夕食…①
夕方、部屋を出てリビングに行くと。
「はーい」
って、詩織が返事をしていた。
何事かとキッチンを覗いてみた。
ピンクのエプロンをした詩織が、母親と一緒に夕食作りをしていた。
「何か、手伝いましょうか?」
オレは、そう声に出していた。
「護くんは、お客様だから、テレビでも見ててね」
母親がそう言って、追い出そうとする。
…が、泊めて貰うのに何もしないわけにはいかない。
「オレが手伝った方が、早いですよ」
そう言いながら、袖を捲る。
石鹸で隅々まで手を洗う。
「じゃあ、お願いしようかな」
オレの行動に母親は諦めたのか、そう言った。
「はい。まずは何を…」
オレが聞くと。
「玉葱、キャベツ、椎茸を微塵切りにしてもらおうかな」
そんな答えが返ってきた。
「お安いご用です」
オレは、言われた食材を手にして、それぞれ刻んでいく。
この材料だと、餃子だろうな。
「護君。手際がいいね」
オレの手元を見て、母親が言ってきた。
「そうでもないですよ」
今までやって来たことだから、慣れっこだ。
「詩織よりも上手かも…」
感心しながら言う母親に。
「母さん!」
詩織が、顔を赤くして怒鳴る。
可愛いなぁ。
オレは、つい笑みが溢れた。
「ほら、詩織は人参を摩り下ろして」
膨れっ面の詩織に母親が一言言う。
「はーい」
詩織は人参の皮を剥き摩り下ろしていく。
そんな姿も微笑ましく思う。
言われたものを全て微塵切りにし終えて、詩織を見ると、力を入れすぎたのか、手を振っていた。
「替わるよ」
オレは、詩織から人参と摩り下ろし器を奪い取る。
「微塵切りは?」
詩織が、まだ手を振りながらオレに聞いてくる。
「終わった」
詩織の質問に短く答える。
詩織が、驚いた顔をする。
そんなに驚くことか?
何て思いながら、人参を摩り下ろした。
「詩織。ボウルに挽き肉四分の一残していれてね」
手が空いた詩織にすかさず指示を出す、母親。
ボウルに言われた分量の挽き肉を入れ、オレが微塵切りした材料と韮、ニンニクそれと摩り下ろした
人参の水気を絞っていれていた。
へぇー、水沢家は人参入れるんだ。
そう思いながら、詩織を見ていた。
「護くん。さっきは、隆弥が出掛けててよかったわね。見つかったら、大変だったわよ」
詩織の母親が、こっそりとオレに耳打ちしてきた。
うわー。
マジ、やばっ……。
目が怖い。
目は口ほどものを言うって、ホントだな。
詩織は、捏ねるのに夢中でこちらには気付いていない。
「しちゃ駄目なんて、年頃の男の子には難しいだろうけど…。もう少し、自嘲してくれると嬉しいかな…。って、思うんだけどね」
困った顔をしながら、声は優しい。
「……はい…」
オレの声が上擦ってしまうのは、致し方ないと思う。
世の中の母親って、こんなに優しいのであろうか?
母親と過ごした時間が少ないからか、何か貴重な体験してる。
そんなオレを見て、詩織が笑みを溢していた。
「それから、詩織を愛してくれてありがとう。護くんが、詩織を大切にしてくれてるの凄くわかる。学校に行かなくてもいいのに詩織のために行ってくれてるよね。感謝してる」
笑顔で言われた。詩織の事が大切だからこそ言える言葉だって思えた。
「オレもです。詩織を生んでくれてありがとうございます。彼女以上に愛せる人はいないです」
オレは、真顔でそう返していた。
母親が涙ぐみ。
「そう言ってくれて、嬉しいな」
って、言葉が返ってきた。
オレ、泣かせるようなこと言ったか?
「護くんとは、親子としてもやっていけるわね」
って言われて、思わず。
「はい!」
って、即答してた。
「そろそろ、皮で包んで。二人でやれるよね」
そう言われて、二人同時に。
「「はい」」
って、返事をしていた。




