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ビッチの恋愛相談役  作者: ほまりん
第二章 部活始動編
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第十三話 部活作りました

説明回です。少し退屈かもしれません。

 朝。特に起きてから少しの間。俺が一日で最も嫌いな時間帯だ。


 体がベッドの感覚を欲している。睡魔に身を委ね、ふかふかに生きるあの時間の何と心地良いことか。

だが朝はその快楽を無慈悲に奪っていく。これが休日なら昼まで惰眠を貪るのだが、残念ながら今日は平日。


 眠気に抗いつつ、今日一日の予定についてぼんやりと考える。


 いきなりドアが開いた。


 バタンッ!


「おにいちゃん、朝食の時間だよ!!」

「……ん」


 この妹、思春期男子の部屋に突然入ることの罪深さを知るべきだ。お陰でいつも俺は冷や冷やしながら一人……何でもない。


「寝ぼけてないで早くー!」

「……ぐぅ」

「この状況で二度寝!?」


 新しい一日の始まりに相応しい、騒がしい朝であった。



「おはよ」


 ドアを開けるとすぐそこには、穏やかな笑みを浮かべる立也の姿があった。


「イケメンに待たれても何も感じねえな」


 これが女の子だったら話は変わるのだが。


「つれないな」

「朝練はどうしたんだ?」

「今日だけはサボり」

「それは駄目だろ……」


 ドアを閉め、朝のひんやりとした空気を感じ取る。


 今日は六月初日。徐々に朝も暖かくなっていくことだろう。


「今まで無遅刻無欠席だったから今日ぐらいはまけてもらうよ」

「……欠席って言葉はおかしくね?」


 朝練には相応しくない。


「細かいな……」


 のんびりと喋りながら、学校に続く道を進む。先週までは朝から立也と登校などあり得なかったが、今日から俺と立也の仲を隠すことは止めた。


 些細な変化、大きな変化。あらゆる変化が六月と共に訪れる。


 もうすぐ梅雨だというのに、俺の心は快晴だった。



「ふわぁ……」


 やっぱり眠い。


 授業とは何故こうも人を夢の世界へと誘うのか。


 というか今行われているのは授業とは呼べない。


「それでな、友人が投げるブーケを追いかけ、私は群衆の中に飛び込んだんだ!!」


 京子先生が熱く昨日の経緯を語っていた。


「そりゃもう必死だったさ。これを掴めなければ婚期を逃してしまいそうでな。たださえ教師などというブラック社会人を努めているのだから……」


 それ以上はいけない。


「な! の! に!」


 教卓がドンと叩かれる。


「ブーケを手にしたのは、巨乳でまだ若く、ほんわかとした雰囲気を放ってる井上さんだったんだ!!」


 誰だよ井上さん。


「うう……」


 京子先生は泣き崩れた。誰も声をかけることは出来ない。


 しかしそこに、おずおずと一人の生徒が手を挙げる。


「あの、そろそろテスト返却を……」

「採点なんてまだに決まってるだろ!!」


 おい、それは駄目だろ。


 立也といい、遅れて五月病はやって来るらしい。悲しみの渦に沈む京子先生を、ただ眺めているだけで授業が終了した。



 昼休みが訪れる。京子先生が廊下に出た。


 しょんぼりとした背中を追いかけ、彼女を呼び止め開口一番こういった。


「俺、部活を作りたいんです」

「……は?」


 京子先生が訝しむように俺を見てくる。


「悪い物でも食べたか?」

「そんなことはないっす」


 いきなりそれは酷くないだろうか。


「それか頭にウジでも湧いたか……」

「某Mさん曰く俺自身がウジ虫らしいんでそれもないっすね」


 京子先生の連続パンチにも顔色一つ変えず返答した。現在彼女の心は昨日の出来事の為に荒み切っているので、刃のついた言葉も寛容に受け止める。


「……冗談はともかく」


 きつい冗談っすね。


「急にどうしたんだ?」

「何つーか、新しいことに挑戦したくなりまして。遅めの高校デビューというか早めの夏休みデビューというか」


 上手に説明することが出来ない。過去を少し克服したとはいえ、俺にはまだ過去の話を自らする勇気はない。


 仮に勇気を持てたとしても、詳細を話そうとすればかなり重い話になるだろう。


「どんな部活を作りたいんだ?」


 京子先生は、下手な俺の説明にも眉一つ曲げず耳を貸してくれた。


 だから俺は彼女に相談を持ちかけたのだ。普段は残念な人だが、いざという時は頼りになる。


「人助けっす。学園の生徒の、悩み解決みたいな」

「ふむ、なるほど」


 京子先生は考え込むように顎に手を当てた。


「うちは自由を売りにしてるだけあって、新しく部活を作ることは難しくない。その活動内容ならば、作成条件の『社会に良い影響を与えること』もクリアしている。部費の予算も少なく済むだろうし、空き部屋も多い。実現は可能だろう」


 その辺りは事前に確認済みだ。残る問題といえば。


「後は部員数だけだが、そこはどうなっている?」


 これである。部活モノの鉄板だ。


「俺、伊根町が正規。副部員枠で立也、舞鶴、福知の三人。計五人です」


 遊園地二日目の日、俺は舞鶴達に相談を持ちかけた。


 部員数は最低五人必要なので、俺一人では部活を始めることが出来ない。


 立也以外が加入してくれるとは期待していなかったが予想外の成果が出た。立也関連で舞鶴が釣れ、帰宅部で暇だったらしく伊根町が追加。


 更に伊根町に釣られて福知が入った。


 二人ほど入部動機が下心丸出しだが、気にしている余裕はない。


「半分以上が副部員枠か……」

「すんません」


 副部員枠。


 この学校に設けられた部活の加入に関する特例である。


 通常、部活というものは一つしか所属出来ない。それはこの学校も同じである。


 しかし副部員としてなら、二つまでの部活なら加入することが出来る。


 副部員枠の条件は二つ。


 ①どちらかの部活を正規とし、正規とした方の部活動を全うすること。

 ②副部員枠として参加した部活にも、週に一度は参加すること。


 ①の条件は分かりづらいが、要は、副部員として加入する部活の為に、正規と定めた方の部活動を休むことは出来ないということだ。


 週に月曜日しか休みのない部活を正規とするなら、月曜日以外は必ずその部活に出て、月曜日のみ副部員として加入してる部活動に参加出来るという訳だ。


 つまりこの副部員枠、ほとんど部員数稼ぎの制度みたいなもんである。幽霊部員と変わらない。


 しかし安易に利用されないよう、②の条件が存在する。


 部活で必要な職は部長と副部長のみ。正規が二人いれば部活動をすることは可能である。


「……表面上は問題ない、が、なるべく部員を増やすようにするんだぞ」

「はい。……ん? てことは部活を作っても……」

「上が決めることだが、恐らく構わない。顧問は私に頼むのだろう?」

「そのつもりです」


 わざわざ京子先生に話を持ちかけたのだ。彼女も察してくれていたようだ。


「私はどの部活も持ったことがなくてな。良い機会だ、一度顧問に就いても良いかもしれない」

「ありがとうございます」

「構わないさ。教え子の成長が嬉しくてつい話に乗せられただけだからな」

「……」


 良い先生だ。顔もスタイルもいい。


 これで短気でなく、がさつでもなければ男は寄ってくるだろうに。勿体ない。


「何か失礼なことを考えたか?」

「そんなことないっすよ。アハハ」


 笑って誤魔化す。京子先生の勘は鋭い。



 数日後、幾つかの手続きが済み、新しく部活が誕生した。部活の名前は何も考えておらず、とりあえず「お悩み解決部」としておく。


 校舎の三階に設けられた部室のドアに、キャッチコピーを記した看板を掲げておいた。


 生徒の皆さん。あなたのお悩み解決します。まずは相談に来てみては?


 雑とか言うな。俺はこういうのが苦手なんだ。

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