表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

母性本能は恋心を潰す

作者: 豆腐うめぇ

初投稿なのでかっすかすな設定とか表現とかは見逃してください





「そんなのいらねぇんだよばかぁ!」


高くもなければ低くもない、彼独特のハスキーな叫び声が強い拒絶と焦りを孕んだまま部屋に響き渡り、吸収され、消えた。全てが深海のごとく静寂に包まれ始めた頃、だっだっだっと乱暴かつ軽快な足音と、胸をきりきりと容赦なく締め付ける切なさを残して、彼は去ってしまった。




「はぁ、また拒絶されちゃったか。」

と、むなしい独り言を漏らして、流れるように彼が拒絶した、彼の残り香が色濃く残るハンカチを拾い上げる。



幼い頃に縫った、彼へのありったけの愛情を込めて贈ったそれは、今はもう色褪せておおよそ使い物にならない。

彼のイニシャルであるE・Aを一撫でしたら、幼い頃の彼との思い出が激しい水流のごとく蘇って思わず皺が残るくらい力強くそれを握ってしまった。







「ねぇ、ソフィアお姉ちゃん。お茶会にしよう?」


背後から聞こえた妹のアリスのハキハキとした明るい声がまるでガラスをぶち抜く銃弾のように、私を蝕むように包み込んでいた負の世界をぶちこわす。



「うん!そうだなぁ、今日は久しぶりにマカロンが食べたいな!」

自分の口角を張った糸のように不自然につり上げて、姉に心配をかけさせないように無理して笑う。







さぁ、今日も今日とて彼、エドワードを陰ながら見守ろう。








私、ソフィア・カークランドが、この世界が前世で大好きだった乙女ゲーム、「おさらぶ!〜幼なじみに恋して〜」の舞台だと気づいたのは実に三歳の頃だ。



伯爵である父上が一歳年上の彼を私たち姉妹に紹介した時、全てを思い出したのだ。レモンイエローとゴールドのアクリル絵の具を水も使わず混ぜ合わせたかのように濃厚な、眩しい金髪。気まぐれな猫を彷彿とさせるつり上がった緑の目。リンゴの様に熟した赤い唇をつり上げて、無理して愛想良く微笑むエドワード・アーデルハイトと目があった瞬間、全てを思い出したのだ。



この世界がおさらぶの世界だということ。ヒロインは妹のアリスであること。自分はいわゆる脇役であること。エドワードが攻略対象であること。そしてなにより、前世の自分、小日向彩花がエドワードを深く愛していたこと。



激しくぼっこぼこと浮上する泡のように溢れ出してきた記憶を全て思い出したら、胸がふつふつと熱を孕みはじめて、どうしたらいいかわからず、思わず涙を流してしまった。



それに気づいたエドワードは大慌てで自分のハンカチを差し出してくれたんだっけ。そして、自分が本当はカチコチに緊張していることを明かしてしてくれたんだ。本当に、懐かしい。






それから私たち三人はゆっくりと時間をかけて開花していく花の様に、お互いゆっくりと心を開けて距離を縮めた。周りから仲良しトリオと呼ばれるまでお互いがお互いのことが大好きで、大切で、かけがえなくて。



だけど、その頑丈な絆にひびが入ったのは、私とアリスが10歳、エドワードが11歳の時。私とクラスの違う二人と一緒に帰ろうと、二人のクラスに踏み入れた時。



「俺、どうすればいいかわかんないんだ。」そう弱々しく呟くエドワードを聖母のごとく抱きしめるアリス。

彼の、アリスにだけ打ち明けた苦しみを全て拭うかのような手つきで、エドワードの涙を拭うアリス。

「これからは、私に頼って。私、協力するから。」、そう子守唄を歌うかのように彼を慰めるアリス。




この世界の、ゲームのたった一人の、ヒロイン。




お互いがお互いを愛し合う熟年夫婦のように寄り添った二人を見つけた瞬間、私は自分が二人の世界の邪魔者であることに気づいた。だって、エドワードはアリスにだけ悩みを打ち明けたし、アリスはエドワードに自分だけを頼るように諭した。



もう、幼い頃に作り上げた三人の世界は存在しない。二人は私を除外して、自分たち二人だけの世界をつくりはじめたのだ。自分はもう、二人にとって必要ない。



そう自覚した途端、私は二人に気づかれないように慌ててクラスを出て、一目散に家に帰って、自分の部屋のベッドに潜り込んだ。






これからは、二人の恋を離れた場所で見て、暖かく見守ろう。そう誓った、痛くていたくてたまらない胸を見て見ぬ振りして。







そして、今。アリスと私は17歳、エドワードは18歳だ。あの誓いをたてた日から私は二人の恋を極力邪魔しないようにしている。アリスとは相変わらず仲が良いけど、エドワードは万が一アリスに誤解されないようにと、避けに避けたため、仲は険悪だ。



今の彼は、私が少し話しかけただけで穏やかだった目を吊り上げて私を鋭く睨む。言動もひどく乱暴で、いつも私を拒絶する。おそらく、私のことはもう大嫌いなのだろう。自分が蒔いた種だとしても、彼の変わった態度は受け入れられない。



それに、彼はほかの女性に対して物腰は柔らかく、まるで王子様かのように穏やかで聡明なのに、私に対してだけは怒りと乱暴さを露にする。それが一層私を苦しめて、惨めにさせる。もう、昔の様に戻れないのだろうか。







そんな、たまたま拾ったハンカチを拒まれたあの日から、数日経ったある日のこと。私とアリスは国の第一王子の嫁、王妃を決める為に開かれる夜会に招かれた。エドワードが来ることが確定していた為、出席する気はまるでなかったが、やはり王家の招待は絶対断ってはいけない。勝手に了承の手紙を送られ、メイドたちにも無理矢理着飾られた。



ドレスやら髪やらを遠慮なくいじられた自分を、鏡を使って見る。藍色の、意外と胸ががっつりあいてるフリルとレースとリボンがたっぷり使われたプリンセスドレス。ドレスの端から覗く自分の細めの足首を包むやや低めのパンプス。綺麗に編まれたややピンクのかかったプラチナブロンドの髪。薄く化粧されて普段よりは格段に華やかな自分の顔。そして、不本意ながらも彼に会えるといううれしさに輝くドレスと同じ色、藍色の目。



地味な私はメイドたちの手によって少しは綺麗な伯爵令嬢になったのだ。




「ソフィアお姉ちゃん、すごく綺麗よ!絶対エドワードも惚れ直しちゃうよ!」



子供のように目をキラキラさせてはしゃぐアリスはそう言ってくれたけど、絶対違う。



「アリス、何言ってるの?エドワードが好きで好きでたまらないのは、あなたでしょう?私のことなんか、大嫌いなのよ。あの人は。」

そう、溢れる彼への愛情をふたするかのように、呆れるようにこぼす。



すぐにアリスは顔をゆがめて、何か言いたそうに口を開けるが、放つはずだった言葉をごくりと飲み込む。そんなアリスを見て、心に何かが引っかかったが、夜会の開始時間が迫っていることに気づいて慌ててアリスの手を引っ張って馬車に乗り込む。



「遠慮なく、エドワードと踊ってね。」

そう、思い悩んでいるかのように沈黙するアリスに釘を刺す。





「・・・違うんだよ、ソフィアお姉ちゃん。エドワードが好きなのは私じゃないんだよ。」静かに、本当に静かに呟くアリスの言葉に気づかず。






中世ヨーロッパにて作られた立派なお城を彷彿とさせる華やかさと上品さを兼ね備えた舞台に足を踏み入れたら、まるで特別な魔法をかけられて自分が本当にお姫様になったかの様な気分になって、とても朗らかな気持ちになった。よく考えてみれば、前世も含めて私は昔からプリンセスやら童話やら舞踏会やらに強く憧れていたのだ。



こんな明るくて、ふわふわとした幸せな気持ちになったのは、久しぶりで。



だからか、ずっと疎遠だったエドワードと仲直りできそうな気がした。たとえあなたが私のことが大嫌いであっても、私はあなたが好きなのよ、という気持ちを、無理矢理にでも、伝えたかった。



舞台の明るくて楽しい雰囲気に背中を押され、私はアリスに恋人であるエドワードと一曲だけ踊れないか聞きにいった。自分が一方的に彼を避けて作った溝を壊す為に、勢いにのせられて私は、聞いてしまったのだ。





「もちろん!っていうかむしろ踊って!あいつすんごいヘタレなんだから!」




むしろエドワードと私をくっつけさせようとするアリスに疑問を抱きながらも、了承を得てほっとする。これで、エドワードが大好きなアリスに誤解されないですむ。




かっかっとスキップするように軽快な音をたてながら令嬢たちと楽しそうに話しているエドワードに近づく。彼は私を見た途端、まるで怪物をみたかのように緑の猫目を大きく見開いた。何かを言い足そうに唇を軽く噛み、頬と目尻をピンク色にほんのり染めるが、私はそんな彼を無視し、

「エドワード、今までのことは忘れて、私と一曲踊ってくれませんか?」

と、今まで無理矢理作ってきた偽の笑顔ではなく、本物の満面の笑みを浮かべながら申し出る。



途端、エドワードは顔を真っ赤に染め上げ、

「え・・・、っえ、ええ!?」

とひどく戸惑う。顔をたこみたいに真っ赤に染めて、不自然に口をまごまごと動かして戸惑う彼を心配して、落ち着かない幼子を落ち着かせるように慌てて彼の手に自分の手を重ねるように手を伸ばす。



すると、ぱん!と乾いた、鋭い音が響いたとともに伸ばしたはずの手が軽く痛む。




「っ・・・、べ、別に照れてないんだからな!うれしくもないし!笑ったそ、そ、ソフィアのこと・・・、か、かわいいとかも思ってないんだからな!か、かわいすぎてだだだ、抱きしめたいとも、べ、べ、別に思ってない!じゃ、じゃあな!」




そう吐き捨てるように、不自然に裏返った声で言い放ったエドワードは無礼にもどこかへ大急ぎで去ってしまった。


でも、ちゃんと聞こえたんだ、すれ違った際に彼が照れくさそうに言った「・・・っ、ご、ごめん。」っていう謝罪。恐らく、はたいてしまった手のことについてさしているんだろう。








じんわりと、拒絶はされたけど以前よりは少し縮まった距離に感激する。


・・・あぁ、やっぱり私は彼が大好きだ。本当に、誰よりも大好きだ。前世から、ずっと。笑った顔も、泣きそうな顔も全て、ひっくるめて。何回拒絶されても、何回嫌な顔をされても、何回冷たい目で軽蔑されても。


彼の言動一つ一つは、筆で広げられる絵の具みたいにいつも私の人生に色をくれる。例えるなら、彼の言動全ては色鮮やかな絵の具で、私はそれに染められて変化するキャンバスだ。私の人生は彼の色がないと真っ白なままのキャンバスで、未完成だ。だから、彼の言動、絵の具はいつもいつも、良くも悪くも私のつまらない人生に色、変化を与える。それが私の生き甲斐であり、生きる楽しさなんだ。


ずっと拒絶された続けたエドワードと少しは和解できそうで本当にうれしい。

なぜなら、私は彼に深い深い愛情を抱いているから。










本当に、エドワードを、自分の息子の様に想っているから。

だから、

正直、拒絶されていた期間が反抗期としか思えなくて。

拒絶されるたび母親のような者として巣を放たれたような気持ちになってすごく悲しくて。むなしくて。

作ったハンカチは母親としての家族愛のようなものをとびっきり込めて。

いつか、完璧に仲直りして、昔のように彼を息子のような存在として堂々と愛することができるのが楽しみで。

母親のような存在として彼をダンスに誘ったのは、彼がどれだけ紳士として成長したのかを見るためでもあって。

舞台でツンツンだった彼が母親の様な者である自分にちょっとデレたのがすごく嬉しくて。

夜会で着飾った彼を見るたび母親のような存在として誇らしくて仕方がなくて。

母親のような者として、実はアリスとエドワードの結婚が楽しみで楽しみで仕方がなくて。

大勢に愛想を振りまく彼が浮気者に育つのがいやで。

けど自分にしかツンツンしない彼にもっと悲しくなって。

あの二人があの日寄り添っていたのを見たとき息子が急激に母親の元を離れた気がして寂しくて悲しくて。

でも息子として大切だから彼の恋を邪魔せず応援しようと決意して。

アリスに誤解されないように心の中では泣きながらわざと避けて。

陰ながら彼を見守る自分を過激なストーカーのように思えて複雑な気持ちになって。

孫の顔が見たくてたまらなくて。

息子のようなエドワードに激しく依存する自分を止められなくて。

昔から乙女ゲームの攻略対象としての彼を恋人を通り越して仮の息子としか見えなくて。大好きで。

生暖かい目でエドワードとアリスの恋を見守るのが楽しくて。

幼いときはエドワードの毎日の成長が嬉しくて。

いつか彼にソフィアお母さんと密かに呼んでほしくて。

彼の母親として彼を愛するのが楽しくて。毎日の生き甲斐で。






今日も今日とて母親のような存在として、彼の恋、彼自身を生暖かく見守る。

私、ソフィアの母性本能が、母親としての愛情がエドワードの、自分に向ける恋情と自分とエドワードが恋仲になる可能性を容赦なく潰しているとことを知らずに。






もしかしたらエドワード視点のをいつかかくかもしれないです。

あと設定集とか。わかりづらいし。

   →かきました!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] これはいい。 やっぱり母性は最強ですね(笑) この手の設定は何だかんだで強引に迫られた主人公が流されるというパターンが多いので、もし続編があるのなら母性全開で今の立ち位置を貫いてほしいもので…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ