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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第二章 部活始動編
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第二十三話 ありがとう

 空は曇天、周囲に水溜まり。あまりにも告白に相応しくないシチュエーションで今、一人の恋の行く末が決まろうとしていた。


 福知と伊根町は既に体育館裏に来ており、俺は体育館の角に隠れている。長く伸びた草の影を利用し、上手く向こうからは見えないようにして顔を出した。


「どうしたの?」


 伊根町が問いかける。普通ならば告白だと察することが出来そうなものだが、彼女はおそらく本心で聞いていた。


「あー、えっと、あの、その……マジ」


 しっかりしろ。


 まるで意味のない言葉の羅列が始まった。


「空、マジ曇ってるな」

「……? うん」


 一旦福知は話を濁した。時間稼ぎをした所で意味はないというのに。


 伊根町は不思議そうにしつつも、返事をした。無表情な彼女から、困惑している様子が窺える。


 冷静に、福知はすぅっと深呼吸をした。


 心が落ち着いた所で、再び伊根町を見据える。その目にはしっかりとした意志が映り込んでいた。


 そして。


「俺は、伊根町のことが、好きだ!」

「!」


 福知の口から、ハッキリと告げられる。それには流石の伊根町も、驚きで僅かに目を見開いた。


「遂に言ったな」

「うん」

「ああ、良かっ…………!?」


 ばっと振り返る。俺の後ろには、何故か立也と舞鶴が立っていた。


「お前らどうしてここに」

「昼休みの会話が聞こえたんだ」

「私も、福知くんとみうがどうなるのか気になって、ついて来ちゃった」


 テヘッと舌を出す舞鶴。可愛くねえ。


「部活遅れるぞ」

「それはカズもじゃないか?」

「俺はこれが部活だ」

「告白の覗きが部活……」

「あ、しっ!」


 少し固まっていた伊根町が動き出した。


「どう、して?」

「どうしてって言われても……、好きなもんは好きなんだ!」

「そう……」


 伊根町は目を伏せる。一泊おいて、彼女は言葉を発した。


「ごめん、なさい」

「「!!」」


 返答は、無慈悲なものだった。


「私は、福知とは付き合えない」

「そっか……そうだよな!」


 はははと、福知は笑う。その声は普段のものとは違い乾いていた。


「失敗か」


 ボソリと呟く。そうなる覚悟はしていたが、いざ現実で起こると、やはり心に来るものだ。


 福知の乾いた笑いが、胸を痛めつけた。


「はは、は…………一つ、聞きたいんだけどさ」

「……なに?」


 福知は笑うのを止め、真剣な表情になった。


「他に、好きな男の人、いる?」

「…………」

「いや、いるならサッパリ諦められるからさ」


 儚い笑みがこぼれる。福知も、あんな表情を見せるのか。


「……いるよ」


 伊根町は、一言返事をした。その短い言葉に驚かされる。


 彼女に好きな人がいるとは意外だった。だが福知はそうでも無かったようで、「そうか」と落ち着いた表情のまま下を向く。


「嫌ならいいんだけどさ、誰か教えてもらっても良い?」


 伊根町はこくりと頷いた。


 話は進んでいく。福知は、俺がここにいるのを忘れてしまっているのかもしれない。


 彼の告白は終わりだ。この先の話は、俺は聞かない方が良いだろう。


 聞く権利があるのは彼だけである。


 立也と舞鶴もその場を離れ、二人を残し、俺達は校舎の正面に集まった。



「まあ、仕方ないな。恋愛と、友情は違う」


 立也の言葉に、俺も舞鶴も頷いた。その後、誰一人話す者はいなくなる。


 立也と舞鶴は何を考えているのだろうか。考えてみても、分からないものは分からない。


「あや、そろそろ行こうか」

「うん。じゃあね、清水くん」


 いつまでもここに居ては仕方ないと、立也と舞鶴はサッカー部の方へ向かう。二人共遅れて何してたんだと、他の部員から茶化されていた。


 俺も、自分の部室へと急いだ。こんな日も、部活はしっかりやらねばならない。



 部室に戻り、暫くすると二人が入って来た。その空気は気まずいとは少し違う、奇妙なものだった。


「清水っち、ちょっと外出ない?」

「……ああ、分かった」


 福知の望みを聞き、伊根町を部室に残して廊下へ出る。男子トイレ付近まで行った所で、会話を始めた。


「見てた?」

「ああ」

「そっか」


 立也と舞鶴も一緒だったのは、言わなくてもいいだろう。


「振られちゃった」

「だな」


 福知の寂し気な笑みが、突き刺さる。


「マジだったんだけどなあ……」


 かける言葉が見つからなかった。黙っていると、小さく嗚咽が漏れ始める。


 福知の顔は涙に濡れていた。彼が腕でゴシゴシと拭うも、次から次へと溢れて来て、乾くことはなかった。


 やはり、止めて置くべきだったんだろうか。そんな考えが頭をぎる。


 想定していた通り、見込んだ通り、勝ち目の薄い賭けだった。あの状態で告白に踏み出したのは、無謀と言われてもおかしくない行為だったのだろう。


 俯き、拳を握りしめる。だがそんな俺の消極的な考えを、福知が一言で吹き飛ばした。


「清水っち、ありがとう」

「……え?」


 意味が分からなかった。何故この状況で俺に礼が言えるのだろう。


「清水っちがいなかったら俺、きっと一度も告白せずに終わってた」

「別にそうとも限らねえだ「限る!」」


 俺の声は、福知の強い口調によって遮られる。


「マジの話をするとさ、無理だろうなって分かってたんだ」

「……」

「でもそれは俺が伊根町を好きになった時からでさ。今は無理だから、今告白しても絶対ミスるからって、今までずっと逃げてた。好かれようって努力もしないで、ただ、伊根町と楽しく喋れてれば良かったんだ」

「努力は、しただろ」


 福知はいつも頑張っていた。


「それは清水っちと出会ってからだよ。どうやったら一緒に居られるかとか、長く話してられるかとか、そういうことは考えたけどさ、料理に挑戦した時みたいに、自分を磨こうとしたことなんて一度もなかったもん」

「自分から、話しかけに行ってるだけ、偉いって」


 メガネくんもその積極性を評価していた。現代日本で、好きな人に向かって積極的にアプローチをかけれる男性は少ない。


 そこに関しては、間違いなく福知の美点だと思う。


「それなら、そういうことにしとこうかな。俺も偉くなりたいし!」


 福知は、まだ涙の残る目をにっと曲げ、冗談を言い笑顔を形作った。


「ただ、今はそういうことが言いたいんじゃなくてさ。何て言ったら良いのかな。俺は、妥協してたんだ」


「どうせ無理だし、諦めて今の関係のままで良いかなって。失敗して、この幸せな時間が無くなるのは嫌だなって」


「でも、清水っちに手伝ってもらえて、清水っちに頑張れって励まして貰えて、マジ元気が出た。告白しようって、勇気が湧いた!」


「このまま告白もせず、ずっと妥協して、卒業してたら俺きっと後悔したから」


 知らず知らずの内に、俺の目からも涙が溢れる。遊園地の時といい、俺の涙腺はどうなっているんだ。


「だからさ」





「清水っち、ありがとう」


 流れ出る涙を止めることは出来なかった。いつの間にか、福知と俺の立場が逆転している。


 やっぱり、部活を始めて良かった。彼を引き止めず、彼の背中を押して良かった。


 ふと、愛のことを思い出す。



 ――なあ、愛――


 ――どうしたの?――


 ――何で愛はそんなに他人の為に行動出来るんだ?――


 ――えー、だってさ――






 ――誰かに感謝されるのって、すっごく嬉しいじゃない――



 今なら愛の気持ちを、痛いほどに理解することが出来た。

野球見てて投稿忘れかけたなんて言えない……

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