初めての対面
まさか…。
オレは、焦った。
親父が、こんなに早く帰ってくるとは、思っていなかった。
キッチンに来る前に、離れないと…。
名残惜しいが、詩織から距離をとる。
「ただいま、護。誰か来てるのか?」
そう言って、リビングの戸が開いた。
詩織の顔が、強ばる。
「親父、お帰り。今日は、早いんだな」
そう言いながら、親父を迎え入れた。
詩織はというと、オロオロしている。
「護。そちらのお嬢さんは?」
親父が、詩織の存在を認めて、目を細めて聞いてきた。
エッと…。
「水沢詩織さん。この間、話しただろ。オレが、結婚したいって言ってた娘」
堂々と詩織の事を紹介する。
が…。
「始めまして、水沢詩織です」
詩織の声が、緊張で震えていた。
「始めまして、護の父です。護が迷惑かけて、すみません」
親父は、いつも通りの声音だ。
「いいえ。私の方こそ、護さんに迷惑かけているので…」
詩織が、慌てて言い繕っている。
「親父。オレ、彼女の事、真剣なんだ。だから、詩織の親父さんとの約束を果たしたとき、直ぐにでも婚約したいんだ」
親父に、自分の思いを打ち明けた。
親父が、困った顔をする。
こんな親父、見たことがない。
「詩織さん。本当に護と居たいのでしょうか?母親を亡くしてから、男親で育ててきたにで、我儘し放題の息子ですが、本当によいのでしょうか?」
親父?
詩織の事、気に入らないのか?
それとも…。
「護さんだからいいんです。私は、護さんの一生懸命に打ち込んでいる姿を見て、好きになったんです。だから、護さんの事そんな風に言わないでください」
一生懸命、自分の思いをぶつけてる、詩織。
もしかして、詩織の事試してるのか?
「そうですか。詩織さんがそう言うのなら、護に課せられた条件をクリアした時には、婚約を認めましょう」
詩織の一生懸命背が通じたのか、親父が認めてくれた。
「ありがとうございます」
詩織が、笑顔で頭を下げた。
そんな詩織を見て、親父が。
「家に女の子が居るだけで、華やかになるな」
笑顔で言う。
オレは、慌てて。
「親父、詩織はダメだからな。オレのだから」
詩織を抱き寄せた。
「何で、息子の好きな子を取らなきゃならん」
って、親父が苦笑する。
それにつられるように詩織が吹き出した。
「なんだよ。詩織までも笑うことないじゃん」
オレは、不貞腐れるように言う。
一頻り笑い終わると、詩織が。
「護。食器、洗い終わったら、送っててね」
詩織が、オレから離れて、洗い物の続きをしだした。
「あぁ…」
オレは、さっきの事を思い出していた。
詩織が、洗い物を終えて、コートと鞄を持つ。
オレは、その後ろについていく。
「お邪魔しました」
詩織が、律儀に挨拶をするが、親父は、返事もしない。
詩織が、不安そうな顔をする。
たぶん、寝てるんだろう。
「気にするな。行くぞ」
オレは、玄関のドアを開けて、出る。
詩織が、その後ろを追ってきた。