優基の相談事
詩織が、慌てて衣服を身に付けていく。
「はい」
オレが、返事を返すと。
「俺だけど、入ってもいいか?」
優基が、遠慮がちに聞いてきた。
何か、何時もと違う気がするんだが…。
「ちょっと、待ってろ」
オレは、そう言うと服を着る。
詩織に目をやる。
着替えを終えていた。
オレはドアに近付き、戸を開けた。
優基が、ひょっこりと顔を出し詩織を見るや。
「何してたんだ?」
訝しげな顔をしてオレを見る。
答えずにいるオレに向かって。
「狼…」
ぼそりと呟いた。ヤバ、見透かされてる。
「お前…」
返す言葉が見つからずにいるオレ。
ニヤニヤする優基に。
「何か、用があったんじゃないのか?」
平静を装って返した。
すると優基が真顔で、詩織を見る。
詩織は、何かを察したのか。
「私、退室します」
詩織が、部屋から出ようとする。
詩織が、邪魔になるような話?
「そうしてくれると助かる」
苦笑いする優基。
詩織が、完全に部屋から出て行くと優基が部屋のドアを閉めた。
「実は、里沙ちゃんが俺の話を聞いてくれないんだよ」
突然の泣き言。
そんなの知るかよ。
「何があったんだよ」
まぁ、今まで詩織の事で色々相談に載ってもらってたから、聞いてやるが…。
確か、コイツらメチャ仲良かったよなぁ。
「とりあえず、座るか」
オレはベッドに優基は地べたに座った。
「何があったか話せ」
オレの声で、優基が弾かれたように話し出した。
一通り話を聞いた。
「なぁ。その相談って、オレじゃなくて詩織にした方がいいんじゃないか?」
オレがそう告げると優基は。
「俺もそう思ったけど、詩織と里沙ちゃん親友だから、通通なんだよね。だから下手に相談できないんだよ」
なんとも情けない声で言う。
普段、お調子者の癖にこんな時にだけオレを頼るなよ。
それに、オレ里沙ちゃんの事、そんなに知らないんだぜ。どう、アドバイスするのがいいんだ。
「お前達の信頼度って、その程度だったんだ?」
気付いたら口にしていた。
ヤベ。
優基、怒ったか?
「そんなことない。俺は、里沙ちゃんだけだ!だからって、夢を諦めることなんてできない」
その言葉を聞いて、優基は今板挟みなんだと知った。
彼女と一緒に居たい…が、自分の夢も叶えたい。その為には、彼女と離れないといけない。
だからこそ、迷うんだな。
オレもそうだ。
葛藤してるんだよな。
優基の気持ちもわかる。
でも、彼女の気持ちもわかるんだよな…。
「どうやって、説得したらいいんだ」
優基が、狼狽えている。
こんな優基見るの初めてかも…。
俺は、腕を組考える。
優基にとって、どっちも大切なんだ。
オレは、自分に置き換えた。
自分の夢のために地元を離れた大学に入学する。
独り暮らしをしながら、バイトして…。定期的に彼女と連絡を入れる。会えない時間、彼女の心配をする自分。
「オレなら、耐えられないだろうな…」
つい口にしてしまった。
「えっ…」
優基の耳にも届いたのか、不思議そうな顔でオレを見る。
「オレなら耐えられない。彼女の傍に居られないのなら、いっそう同棲でもして一緒に居られるようにするが…。そうも言ってられないんだろ」
オレの言葉に愕然とする優基。
そりゃあ、そうだろうな…。
突拍子もないことを言ってると自分でも思う。
「彼女に夢とかあればいいんだが…」
オレは、フと思い出した。
詩織と付き合い始めた頃だった。
“やりたい事ありますか?”
それに答えると。
“やりたい事ある人はいいですよね”
って、羨ましそうに詩織は言っていた。
それって、もしかすると。
「優基。里沙ちゃんって、夢があるんじゃないのか?」
確信はない。
けど、詩織のあの言い草からすると里沙ちゃんには夢があるはず。
「さぁ。俺は聞いたこと無いけど」
優基が、そう答える。
「やっぱ、この相談は詩織にのってもらった方がいい。里沙ちゃん、夢があるはずだから、その夢も詩織は知ってる筈」
俺は、一気に告げた。
「そうなんだろうか?」
不安げな顔を見せる優基。
「なんなら、オレから詩織に言おうか?」
「其れ丈は、遠慮しておく」
苦笑を浮かべる優基。
何でだよ。
一番の相談役が、傍にいるのに…。
妹だから嫌なのか?
「とりあえず、オレも考えておくから…」
そう言うしかなかった。
詩織に聞いた方が、早いと思うんだが…。
それとなく、聞いてみるか…。




