閑話「旅のルール」
仮ではあるもののクィンクの優勝が決まった翌日、僕は池のある庭に呼び出された。
午前中はアネスタから料理の作り方を教わっていたので、昼食をお弁当にして持っていくことにした。
幸いな事にレイブランドは日本で見た調味料のほとんどを発明している。料理数自体は流石に日本の方が多いだろうけど、揚げ物や煮込み料理まであるのは本当に喜ぶべき事だと思った。
「お待たせしました」
「ううん、全然待ってないよ。お腹は空いたけどね」
クィンクは珍しく仰々しい恰好をしていた。白のワンピースにぴっちりとした赤い上着を羽織っている。中世ヨーロッパから近代辺りの洗練されたファッションって感じだ。
銀髪を両脇で二つにくくっている。……ツインテール!?
「えへへ、前にハルトが教えてくれた髪型にしてみたんだ」
「ええ、その、すごく可愛すぎて言葉が見つかりません」
感動だ。
ナースさんは基本的に髪をキャップの中に束ねていたので、ツインテールなんて漫画やアニメでしか存在しないと思っていた。
しかも金色の瞳で銀髪のツインテールだなんて、幻想的過ぎて鼻血が出そう。
「さてさて、ハルトが作ってくれたお弁当はどれかなぁ?」
「それとそれですね」
唐揚げと卵焼き。どちらもこっちの世界にはない料理で、アネスタと試行錯誤を繰り返して再現した異世界料理だ。
「へぇ、なんだかすごい形をしてるね!」
クィンクがフォークで唐揚げを刺した。唐揚げはやはり揚げたてが美味しいので最後に作った。ジュワと肉汁がフォークの隙間からあふれ出る。
レイブランドに箸の文化は存在しない。ナイフとフォーク、そしてスプーンで料理は食べる。だけど僕はやはり箸を使って食べたかったので、木を削って自家製の箸を作っている。
「んー!? 美味しいっ!? 何これ!? サクカリなのにお肉がジュワーだよ!」
唐揚げを食べた感想としては間違いないのだけど、家庭教師としてその表現力のなさは大丈夫だろうか。……可愛いからいいけど。
「塩を掛ければ炊きたてごはんが進むんですが、今日はオニギリに塩を振っているのでバランスよく食べてください」
「うんっ!」
クィンクは上機嫌でお弁当を食べていった。
料理を作る側としてこれほど嬉しい事はない。
二人で旅をする事になったら、セーラー服のクィンクとご飯を食べることになるのか。
うん、最高だ。
◆
「ごちそうさまでした」
「それで、今日は何をされるのですか?」
クィンクの家庭教師としての役割は一時的に解除されているはずだ。
それでも呼び出したということは何か特別なイベントが待っているのだろう。
「うん、ベルハルト様が無事に帰ってくれば、半年後に私達は旅に出ることになるでしょう?」
「あ、はい。そうですね」
「それで、ルールを決めておこうと思って」
「旅のですか?」
クィンクは頷くと一枚の紙を取り出した。
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◆旅のルール◆
1、敬語はなし
2、自分の命を最優先
3、その次にお互いの命を優先
4、余裕があれば他人の事を考える
5、他人を信用しない
―――――――――
「敬語はなし……」
「うん、ハルトの精神年齢は私よりも少し上なんだし、旅のパートナーなんだしね」
「努力します」
まぁさほど難しいことではない。前世では病院生活が長く上下関係に揉まれたことはない。看護師さん相手に敬語で喋る事なんてほとんどなかった。
「むしろハルトに気を付けてほしいのは二番ね。お人好しだから自分の命より他人の命を優先しそう」
「いえ、それはないです」
「そう?」
「前世で僕はずっと無力感に苛まれ続けて死にました。だから誰よりも自分の生に対する執着心は強いですから」
「ならいいけど……」
「でも二番と三番だけで言えばどうなるか分かりませんが」
「まぁそこは私も少し自信がないけどね、あはは……」
その後も、旅に関する話題で盛り上がった僕達は気づけば日が暮れるまで話し込んでいた。
「そういえば私の旅の服って決まったの?」
「はい、もう服飾師にデザインを渡してありますので旅には間に合うと思いますよ」
「楽しみにしてるね」
「絶対に可愛いので任せてください」
アイドルグループがコスプレするようなセーラー服になっちゃったけど、この世界にコスプレなんて概念ないだろうし大丈夫だろう。……たぶん。




