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彼女の笑顔

翌日。

オレは、朝練の為に学校に早く着いた。

さぁてと、今日もやりますか…。

着替えを終えて、グランドに出ると何時ものメニューをこなしていく。

そんなときだった。

正門に人垣が出来ていた。

オレは、中心に居る人物を確認した。

詩織…。

うわぁ…。

なんだ、どんだけの人数が集まってるんだ。

あいつ、大丈夫なのか?

オレは、トレーニングもそっちのけで、その方を見ていた。

暫くして、人垣が消えた。

詩織と目が合う。

“おはよう“

詩織が、ゆっくりと口を動かす。

オレも笑顔で“おはよう“と返す。

すると、一瞬照れ臭そうな顔をしたかと思ったら、飛びっきりの笑顔が返ってきた。

今日も、可愛いぜ。

でも、それが最後に見た詩織の笑顔だった。


オレは、詩織と一緒に居れる時間がなくなった。

学校に居る間は、ファンの奴等がガッチリと監視されてて、近づけない。

かといって、土日は試合が近いから、潰れるし…。

その間にも、詩織から徐々に笑顔が無くなっていった。

オレは、あいつの笑顔を守りたいのに。

今、出来ないなんて……。

「おーい、護。どうしたんだよ、元気ないじゃん」

優基が、話しかけてきた。

「あぁ、ちょっとな…」

オレが、答えると。

「ったく、お前といい、詩織といい。二人して、何しけた面してるんだよ」

優基が、オレの背中を叩く。

「いってえなぁ…」

「悩みなら、聞いてやるぜ」

優基が、真顔で聞いてきた。

「詩織の事」

オレが言うと。

「やっぱり、あいつも元気無いんだよなぁ。お前からあいつに会いに行けば良いじゃん」

優基が言う。

「そう簡単にいかないんだよ。オレが、教室に行くと警戒されてるのか、詩織の周りにファンが集まってて、近付けないんだ」

「相当、参ってるんだな。帰りは?」

「無理だ。試合が近いから、部活が終わるの遅いんだ。だから、まってなくて良いって言ってある」

「遅いって?」

「九時近くまでやってる」

「そっか。その時間まで待たせると、兄貴達が煩いもんな」

優基が、何か考え込んでる。

「任せておけ、俺が何とかしてやるよ」

どこからそんな自信が沸くんだ。

本当にこいつに任せて、大丈夫なのか?

「あれ、信じてないな。だったら良いよ、手伝ってやらない」

優基が、意地悪な笑みを浮かべる。

「わかった。信じる、信じるから、手伝ってくれよ」

オレが、懇願すると。

「わかった。俺が、何とかすたる」

自信満々な優基。

大丈夫かな…。

オレは、不安がよぎった。


数日後。

オレは、家で勉強をしていた。

そんな時。

truuuu…truuuu…。

携帯が鳴り出した。

ディスプレイを見る。

だが、知らない番号が通知されていた。

誰だよ。

しかも、こんな遅くに…。

出るのを躊躇う。

だが…。

「はい?」

オレは、一様出てみた。

「もしもし、どちら様ですか?」

不振に思いながら、話すが。

何も言わないぞ…。

誰だ?

間違い電話か?

オレは、電話を切ろうとしたら…。

『私、詩織です。ごめんなさい、こんな時間にかけてしまって…。どうしても声を聞きたかったから…』

詩織の必至の声。

「本当に詩織?知らない番号が通知されてたから、出るの躊躇ってた。出てよかった」

オレは、久し振りに聞く詩織の声にホッとする。

「なんか、話すのも久し振りだな。最近、会う事もままならなくなったもんな」

『ごめんね。私が、ファンクラブの許可したばっかりに会う事も出来なくなってしまって…』

詩織の消え入りそうな声。

「気にしなくてもいいよ。文化祭の時に思ってたことだからさ」

詩織に安心してもらいたくて言う。

「あの時の詩織、凄く格好よかったし、輝いていたからな。これは、ファンクラブが出来てしまうなって、思ったんだよ。オレとしては、複雑なんだぜ。自分の彼女が、皆に認められてる。だけど、その分一緒に居る時間がなくなるのかなぁって」

オレは、思ってた事をそのまま口にする。

『最初っからわかってたんだ。本当にごめんね。私ったら、全然気付かなかった』

涙声になってる詩織。

必至に堪えてるがわかる。

「詩織、泣いてる?直ぐに行って、涙拭いてやりたい。詩織の笑顔が見たい。明日の日曜日、サッカーの試合なんだ。応援に来て。優基に連れて来てもらえばいいから…。試合前に、充電させてくれ」

オレは、詩織を宥めるように言う。

『わか…った。私も、護の笑顔が見たい』

詩織が、しゃくりあげながら言う。

「じゃあ、明日、待ってる。お休み」

『お休みなさい』

オレは、電話を切ると優基にメールを送る。

“明日、悪いが隣町の総合グランドに詩織を連れて来て欲しい。

時間は、十二時からだが、その前に少し話したいからよろしく。

P.S.本当は、一緒に行きたいが、兄妹の方が来やすいだろうから、よろしくな“

と、簡潔的に打って送った。

あいつの笑顔が見られるなら、オレはどんな事でもする。

オレは、勉強を切り上げ、ベッドに入る。

明日は、早いからな。

オレは、眠りに就いた。



翌日。

オレは、準備をするとロードワークがてら、会場に向かう。

今日、本当に詩織来てくれるのかが、気がかりだ。

オレは、アイツの笑顔を見て安心したい。

その思いだけが募る。

オレが会場に着くと、他のメンバーもポツポツと集まってくる。

「護兄さん、おはよう」

雪菜が車から降りてくる。

「おはよう、雪菜。時間に間に合ったな」

オレは、雪菜の頭を撫でる。

「もう、子供扱いしないでよ」

雪菜がふて腐れる。

「悪いな」

そんな雪菜をホッといて、他のメンバーに声をかける。

「オッス。今日は、頑張ろうな」

「おお。って、玉城。お前ここまでどうやって…」

「どうやってって、走ってきた。ウォーミングアップを兼ねてな」

「タフだな」

って、飽きられた。

まぁ、仕方ないか。

居てもたってもいられなかったからな。

嬉しい反面、不安があるんだよな。

「揃ったか?」

オレが声を掛けると。

「ウッス」

と、声が返ってきた。

「じゃあ、行くか」

オレは先頭を切って中に入った。


グランドでは、他校が試合を行っていた。

凄い白熱した試合だ。

オレ達は、邪魔にならない場所で、ウォーミングアップする。

体が次第に温まり、動けるようになる。

怪我でもしたら、たまらんからな。

試合が始まる一時間前。

「おい、お前ら。腹ごしらえしとけよ」

コーチの声が掛かる。

「はい!」

オレ達は、早めの昼食を取る。

詩織、本当に来るんだろうか?

不安が募る。

昼食を食べ終えて、グランドでパス練習をする。

ふと、会場の入り口に目をやると。

詩織の姿が…。

「ちょっと、抜ける」

オレは、それだけ告げて、グランドを後にする。

客席の入り口でキョロキョロしてる詩織を見つける。

オレは、気付かれないように近付いて、後ろから詩織を抱き締めた。

「やっと会えた。オレの女神」

オレは、恥ずかしげもなく詩織の耳元で囁く。

「護!」

詩織が、振り返り抱きついてきた。

「詩織。そんなに抱きついたら、離せなくなるだろ」

オレは、嬉しくて顔が綻ぶ。

「だって、凄く会いたかったから…」

詩織が、笑顔で言う。

そんな反応が可愛くて仕方がない。

「ちょっと、こっち来て…」

オレは、詩織の手を引いて、人気の無い所まで連れて行く。

「ここならいいか…」

オレは、つい口に出した。

そこで立ち止まり、振り返る。

「詩織、来てくれてありがとう。オレにフル充電させて」

オレは、それだけ言うと詩織を抱き寄せて、唇を奪った。

「詩織の笑顔、久し振りに見た。最近の笑顔は、寂しそうだったから…、心配してたんだ」

詩織の髪で遊びながら言う。

「自分の可愛い彼女の笑顔が見れないのは、寂しい。それが、物凄く辛くてな。どうしたらいいか、わからなくなってた。でも、こうして会うだけでホッとする。オレに対しての笑顔は、曇っていないってな」

オレは、優しく微笑む。

「護。私、あなたに会えなくて、凄く寂しくて、不安になってたの。もしかして、護は私の事、嫌いになってるんじゃないかって…」

今にも泣きそうな顔をする。

「何言ってるんだよ。オレは、直接会えなくても、遠くから見てたよ。日々、元気がなくなっていくのを見て、どうにかしてやりたかった」

詩織の頭を撫でる。

「近くで、お前の顔を見てホッとしたよ。ソロソロ時間だから行くけど、ちゃんと応援するんだぞ」

そう言って、もう一度詩織の唇に軽くキスをする。

そして、オレはピッチに向かった。

よかった。

来てくれて…。

彼女に触れて、やっと安心できた。

詩織の前では、格好悪いところは見せられないな。

応援してくれるんだ。

オレも、頑張らないとな。

あいつが、笑顔になれるように…。

オレは、センターサークルに並び試合が始まった。


「護、頑張れ!」

詩織の声が聞こえてきた。

オレが、ドリブルで上がっていくと、その行く手を塞ぐかのよう待ち構えられる。

オレは一旦戻して、ディフェンダーを交わして、再びパスをもらい、ドリブルそして、センタリングをあげる。

それに追い付いてた同級生が、ヘディングでゴールを決めた。

「よし、まずは一点先制店だ」

そして、そのまま一点を守り、前半戦が終わる。

「後半戦も気を抜くな。攻めの姿勢で行け!」

コーチからの激励をもらい、再度ピッチに立つ。

オレは、詩織の方を見る。

真剣な眼差しで、オレを見ていた。

それが、オレにやる気を起こさせる。

詩織の笑顔が見たい。

オレは、その一心で試合をする。

後半にはいって、直ぐに同点にされた。

そして、後半の折り返し地点で、チャンスが訪れた。

オレは、そのままボールをキープして、ドリブルで上がっていく。

オレの動きに相手が、全く付いてきてない。

そのまま、キーパーとの対決。

オレは、シュートを打つ。

そのシュートは、ゴールネットを揺らしていた。

「やったー!流石、護」

って声が聞こえてくる。

オレは、軽く手を振ると詩織が振り返してくれた。

その笑顔が可愛くて、傍に行きたくなる衝動を抑えるように試合に集中した。


ピッピー。

試合終了のホイッスル。

「やったー!!」

「やっりー!」

詩織と優基が声を揃えて叫んでいた。

相手校との挨拶を終えて、相手チームに挨拶をしに行く。

「ありがとうございました!!」

お礼の挨拶をして、ベンチに戻ると気に雪菜が、駆けてきてタオルを渡してくる。

「護兄さん、おめでとう」

「ありがとう、雪菜」

雪菜が、腕を絡めてくる。

が、お構い無しだ。

オレが、客席に視線を向けると、そこには二人の姿がなかった。

アイツ…。

オレは、居てもたってもいられなかった。

「雪菜、ごめん。オレ、先に帰る」

それだけ告げて、自分の荷物を纏めて、鞄を担ぐと走り出した。

「ちょっと、護兄さん」

背後で、雪菜が叫んでるが、そんなの気にしている暇はない。

早くしないと、アイツが帰っちまう。

オレは、アイツと一緒にデートがてら帰るつもりだったのに…。

アイツは、そうじゃなかったって事だよな。

なんか、腹立ってきた。

オレは、アイツの行動一つ一つに左右されてるっていうのに…。

アイツは、オレの事どうでも良いのかって思わされる。

こんなに振り回されるなんて、思ってもいなかった。


走り続けて、やっと詩織達の背後に追い付いた。

「本当に会わなくてよかったのか?」

優基が、詩織に聞いていた。

「いいよ。試合前に話せたし、今日活躍してたの護だし、主役を取ってしまったら、申し訳ないもん」

って、詩織が答えていた。

「何で、そこでお前が遠慮するんだ!」

オレは、思わず叫んでいた。

詩織と優基が振り返る。

「護…。お前、グランドからここまで走ってきたのか?」

優基が呆れてる。

「優基。悪いが、詩織借りてく」

オレは、詩織の腕を引っ張って歩き出す。

「あいよ。何かあったら、電話しろよ」

優基が呑気に返事した。

「ちょと、痛いよ」

詩織が、呟くように言う。

それでもオレは、お構いなしで、その華奢な腕を引っ張っていった。


無言のまま歩く。

人気の無い川原に着くとオレは、詩織の方を振り返った。

「さっきの、どういう事?オレに遠慮したのか?」

オレは、怒りに任せて言う。

「遠慮なんてしてない…」

「じゃあ、何で逃げるように帰ってくんだ!」

オレの口調が、徐々に強くなっていく。

詩織が、口を開こうとしないから、オレは続けた。

「オレ、試合が終わってから、お前とデートできると思って、楽しみにしてたのに、さっさと帰られて、どれだけショックだったかわかる?」

オレは、自分の胸の内を話す。

「久し振りに声が聞けて、笑顔の詩織と一緒に居たいって思ってたのオレだけ!!オレだけが、期待してただけかよ」

オレは、辛くて仕方なかった。

詩織の事が大切だからこそ、胸の奥がズキンと痛む。

それでも。

「何で、逃げた?オレに話して」

詩織の気持ちを聞きたくて、口調を変えてみた。

「試合が終わって、護の所に行こうとしたよ。でも、護の腕に女の子が腕を絡ませてるのを見たら、行けなかった。だから、護に会わずに帰ろうかと…」

詩織は、今にも泣き出しそうな顔をして、ゆっくりと話し出した。

それを聞いたオレは。

「ごめん。それは、オレが悪い。アイツは、従姉妹だ。偶然、同じ学校だったんだ。しかもサッカー部のマネージャーをしてくれてる」

オレはそう言いながら詩織を抱き寄せた。

「それって、護の事が好きで、一緒の高校を受けて、部のマネージャーになったの間違いじゃないの?」

詩織の鋭い突っ込みに。

「鋭いな、そうみたいだ。オレ、アイツから告白されてるけど、その都度断ってるんだけど、一向に諦めてくれなくて困ってる」

戸惑っている自分が居た。

「オレは、詩織しか興味ない。どんだけ、お前に振り回されてるか…」

オレは、苦笑いする。

「そうかな。私、振り回してるつもり無いんだけど…」

「詩織は、本当にそう思ってる?オレは、お前の一喜一憂に振り回されてるよ」

笑顔で言う。

「なぁ、詩織。このままだと学校で顔を会わす時間がないだろ。この際だから、詩織ファンクラブ解散したらどうだ」

オレは、思わず口にした。

本当は言いたくなかった。

でも、このままでもいけない気がする。

「そうしたいんだけど、私には、どうすることも出来無いんだよね。“迷惑かけない“という条件で、許可したはずなんだけど、私がバカだったのかな」

詩織が落ち込みだした。

「そうかもな。でもオレ、その素直な気持ちで許可した詩織の思いを踏みにじってる奴が居るなら、解散させた方がいい」

オレは、本気でそう思った。

「どうやって?」

詩織が、不安そうな顔をして聞いてきた。

「ファンクラブってことは、会長が居るだろう?そいつに話せばいいんじゃないか?」

「その話をつける事が出来ればいいけどね」

詩織が、呟くように言う。

「それが無理なら、毎日一緒に登校すれば、ある程度の奴等は、ファンクラブから抜けるだろ」

「そうだね。私のせいで迷惑かけてごめん」

詩織が、上目使いでオレを見る。

可愛い…。

「謝るな。オレは、お前と一緒に居れればいいんだ」

オレが、笑顔を見せると詩織が、オレの頬にキスしてきた。

オレは、ただただ驚くしかなかった。

「詩織」

オレの顔に熱が帯びる。

そして、どちらともなく唇を重ねた。

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