天使は微笑まない
ある女子大生が入学式で再会したイケメンは小学校時代の王子様ではなく、その親友のデブだった。
※イジメていたことをさっぱり忘れていた人物の視点なのでムカつきたくない方は読まないで下さい。
「ねえ、愛。あれ見て?」
M大学の入学式が行われているイベントホールで親友の美奈が私を肘でつつく。
来日した歌手のコンサートにも使われているこのイベントホールの一階席は入学者だけが座る場所で父兄は二階席。だから、美奈と私は両親の両親であるおじいちゃんおばあちゃん×2と両親のことを気にしないでいい。
「え? どこ、美奈?」
美奈が見ているほうを見たけどわからない。
あ、脂肪と肉の塊がいる。
この頃、寒さが急にぶり返してきてお花見ができる期間も伸びたくらいなのに、ダラダラ汗をかいていて、必死にハンカチで拭いていて、見ているこっちも暑くなってくる。
見るんじゃなかった。
気持ち悪い。
「うわっ、デブだ」
思わず言っちゃった。
本当のことだし、悪くないよね。
自己管理ができなくて太っているのが悪いんだから。
「違うよ、愛。そっちじゃなくて、その隣」
苦笑して美奈が教えてくれる。
「隣?」
デブの横には黒のスーツを着た野暮ったい女がいた。
野暮ったい女とデブの組み合わせはオタク繋がりとしか思えない。
いいんじゃないの、オタク同士お似合いで。
「オタク女なんて珍しくないじゃない」
唇を尖らせると美奈が興奮気味に言う。
「違うわよ、そっちでもなくてオタク女とは逆の隣。あれってもしかして・・・」
美奈が興奮するようなものなら期待できる。
高レベルのイケメン察知センサーを持つ美奈だもの。きっと極上のイケメンを見つけたに違いない。
でも、残念なことに高レベルのイケメンは女王級の高レベルの美人としか長く続かない。普通やちょっと可愛いレベルなんか一ヶ月付き合えただけで奇跡なのは中高で実感した。
だって、付き合いたいと次から次へと告白してくる子がいるのに、誰か一人に執着する理由なんてないじゃない。
というわけで、後で「私のほうが先に付き合っていたのよ」ってマウンティングされないためには、イケメンは早めに見つけて付き合ったほうがいい。
だいたい、先に付き合っていたから何って感じ?
どうせただの元カノのくせに自分のほうが先に付き合えたからって何?
ヤなこと思い出しちゃった。
「オタク女の逆側?」
ゲンナリした気分で渋々そっちに目をやったら、美奈が興奮するレベルのイケメンがいた。
うっそー!
これは確かに興奮もの!!!
クラスに一人はいるレベルじゃなくて、学校にいるかどうかもわからないレベルじゃない!!!
私は目を見開いて見ちゃった。
身長もデブより高いのに、あのデブのキモさで気付かなかった!
デブのせいで見つけられなかったんだから、あのデブは死んだほうが世のためだわ。
「何、このイケメン。イケメン過ぎて震えちゃう。本当に同じ人間なの?」
「あれって、小学校で同じクラスだった輝くんじゃない?」
言葉も出なくて私は美奈の言葉にコクコクと頷く。
それは小学校時代の同級生で天使のように綺麗だった男子。名前は足利 輝。
小学校時代から彼は女子にモテモテで、彼と少し話したとか、手を貸してもらっただけで他の女子からイジメの対象になるくらいなかなか近寄れない存在。これに関してはどの女子グループも同じだった。
クラスに君臨していた女王茉奈様も例外じゃなかった。
輝くんに話しかけた翌日には女王の座から女子の結束を破ったビッチの座に転落した。
輝くんのことを簡単に言えば触れてはいけない我が校のアイドル。
卒業してから引っ越してしまった彼と連絡を取れた人間がいなかったから、どこの中学校に進学したのか知っている人物はいない。
その彼が同じ大学に通うと知って私たちのテンションが上がってしまうのもわかるでしょ!
自分の幸運を感謝せずにはいられない。
でも、入学式の途中だから席を移動できないのよね。
さっさと終わってくれないかしら。
早く終わってくれないと輝くんと話せないじゃない。
入学式が終わるのがもどかしくて仕方がない。
やっと入学式が終わって、輝くんの所に着いた時には輝くんは彼に目をつけた女たちに取り囲まれていた。
人気のあるバーゲン品並に近付けそうにないから、私は外側から叫ぶしかなかった。
「輝くんっ!! 同じ小学校だった朝倉 愛だよっ!!」
取り囲んでいた女たちがギロリと私を睨む。
「浅井 美奈だけど、おぼえてるっ?!」
美奈も輝くんにアプローチ。
ウザいことをしてこない美奈だったら先に越されてもいいか。
私たちが叫ぶと輝くんは驚いたように瞬いた後、笑いかけてくれた。
天使の微笑みだわ。
ピカーとあたりを照らすような笑顔に輝くんを取り囲んでいた女の何人かがよろめく。
「ああ、憶えているよ。男子の見ていない影で騎士をイジメていた奴らを忘れるはずがないだろ」
ニッコリと微笑んで言う内容が理解できない。
「え?!」
騎士?!
誰それ?!
私は美奈と顔を見合わせる。
おぼえのない美奈も首を横に振る。
「騎士って?!」
輝くんは顔を歪める。
「お前、イジメた奴の名前も忘れたのかよ。本当に最低だな。イジメをする奴って最低だって知っていたけど、虐められた騎士が今も苦しんでいるのに、どうしてお前らは忘れられるんだ? 人類の叡智のためにその頭を解剖してもらえよ」
私がイジメていた?
何を言っているの?
あの頃の私は他の女子と同じように輝くんのことしか見ていなかった。
「騎士! やめろっ!」
取り囲む女たちの外にいたデブが怒ったような顔で輝くんにそう呼びかける。その隣では野暮ったい女が心配そうな顔をしていた。
騎士?
だから、誰それ?
「俺がお前らがデブだ、クサいとイジメていた松永 騎士だ。輝のことがわからずにイジメた相手に媚び売るなんて、頭がどうかしてるんじゃないか、朝倉 愛。浅井 美奈」
騎士って、松永 騎士?!
輝くんといつも一緒にいた輝くんの親友の体重三桁デブ。
女子に人気がありすぎた輝くんは男子から遠巻きにされているようだったけど、デブの松永だけはいつもそばにいた。
気の弱いデブだから松永は男子にもイジメられたけど、輝くんのそばにいつもいたから輝くんが見ていないところで女子にもイジメられていたっけ。
小学校卒業後、唯一、輝くんと連絡をとっている可能性があったのは松永くらいだったけど、本人がどうでもよすぎて忘れていたわ。
って。
輝くんだと思ったのが松永っだったの?!
「「嘘ー?! 別人じゃない(だわ)!!」」
私と美奈の声が重なる。
目が肉に埋もれていたのが別人としか思えない超イケメンになった松永を取り囲んでいる女たちが私たちを優越感たっぷりに見る。
あんたたちが群がっているのは、元々、肉の塊だったのよ!
何、偉そうな顔してんのよ!
元・肉の塊なんかを相手にしているくせに偉そうな顔して、ムカつく!!
だいたい、松永も松永の分際でなんでカッコ良くなってんのよ!!
肉はどこ行ったのよ?!
「家族と合流するぞ、輝。美唯」
え? 輝くんがここにいるの?
目で探すけどそれらしい人物はいない。
あの輝くんを私が見落とすはずがないから、きっとこれは松永か輝くんの悪い嘘ね。
超イケメンと取り囲んでいた女たちの後ろをあのデブと野暮ったい女が付いて行く。
私と美奈の大学生活は小学校時代にデブをイジメた面食い女という評判がついて回ることになって、彼氏が全然できないし、できてもすぐに振られる最悪なものとなった。
入学式で取り囲んでいた女たちのせいらしい。
あいつらも彼と付き合えなかったから、ざまあ。
松永 騎士
小学校高学年から減量をするまで三桁体重だった超イケメン。
太っていたことで散々イジメられ、そのことを自分が太っているのが本当だからと笑って許すような性格。減量してからは手のひらを返したような女子たちの反応に嫌気が差し、女嫌いで攻撃的な性格になる。
小学校卒業直前に親の事情で引っ越していったが、クラスメイトはそれを忘れているような印象の薄い人物。
輝と連絡を取り合っていた唯一の人物。
足利 輝
騎士の親友で正義感あふれる元美少年。奇病を発病し、現在はこれ以上太らないために努力するしかない薄幸の人物。
小学校卒業後、騎士同様に彼も引っ越しをしているので、元同級生たちは消息を知らない。
那須 美唯
野暮ったい印象の女性だが、騎士の減量のサポートをしてくれていた騎士の恋人。
現在の輝しか知らないが、太っていた当時の騎士と恋人になるくらいなので気にしている様子はない。




