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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第三章 決意編
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第二十七話 清水家は騒がしい

「ただいま」


 家に着く。リビングにいるだろう母と美弥に向かって声をかけた。


「おかえりなさい、和夫」

「おかえりー!」


 元気な返事が返って来る。このまま顔を合わせることなく階段を上がり、自分の部屋を目指すのがいつものルートだが今回は違った。


「お邪魔しまーす」

「お邪魔、します」


 後ろにいた伏見と伊根町が挨拶をする。


「女の人の声!!」


 美弥が素早く反応し、リビングから玄関へと飛び出して来た。学校から帰って来て着替えてないらしく、制服のままである。


「お母さん、おにいちゃんが女の子を連れて来たよ!」

「まあ」

「しかもいきなり二人だよ、浮気だよ!!」

「まあまあ」

「駄目だよ、おにいちゃん。私というかわいい妹を持ちながら!!!」

「まあまあまあ」

「…………」


 ツッコミ所が多過ぎて処理出来ない。


「清水の妹さんか、名前は何て言うの?」

「美……」

「清水美弥です! 高校一年生で、部活は帰宅部です。おにいちゃんと同じ……じゃなかった! おにいちゃんは部活始めたんだった!! え、私、おにいちゃんよりもスクールカースト下……?」

「そうなんだ、元気があってかわいいね」

「そんな~、褒められてもおにいちゃんの貞操ぐらいしか出ませんよ?」


 爆弾発言が飛び出す。


「褒めたら、出るの?」


 何だこの空間は。ただでさえうるさい美弥が、俺が女子を連れて来た為に異常にハイになってしまっている。


「出ますよー」

「そうなんだ。……美弥ちゃんは、人見知りしなくて良い子だね」

「この流れで私を褒めるということは……出るのか、出ちゃうのか!? おにいちゃんの貞操!!」

「出るとか出ないとかそういうもんじゃねえよ」

「あはは、美弥ちゃん面白いね~」


 伏見は楽しそうにケラケラ笑っている。先程まで緊張気味だった伊根町も、どこか体の強張りが解けていた。


「テスト勉強する為にこの二人はここに来たんだ。あんま騒いで迷惑かけるなよ、美弥」

「かしこマリオネット」


 駄目かもしれない。


「……とりあえず上に上がるぞ。俺の部屋は二階だ」

「おっけー」


 一直線に二階を目指す。このままここに居たら更にカオスなことになりそうだ。


「後でお菓子とジュースを持って行くわね~」

「おう」


 母さんの声を背に、俺達は階段を昇る。


 お菓子と聞き、伊根町が喜んでいることは顔を見なくても簡単に分かった。



 カチカチ。


 ペラッ。


 シャッシャッ。


 シャー芯を出す音、ノートをめくる音など、勉強会に相応しい音が聞こえてくる。開けた窓から、ふわりと風が流れ込んで来た。


「あ」


 問題集が勝手に次のページへとめくられてしまう。換気の為に開けていたが、勉強の妨げになるのは困るので窓を閉めた。


 勉強を再開しようと再び座布団に座り、ちゃぶ台に向き合う。俺の部屋は洋室だが勉強机は一つしか無かった為、他の部屋から急遽ちゃぶ台と座布団を運び込んだのだ。


「先輩方ー、ジュースとお菓子ですよー!!」


 ドアが開かれ美弥が入って来る。その手にはお盆が乗っかっており、更にその上に三人分のジュースと積まれたお菓子が乗っていた。


「はい、どうぞ」


 美弥が両膝を床に着かせ、ちゃぶ台に運んできたジュースやお菓子を置いていく。


「サンキュ」

「勉強の調子はどう!?」

「まだ始めたばかりだから何も言えねえよ」


 聞くまでもないことである。美弥は立ち上がって部屋を出ていくのかと思いきや、そのままニコニコ笑顔で腰を下ろした。


「……何してるんだ?」

「いやー、もう少し先輩方と会話したいなーって」

「駄目だ、勉強の邪魔になる」

「私は良いよ、美弥ちゃんと喋ってみたいし」

「伏見……」

「やった!」


 伊根町はどちらでも良さそうなので、美弥は少し部屋に居座ることとなった。


「名前は何て言うんですか?」

「私は伏見久美。久美ねえちゃんって呼んでね」

「分かりました、久美ねえちゃん!」


 美弥がとびきりスマイルでそう言った。


「はぅあ! ……清水、妹って良いもんだね」

「それに関しては異論ねえな」


 伏見は胸を抑えている。興奮しているようで、頬は紅潮していた。


「えっと、そちらの方は伊根町美海さんで合ってます、よね?」

「うん。覚えててくれたんだ」

「そりゃもう私、遊園地の時は感動しましたから……。あのぼっちおにいちゃんに友達が居たんだなって……」


 美弥はハンカチで目元を拭う素振りを見せたが、涙は出ていない。演技だ。


「おおお、俺にだって立也以外にも友達の一人や二人……」

「本当にー? 私はあの時、別におにいちゃんとこの人達は友達じゃないけど、友達のフリをしていた、って睨んでるんだけどなー」

「ギクッ」


 バレていたようだ。


「ま、どっちにしても、今おにいちゃんに友達がいるのは変わらないんだけどね。おにいちゃんが幸せそうで美弥は嬉しいよ……」


 またしても、ハンカチで涙を拭う振りをした。だが例えそれが演技だとしてもおにいちゃんは感動してしまう。


「美弥……」

「おにいちゃん……」


 ガシッ。


 熱く抱擁を交わした。


「こんな仲良い兄妹もいるんだねー。私の所も仲悪くないけどそれ以上だ」


 伏見はずっと愉快そうにしている。


「久美ねえちゃんは、いつからおにいちゃんと知り合いになったんですか?」

「今日だね」

「え?」

「さっき初めて顔合わせた」

「ええ!?」


 美弥はさっと俺の傍に寄ってひそひそ声で話しかけてくる。


「おにいちゃん、あれは肉食系だよ。しかも多分、おにいちゃんじゃなくておにいちゃんの財布が狙われてるよ」

「美弥、失礼だ。謝れ」

「ごめんなさい」

「何で謝られたのか分からないけど、許して上げるねー」

「やったー!」


 伏見には声が聞こえていなかったみたいだ。


「伊根町さんは、いつからおにいちゃんと? やっぱりあの遊園地の時からですか?」


 伊根町は少し考えるような仕草を見せる。


「私も、みうねえちゃんって呼んで欲しい」


 少し間を空けて美弥に返された言葉は、問いに対する返答ではなかった。そしてそんな伊根町を見て、更に笑みを深める伏見の様子に俺は気づかない。


「分かりました。それで、みうねえちゃんはいつから……」

「初めて会話したのは……」


 確か、一学期中間テスト前の体育だったなと俺も思い出す。


「まだ私が中学生の時」

「……え?」

「清水は覚えてないと思う、けど」


 全く記憶にない。というか俺の中学生時代とか、ほぼ他人との関わりなんて無かったぞ。


「すまん、心当たりがない」

「……うん。一回だけ、ちょっと喋っただけだから、忘れてても仕方ない」


 なんだか申し訳ない気持ちになってしまった。謝罪だけはしておく。


「そうなんですか! っと、じゃあ私はこの辺りでおいとましますね。皆さん、勉強頑張って下さい」

「じゃあな、美弥」

「バイバイバイキルト」


 そう言い残し、美弥は部屋を出て行った。


「お盆忘れられてるね」


 伏見が、微笑みながらちゃぶ台の上に置かれたお盆を見ていた。

次回の更新は土曜日です。


現在、テスト勉強を放り出して執筆しております。

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