優しい義兄
正門の柱に持たれながら、隆弥さんが来るのを待つ。
「本当に大丈夫?紫色に腫れてるよ」
詩織が、顔をしかめながら言う。
「あぁ、大丈夫だ。詩織は、心配性だなぁ」
オレは、苦笑する。
本当は、かなり痛いんだが、弱いところなんか、見せたくない。
「だって、何かあってからじゃ、遅いんだよ」
詩織が、膨れっ面になりながら言う。
「はいはい。わかったから、今日は素直にお前の言うこと聞くよ」
オレは、かなり詩織に甘いらしい。
そんな時だ。
プップー。
クラクションの音が聞こえた。
隆弥さんが、車から降りてくる。
オレ達の方に近付いてきて、オレの足に視線を落とした。
「派手にやったなぁ。歩くのも辛いだろうが……」
隆弥さんが、オレに肩を貸してくれる。
「詩織。お前、護の着替えを持って、先に帰ってな。この足じゃあ、自分の家から学校に通うのは辛いだろうから、家から通学させる」
隆弥さんが、詩織に伝える。
「エッ…」
オレは、一瞬何を言われたのかわからなかった。
「一様、俺が何時も行ってる病院には連れていくから、安心して家で待ってろ」
隆弥さんの車に乗せられ、静かに車を出す。
「護。もう、我慢しなくていいぞ」
隆弥さんが、意味深な言葉を告げる。
「詩織の前では、言えなかったんだろ?」
隆弥さんには、お見通しだったみたいだ。
「アハハハ…ばれていました?」
オレは、顔を歪ませた。
「当たり前だろう。好きな奴の前では言えないだろ」
隆弥さんが、クスクス笑う。
「ほら、着いたぞ」
隆弥さんが駐車場に車を止める。
隆弥さんが先に降り、オレに肩を貸してくれる。
「すみません」
オレは、隆弥さんに対して恐縮してると。
「いいよ。詩織のためだ。仕方ない…。って、嘘だよ。俺は、お前の兄だからなこれぐらいは、頼れよ」
豪快に笑う。
本当に頼もしい。
こんな人が、兄になってくれるなんて、オレとしてはありがたい。
待合室の椅子に座らされる。
「とりあえず、受付してくるな」
隆弥さんはそう告げて受け付けに向かった。
個人病院にしては、広いな。
前回来たときは、詩織の事もあって、それどころじゃなかったんだよな。
「護。直ぐに診察室に来てくれって」
そう告げられ、隆弥さんに肩を借りながら診察室に向かった。
「隆弥君。久し振りだな」
先生は、親しみを込めて隆弥さんに言う。
「そうですね。最近は、骨折もしませんしね」
隆弥さんが、先生に言う。
「ってことは、空手は辞めたのか?」
「辞めていませんよ。ただ、稽古に行く時間が取れなくなってしまったんです」
って、隆弥さんが答えてた。
「そうだったんか。まぁ、体を鍛えることはいいことだけら、続けなさい」
「先生に言われなくても、そのつもりです」
皮肉を込めて言う隆弥さん、
珍しいもの見せてもらったかも……。
「…で、今回、始めましてですね。どうしたんですか?」
丁寧に聞かれて。オレは、蹴られた場所を見せる。
「これなんですが…」
「酷くやられましたね。念のためにレントゲンを撮っておきましょうか」
怪我の場所を見て、直ぐに先生が言う。
「隆弥君。すまないが、レントゲン室まで連れてってくれるか?」
「そういうと思った。ほら、護」
隆弥さんは、そう答えるとオレに肩を貸してくれる。
そして、そのままレントゲン室に連れていかれた。
「隆弥君が居てくれると場所を言わなくても、連れてってもらえるから、私も助かります」
にこにこしながら言う。
「ガキの頃から通ってるんだから、今更説明されなくてもわかるって」
隆弥さんが、面倒臭そうに言い返す。
「では、彼をこちらに…」
レントゲン室に入り、診療台に座らされる。
「ここに足をやってください」
先生の指示にしたがって、その場所に怪我をしたところをのせる。
「そのまま動かさないでくださいね。隆弥君は出て」
物腰の柔らかい話し方の先生だなぁ。
先生も部屋から出て、隣接する部屋で何らかの操作をしていた。
少しして。
「お疲れ様。隆弥君、このまま診察室まで彼を連れてってください。痛み止を打ちますから」
先生の優しい声音。
「俺、今日は貧乏くじ引いたみたいだ」
隆弥さんが、苦虫を噛んだような顔をする。
「本当にすみません。詩織が脅してたから…」
オレは、隆弥さんに謝る。
「気にするな。アイツなりに心配だったんだろ。足が使えないようになったら困るもんな」
隆弥さんが苦笑する。
この人、ほんと優しすぎ。
詩織の兄なんだから、当たり前か…。
その後、痛み止を打って貰い、怪我の処置をしてもらう。
レントゲンの結果を聞くと。
「取り合えず、一週間分の痛み止と解熱剤を出しておくね」
先生がニコニコしながら言う。
「はい、ありがとうございました」
先生に頭を下げた。
「お大事に」
先生が、朗らかな笑みを浮かべながら言う。
痛み止が効くまでは、暫く時間がかかるらしい。
「まだ、一人出歩くのは辛いだろ」
そう言いながら、隆弥さんが肩を貸してくれる。
「ここで待ってろ。支払いしてくる」
待ち合いすの椅子に座ると、隆弥さんはそれだけ言い残し、支払いを済ませに行ってしまった。