兄弟の確執の真相
「護。今日は、御馳走様。凄く美味しかった」
詩織がそう言いながら、オレの手を握る。
「ううん。口に合ったなら、それでいいよ。大抵の物は作れるから、今度また作ってやるな」
オレは、そう口にしたもののさっきの事が気になってて、ほとんど覚えていない。
ふと、詩織を見やると何か、考えてるみたいだ。
「どうかした?」
詩織の顔を覗き込む。
「ううん。なんでもない」
詩織が、ぎこちない笑顔を見せる。
「勝弥さん。帰ってきてるよなァー」
オレが、不安そうな声を出してたみたいで、逆に詩織が心配そうに。
「多分、居ると思うけど…。隆弥兄がいたら大変かも…」
「隆弥さんが帰ってきてない事を願うだけだな」
オレは、頭を抱え込む。
「大丈夫だと思う」
詩織が、自信有りげに言う。
「本当かよ」
オレは、苦笑しながら言う。
「だって、隆弥兄昨日も遅くまでバイトしてたし、今日も朝から遅くまでバイトが入ってるって、愚痴ってたもん」
詩織が、ニコニコしながら言う。
「なら、いいんだけど」
そんなオレに詩織が、
「電話してみようか?」
携帯を取り出した。
「そこまでしなくてもいいよ。オレ、覚悟出来てるから」
オレは、腹をくくっていた。
って言うか。
オレが、目を離したために起きたことだから、怒られて当たり前だ。
「護。頑張ってね」
詩織が、クスクス笑いながら言う。
「笑い事じゃねえだろ」
詩織の額を突っついた。
「そんなに緊張しなくてもいいって…」
詩織が、オレの緊張をほぐすためだとは、わかっていても…。
「緊張するって。あんな言い方されたら…」
さっきの事を思い出すと、いても立ってもいられなかった。
「でも、私も緊張したんだからね。いきなりお義父が帰ってくるとは、思ってなかったから」
詩織が、苦笑いしてる。
「ああ、オレもビックリした。こんなに早く帰ってくるとは、思ってなかった」
あの時は、本当に焦った。
親父が、帰ってこなかったら、もう少しイチャつけたのに…。
って、オレ、何考えてるんだが…。
「一様、許可がおりたから、少し安心かな」
詩織が、笑顔で言う。
婚約の事、詩織も喜んでくれてるんだ。
「そうだな。オレもこれで、受験に向けて、勉強する張り合いが出た」
オレは、ひと安心ってとこなんだが…。
詩織が、オレの方を見て笑い出す。
「また笑う」
オレは、何となく不機嫌を装う。
「だって、可愛いんだもん」
って、詩織が言う。
かわ…可愛いだと…。
「可愛い、言うなって前にも言ったよな」
オレの顔が、赤面していくのを感じた。
そんなことしてるうちに、詩織の家に到着する。
詩織が、玄関を開けて。
「ただいま!」
元気に言う。
と、同時に勝弥さんが飛び出してきた。
「詩織、護も一緒か?」
勝弥さんが、詩織に確認してる。
「うん」
詩織が、素直に頷く。
「護。早く逃げろ。隆がメチャ怒ってるから!」
勝弥さんが言うが早いが、オレの腕を引っ張る。
エッ…。
オレは、体制を崩しながら、走り出した。
「待てー!勝ー護ー!」
後ろから、隆弥さんが追いかけてきた。
それから、勝弥さんの先導で、公園まで走った。
「護。悪いな。俺達兄弟の確執に付き合ってもらって…」
勝弥さんが、息を切らせながら言う。
どういうことなんだろう?
首を傾げてると。
「勝、お疲れ。それから、護、悪かった」
隆弥さんが、スポーツドリンクをを渡してきた。
一体何のことかわからずにいた。
「実はな。あの二人には、俺達が演技してることをばれたくないって言うか…」
勝弥さんが言いにくそうに言う。
「早い話。俺が、一番怖いという設定で、あの二人をしつけてたんだよ」
はっ?
てことは、何?
二人は、優基や詩織をしつけるためだけに演じていたってことになるんだけど…。
「隆には、一番辛いことなんだよな。二人とも好きだから、怒れないはずなのに、それをかってくれてるし…」
勝弥さんが言うと、隆弥さんが照れたように。
「勝、それ言うな。なだめ役の勝が居るから、真剣に怒れるんだから…」
まさかだよな。
「護。この事は、二人には内緒にしておいて欲しい」
隆弥さんが、真剣な眼差しで言うから、オレは、黙って頷いた。
「…で、さっきの事だけど…」
やっぱり、攻められるんだよな…。
「すみませんでした。オレの配慮が足らなかったばかりに…」
オレは、二人に頭を下げた。
「まぁ。すんでしまったことは、仕方ないよな。それに、護はずっと反省してたんだろ?」
苦笑してる。
「それに、勝にもやられてるんなら、俺が同じこと言っても仕方ない。ただ、今度同じことしたら、わかってるだろうな」
隆弥さんの語尾が怖い。
「はい。以後気を付けます」
真顔で答えると。
「隆、護が怖がってる。それぐらいにしておいたら…」
勝弥さんが、横から口を挟んでくれる。
「まぁ。そんな脅すつもりは、なかったんだよ。お前の事、信じてるし。詩織が、お前を選んだ理由もわかったからな。だが、やっぱりな、大事な妹だからさ、何かあってからじゃ遅いんだ。そこのところだけ、肝に命じてて欲しい」
隆弥さんの優しい声。
「はい」
やっぱり、隆弥さんは優しい人なんだと思った。
「護。詩織の事、頼んだぞ。それから、わからないところがあったら、いつでも連絡してくれればいいから…」
隆弥さんが、携帯番号とアドレスを書いた紙を渡してくれた。
「ありがとうございます」
お礼を言う。
「隆ばかり、ずるいぞ」
勝弥さんもオレに携帯番号を渡してきた。
「困ったことがあれば、いつでも電話して…。力になるから…」
二人は、にこやかに言う。
「はい。本当にありがとうございます」
頭を下げる。
「俺等、お前のこと本当の弟だと思ってるからな」
隆弥さんが、オレの頭を撫でる。
ワーァ。
「じゃあな。受験頑張れよ」
「風邪引くなよ」
二人はそう言って、家に戻っていく。
そんな二人に、オレはもう一度頭を下げた。