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詩織の元カレ

 翌日。

 午前中は、塾の個室で集中して勉強していた。

 午後に入り、集中力が切れた。

 ふと、時計を見ると待ち合わせ時間が近付いていた。


 ヤバッ。

 慌てて、鞄に教科書類を詰め込む。

 塾を出て、詩織のバイト先に向かった。


 一体、何の用なんだ?


 オレは、モヤモヤした気持ちのまま向かう。




 店の入り口のドアを開ける。

 チリリ…。

 ドアにかかってる鈴が鳴る。

「いらっしゃいませ。お客様、何名様…」

 言葉が途中で途切れた。

 声だけで、詩織だとわかる。

「どうしたんだ、詩織?」

 戸惑ってる詩織声をかける。

「ううん。何でもない」

 慌てて、首を横に振る。

「人と待ち合わせなんだ」

 と告げると、知ってるよって顔をみせる。

 やっぱり、詩織が関係してたんだな。

「席に案内します」

 詩織は、事務的な言葉を言うと案内してくれた。

「ご注文が決まりましたら、ブザーでお知らせください」

 そう告げて、詩織は行ってしまった。


 ったく…。

 どういう事なんだ?


 暫くすると詩織が優基と知らない奴を連れて、やって来た。


 まさか…。

 だよな…。


「こちらです。ご注文が決まりましたら、お知らせください」

 詩織が、我関せずって感じで行ってしまう。


 この沈黙は、何なんだ?

 何か、重苦しいんだが…。

 とりあえず、頭使ってたから、甘いものが食いたい。

 メニューを捲りながら、ケーキのところで止めた。


 季節のケーキセットか…。

 おし、これにしよう。

「護、決まったか?」

 優基が聞いてきた。

「ああ」

 短く返事を返すと、優基がボタンを押す。

 ……が。

 なかなか、オーダーを取りに来ない。

 痺れを切らした優基が。

「詩織、オーダーとって」

 近くで、片付けをしてた詩織に声をかけた。

「お待たせしました。ご注文をどうぞ」

 詩織が、笑顔で注文を取りに来た。


 オレの向かい側に座ってる奴が、詩織を見て赤くなり出した。

 あぁ。

 今日は、こいつのせいで、呼び出しをくらったんだな。

 そんなことを思いながら。

「オレは、優基と一緒で…」

 と、注文した。

「ご注文を繰り返させて頂きます。季節のケーキセットとコーヒーを二つ。ミルフィーユを一つ、紅茶のアッサムティーを一つで、以上でよろしかったでしょうか?」

 詩織が、笑顔を絶やすことなく注文を繰り返した。

「あぁ」

 優基が、そっけなく答える。

「では、失礼します」

 詩織は、またテキパキとテーブルに載ってる食器を片付け出す。

 オレは、彼を観察した。

 詩織の動きを目で追っていやがる。

 これが、何を指しているのか、薄々気が付いた。

 元彼か?

 そうこうしてると。

「お待たせいたしました。ミルフィーユとアッサムティーでございます」

 詩織が、トレーに載せて、注文の品を運んでくる。

「季節のケーキセットでございます」

 詩織が、はにかみながらオレに言う。

 また、こんなところで、嬉しそうに言われると、襲いたくなるだろうが…。

 自制心と闘いながら、見つめていると。

「詩織。ちょっと休憩貰ってこい。今なら、客が少ないからいいだろ?」

 と、詩織に言ってるのが聞こえてきた。

 詩織もそれに頷いてる。

 詩織が、奥に引っ込んだと同時に再び沈黙が、オレたちを襲う。

 なんなんだよ。

 オレが、沈黙に耐えかねていた。

 そこに、詩織がやって来る。


「何だ。詩織、仕事終わりか?」

 優基が、驚いたように言う。

「うん。休みなのに入ったから、上がっていいって、店長が…」

 詩織が、オレの隣に座る。

 と同時に。

「詩織、何飲む?」

 里沙ちゃんが、注文を取りに来た。

 優基の顔が、緩んでるし…。

「コーヒーで」

 詩織が注文する。

 コーヒーって…。

 普段飲んでないじゃん。

「わかりました」

 里沙ちゃんは、そう言って、去っていく。

 里沙ちゃんも、何となく判ってるみたいな顔をしてた。

 でも、この沈黙は…。

 一体、何時になったら終わるんだ?

 誰も、言葉を発しないから、オレは痺れを切らした。

「…で、優基。オレに頼みたい事って?」

 オレは、優基に話しかけた。

 が、

「詩織から、聞いてくれ」

 って、詩織に話を振っている。

「詩織、何?」

 オレは、詩織の顔を覗き込むようにして聞く。

「ごめんね。勉強の邪魔して…」

 本筋を隠すように言う。

「いいよ。詩織の頼みだ、断れない」

 普通に答える。

 そこに。

「お待たせしました。コーヒーです。ごゆっくり」

 里沙ちゃんは、詩織のコーヒーを置いて、立ち去る。

 優基は、里沙ちゃんを追ってるが…。

「優兄。護にあの事話した?」

 詩織の言葉に。

「話してない。詩織の言葉で話してやりな」

 って、話しかけるなって顔をする。

 アハハ…。

 優基らしい。

 それから、詩織がゆっくりと話し出した。



「護。私ね、中学の時に一人だけ付き合ったことがあるんだ。その彼が、護の前に座ってる浅井くん」

 紹介された奴が、軽く頭を下げた。

「昨日、偶然あって、私に“彼氏が居るか?“って聞かれて“居るよ“って言ったら、会わせてくれって言われて…。私…」

 詩織が、言いにくそうに説明してくれる。

 オレは、そんな詩織に。

「わかったから。もう言わなくていい。言いづらいよな」

 そう告げて、抱き寄せた。

 何となく、わかっていた。

 こいつが、詩織の元カレとはな…。

 オレとは、全く正反対だな。

「そこ。二人の世界を作るな」

 チッ……。

 優基が、苦笑しながら言う。

「どういうこと?」

 オレの前に居る奴は、何の事かわかっていないようだ。

「ここからは、オレが話すよ」

 オレは、彼に向き直った。



「実は、オレ、今謹慎処分中。隆弥さんから、詩織に会うなって言われてる」

「じゃあ、今、オレが水沢に手を出してもいいですよね?」

 彼は、真剣に言う。

「それは、無理だ」

 優基が、オレに代わって答えていた。さっきまで、里沙ちゃんを追ってたんじゃ…。

「これは、隆兄から護に対する試練だ。こいつらが、ある条件をクリアしたら、婚約するんだよ。だから、その前に隆兄が護を鍛えるためにわざと試練を与えてるんだ」

 優基が、さっきと代わって、流暢に語る。

「そんなぁ…。ってことは、オレ、この二人の間を割ることできないんですか?」

 彼は、肩を落とす。

「悪いな。オレ、こいつだけだから、他の奴じゃ、物足りないんだ」

 オレは、そう言いながら詩織の頭を撫でた。

 詩織が、オレに微笑んでる。

 こいつ。

 オレの事、壊す気かよ。

 こんな微笑み称えられたら、どうにかなるだろうが…。

「はぁー」

 奴は、大きな溜め息をついた。

「水沢の事、諦めがつきました」

 落胆した声。

 悪いな。

 こいつは、もう手放すつもりなんて、更々ないんだ。

「オレさぁ。昨日、水沢と偶然会って、これも運命だと思ってたら、彼氏が居るって聞いて、嘘だろって信じなかった。今、こうして目の当たりにして、納得するしかないだろ」

 オレは、詩織の顔を見つめた。

 詩織は、微笑みを絶やさずに居る。

 こんな、居心地のいい場所、誰が譲るかよ。

「そんなキラキラ笑顔を見たら、諦めるしかないだろ」

 彼は苦笑してる。

「さてと。そろそろ帰るか?隆兄に見つかる前に…」

 優基が、席を立ったときだった。

「詩織!何してるんだ!!」

 言ってる傍から、隆弥さんの怒鳴り声。

「詩織。お前、俺との約束、破るとはな。何考えてるんだ」

 隆弥さんの声が、店内に響く。

「ごめんなさい、隆弥兄。言い分けはしません。私が悪いんです」

 詩織が、シュンと肩を落として言う。

 詩織…。

 オレを庇って…。

「わかった。ほら、帰るぞ。護、頑張れよ」

 隆弥さんが、そう言うと伝票をもって詩織を引っ張っていく。

「あーあ。結局、見つかった。でも、隆兄の顔、穏やかだったな」

 優基が、不思議そうな顔をする。

 隆弥さんの事だから、察しがついたんだろう。

「そうだな。オレ等も帰るか」

 オレは、そう告げて席を立つ。

「そうするか…。で、護、解らないところがあるんだが、教えてくれるか?」

 優基が聞いてきた。

「いいけど。オレん家来るか?」

「ああ。じゃあな。浅井。また声かけてな」

 優基は、奴に声をかけたかと思うと歩き出した。


 オレ達は、店を出ると家に向かって歩き出した。

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