ゲーム 前半
ウォーミングアップを軽くする。
すると躰が、悲鳴をあげる。
明らかに運動不足。
受験の合間に走り込みでもしておけばよかった。
今更ながら、後悔する。
こんなんで、キャプテンなんか勤まるんか?
本当は、もう少し躰を解したいところだが…。
無償にも集合の合図。
この試合、嫌な事が起こるかも…。
そんな予感がした。
センターラインに整列する。
ピッピー!
ホイッスルが鳴る。
コイントスが行われ、オレ達が選択権を取った。
試合が始まる。
オレは、事細かく指示を出す。
…が、全てが裏目に出ている。
このままじゃ、後輩に迷惑が掛かる。
オレは、自分が措かれてる状況を冷静に把握しようと頭をフル回転させる。
オレのマークには、浅井がついてる。
こいつ、以外と素早い。
相手の攻撃が続くなか、オレは突破口を探っていた。
そこに。
「護。頑張れ!」
と、詩織の声が聞こえてきた。
オレは、一瞬だけ詩織の方に視線を送る。
詩織が、一生懸命応援してくれてる。
オレは、そんな詩織の思いに答えたくて、指示を出した。
「オレにボールくれ」
すると、キーパーからのパスが、上手い具合にオレのところに届く。
…が、ヤツがオレの行く手を邪魔する。
…っち………。
どうしたもんか……。
考えろ。
ダブルフェイントなら抜けるか……。
「ファイト!護」
詩織の声援が、オレの背中を押す。
オレは、一か八かの賭けで、フェイントをかけた。
見事にヤツは引っ掛かってくれた。
オレは、そのままゴールまで持っていく。
が、ディフェンダーがオレを囲む。
後ろに見方が居るのを確認して、すかさずパスを出す。
オレは、その須木に空いているスペースに移動する。
そこに合わせるようにパスが来る。
オレは、そのままシュートを打ち込んだ。
それが、ゴールネットを揺らす。
「やったー!」
詩織の声が、グランドに響き渡る。
よし、先制点だ。
オレも、ついガッツポーズをした。
次のゲームが始まる。
オレは、もう一度気を引き締めて望む。
相手のパス廻しが、さっきよりも早くなってる。
どう対処したら…。
冷静さを欠かさずに考えてると、目の前にヤツがいる。
ヤツは、オレをずっとマークするらしい。
まさかと思うが、詩織の事でまだ…。
って、私情を挟んでる場合じゃない。
ゲームをどうするかだ。
オレは、改めて考える。
ディフェンダーが、ボールを奪いこちらに送ってくる。
オレは、瞬時にその対応に追われる。
目の前のヤツをどうにか交わして上がる。
オレがノーマークになったところにボールが回ってきた。
オレは、そのまま上がっていき、センタリングをあげる。
それは、味方に渡りシュートを放つ。
キーパーに弾かれ、弧を描き飛ばされる。
オレは、そのボールを追いヘディングで押し込んだ。
「やったー!護、すごーい 」
詩織が、大声で叫んでる。
オレは、詩織に向かってガッツポーズ。
詩織が、笑顔で手を振ってくれる。
可愛いぜ。
「玉城先輩、見事です」
後輩たちが、集まる。
「当たり前だろ。お前らもこれくらい出来るだろ」
オレは、得意気に言う。
「ほら、ポジションにつけよ。次が始まる」
後輩たちを散らす。
オレも自分のポジションに着く。
暫くの間、攻防戦が続く。
そんな時。
ピッピーー!
前半終了のホイッスルが鳴った。
オレは、ベンチに戻る。
「護兄さん。はい、タオルとスポーツドリンク」
雪菜が、二つを持ってオレに渡してきた。
「ああ」
オレは、それを受け取って、ベンチに腰を下ろす。
何時もより、消耗が激しいかも…。
やっぱり、躰を動かしてなかった分、負担が大きいのかも…。
「護…」
後ろから、声を掛けられて振り返る。
「詩織」
オレは、腰を上げて詩織のところに行く。
「護。凄くカッコいい。惚れ直しちゃった」
笑顔で、詩織が言う。
「…また。そんな笑顔で言ったら、反則だって」
オレの顔が、熱くなってくるのがわかる。
「集中してるときにゴメンね」
詩織が、真顔で言う。
「大丈夫だ。今は雑談してた方が、後半戦に持っていきやすい」
オレは、詩織を抱き締めた。
ホッとする。
詩織が、オレの傍に居てくれるだけで、こんなにも落ち着ける。
「護…」
詩織が、戸惑いだす。
「ここで、キスするわけにはいかないからな。今は、このままで居て…」
オレの言葉に詩織は何も言わず、そのままされるがままで居てくれた。
「応援しすぎて、声からすなよ」
「うん。浅井君には気を付けてね。彼、此処とぞばかりに延びるタイプだから…」
詩織が、心配そうに言う。
「ああ、わかった」
オレは、詩織にそう言って放した。
そうか……。
ヤツは、これからが驚異になるのか…。
これは、注意が必要かもしれないな。
この後、思いもよらぬ事態になるなんて、思っていなかった。




