第四十八話「剣闘士ギルド」
屋敷は全部で二十部屋あると聞いた。
正面玄関を入ると中世ヨーロッパを舞台にした映画のような豪華絢爛な広間が待っている。二手に分かれた階段は中二階で集合し、再び左右に分かれる。
二階の扉は西が三部屋、東が七部屋と左右非対称になっていた。
「西は屋敷の主が利用する部屋みたいですね。大きな寝室と執務室、それに調度品を飾る部屋がありました」と、ニッチェル。
東は子供や来客用の部屋が並び、一番奥は大きな窓が特徴の音楽室のような造りになっている。レイブランドではあまり音楽を楽しむ文化がなかったけど、センタレイルは違うのだろうか。
「大将! 一階もすごいぜ!」
ウェザロブの声に誘われて一階に降りる。
東側の赤い布で飾られた豪華な扉を開けると、食堂が広がった。
二十人近くが一度に食卓を囲める広さで、大きな机には純白のシーツがかけられている。
「今日からここに住めるなんて幸せだね」
クィンクの言葉に僕は同意した。
クリミアウム大陸を降りた時は貧乏生活を覚悟してた僕達が、何の苦労もなく屋敷を手に入れたのだ。もちろん大剣士としての義務が課せられている故の特典ではあるけど、それでも幸運が過ぎている気がした。
「部屋割りやけど、悠人君が二階の西側三部屋、私達が東側をそれぞれ使うって事でええやろ?」
僕としてはどんな部屋でも構わなかった。
寝泊りするだけの小さな部屋でも。
だけど、京子とニッチェルは僕にもっと〝上に立つ者として自覚”を持って欲しいと事あるごとに口にする。
貴族は貴族らしい生活をして初めて貴族になれる。
それはオルアルク家に生まれた僕が一番よく知っていた。
「俺はどこでも構わないぜ」
意外な事にウェザロブが異論を唱えることはなかった。
一応元王子だし、一番広い部屋が良いと言い出すかと思っていた僕達は少し拍子抜けする。
「どうせその辺を歩いている女の家に寝泊りする事になるだろうからな。ははっ」
前言撤回。ウェザロブはやはりウェザロブだった。
「悠人君とクィンクちゃんは一緒の部屋が良いと思ってるかもしれへんけど、それはなしやで」
と、京子がぴしゃりと先制攻撃を放つ。
クィンクは真っ赤な顔で「そ、そんなつもりはないよ!」と否定したが、僕としては出来れば一緒が良かったな。
「ニッチェルが夜寂しくなったら誰が相手すんねん」
「はぁっ!!!?」
京子はニッチェルの胸を鷲掴みしながら、淡々とした口調で言った。
当のニッチェルは火を噴くほど顔を赤くし、食堂の窓が割れるんじゃないかと思うくらいの悲鳴を上げた。
「いや、冗談で言うとる訳やないで。これはクィンクちゃんの為なんや」
「私の……?」
「せや。これから二年間でうちらの関係は今と違うもんになる。もしかしたら喧嘩別れする事もあるかもしれへん。その逆で恋仲になったりする事も」
「俺とニッチェルとかな」
自然にニッチェルの腰に手を回すウェザロブ。流石は生粋の女たらし。
「天地がひっくり返ってもあり得ないですね」
と、ニッチェルが断言し、ウェザロブは項垂れて手を放す。
どうやら二人はクーリアにいた頃からこんなやり取りばかりしてきたようだ。
「いや、うちが言いたいのは二人の愛が盛り上がりすぎるとレイブランドに帰ってからが辛いでって話や」
「……バルサとフレアハート」
「悠人君を独占して二年も過ごしたら気づかへん内に独占欲が生まれる。そうすると、その二人の為に危険を冒す必要があるのか疑問に思い始めるんや」
「私は――」
「異世界で数々の恋愛を見てきた蓮見京子を信じてくれへんか?」
「……うん、イリアを信じるよ」
何だか勝手に二人で納得してるけど、それって僕がクィンク以外と何か起きるって事だよな。いや、確かにニッチェルは僕を慕ってくれているけど、流石に男女の仲になりたいとまでは……、
「クリアハルト様とそういう関係に……良いんだ………」
……思ってるのか、な?
「それにうちだって女やから夜の寂しさを悠人君に埋めてもらわな耐えられへん日もあるしな」
「……ど、努力します」
「そんなの俺に任せ「却下」
憐れウェザロブ。
とにかくこれで部屋割りは決まった。
実はちょっとだけ執務室と調度品を置く部屋にワクワクしている自分がいる。
「後は使用人やな。こんな広い屋敷を管理している暇なんてあらへんし」
マーロの紹介で僕達は使用人を雇う事にしていた。
使用人ギルドを通すと大剣士には補助金が出るらしいからだ。
どの世界でもどの時代でも利権が絡むと得をする人間と損をする人間が出てくる。
大剣士が利用するギルドという看板が欲しいのだろう。
お金のない僕達にはありがたい事だ。
「選定はうちに任せといて。自分らは剣闘士ギルドから行ってくるとええで」
「剣闘士ギルド? 何で?」
「興業用のギルドやからな。悠人君みたいな男の子にはぴったりのイベントが待ってるで」
「……?」
京子の言葉の意味を理解したのは、市民領にある剣闘士ギルドに着いてからだった。
□ □ □
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名前:クリアハルト
肩書:大剣士
出身:レイブランド
ランク:C
登録者順位
‐/12571位
‐/278912位
□ステータス□
攻撃:92
防御:81
速さ:121
魔力:1253
総合:131
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※数値は上位一万人の平均を100としたもの
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名前:クィンク
肩書:家庭教師
出身:レイブランド
ランク:E
登録者順位
‐/12571位
‐/278912位
□ステータス□
攻撃:121
防御:118
速さ:145
魔力:28
総合:102
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―――――――――――
名前:ウェザロブ
肩書:剣士
出身:クーリア
ランク:E
登録者順位
‐/12571位
‐/278912位
□ステータス□
攻撃:144
防御:102
速さ:101
魔力:56
総合:112
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―――――――――――
名前:ニッチェル
肩書:騎士見習い
出身:クーリア
ランク:E
登録者順位
‐/12571位
‐/278912位
□ステータス□
攻撃:81
防御:101
速さ:100
魔力:61
総合:98
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剣闘士ギルドの受付はコロシアムの中にあった。
円い建物は古代ギリシャを想起させたが、造り自体は煉瓦に似た石を重ねて出来ている。
登録を済ませるには鑑定士に鑑定してもらう必要がある。
剣闘は興業であり賭けの対象になる為、参考となる数値が必要だったのだ。
それはまるでゲームのステータスのような数値であり、僕は京子の予想した通り興奮した。
「大将、あんた何者だよ……。その魔力やばすぎるだろ……」
「あはは、それほどでも」
どう考えても竜の心臓のおかげなのだが、外部に漏れて狙われたくないので秘密にしている。
「それにクィンクの嬢ちゃんもそんな数値でギアレスをよく倒せたな」
「ええまぁ、竜人は意図的に力を抑えることができるので」
「ふーん、便利なんだな」
クィンクの銀髪も怒りで金髪になったりするのだろうか。なんて。
「僕は大剣士という事でランクCからのスタートですね」
「俺達はEからか。すぐに追いつくからな、大将」
「うん、望むところだよ」
「登録者順位は上がフラネス、下がセンタレイル全体のようですね」
フラネスの大会は週末に二日連続で開かれる。
街によっては毎日開かれる場合もあるけど、開きすぎると市民が働かなくなるらしい。どこの世界でも賭け事は依存度が高いのだ。
剣闘士ギルドだけで食べていけない人は冒険者ギルドや魔物使いギルドを併用して生きているという。僕達は全部利用して頑張らなきゃ。
「次の大会は三日後ですね。今日は帰りましょうか」
□ □ □
その日の夜、僕は久しぶりに一人で部屋にいた。
オルアルク家の子供部屋の何倍も大きな部屋。
大人が二人並んでも余裕があるベッドに転ぶと、色々な事を思い出す。
フレア姉さんとバルサ、マリティアヌや使用人の皆は大丈夫だろうか。
ブラムスに何かされてなければ良いけど……。
それにベルハルトも心配だ。
城に向かってから随分経った。
流石に家に帰ってるだろうけど、もし誰かに捕まってたりしたら……。
「ドラマの見すぎだな……」
…………………………………………寂しい。
うわぁあぁぁぁぁん、一人ってすごくすごくすごく寂しいよぉ!
久しぶり過ぎて全然眠れない! 寂しい寂しい寂しい!
こうなったらこっちから遊びに行こうか。
「いやいや、それは主として信頼を失うよな……」
でも、あまりに静かすぎて耳鳴りがしてきた。
このままじゃ寝不足で明日に響く。どうすれば……。
――こんこん。
ノックの音。クィンク!?
「は、はいっ!」
クィンククィンククィンク!!
「よぉ、ずいぶん嬉しそうな顔してるじゃねぇか大将」
「……ウェザ」
「あからさまに悲しい顔するなよ、傷つくじゃねぇか」
「どうしたの?」
「へへっ、ちょっと付き合えよ」
「付き合う? どこへ?」
ウェザロブは親指をぐっと立てると、
「 い い と こ ろ ♪ 」
と、満面の笑みを浮かべる。
僕は嫌な予感に苛まれつつも好奇心には勝てず、音を立てないように屋敷を後にした。
もちろん情報収集の為である。もちろん。




