第二十一話 避けられてる?
今回は少しテンポ早めです。
最近、彼の様子が変。
一昨日、彼は私を救ってくれた。
……けど。
「清水」
「どうした?」
「これ、食べる?」
「ありがとな」
「あの……」
「あ、すまん。トイレに行ってくる」
少し話したら、すぐ彼はどこかへ行く。
そして。
「伊根町、あのさー!」
福知が傍へやって来る。
もしかして私。
避けられてる?
首を浅く傾ける。
「どうした? 首凝った!?」
福知はいつも、的外れ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
水曜日。俺達の学校では、多くの部活がこの日を休みにしている。週の真ん中だからだろう。
しかし、「お悩み解決部」は水曜日も活動日にしている。休みは毎週日曜日のみだ。
立也と舞鶴の所属しているサッカー部、福知の所属している弓道部が両方休みである為、毎週水曜日は部員全員が揃う。
放課後、俺と福知、舞鶴で部室にいると、遅れて立也と伊根町がやってきた。
これだけ大人数で活動するのは初めてなので少し狭苦しく感じる。それぞれが、ソファやカーペットの上など座りたい所に座った。
「ふぅ」
お茶を一口、ほっとする。伊根町が早速手作りのお菓子を食べており、福知はそのお菓子を貰っていた。
舞鶴はスマホを弄り、何かをしている。
「なあ、カズ」
「どうした?」
立也が耐えきれないという様に俺に声をかけた。
「これ、部活か?」
「「「………………」」」
立也の指摘に、誰も言葉を返すことが出来なかった。
相談者が来ないと、何もすることがない。
少しして、外の騒がしさが増していることに気づく。何かあったのだろうか。
「俺、見てくるわ」
漫画を読んでいるだけでは暇だ。興味本位から部室のドアを開け、廊下を見る。
そこには。
「きゃっ、ドアが開いた!」
「誰こいつ」
「相談に来ました!」
「「「天橋くんはいますか!?」」」
大勢の女生徒達が部室の周りを囲むように集まっていた。俺の顔を見るなり話しかけてくる。
目的は、彼女達の姿を見た瞬間に察した。
もしかしたらモテる男も辛いのかもしれないと、珍しく立也に同情してしまったのは仕方がない。
「あ……天橋先輩は、その、付き合ってる人とかいますか?」
「いないよ」
「そうなんですか!? ……やった」
一年生の女子が、さりげなく拳をグッと握る。可愛らしいガッツポーズをした後、彼女は部室を出て行った。
「ありがとうございました」
「マタノオコシヲオマチシテオリマス」
形だけのセリフを吐く。
今日集まった女子達は、言うまでもなく立也目当てで来た子達だ。
どこから、今日立也が部活に来るという情報を仕入れたのか知らない。だが彼女達は皆、立也と話したい、または立也の個人情報を知りたいが為に来たのだろう。
ふと舞鶴を見ると、笑顔こそ保っていたが目が笑っていない。
舞鶴さん、怖いっす。
「ツギノヒトー」
がらりとドアが開く。入って来た女の子は、福知に案内されソファに腰掛けた。
ソファの対面には、さっきからずっと立也が座り続けている。
女の子は立也を見て目を輝かせたが、その後すぐに真剣な表情に戻り口を開いた。
「私の友達に、大食いの子がいるんです」
相談が始まった。
「いつもいっぱい食べてて、幸せそうな顔をしてたんですけど」
女の子は俯く。
「先日、私はその子の為を思って、そんなに食べてると太るよって注意したんです」
彼女は、「本当にその子のことを思ってたんですよ?」と、確認するように最後に付け加えた。
「……そしたらその子、何て言ったと思います?」
「何て言ったの?」
徐々に、女の子から負のオーラが湧き始める。
「私はいくら食べても太らないし、寧ろこれだけ食べなきゃ生活に支障が出るし……って」
伊根町みたいだな。
「実際にその子は太ってなくて、それどころか痩せてて……」
悔しそうに、女の子は歯噛みした。ギリギリと忌まわしそうに顔を歪めている。
そのままたっぷりと間を空けた後、彼女は大きな声で言い放った。
「燃費が悪いだけじゃないですか!!」
知らねえよ。
「何ですか、すぐに太る私を馬鹿にしてるんですか、そうなんですか!?」
完全に逆恨みだ。確かに彼女は少しぽっちゃりしているが、そのぐらいの方が男からは好かれる。
「どう思います、天橋さん!!」
「ええ……」
立也も戸惑っていた。しかし女の子の強い視線に、何とか言葉を探し当てる。
「ひ、人にはそれぞれの生き方があるから、そんな簡単に否定するのもよくないんじゃないかな? きっとその子も、君を馬鹿にしてる訳ではないと思うよ?」
何とかそれらしい回答を返した。女の子は納得したように、立也の言葉に頷く。
「なるほど……確かにそうかもしれません。最後に質問なんですけど、天橋さんは痩せている子の方が好きですか? それとも私みたいな……」
うるっとした目で女の子は立也を見た。
「俺はどっちも素敵だと思うよ。それぞれの個性が出てて、良いと思うから」
「流石天橋さんです!」
女の子は途端に元気になる。
「ありがとうございました!」
「マタノオコシヲオマチシテオリマス」
何だこれ?
そんな調子で、次から次へと女子が入って来て、終わる頃には既に日が暮れていた。
今日は、ここまでにしよう。
部活を終え、帰り道につく頃。
福知に声をかけられ、皆から離れた所に行く。
「どうした?」
「いや、実はさ」
ポツポツと福知は話し出す。
「何ていうか、今日来た女子達を見てると、彼女達の積極さにマジ感動してさ」
「お、おう」
感動するとこあったか?
「俺もその、勇気を出してみようかなって」
「……つまり?」
嫌な予感が俺を襲った。いつもの、外れることのない予感だ。
福知は言葉に詰まるが、意を決して俺に告げて来る。
「俺、伊根町に告白する!」
「…………」
止めることは出来なかった。福知の瞳が、決心の色に染まっていたからだ。
そうして福知の告白が行われることになる。
決行日は、弓道部が休みの金曜日だ。
明日、二話更新します。