表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

飼い犬

―私の飼い犬は決して噛みつかない。裏切るのは― 改

作者: なり

 

 結婚するやつは馬鹿だ。


 しないやつはもっと馬鹿だ。


 - バーナード・ショー -

(アイルランドの劇作家、ノーベル文学賞受賞 )

 と有名な方がおっしゃっておいでです。



 でも私は逆だと思うんだよね。

 現実って失望する事が多くない……?




「う~、いつまでも暑い~。 はぁ、やっと娘寝てくれたぁ」


 おかしいな、なんで抱っこすると寝てくれるのにベッドに寝かそうとすると起きちゃうんだろ? おかげで私も娘も汗だく。

 エアコンも下げすぎるとダメだし。

 やれやれ、今の間に晩ご飯と離乳食を考えなくちゃ。


 ♪♪♪~♪♪♪~♪♪


 あー、電話。やっと寝た娘が起きちゃう。

 知らない電話番号かぁ、誰かな?

「はい、もしもし」

 この頃、物騒だからこちらの名前も言えないね。


『……失礼ですが、奥様でしょうか?』


 ん? 若い女性? 声が小さくてよく聞こえない。


「えと、どちら様ですか? 保険とかセールスならお断りしていますけど。」


『そちらのご主人の会社の者です。……いきなりで申し訳ありません。 ……私、ご主人と付き合っていました。 つい最近まで。』


 はぁ? 思わず受話器を握りしめた。一気に汗が引いていく。


『もしもし、……あの……』

 電話相手が高く細い声で囁く。


 えっえぇ、これは修羅場って事? いきなりなので頭がついていかない!

 不倫相手から電話で、でも終わったって?


「…どうして電話をかけてきたんですか? っていうか、なんのご用件ですか?」


 とりあえず、話しを聴かないと。 お腹、いや胸がかっと熱くなって自分の声が高くなる。

 娘が寝ている部屋から、慌てて出た。



『わ、わたし、私、困ってるんです。別れたのにいつまでも付きまとわれて……だから』


 はぁ?何それ、惚気け?嫌味?


『好きだ。別れたくないって、会社の中でも言われちゃって……』


 へぇ~え、なるほどねぇ。夫から好きだと。

  私、思い切り挑発されてるの?

 それとも何? 別れろって催促してるわけ?

 細かく手が震える。 足も。 吐き気と共にお腹の底が熱い。

 いったい、何様よ! 夫と不倫してる相手になんでこんな事言われないといけないの!


「それで、私にどうしろとおっしゃるんですか? どうして私に電話を?」

 少なくとも表面上は冷静に喋らないと。 こんなので動揺してるって悟られてたまるか!


『あの、私、他に相談する人いなくて。奥様からご主人に言ってもらえたら。 本当に困ってるんです』


 何、言ってんの?! 相談って。

 どう聴いても、惚気けか嫌味にしか……。


 …あーあぁ、なんだか馬鹿馬鹿しい。 腹は立つけど相手の幼稚さに笑いたくなる。

 まったく、なんで私が夫に「不倫相手が困ってるから別れてやって」と言わないといけないのよ。


「あのね、本当にどういう意味で話されてるか、よくわかりません。 会社だろうと何処にだろうとお互いに話し合えばいいでしょ。 不倫の相手の妻に相談って聞いた事もありません」

 情けない。 この状況が心底から。

 現実は小説より奇なりっていうけど、私、こんな経験したくなかったわ。


『でもでも、私、親にも相談出来ないし』


 阿呆かぁ! あったり前でしょっ。

 聞けば聞くほど、馬鹿馬鹿しくて情けない。


「意味がわかりません。 本当は私に夫と別れて下さいって言いたいの?」


『えっ、えー……違います。相談出来る人が居ないから』


 …もう、エエわ。これ以上聴いても意味が無い。

「貴女、ちゃんと成人してるんですよね。 不倫するなら最後まで考えて不倫したんでしょう。なんで妻の私が貴女の尻拭いみたいな事しないといけないの? まあ、夫が浮気するの貴女が最初じゃないし、最後でも無いと思うけど」

 浮気をばらして本当は別れて欲しいのかもしれないけど、相手の思惑どうりになるのも嫌。 それに修羅場は初めてじゃないのよ。


『ぇっ』


「そう、もう何回もね。 どちらにしても私が出来る事はありません。 まあ、夫にはちゃんと伝えてあげますよ。 不倫相手が電話してきたってね。 ただし、もう二度と電話してこないで!」


 ガチャン!


 …疲れた。 一気に脱力する。

 電話って、初めてだわ。 家に来られて文字通り対決したのはあるけど。


 とりあえず、これも記録しておこう。 いずれ離婚する時に有利だし。 電話もちゃんと録音したから、証拠になる。

 後で電話番号で会社名簿から相手を確認しておかないと。 載ってるかな?

 最近の電話は賢くて下手な男よりよっぽど使える。

あっと、忘れてたわ。 各部屋の盗聴器とカメラを確認して準備万端にしとかないとね。

新しい相手が出来たら寝室に引っ張り込むでしょう。 今まで寝室で録画してきた悪趣味な分もサイトにアップするのに必要な事も考えて。



 娘はまだ小さいし、離婚するにはまだ早い。 今回の相手はどうなるか分からないけど、どうせまた浮気するでしょ。 私の親友にも粉かけてたぐらい下種な野郎だ。 その時は今まで我慢してきた以上に夫にも相手にも丁寧にお返ししてやる。


さあ、夕食の下準備にかからないと、何時ものとおり【高たんぱく、高カロリー、高ナトリウム】で美味しい食事は用意しておこう。もちろん、大事な大事な夫のために。



 日常の礼儀は必要よね。きちんと返礼しなけりゃ、夫にも相手にも。

楽しみだわ。 いろいろと考えておかなくちゃ。うーん、主婦って本当に忙しい。

 ふふっ。

現実は辛い。 だから、 小説はおもしろい方が良い。

ムシャクシャしてやった、反省はしていない。

また、しちゃうかも。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ