試合終了
「詩織ちゃん。貰ってきたよ」
彼女は、大量の氷を抱えて戻ってきた。
「ありがとう」
詩織は、彼女にお礼を告げて、氷水の交換し出す。
「どう?」
詩織が、心配顔でオレを見る。
「冷たくて気持ちいい」
熱を帯びた場所に氷水を宛がう詩織に告げた。
「腫れが引かなかったら、隆弥兄呼ぶからね」
詩織の脅しが入る。
「それは、遠慮したいとこだなぁ…」
オレは、苦笑する。
「だけど…」
詩織が言い淀む。
「大丈夫。それより、詩織の手の方が、赤くなってる」
冷たい氷を触ってる詩織の手の方が、気になる。
「気にしなくていいよ。これくらい、なんともないから…」
笑顔で言う詩織。
指先を真っ赤にして、詩織は何でもないって言う。
本当は、痛いはずなんだ。
けど、オレの手前言えずにいる。
そうこうしているうちに、終了のホイッスルが聞こえてきた。
結果は、三対二で勝ったみたいだが…。
オレは、ただの足手まといみたいだな……。
「勝ったみたいだね」
詩織が、嬉しそうな声をあげる。
「そうだな」
オレは、自分が情けなくなってきた。
ピッチでは、選手が挨拶を交わしてた。
本当は、あそこにオレも立っていた筈なんだが…。
悔しくて堪らない。
オレは、こんなにもサッカーが好きなんだと思い知らされた。
相手校の選手が此方に来る。
アイツだ。
オレの足を蹴った奴。
そいつの目を睨み付ける。
奴は、一瞬たじろぎ身を縮めた。
「ありがとうございました!」
挨拶を済ますと、さっさと戻っていく。
そうだろうな。
オレが口にしたら、アイツがサッカーやれなくなる可能性も出てくる。
それは、辛いだろうから、言わずに措くべきだな。
後輩たちが、挨拶を終えて、ゾロゾロと戻ってくるのを目でとらえた。
「玉城先輩、大丈夫ですか?」
心配そうに声を掛けてくる。
「ああ、大丈夫だ。心配するな」
オレは、これ以上心配されるのが嫌で、強がって見せる。
「無理矢理引っ張り出して、すみませんでした」
後輩に頭を下げられたら、怒れない。
「いいよ。オレも楽しめたからな」
笑顔で、答えた。
「それから、生徒会長。応援、ありがとうございました。会長の声援で、皆のやる気が出せました。本当にありがとうございます」
詩織に向き直って、頭を下げる後輩。
「勝ててよかったです。これからも頑張ってくださいね」
詩織が、労いの言葉をかける。
「では、俺たち、片付けがありますので、失礼します」
彼らは、それだけ言うとグランドに散って行った。