葛藤
今回は、切るところが見当たらず、長いですが飽きずに読んでいただけたらと思います(^-^;
翌日からオレは、塾と家との往復の日々だった。
詩織の為にも自分の為にも今は、第一志望の大学に受かることが目標だ。
そんな時だった。
塾の廊下で、中学の友達が、何やら話し込んでいた。
「マジで、メチャ可愛いんだよ」
何て声が聞こえてくる。
素知らぬ振りで通りすぎようとした。
「おっ、護じゃん。お前も一緒に来るか?」
と、声をかけられた。
どうせ、大したことないんだろうが。
「何の話だ?」
と返し、その中に混じって話を聞く。
用は、ファミレスに可愛い子が居るってことだった。
そんな事か・・・。
まぁ、オレには関係の無いことだ。
オレには、詩織が居るし・・・。
「じゃあ・・・」
オレは、その場を立ち去ろうとしたが。
「待て。護もたまには、息抜きしないとな・・・」
と襟首を掴まれる。
「ちょ・・・ちょっと、待て・・・」
そのまま、強制連行された。
そいつらが言っていた、ファミレスに着いて、驚いた。
そこには、笑顔で接客をしてる詩織がいたからだ。
もしかして、こいつらの目的って・・・。
考えてたら、詩織と目が合い、驚いた顔をする。
・・・が、直ぐに笑顔を振り撒く。
おいおい、そんな笑顔見せるなって・・・。
オレ、こんなところでも、妬きもちやかなならんのか?
「いらっしゃいませ。何名様ですか?」
詩織が、事務的な言葉を連ねていく。
「今日は、八人です」
って言葉に驚いた。
今日は?
こいつら、毎日通ってるんか?
「詩織ちゃん。今日も可愛いね」
「八名様ですね。ただいま、禁煙席が空いてないのですが、喫煙席でもよろしいでしょうか?」
こいつらのヤジに負けじと、淡々と仕事をこなしていく詩織。
「うん。いいよ」
「では、こちらにどうぞ」
詩織の先導で、席に案内される。
詩織は、席を引っ付けると。
「ご注文が決まりましたら、ブザーでお知らせください」
笑顔でそう告げて、行こうとする詩織の腕を掴んだ。
詩織が、振り返る。
「何で、ここに居るんだ?」
オレが、小声で言うと、詩織が困った顔をする。
他の奴等も、怪訝そうな顔で見てくる。
「お客様。手を離してもらえませんか?」
詩織が、恥ずかしそうに言う。
それが、マニュアルなんだろう。
オレは、仕方なく手を離し。
「何時に終わるんだ?」
オレの言葉に。
「18時・・・」
小声で答える詩織。
「その頃に迎えに来るから、話聞かせて」
オレの言葉に頷く詩織。
さて。
こいつらに何と説明するべきか・・・。
興味津々でオレと詩織を交互に見てた奴等に・・・。
「なぁ、護。詩織ちゃん、可愛いだろ。って言うか、知り合いなのか?」
こいつら、知らないのか?
って、逆に思う。
「知り合いも何も、優基の妹だぞ」
と、オレが告げると。
「エーーーー」
と、一斉に叫び出した。
「知らなかったのか?」
首を横にブンブン振る奴等。
なんか、壊れたおもちゃが、一杯だ。
「って言うか、優基に妹が居たこと事態知らんかった」
と、回りが頷く。
そういや、優基は自分の家族構成、殆ど言ってなかったっけ・・・。
オレも、告白した時に知ったんだよなぁ。
何て、思いながら、メニューを眺めてた。
そこで、オレたちの関係を気にする奴が居なくなった。
説明しなくてすんだ。
と内心ほっとした。
オレは、ファミレスの入り口で、詩織が出て来るのを待っていた。
その間に、何人かの女が振り返ってきたが、そんなことどうでもよかった。
「護!」
詩織が、オレに気づいて、駆け寄ってきた。
「じゃあ、行こうか・・・」
自分が思っていた以上に低い声が出ていた。
「今度は、なんで、黙ってバイトなんかしてるのかな?しかも、他校の男等まで骨抜きにして・・・」
明らかに嫉妬だ。
だが、追求せずにはいられなかった。
「ごめんなさい。でも、このバイトは、里沙に誘われて始めたの。ちょうど、冬休みに入ったばっかりだったし、予定もなかったから、社会勉強になるかなって思ったの」
詩織が、シュンと肩を落として言う。
「ふーん。で、働き始めて、直ぐに常連客まで作ってしまうわけか・・・」
嫌な言い方してると思う。
だけど、押さえることができない。
「ごめんなさい」
詩織が、しきりに謝ってくる。
「あいつらな。お前の事、かなり気にいってみたいだぞ。オレも“可愛い子が居るファミレス見つけたから、行こう“って誘われてきてみれば、お前が満面な笑顔で向かい入れてたから、呆れたよ。あいつらに、お前の事聞かれて、“詩織はオレの彼女だ!“って、何回叫びたかった事か・・・」
オレは、詩織を抱き締めた。
「本当にどこかに隠してしまいたい。他の男の目に留まらないようなところへ・・・」
苛立ちに似た感情をぶつけていた。
明らかに、オレの我が儘だ。
「護・・・」
詩織の困惑した声。
「まぁ、仕方ないか。頑張って、社会勉強しな。って言うか、短期なんだろ?」
オレは、自分の感情を押さえつつ笑顔で聞く。
それが、ちゃんと出来ていたかは、定かではないが・・・。
「それが、長期になっちゃった」
って、言いにくそうにしながら、口に出す。
「何だよそれ・・・。オレにどれだけ、心配させるんだよ!」
言葉の語尾が強くなる。
「本当にゴメン。護の許可なく受けてしまったことは、謝ります」
詩織の言葉遣いが、丁寧になっていく。
なんで、今さら、そんな言い方するんだ?
「仕方がない。その代わり、シフトの事ちゃんと言えよ。迎えに行くから・・・」
詩織の頭を撫でながら言う。
そうやっていないと、感情が押さえきれない。
「勉強の邪魔にならない?」
詩織が、顔色を曇らせながら言う。
「邪魔になんか、ならないよ。知らない方が、かえって勉強に身が入らない」
詩織に微笑み返す。
安心して欲しかったから・・・。
「それにしても、あいつらにどう説明しようか・・・。ストレートに彼女?それとも婚約者?」
オレは、別の事で頭を抱えた。
「どっちでも正解だと思うけど・・・」
詩織が、他人事のように言う。
「そうはいかない。彼女で説明したら、別れるのを待ってるだろうし、婚約者で説明したら、からかわれるだけだし・・・」
オレの悩みは尽きない。
「じゃあ、婚約者で説明すれば、そしたら、誰も手を出してこなくなるんじゃ・・・」
「それは、そうなんだが。あいつらの中には、たちの悪い奴が居るから、下手に言えない」
悶々と考え込んでいるオレに。
「じゃあ、何も言わなくてもいいんじゃないの?」
詩織が、提案してくる。
「それだと、オレの気が休まらない!」
詩織は、オレのだと釘を指しておきたい。
あー、もう、どうしたら・・・。
オレが、一人で悩んでいたら、詩織がいつの間にかオレの腕から逃げていた。
オレは、詩織を追って歩きだす。
すると。
「ごめんなさい。急いでるので・・・」
詩織の声がした。
声のした方に目を向けると、詩織が柄の悪い奴等にか困れてる。
慌てて、詩織のところに向う。
「いいじゃん。遊ぼうぜ」
詩織は、手首を掴まれながら、必死に抵抗していた。
「離してください!」
「気の強い女も好きだぜ!」
って・・・。
「おい。やめろよ!オレのフィアンセに何するんだ!」
オレは、その男の手首を掴み、詩織を庇うように立ちふさがった。
怒りに任せて言った言葉にも自分で驚いてるが・・・。
「なんだよ。やる気かよ」
そいつは、オレに向き直って言ってきた。
オレは、詩織を背中で庇いながら、対峙する。
「お前ら、何やってるんだ!!」
っと、この声は・・・。
「変なのに絡まれてるな詩織。そいつら、隆弥兄の名前出したら、直ぐに引くのに」
優基が、笑いながらやって来る。
はっ?
どう言うことだ?
詩織の顔を伺うが、訳がわからないって顔をしてる。
「そっか。詩織は、知らなかったか。そいつら隆弥兄の知り合いだよ。って言うか、子分みたいなもんかな」
って、優基が暢気な声で言う。
子分?
って、いったい・・・。
「こういうこと。お前ら、俺の妹に何手を出してるんだよ!」
優基の後ろから、隆弥さんが現れた。
すると。
「隆弥さんの妹さんでしたか。知らなかった事とはいえ、手荒な真似してすみませんでした」
そう言うと、さっさと退散していった。
「なんで、隆弥兄と優兄がここに居るの?」
詩織が、二人に質問していた。
「お前の帰りが遅いから迎えに来たんだ」
優基が言う。
「それと、護に用があったんだ」
隆弥さんが、オレに向き直る。
オレに?
「護。お前、詩織の事なんだと思ってる?」
オレは、その質問に少し考えてから。
「オレは・・・、婚約者だと思っています」
即答できないで居るオレ。
「だったら、もっとどっしり構えてろ!じゃないと、何時まで経っても詩織も安心出来ないだろう」
隆弥さんの声が、何時もと違うことに気づいた。
「俺はなぁ。護が、詩織の事を大切に扱ってくれてるのを見て、こいつなら許せると・・・任せられると思ったから、今まで何も言わなかった。今日ので、お前の見方が変わった。詩織は、お前に任せておけない。あの話は、無かった事にしてもらうぞ」
隆弥さんが、吐き捨てるように言う。
エッ・・・。
無かった事にするって・・・。
それって、婚約の事?
おれ・・・。
どうしたらいいんだ・・・・・・。
詩織が居るから、頑張ってきたはずなのに・・・。
それが、白紙になるなんて・・・。
オレは、どうしたらいいんだ・・・。
優基が、慰めるためなのか、オレの側にいたが何を言ってるかは、わからなかった。
どうやって家まで帰り着いたのかわからない。
だが、今、自室で、うなだれているのは事実だ。
ああ。
オレって、本当に詩織しか、見えてなかったんだと、改めて思い知らされた。
・・・・・・だが。
それが、裏目に出てたのだろうか・・・。
オレの独りよがりだったのか?
ずっと、傍に居てやりたくて、自分から条件を飲んだ。
なのに。
これでは、詩織に重荷になるだけではないのか?
オレは、改めてどうしたらいいのかを考えていた。
考えに考えて。
でも、結論にも辿り着けなくて・・・。
気がついたら、朝日が登り始めていた。