隆弥さんと…
あ、お金……。
って、オレ財布学校だ。
学校に財布を取りに行かないといけないじゃん。
そう思ってると。
「支払い、済ませてきた。薬ももらってきた」
隆弥さんが、薬の入った袋を渡してきた。
「ありがとうございます。支払いは…」
「どうせ今、持ってないんだろ?後でいいよ」
隆弥さんが、そう言ってくれた 。
この人って、本当に良く気がつくよ。
って、そういやオレユニフォーム姿だ、これじゃあ持ってないって直ぐにわかるか……。
「これから、お前の家に行って、二三日分の着替えを取りに行ってから、昼飯食って帰るぞ」
有無を言わせぬ言い方。
それでも、オレに方を貸してくれる隆弥さんの優しさに感謝だな。
「本当に何から何まで、ありがとうございます」
オレがお礼を言うと。
「気にするな。困ったときは、お互い様だろ」
隆弥さんが、照れ隠しのような笑い方をする。
この人には、絶対叶わない。
人の痛みを解ってるからこそ、心底心配してくれてるし、怒ってくれてるんだと思う。
隆弥さんの車に乗り込み、家に向かった。
家に着くと、ユニフォームを脱ぎ私服に着替えた。
「護、準備できたか?」
玄関先で、隆弥さんの呼ぶ声。
「あっ、はい。直ぐに行きます」
オレは、そう返事を返すとスポーツバックに着替えを詰め込んだ。
それを持って玄関に向かう。
「お待たせしました」
オレはそう声をかけた。
「荷物は、これだけなのか?」
オレが持っていたバックを隆弥さんが奪い取っていく。
「はい。今は、三年生だけ自由登校なんで、教科書類持っていっても授業があるってわけでは、ないですから…」
いったい何しにいくんだ、オレ?
「もう、そんな時期か…。で、お前が学校に行く理由は?」
今オレが思っていたことを聞いてきた。
「理由ですか?理由は、少しでも詩織との思い出を作りたいのとオレが、傍に居たいってだけですよ」
オレは、素直に答えた。
どうせ、隠していてもバレルだろうし……。
「そうだよな。卒業して大学に入ったら、詩織とも会う時間作るの大変だろうな…」
隆弥さんが、何か考え始めた。
「おーっし。忘れ物無いなら行くか」
オレは、靴を履き終えると玄関を出て鍵を閉めた。
「ところでさぁ、親父さん何やってる人?」
隆弥さんが聞いてきた。
「何って?顔合わせの時に公務員って言いませんでした?」
オレは、逆に聞き返した。
「それは聞いた。公務員でも色々あるだろ?
」
「刑事です」
オレは、素直に伝えた。
「なるほど。それで納得した。お前が、曲がったことが嫌いなのもその影響だったりするのか?」
性格に出てたのか?
「そうかもしれません。父一人子一人なので、親父の背中を常に見てきたので、馬鹿正直な所も似たのかも知れませんね」
自分で、自嘲する。
「そうか?詩織は、そこに惚れたんじゃないのか?護が、一本気な所があるからこそ、好きになったんだと俺は思うんだが…」
隆弥さんが、真顔で言う。
そうなんだろうか?
って言うか、詩織だけだったんだよなぁ。
見てくれで選んでないって思ったのは…。内面を見極めて好きって言ってくれたの。
「どうした?考え事か?」
隆弥さんに覗き込まれるように見られて、オレは慌てた。
「前に詩織に言われたんです。オレの好きなところは、“一生懸命に一つの事に取り組む姿勢が好き”って…」
「アイツは、ちゃんと人の行動を見てるからな。外面が良いだけじゃダメなんだよ。内に秘めてるものがないとな。だから、他の奴等が告白なんかしても詩織は、全て断ってた筈だ。自分の目で確かめて、自分の目で選んでるはず」
隆弥さんが、詩織を誉めてる。
「アイツの中には、芯の強さがあるから、それに気付いた奴がアイツの心を手にすると思ってた。それが、お前だっただけだ」
隆弥さんの声のトーンが、少し上がった。
そっか。隆弥さんは、優しいだけじゃなく、厳しさも自分に向けてるから、人を見る目が越えてるんだ。
「さて、護は何が食べたい?」
隆弥さんが、突然話を変えた。
う〜ん。
「遠慮するなよ。合格祝いを兼ねて、奢ってやるから…」
「じゃあ、お言葉に甘えて、和食が食べたいです」
オレは、そう口に出していた。
「和食か…。定食とかでいいのか?」
「はい」
オレが返事をすると。
「わかった。いい店知ってるから、そこに行くか」
隆弥さんの車に乗り込むと、車を走らせた。