午後の一時
最初は、怒りに任せながら、余裕のある態度を見せていた自分が、今頃になって、恥ずかしくなる。
「詩織、ごめんな。オレ一人で突っ走ってるよな」
そんなオレに詩織は、首を横に振った。
「そんな事無い。私、嬉しかった。護の想いが聞けて…。何よりも私が、一番愛してる人だもん」
あんな事をした後なのに、詩織は、嬉しそうな笑顔をオレに見せる。
「オレ、詩織の朝の態度がどうしても気にいらなかったんだ。何も言わずにさっさと行ってしまう詩織に腹が立ったのは、事実。でも、よく考えれば、おれ自身に問題があったわけだよな。本当にごめん」
自己嫌悪に陥る。
あんなに大切にしてきたのに、怒りに任せて、抱いてしまった事に後悔していた。
「もういいよ。私が、逃げ出した事には変わらないし…。自分が、護のものなんだって、実感してる」
詩織が恥ずかしそうに言う。
何て、可愛いんだ。
「そうだぞ。詩織は、オレのだ。誰にもやらねぇよ。オレ以外の奴にあんな顔、見せるな」
オレって、こんなに独占欲強かったか。
恥ずかしくて、顔が火照り出す。
部室でってのが色気がないけどな…。
オレは、目線を外して苦笑する。
「さて、もうすぐ一時間目終わるな。チャイム鳴ったら戻るぞ」
「…うん」
詩織が、オレに背を向けて、服を着出す。
そんな姿を見ながら、オレは。
「詩織」
後ろから詩織に抱くつき、首筋にキスをする。
「ちょっと、護。くすぐったいから、やめてってば…」
詩織に反応が面白くて、いくつものキスを落とす。
その中の一つが、キスマークとして、後が残る。
「ほら、二時間目が始まる前に戻らなきゃ」
詩織が、オレを突き放す。
「チェッ…。仕方ないか…。詩織は、オレのなんだからな。他の男達に触らすなよ」
オレは、悪戯っぽく言うと詩織が、力強く頷いた。
オレは、詩織と別れると自分の教室に戻る。
「お帰り。お前、詩織と何してたんだ?」
優基に耳元で言われた。
エッと…。
オレが、返事に困ってると。
「まさか、お前、詩織を…」
優基の顔が、歪む。
鋭いな。
オレは、思わず首を縦に振る。
「お前!」
優基が、オレの胸ぐらを掴んで、突然叫ぶ。
クラス中が、注目する。
「兄貴達に知られたら、どうするんだよ」
優基が、小声で言いながら、おどおどしだす。
「そんな事言ったって…。つい、勢いで…」
オレは、言葉を濁す。
「つい、勢いって、何?」
ちひろと取り巻くが居た。
「うわっ!」
変な奴等が聞いてた。
「ねぇ、玉城くん。勢いで、どうしたの?」
「何でもねぇ!」
オレは、ぶっきらぼうに答えて、教室から出た。
その後を追うようにして、ちひろ達が付いて来る。
どこまで付いて来るきだよ。
オレは、足早に歩く。
あいつ等、絶対に最後まで聞くに違いねぇ。
変なのに聞かれたなぁ…。
でもオレは、詩織を抱けた事に嬉しかった。
アイツが、オレのものになったっていう事実が、この手に実感を沸かせる。
オレの我儘から、無理矢理だったのに…。
詩織が、それを受け入れてくれたのだ。
それだけで、十分満足。
オレにとって、唯一の救いだ。
「玉城くん。ちょっと待ってよ!」
ちひろの取り巻き達が、廊下を走って来た。
待てって言われて、待つ奴がいるかよ。
ッたく、しつこい奴等だ。
そうこうしてる内に、捕まった。
「ねぇ、玉城くん。さっき、水沢と話してたのって…」
「もしかして、玉城くん。水沢の妹と寝たの?」
ストレートに聞いてきやがって…。
羞じらいもない奴等だ。
「そうだよ。悪いかよ」
オレは、突き放すような言い方になる。
なんで、こいつ等に話さないといけないんだ。
苛々する。
「玉城くんって、ちひろには手を出してないのに何で、水沢の妹には手を出すわけ?」
何で、こいつ等に説明しないといけないんだ?
「ちひろの方が、あんなのよりスタイルいいと思うけど…」
見たこと無いのによく言うよ。
って言うか、オレ、ちひろと付き合ってないって、前に言ったはずだが…。
「あんなのっていうなよ。詩織はお前らと違うんだよ。それにちひろとは、ただのクラスメートだ」
オレは、それだけ言って、その場を離れようとしたが。
「待って…。私と詩織って子のどこが違うのよ!」
ちひろが、突っかかってきた。
「そんな事口で説明できるかよ。唯一言えるのは、オレは詩織を愛しく想ってて、ちひろの事は、なんとも思っていないってことだけは言える」
オレは、思った事をそのまま口にする。
ちひろに対して、酷い事を言ってるは思う。
だけど本当の事だから、弁解するつもり無い。
「もいいか、オレは行く」
「もう一つだけ教えて、彼女のどこが好きなの?」
「全部だよ。強いて言うなら、誰に対しても対等に接して、芯の強いところかな」
オレは、堂々と口にした。
それだけ言って、立ち去る。
ハァー。
何で、あいつ等に詩織のよさを語らなければならないんだ。
でも、あんな事言って、詩織に何かあったら…。
オレは、逆に不安になった。
昼放課。
オレは、詩織の教室に向かう。
「詩織ー。飯、一緒に食おうぜー」
朝の声とあからさまに違う声音で詩織の教室ので入り口で言う。
「先輩、恥ずかしいから、やめてください」
詩織が、珍しく敬語で言ってくる。
「あれー?何時もと違うじゃん」
オレは、詩織の首元を見る。
せっかくオレのだという印を…。
「詩織。そのバンソコ、どうした?」
オレは、小声で聞く。
「ワザト付けたんでしょ」
詩織が、オレを軽く睨みながら言う。
「何の事?」
オレは、惚けた。
「あのー。詩織に玉城先輩、物凄く注目浴びてるんですが…」
って、詩織の親友の里沙ちゃんが言ってきた。
オレは、クラスを見渡す。
全員の視線を集めていた。
オレ達は、顔を見合わせてクスクス笑い。
「ごめんね」
オレ達は、それだけ言って教室を出た。
屋上に出て、弁当を広げて食べ始めた。
昼を食べ終えて、オレは、詩織の膝に寝転がる。
「護。これ、わざと付けたでしょ?」
詩織が、バンソコを指して言う。
「バレた。オレのだって、印を付けただけ」
オレは、笑みを浮かべながら言う。
「ただでさえ、注目浴びてたのに、こんなの付けてたら、余計に目立つじゃん」
詩織の頬が膨らむ。
「そうか。でも、オレは、自分のものに印を付けただけなんだが」
嘘だけど。
詩織が、オレの髪を手で梳いていく。
「気持ちいい。なぁ、詩織」
「うん?」
「ずっと、オレの傍に居てくれよ」
オレは、詩織の目を見ながら言う。
「さぁね。どうかな…」
詩織が、悪戯ぽく言う。
「お願い。ずーっとオレの傍で、笑ってて欲しい」
オレの真面目の言葉に詩織が、笑い出す。
「あ、笑ったなぁ」
オレは、拗ねながら詩織の首に腕を回して頬にキスをする。
「そうだ、あのね。里沙がね、私のファンクラブが解散の方向に向かってるって言ってた」
突然の報告。
「それ、本当か?」
オレの問いかけに詩織が頷く。
「やった!これで、心置きなく詩織に抱きつける。今まで我慢したかいがあった」
嬉しくて、そう言葉にしていた。
キーンコーンカーンコーン。
予鈴が鳴り響く。
甘い時間の終わりを告げてる。
「教室に戻らないと五時間目が始まるよ」
詩織が、困ったように言う。
「戻る前に充電させてくれ」
オレは、そう告げると同時に詩織の唇を塞ぐ。
「……んっ」
詩織の甘い声が漏れる。
「さぁーて。午後の授業も頑張ろう」
オレは、ごまかすように起き上がる。
なぜなら、オレ自信が恥ずかしかった。
「詩織。顔が赤いぞ」
からかうように言う。
「誰がしたのよ。もうー!」
詩織が、恥ずかしそうに言う。
「ほら、早く戻らないと遅れるぞ」
オレは、苦笑いしながら、屋上の出入り口のドアを開けて待つ。
「待ってよー」
詩織が慌てて追い駆けてきた。
その姿が、愛しい。
やっぱり、こいつは誰にも渡せない。
そう思った。