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痛みと我が儘と

「大丈夫?」

詩織が、心配そうにオレの顔を見てくる。

「まぁな」

オレは、つい強がりを言ってしまった。

やっぱ、好きな娘の前では見せられねぇよ。

弱いところ何てな……。

「いつやられた」

コーチが真顔で聞いてきた。

オレは、靴下を足首までおろした。

脹ら脛のところが、紫色に変色してる。

「センタリングをあげた直後に相手の爪先が当たったんです」

あれは、当たったんじゃなくて、狙って蹴ってきたと言っても言いかもしれないが…。

オレは、それを告げずにいた。

詩織が、余計に心配するから。

コーチが、手早く処置を施す。

「生徒会長。手伝ってもらえますか?」

雪菜が、珍しく詩織に言う。

「いいわよ。何すればいいの?」

詩織は詩織で、雪菜の指示を仰ぐ。

「少しの間、これで冷やしておいてもらえますか?」

雪菜が、氷水の入った袋を詩織に手渡す。

「わかった」

詩織は、それをもってオレの側に来ると腫れてる部分にあてがう。

「こんなに腫らして、本当に大丈夫なの?」

詩織が、心配そうにオレの顔を覗き込んでくる。

「………」

何も言えない。

痛いなんて、言えるわけない。

ただの強がりだ。

「無理しちゃダメだよ」

「ああ……」

オレは、悔しくなった。

何で、こんなことになってるんだ?

「そんなに痛みが酷いなら、この後のデート無しにしよ」

詩織が、心配そうな顔をしながら言う。

「デートはしたい」

無茶なことを言ってるのは、わかってる。

こんなの子供の我が儘と変わらないことも……。

でも、あんなに楽しみにしていた制服デートだ今更、詩織をがっかりさせたくない。

それに、オレ自身も楽しみにしていたんだ。

こんな事で、台無しにしたくない。

「でも、痛むんだよね」

詩織の心配そうな声。

それに答えずにいると。

「私は、護の事が心配なの。デートは、何時だって出来るから、今はこの腫れが引くのに専念してよ」

詩織の口調が怒ってる。

本気で、心配してるんだってわかる。

「だけど…」

「だけどじゃない!この腫れが引かないと歩けないでしょ。それじゃあ、デートどころじゃないよ。途中で腫れが痛みに変わるかもしれないんだからね」

詩織が、頬を膨らませてる。

可愛い……。

仕方がない。

詩織の言う事を聞いた方がいいか……。

「……わかった。今日は、大人しくしてる…」

オレの言葉にやっと安心したのか、少しだけ溜め息を付いていた。

「その代わり、詩織の家に行ってもいい?」

ただ、詩織と一緒に居たかっただけなのだが、詩織は。

「いいけど、何で?」

って!小首を傾げて聞いてきた。

気付けよ。

って思いながらも。

「隆弥さんに用事」

って、ごまかす。

それが不服だったのか、詩織が残念そうな顔をする。

ごめんなさい、隆弥さん。

出しに使ってしまって……。

詩織が、押し当てていた袋の面を変える。

その時、一番いた居場所に当たった。

「…っつ……」

口から、声が漏れる。

我慢してるのバレバレだよな。

「詩織、悪いな」

オレは、足元に座り込んでいる詩織の頭を撫でた。

何かしてないと痛みでどうにかなりそうだ。

「何が?」

って、キョトンとしてる。

「せっかくの試合の応援に来てたのに…。オレの手当て何てさせて……」

オレは申し訳なくて、そう口にしていた。

「気にしなくていいよ。それに護の活躍も沢山見れたしね」

詩織が微笑んでいる。

本当なのか?

「本当は、最後までピッチに立っていたかったんだがな」

オレは、悔しくてたまらなかった。

「アクシデントなんだから、仕方ないじゃん」

詩織が、そんな顔するなって、オレを励まして言ってくれてるのはわかる。。

それでも、詩織のガッカリした顔を見せるから。

「そんなガッカリするなよ。大学に行ってもサッカーは続けるつもりだから…。試合の時は、ちゃんと呼ぶから…」

オレはそう言いながら、頬を緩めた。

「本当?」

詩織が食いついてきた。

「本当。オレ、サッカー好きだしな」

オレは、素直な思いでそう口にしていた。

詩織が、オレの言葉に微笑む。

そして、腫れているオレの足の氷を退かして、直接触ってきた。

うっ……。

声にまでは出ずに済んだが、流石に痛い。

「雪菜ちゃん。氷、まだある?」

詩織が、雪菜に声をかけてる。

「ちょうど今、切らしてて……」

雪菜が申し訳なさそうに言う。

詩織は、その直後。

「忍ちゃん」

生徒会メンバーの一人に声をかけてる。

「何?詩織ちゃん」

その子は、直ぐに詩織の側に来ていた。

「悪いけど、職員室に行って氷もらって来てもらえないかなぁ?」

「うん、いいよ」

そう返事して、彼女は走って職員室向かっていった。

ほんと、詩織って、色んな奴からの信頼が厚いんだな。

そう思わずには、いられなかった。


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