手料理
水族館を出ると、夕闇に染まっていた。
風も冷たく吹いてる。
「寒い…」
詩織が、自分の身体を抱いて身震いしてる。
そんな詩織の肩を抱き締めた。
「流石に寒いな」
詩織の肩が、小刻みに震えてる。
「この後どうする?時間があるなら、オレの家に来る?」
詩織に伺いたてる。
「うん」
嬉しそうに頷く。
「じゃあ、行くか」
詩織が、オレに腕に絡み付いてきた。
「うん」
そのまま、駅に向かって、歩きだした。
駅に着くと、凄い人混みだった。
すし詰め状態の電車に乗り込む。
あっち、っこっちから押される。
それにも増して、詩織が辛そうだ。
オレは、詩織の手を引いて。
「詩織、こっち」
出口付近を陣取ると、詩織を守るようにすスペースをつくった。
「ありがとう」
微笑みながら、詩織が言う。
「やっぱり、一本遅らせればよかったな」
小声でいうと。
「うーん。それだと、帰る時間が遅くなっちゃうよ」
詩織が、難しい顔をする。
どうしたんだ?
「そうだな。もうすぐ駅に着くしな。我慢するか」
オレは、なんとも言えない気持ちだった。
自宅のある最寄り駅に着くと、オレの家に向かった。
「ちょっと、散らかってるけど…」
そう言いながら、玄関を開ける。
「お邪魔します」
遠慮がちに言いながら、目はキラキラしてる。
「床が冷たいから、これ履きな」
詩織の前にスリッパを出す。
「ありがとう」
詩織が、それを履いたのを確認してから。
「こっち…」
オレは、リビングに通した。
昨日、掃除したから、大丈夫だとは思うが…。
「そこに座ってて。直ぐ、夕飯作るから…」
オレは、ソファーに座るように促す。
そして、キッチンに向かう。
自分専用のエプロンを身に付けた。
手を丁寧に洗ってると。
「護。私も手伝うよ」
詩織が、入ってきた。
人にエプロン姿を晒すなんて…。
しかも、彼女だぞ。
恥ずかしながら、昨日下ごしらえをしておいた玉葱、それから、挽き肉に卵、牛乳、レタス、トマト、キュウリ、貝割れを冷蔵庫から取り出す。
パン粉は…っと…。
すると、詩織がオレに釘付けになってることに気づいた。
「どうかしたか?」
オレのエプロン姿が、変なのか?
詩織が、慌てて。
「私も手伝う」
もう一度言ってきた。
「それじゃあ、サラダを作ってもらっていい?」
「うん」
オレは、挽き肉と玉葱、卵、牛乳に浸して絞ったパン粉をボウルに入れて、混ぜ始めた。
その間に、詩織が石鹸で手を洗って、レタスを水洗いしていた。
混ぜ合わせたものを整形していく。
我ながら、良い形にできた(自画自賛)。
コンロにフライパンを置き、熱して油を注ぐ。
そこに、整形したハンバーグを焼いていく。
またしても、詩織がオレを見ている。
「どうした?」
「エッと…サラダを盛り付けるお皿は、どれかなっ」
なんだ、皿か。
「あぁ、それなら」
オレは、食器棚から皿を二枚取り出して、詩織に手渡す。
「そのお皿の半分ぐらいに盛ってくれるかな?」
「わかった」
詩織は、オレが言った通りに野菜を盛っていく。
ハンバーグの焼け具合を確認する。
お、上手に出来てるじゃん。
自画自賛しながら、火を止める。
フライパンを持ち上げて、サラダが盛り付け終えてる皿にハンバーグをのせる。
「すごーい。これって、護が最初から、作ったんだよね?」
詩織が、確認する様に聞いてきた。
「ああ、そうだよ」
ちょっと恥ずかしながら、頷く。
「本当に凄いね。私なんて、ちゃんと作ったこと無いよ」
詩織が、尊敬の眼差しをオレに向ける。
「これぐらい簡単だよ。詩織なら直ぐに作れるよ」
「そうかな…」
詩織が、不安そうな顔をする。
「ほら、冷めないうちに食べるぞ」
詩織に席に着く様にせかした。
「ご馳走さまでした」
詩織が、両手を合わせて言う。
「お粗末様でした」
オレが席を立って片付けようとしたら。
「片付けは、私がするよ」
詩織が席をたち、皿を流しの方に持っていく。
「いいよ。オレがするから。今日は、詩織はお客様なんだから…」
慌てて言うと。
「…でも、悪いよ。夕御飯御馳走になったんだから、片付けはやらせてください」
維持でも洗うつもりだ。
「じゃあ、お願いしようかな」
そう言って、エプロンを差し出した。
詩織は、そのエプロンをつけて、キッチンに立ってる姿を見ていたら、無償に抱きつきたくなってきた。
後ろから、詩織に抱きついた。
「護。洗いづらいから、離して」
詩織の困ったように言う。
「やだ。このままがいい」
そう言いながら、詩織の首筋にキスを施す。
「くすぐったいから、やめてよ」
詩織が、身を捩らす。
「止めない」
こんな可愛い詩織を見ないなんて、もったいない。
「ちょっと、本当にやめてよ。お皿落としちゃうよ」
「うん、そうだね。でも、このままがいい」
甘えるように言う。
「どうしたの?」
詩織が心配そうな声で言う。
「うん。今、この状態って、新婚みたいだなって…」
オレは、詩織の耳元で囁く。
詩織の顔が赤くなっていく。
「オレさぁ。早く詩織と一緒に暮らしたい。だから、頑張って条件をクリアして、同棲が出来るように…。信頼できる男になるからさぁ、詩織もオレ以外の男に触らせるなよ」
心配なんだよ。
詩織は、自分が思ってる以上に持てることに気づいていない。
「うん。気を付けます」
詩織の言葉に満足とまではいかないが、とりあえず納得しておくか…。
「詩織。愛してる」
オレは、そう告げると詩織の唇を奪う。
そして、そのまま首筋から鎖骨へと唇を這わせていく。
「護…。くすぐったいよ」
詩織の甘い声に。
「うん…。でも、止められない」
オレは、詩織に深く甘いキスを注ぐ。
そんな時だった。
ガチャッ…。
玄関が、開く音がした。