したいですね……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ