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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第三章 決意編
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番外編 お見合い大作戦

自分の書きたいものが上手く書けなかった&本編とあまり関わりがない、ということで番外編として投稿します。

 お見合い。


 高校生の俺達には縁の無い物なので、あまりイメージが湧かない。ルールや礼儀の確認をしておく為、暇な時間を利用しネットで調べておいた。


 仕入れた情報と京子先生の話を総括すると、今回のお見合いは、仲人の仲介の下に一対一の対話をするものだ。場所はホテルの個室で行うとのこと。


 なら俺達でなく、仲人に任せておけば良いのではないかと京子先生に進言したのだが、ある程度会話が弾んだ所で仲人は席を外す予定らしいので、そこからが本番のようだ。


 この一週間の間に、小型カメラの設置なども許可を頂いた。お見合いに、ここまで万全の体勢を整える者はそういないだろう。


 俺達は何があっても良いように、隣の部屋を借りそこから指示を出すことにした。小型カメラの映像を映し出すモニター、盗聴器が拾った音を流すスピーカーなど、ホテルの個室に似つかわしくないものがいくつか置かれている。


 時間の都合上、今回集まった部員は俺、立也、舞鶴、伊根町の四人だ。


 刻々と時間が迫る。長期戦を覚悟しているので、腹ごしらえにと伊根町は大量のお菓子を持ち込んでいた。既に食べ始めているのはご愛嬌だ。


 時間になった。京子先生と相手の男性はもう隣の部屋でスタンバイしており、仲人さんの合図により、お見合いが開始された。


「丹波京子です。年齢は二十九で、学校の教師を勤めております」

「古畑新三郎です。歳は二十八、京子さんと同じで、私も教職についております」


 お互いの自己紹介が始まる。この辺りの情報はおろか、趣味や好きな料理なども前もって情報交換しているので、形だけのものだ。


 ここからの進行は、仲人さんが上手く仕切ってくれるはずである。俺達の力だけでは不安なので、彼女の手腕に期待しよう。


「ではお二人にはま……うっ!」

「「!!」」


 仲人さんは話を始めるとすぐ苦しそうに呻いた。


「大丈夫ですか?」

「すいません、少々腹を下しておりまし……ふんぬぅ!」


 どうやらお腹の調子が悪いらしい。


「はあ、はあ、どうやら私はここまでのようです……。後はお二人でお見合いを進めてください。二人の未来に幸せがあらんことを願いま……す!」


 へ?


 仲人は言いたいことを言い終えるとすぐ、部屋を飛び出しトイレの方へと走って行ったようだ。廊下を走る音が聞こえる。


「「…………」」


 沈黙が二人を包んだ。気まずい空気が二人の間に流れる。


 開始早々、先行きがかなり不穏だった。



「その、仲人さんはいなくなってしまいましたが気を取り直して……えっと」


 古畑さんが、話題を探す。何とか見つけたらしく、額に汗をかきつつも笑顔で京子先生に話を振った。


「京子さんの学校は、どのような校風ですか。私も一教師の身、少々気になりまして……」


 良い選択だ。まず共通の話題からしていくのは鉄板だろう。


 京子先生はというとそれに答えない。カメラを見ると、早速テンパっているのが分かった。頭がこんがらがっているらしい。


 すぐに指示を出した。


「私の学校は、自由の校風を旗に掲げ、生徒達の教育をしています。自由過ぎる所も多少ありますが……ここで微笑んで下さい」


 マイクテストは事前に済ませてある。京子先生にもしっかり聞こえているだろう。


「私の学校は、自由の校風を旗に掲げ、生徒達の教育をしています。自由過ぎる所も多少ありますが……」


 にこり。


 指示通りに京子先生は動いてくれた。古畑さんも、話が続いたことを嬉しそうにしている。


 お互いの学校について、内部情報を漏らさない程度に話し合った所で、彼らの話は一旦止まった。ずっと学校の話をしていても、職場の同僚とする話と変わらないことに気が付いたようだ。


 再び、一瞬の間だけ沈黙が生まれるも、すぐに古畑さんが話題を振る。どうやら段々と打ち解けてきたようだ。


「あの、僕はあまり化粧の濃い方は得意ではないのですが、京子さんのは控えめで凄く良いと思います」

「あ、ありがとうございます」


 京子先生が礼を述べる。が、そこで彼女が言葉に詰まったので、俺は慌てて指示を出した。そしてそれと同時、伊根町が「ポッキリが食べたい」とお菓子が大量に入った袋をがさがさ探し始める。


「古畑さんも、服装や髪型がしっかりしていて素敵だと思います」


 少し早口でマイクに向かって声を入れた。


「古畑さんも、服装や髪型がしっかりしていて素敵だと思います」


 先程から、一言一句間違えず指示に従っている所は、流石京子先生である。伊根町はまだがさがさと探していた。


「そう言われると嬉しいですね」


 古畑さんは「で、でも」と照れを隠すように言葉を紡いだ。


「本当に京子さんは綺麗だと思います。お顔も、その、ツヤがあると言いますか……と、何を言ってるんですかね。私は」


 ははははと、古畑さんは頭の後ろに手をやり笑った。


 がさがさ。


 これに対する返答は、と少し悩むが、すぐに思いついた。


 肌の手入れには、普段から気を使っています。ですが、そこまで褒められると照れてしまいます……。


 これだ。前半で常日頃から手入れを欠かさないアピール、そして後半で謙虚さを主張できるセリフ。


 がさがさ。


 完璧な答えだと、いざマイクを持つ。


「肌「がさがさ」……がさがさするな!」


 セリフを言う前に、伊根町に注意をしておいた。袋を漁る音で、スピーカーからの音を聞き逃す可能性があるからだ。


 そうなってしまえば会話についていけなくなる。


 改めて、マイクを持ち……


「肌ガサガサするなぁ!」

「!?」


 京子先生!?


 何故いきなり自虐を始めたのかと考えたがすぐに理解した。先程の俺の言葉をそのまま彼女は言ったのだろう。


 そこは指示じゃないと察してくれよ。そう思いモニターに映る京子先生の顔を見ると、ぐるぐる目を回していた。あれは駄目だ。


 急いでフォローの言葉をマイクに入れる。長いセリフだったが、こんな状況でも京子先生は間違えずにセリフを言った。


「い、いえ何でもありません。肌の手入れには、気を使っています。ですが、そこまで褒められると照れてしまいます……」


 さっき考えたセリフをそのまま使いまわす。だが何とかその場は乗り切れたようだった。


「そ、そうですか。でも決して虚飾などではなく、綺麗だと思ったのは本心からです」


 古畑さんは、顔を赤く染めながらもそう言う。彼の発言を聞くに、今の所は脈があるのではないだろうか。


 伊根町がそっと俺の近くへ寄って来た。


「ごめん……」


 小声で呟かれる。反省しているようでしゅんと肩を小さくしていた。


 伊根町の謝罪に応えようと、マイクから顔を離す。


「ちょっと強く言い過ぎた、俺もすまん」


 だがその声を、マイクは微かに捉えたらしい。


「ちょっと言い過ぎ」

「す、すみません」


 高性能であった。


「え……ち、ちがう、先生!」


 慌てて京子先生に声をかける。


「エッチちがう? 先生」

「へ!?」


 何でこの人はさっきから何も考えずに喋るんだ。一度内容を頭の中で確認してから喋って欲しい。


「今のはほんの冗談です。気にしないで下さい古畑さん」


 収拾がつかなくなり始めた所を、舞鶴がフォローに回った。


「今のはほんの冗談です。気にしないで下さい古畑さん」


 舞鶴はやはりこういう時の対応は上手いなと心の中で思った。したくはないが、少し彼女に感謝する。


「なら良かったです。ですが、確かに外見のことばかり褒めていましたね……。京子さんの言う通り、邪な気持ちが混じっていたのかもしれません」


 この人凄い紳士だな。これなら上手く行くかもしれない。


 そのことに安堵していると、お見合いが始まると同時に頼んでおいた料理が、二人の元に運ばれてきた。


「美味しそうですね」

「はい」


 悪い流れがそこで断たれる。


「今の一連の流れに息が詰まって、喉が渇いた……」


 と、立也が立ち上がった。飲み物を買いに部屋の外へと向かう。


「これ、本当に美味しいですよ!」

「では私も一口……」


 だが足を踏み出したところで、足元に延びていたコードに足を引っかけてしまった。


「まずい!」


 立也が声を上げるももう遅い。ブチっとコードは抜かれ、モニターはその画面を映さなくなる。


 そして高性能マイクはまたしてもその声を拾ってしまった。


「まずい!」

「ええ!?」


 ……やってしまった。タイミングは最悪と言って良い。


 モニターの映像が途切れた為に古畑さんの様子を確認することは出来ないが、少なくとも良い方向に向かっているということはない。機嫌を損ねていると考えるのが一番妥当だ。


 ここからの挽回は無理なのではないだろうか。完全に俺達が原因である。


「ねえ」


 舞鶴がマイクに声が入らないよう注意しながら口を開いた。


「ここまで来ちゃったら、もう私達のせいですって自白しに行く方が良いんじゃない?」

「……そうだな。古畑さんを怒らせることになるかもしれねえが、それが一番誠実だ。京子先生が頭のおかしい人間だと思われることも避けられる」



 ということで、話は決まった。俺達四人は様々な機材の置かれた部屋を後にし、隣のお見合いに使われている部屋へと向かう。


 コンコン。


 ドアをノックし、返事を待った。


「どうぞ」


 がちゃりと開ける。戸惑いが抜けきらないながらも、俺達の相手をしようとする古畑さんと、絶望に打ちひしがれている京子先生の姿があった。


「えっと、君達は……」

「京子先生の教え子です」


 俺達が何者であるかを答えた。古畑さんは驚いたような顔をするも、すぐに笑みを浮かべ優しく話しかけて来る。京子先生は魂が抜けたかのように椅子に座っていた。


「今日はどうしたのかな?」


 普通なら更に混乱する所だろうが、流石は教師。俺達の年代を相手にすることに長けているようだった。


「実は……」


 事の経緯を話す。


 京子先生にお願いされ、お見合いの手助けをすることが決まったこと。隣の部屋から彼女に指示を出していたこと。


 この部屋には、盗聴器や小型カメラなどが設置されており、俺達がお見合いの状況を確認出来るようにしていたこと。そして彼女のおかしな言動は、指示の伝達ミスだと説明をした。


「そういうことだったんだね」

「すみませんでした」


 深々と頭を下げる。一般的に見て、俺達のしたことは礼を欠いていた。怒られても文句は言えない。


「悪いのは私です」


 そこで漸く我に返った京子先生が、会話に加わって来た。


「彼らを巻き込み、彼らに頭を下げさせる事態を招いた私に問題があります。怒りの矛先は、どうか私に」


 京子先生は椅子から立ち上がり、姿勢よくお辞儀をする。お見合いを成功させることは諦めたようで、今は俺達を庇おうと真剣な表情で頭を下げていた。


「どうして」


 古畑さんが言葉を発する。


「どうして私が怒る必要があるのですか?」

「……え?」


 京子先生は驚いたように頭を上げた。俺達も、下げていた頭を元に戻す。


「それだけ京子さんは、私とのお見合いを成功させようとしてくれたのでしょう? 女性にそこまでされて、嫌がる道理がありません」


 この人は天の使いか何かか? 優しすぎて、古畑さんの背後に後光が差しているように見えた。


 それは皆も同じようで、眩しそうに顔の前に手をかざしている。


「それに教え子がここまで必死に協力してくれるなんてこと、そうはありません。京子さんが日頃、どれだけ生徒と暖かく接しているのか分かります」

「古畑さん……」


 古畑さんの優しい微笑みに、男の俺ですらドキッとしてしまった。京子先生の目は当然ハートを形作っている。


「気を取り直して、再開しませんか? 今度は生徒さん達の介入は無しで、京子さん自身と話してみたいです」

「ふ、古畑さんが良いなら是非お願いします!」


 最初から俺達の助けはいらなかったな。古畑さんを見てそう思う。


「では、俺達はこれで。古畑さん、ありがとうございました」

「何もお礼を言われることなんてしてないですよ」


 ドアを出る時に一礼し、俺達「お悩み解決部」は隣の部屋へ戻った。機材を片付け、ホテルから撤収することにする。


 後は京子先生の頑張り次第だ。

次回の更新は水曜日です。


現在、プロローグの修正及び、リアルの大学生活でのテストや課題ラッシュにより更新ペースが遅れるかもしれません……

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