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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第三章 決意編
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第二十九話 テスト前の恋愛相談は恒例なようです

「おはよう、カズ」

「お、おう。えっと、おはよう……みう」

「「「!!!」」」


 翌日の朝のことである。教室に入るやいなや、みうに挨拶をされた。


 まだカズと呼ばれることにも慣れないが、みうと呼ぶことにも慣れていなかった。


 あまり赤くならない体質で良かったと内心安堵する。眼前ではみうがその頬を朱に染めており、それだけで普段より表情豊かに見えた。


 羞恥で死にそうだが、現状の問題はそこではなく周囲の反応だ。


「伊根町さんと清水ってどういう関係?」

「清水が最近、伊根町さん達と仲良くしてるのは知ってたけど……」

「名前で呼び合うってことは、そういうことって考えて良いのか?」


 ざわざわと騒がしくなる。


「清水ですら女子を下で呼んでいるっていうのに」

「俺達なんて全然女子と喋んねえよ……」

「悔しい!」


 ざわざわ。


 思った通り騒がれる羽目になってしまった。少し前まで窓際でぼっち飯を楽しんでいたような奴が、クラスの最上位に位置する美女を名前で呼んだのだ。


 こうなって当然だ。


「し、清水っち……え?」


 福知がパクパクと、口を開いては閉じ、開いては閉じを繰り返している。彼にとっては、つい先日まで自分の恋を応援してくれていた奴が、失恋相手の名前を急に下で呼び始めたのだ。


 ……これもこうなって当然だ。というかそこだけ見たら、俺かなり屑じゃね?


「うるさいぞー、席に着け。HRを始める」


 クラスの担当の教師が教室に到着したことで、一旦教室のざわめきは消え去った。俺も自分の席に着く。


 朝のHRが始まる。みうの名前を呼んだ時の胸の高鳴りは、教室のざわめきとは裏腹にまだ消えていってはくれなかった。



「で、どういうこと!?」


 HRが終わると同時、さっと福知が俺の席に寄って来た。何についての話なのかはすぐに分かる。


「昨日、俺の家で勉強会して、そん時に名前で呼び合うことになった」

「マジ!?」

「マジ」

「そっかあ」


 福知の表情は複雑なものだった。その反応も当然で、彼に嫌われても文句は言えないレベルである。


「ま、良かったか!」

「? 何が?」

「何でも」


 だが福知はにっと明るい笑みを浮かべた。


「それなら俺のことも大和で良いぜ」

「そうか。ならこれからは大和って呼ぶわ」

「おう!」


 大和は根が良過ぎる。普通俺に怒りの一つでも湧きそうなものだが、どこにもそんな様子は見られなかった。


 この懐の広さは見習うべき物であろう。


 視線を教室の後ろにやると、舞鶴がみうを連れて外に出ていく所を目撃した。舞鶴はみうに聞くつもりのようだ。


「カズ」

「どうした立也」


 立也も俺の席へ寄って来る。


「さっきのカズの顔、かなり恥ずかしそうで見てて面白かった」

「そのイケメン面を変形させてやるよ」


 立也がからかってきたので臨戦態勢に入った。許さない。


 イケメンが 男の顔に 口出すな


 清水和夫、心の俳句である。


 敵意を剥き出しに立也と対面していると、ふと耳に入って来る誰かの声があった。


「清水が伊根町を……、なら俺も、舞鶴のことを!」


 聞き覚えがある声だなあと、振り向く。


「……あや……キャッ!」


 そこには一人、舞鶴を名前で呼ぶ練習をして自分で恥ずかしがっている、モブ田の姿があった。


 今日もこの教室は平和らしい。


「ちっ、調子に乗りやがって」

「粋がってんじゃねえよ」

「これだから陰キャは」


 ……一部を除けばだが。



 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇


「なあ」

「何?」

「どうしてまたテスト一週間前に恋愛相談なんだ?」

「うるさい」


 いつものナイゼリアで、俺は舞鶴に疑問を呈していた。


 彼女からWINEが送られて来たのは、あの騒ぎの直後のことだ。内容は今日恋愛相談を行うとのこと。


 初めての恋愛相談もテスト一週間前だった。こいつはどれだけ自分の首を締めるのが好きなんだ。


「とりあえずドリンク入れてくる」

「ん」


 ドリンクバーの所へ行き、コップを二つ取る。それぞれになっちゃうオレンジとDDレモンを入れ、DDレモンの方にはストローをつけた。


「ほら」

「ん」


 席へ持って行き、DDレモンを舞鶴に渡す。ソファに座り、なっちゃうオレンジを一口ごくりと飲んだ。


「で、今日は何が目的なんだ?」

「……」


 俺の質問には答えを返さず、ちゅーと自分のペースでDDレモンを飲む舞鶴。炭酸は一気に飲むのが美味しいと思うので、ストローを使いたがる感覚が分からない。


 少し待ってると舞鶴がストローから口を離し、ようやく俺への返答をしてきた。


「私も、天橋くんのこと下で呼びたい」


 …………。


 …………。


 えーと、うん。


「勝手にしろよ」


 それだけの為に今日集まったのか?


「偉そうに口答えしないで」

「いや、そればっかりは何も助言出来ねえよ」


 流石に俺も回答に困る。この問題に関しては、ハッキリ言って舞鶴に勇気があるかどうかだけだ。


「何かコツとか無いの?」

「コツ?」


 そう言われても。コツとかどうこう以前の問題だ。


 だが強いて言うのならば。


「頑張る」

「…………」

「すまん、睨まないでくれ。でも、そもそもお前なら下で呼ぶぐらい簡単に出来るんじゃねえのか?」


 舞鶴は男子連中とも気安く喋るので、そのぐらい平気でこなしそうなもんだ。


「俺でも出来たんだし」


 寧ろ今まで名字で呼んでいたことの方が意外である。


「……そうね、余裕よ」

「じゃあ良いじゃねえか」

「ちっ」


 舞鶴さん、頼むから理由なく突然キレるのはやめて下さい怖いです。


「今日の用がそれだけならもう帰るけど?」


 これ以上何も無いならあまり時間を割いていられない。何度も言うがテスト前だ。


 俺にも今日中に勉強しておきたい所がある。


「……もう一つあるわよ」


 不機嫌そうなまま、がさごそと鞄の中から何かを取り出す舞鶴。


「勉強教えて」


 その手に握られていたのは、数学の問題集とノートであった。


「私と勉強出来るんだしありがたく思いなさい」


 これが人に物を頼む態度なのだろうか。


「……光栄です。誠意をもって、あなたの悲しい数学力を上げさせて頂くこととしましょう」

「イラっとするわね」


 結局勉強するだけでこの恋愛相談は終わった。いやほんと何だったんだこれ。

今日は後一話投稿します。

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