クリスマスパーティー
クリスマスイブ。
詩織には、今日着る衣装の相談を受けていた。
この前の事を気にしていたのだろう。
そしてオレは、頼んでおいたジュエリーを取りに店に行く。
「こんにちは」
オレは、悟兄さんに声をかけた。
「おっ、護。出来てるぞ。見てみるか?」
「はい」
そう返事する。
悟兄さんが、奥から箱を取ってくる。
そして、オレの前で蓋をとる。
「思い道理です。ありがとうございます」
お礼を言う。
「なんの。アイディアがよかったんだよ。単純だが、心の籠ったものが出来ただろ」
って、笑顔が怖いが…。
「じゃあ、これプレゼント様に包んでいいか?」
「はい。お願いします」
勢いよくそう返事を返した。
そんなオレを悟兄さんが、クスクス笑う。
アッ…。
恥ずかしい。
数分後。
綺麗に包装されて戻ってきた。
「ありがとうございます」
「こっちこそ、ありがとうな。このデザイン結構人気が出たんだ。お前のお陰だよ」
って、小声で言ってきた。
「じゃあ、また寄らせてもらいますね、悟兄さん」
オレは、そう言って、店を出た。
詩織、喜んでくれるかなぁ…。
オレは、そればかり気にしてた。
午後五時前。
オレは、学校の体育館の前に来ていた。
「玉城くん。やっぱり来てたんだね」
ちひろがオレの腕に絡み付いてきた。
オレは、その手を振り払いながら。
「来ちゃ悪いかよ」
「そうじゃないけど…」
ちひろが、エスコートして欲しそうな顔をする。
「悪いな。他の奴当たってやって。オレは、お前をエスコートするつもり無いから…」
そう言って、ちひろから離れた。
そうこうしてるうちに体育館の入り口が開いた。
「いらっしゃいませ」
詩織の声が聞こえる。
オレは、驚愕した。
詩織が、サンタのコスプレで出迎えてるからだ。
しかも、超ミニのスカート。
そして、やたらと胸元の開いてる。
何で、そんな恰好で…。
それこそ、男共の餌食ではないか…。
詩織が、お辞儀をする度に胸の谷間がチラチラ見える。
頼むから、それ以上お辞儀するな。
オレは、ハラハラしながら事の成り行きを見守った。
暫くして、詩織がステージに姿を現した。
『今日は生徒会主催、クリスマスパーティーに足を運んでくださり、ありがとうございます。今宵は、皆様楽しんでいってください』
生徒会長らしい挨拶をする。
待て、そこでお辞儀は…。
オレは、心の中で詩織に話しかけてる。
ステージ上では、笑顔で詩織がお辞儀する。
それ以上は、するな。
心の中で、叫び続けた。
ディップ形式なので、好きな物を手にした。
取り合えず、何か口に入れておこうと思って…。
「玉城、来てたんだな」
クラスの奴が、声をかけてきた。
「当たり前だろ。彼女が、頑張ってる所見たいし…」
「彼女って、ちひろか?」
まだ言う奴がいるのか…。
また、一から説明しないといけないのか?
「違う。今からステージで歌う娘だよ」
オレは、堂々告げた。
ステージでは、衣装を着替えて出てきた詩織がいる。
うん。
オレが見て、決めた衣装だ。
似合ってる。
詩織の清潔感が、よく出てる。
アッ、あのブレスレット、してくれてるんだ。
オレは、初めてプレゼントしたブレスレットに目がいく。
ヤバイ。
顔がにやける。
すると、詩織と目があった。
詩織が、笑顔でオレを見る。
やっぱ、あの笑顔がサイコーだ。
そう思ってみてたら。
「玉城くん。そんなところにいないで、一緒に踊ろう」
「玉城先輩。一緒に踊りましょうよ」
囲まれてしまった。
なんだよ。
せっかく、詩織の歌声をゆっくりと聞こうと思ってたのに…。
「ほら…。ちひろも待ってるから…」
だから、ちひろは関係ない。
女共が、オレの腕を引っ張る。
「ちょっと、放せよ」
オレは、群がってくる連中から逃げるように他の場所に向かった。
そうこうしてるうちに、詩織の出番も終わり、舞台から降りてきた。
そして、ここぞとばかりに詩織の回りに男共が群がり出した。
「詩織ちゃん。俺と踊ってください」
しかも、タイミングが良いのか悪いのか…。
チークタイムだ。
「エーっと…」
詩織の戸惑ってる声が聞こえてきた。
そんな詩織の腕を引っ張った。
詩織が、バランスを崩してオレの胸の中に納まった。
詩織が、顔をゆっくりとあげる。
「悪いが、こいつはオレのだから」
そう言って、詩織の肩を抱きながら、その場を後にした。
「護。ありがとう」
詩織が、恥ずかしそうに言う。
「いいよ。今のうちに見せびらかしておかないとな」
オレは、詩織の耳元で言う。
「ついでだから、踊るか」
オレは、詩織をエスコートして中央に出向く。
「護。私、踊れないよ」
詩織が、不安そうな声で言う。
「大丈夫。オレに体を委ねてくれればいいよ」
オレは、詩織の腰に手を回す。
詩織は、そっとオレの胸に手を当てていた。
「それでいい」
オレは、詩織の耳元で言うと、詩織は顔を赤らめた。
「サンタの恰好も可愛かったけど、他の男共の目が足に注がれてたのが気に入らない」
膨れっ面で伝えると。
「仕方ないじゃんか。生徒会メンバーで決めた事なんだから……。それに今日は、もうサンタの格好はしないから…。でも、裏方の仕事しないとね」
詩織が、クスクス笑いながら言う。
「そうか…。ならいいけど」
オレは、少し不満があるがもう着ないと言うなら、まぁ言いか…。
オレは、詩織の額にキスを落とす。
「護?」
詩織が、顔をあげてきた。
それを見計らって、オレは詩織の唇を奪った。
周りの事なんか、気にならない。
今は、詩織だけしか見えていない。
「ん……」
詩織が、オレの胸を押す。
唇が、離れる。
「護…」
詩織が、ますます赤い顔をしながらオレの名を呼ぶ。
「お前は、オレのなんだからな。よく覚えておけよ」
オレは、笑顔を向ける。
「はい。重々承知してます」
詩織が、クスクス笑いながら答える。
「愛してる、詩織」
オレは、腕に力を込めた。
「私も、愛してます」
詩織が、そっとオレの唇に重ねてきた。
そのあと、詩織は忙しそうにあっちにいったり、こっちにいったりと動き回っていた。
「オーイ、護。楽しんでるか?」
優基が、声をかけてきた。
「そこそこな」
「お前、モテすぎだって。詩織が、心配してた。で、あいつらはどうしたんだ?」
あいつらって、ちひろ達の事だろう。
「さぁ。オレ、あいつらから逃げてるから…。でも、その辺にいると思うが…」
周りを見渡してたら、詩織の姿が見えない。
あれ?
オレは、里沙ちゃんを見つけて詩織の事を聞くと。
「飲み物が足りなくなってきたから、買いに行ってもらってます」
って、答えが返ってきた。
マジか…。
オレは、慌てて会場を出た。
そして、近くのコンビニまで急いで行くと、詩織が会計を済ませて出てきた。
オレは、横からその袋を取り上げた。
詩織が、慌てて顔をあげた。
「女の子が、こんな重い物持って…。買い出しに行くなら、声を掛けてくれれば良いのに…」
詩織に遠慮して欲しくなくてそう言ったのだが…。
「だって、楽しんでもらいたかったから…」
詩織が、肩を竦めて言う。
「あのなぁ。お前が居なかったら、楽しめないだろうが…」
苦笑いを浮かべながら言う。
「だって、今日の私はホスト役だよ。一緒に居るわけにはいかないじゃん」
詩織の寂しそうな顔。
そんな詩織に。
「わかった。でも、帰りは、一緒に帰るからな」
詩織が元気になれるように言う。
「うん」
詩織の声が、弾み出した。
学校までに距離を手を繋いで歩いた。
詩織が、再びステージに立つ。
『皆さん。今宵のパーティーは、楽しんでもらえましたか?三年生の皆さんは、息抜きできたでしょうか?また一・二年生の皆さんも楽しめたでしょうか?クリスマスは、まだ終わってはいませんが、本日のパーティーは、これにてお開きにさせていただきます。皆様、お気を付けてお帰りください』
と、最後の挨拶を告げる。
そうか。
もう、そんな時間だなぁ。
そんなことを思いながら、考えてたら。
「玉城くん。この後、どっか行かない?」
やな奴に捕まったな。
っていうか。
この間、詩織にくれてやるって、捨て台詞言ってたのに…。
何で、引っ付くんだ?
ちひろ…。
その後ろには、取り巻きとクラスの男共。
まぁ、ちひろの事だから、取り巻きに言い憎いんだろうなぁ。
オレに振られたなんて…。
「玉城。良いだろ?」
「悪いな。オレ、この後約束あるから…」
「いいじゃん」
ちひろは、オレの腕に自分の腕を絡ませてくる。
オレ達は、そのまま出口に雪崩れ込む。
詩織が、出口のところで。
「ありがとうございました。お気を付けてお帰りください」
って、言ってるのが聞こえてきた。
「生徒会長。この後一緒にどこか行かない?」
って、声がどこからともなく飛んでる。
詩織、誘われてる。
どうするんだ?
「ごめんなさい。私達まだやることがあるので行けないです」
断ってる声が聞こえた。
それを聞いて、ホッとした。
よかった。
一様、オレと帰る約束してるからな。
校門の所まで来ると、無理矢理ちひろの腕を外した。
「玉城。本当に行かないのか?」
クラスメートが、声をかけてくる。
「あぁ。悪いけど、オレは行けない。楽しんでこいよ」
オレは、そういうと他の奴等と別れた。
さて、オレは、何して待っていようか…。
フと、グランドに目をやると、ボールが転がっていた。
あいつら、片付け忘れてる。
オレは、そのボールでリフティングをする。
ボールの感触は、久し振り。
無我夢中でやっていたら。
「お、護じゃん。詩織を待ってるんか?」
優基が声をかけてきた。
「そうだよ。明日の事もあるしな」
「そうか。明日はデートだって、詩織喜んでた」
優基が、ニコニコしながら言う。
「なんだよ。気持ち悪い」
「送り狼にだけはなるなよな」
「なるわけないだろ!」
声を荒げて言う。
「…で、優基は、何で出てくるのが遅かったんだ?」
「片付けがあったからな」
片付け?
優基は、そう言いながら肩の荷物を見せてくる。
ああそっか。
こいつ、演奏してたっけ…。
「里沙ちゃん待ちか?」
「そういう事…。ただ待ってるのも寒いよな」
優基が体を震わせる。
「だから、ボールを見つけてリフティングしてた」
「お前はいいよな。ボールさえあればどこでも暖を取れるんだから…」
嫌みっぽく言う。
「まあな。体動かしてれば、暖かくなるしな」
そんな話をしながら、二人が現れるのを待っていた。
「お疲れ様」
里沙ちゃんが、優基に言う。
「お疲れ様。里沙ちゃん、ちゃんと着替えてきた?」
優基が、里沙ちゃんに聞いてる。
「着替える時間無かったから、あのままコートを羽織ってきた」
里沙ちゃんが、笑顔で言う。
「玉城先輩も、お疲れ様でした」
「お疲れ様。で、詩織は?」
「詩織なら、最終チェックして鍵を返してからだと思うので、もう少しかかるかも…」
里沙ちゃんが、教えてくれた。
「そっか。ありがとう」
里沙ちゃんにお礼を言う。
「里沙ちゃん、帰ろ。家まで送ってくよ」
優基が、里沙ちゃんの肩を抱いて、行ってしまった。
それにしても、遅いなぁ。
様子を見に行った方が早いか…。
オレは、体育館の方へ走り出した。
体育館は、暗闇になっていた。
鍵は開いてる。
中に誰かいるのか?
オレは、中に入ると人影が…。
残ってるのは、詩織だけのはず、だから…。
オレは、そっと近づくと抱き締めた。
詩織が、びくついたのがわかった。
そんな詩織に。
「詩織、心配したよ。何時までたても出てこないから…」
声をかけたとたん、詩織がオレに体を預けてきた。
緊張してたんだろう。
「ごめんね。片付けと反省会してたんだ。今日しないと忘れてしまいそうだったから…」
詩織の消え入りそうな声。
「本当に?誰かに誘われてたとかじゃないのか?」
意地悪な質問をしてみる。
「誘われたけど、断ったよ。って言うか、怖い兄達が居るし。それに、体育館を閉めてから、忘れ物に気付いて取りに来たんだ」
詩織が、苦笑してるのがわかる。
「そうか…」
オレは、さっきに事が気になってたんだよなぁ…。
「ほら、早く閉めて帰るぞ」
オレは、明るく言う。
それから、体育館を出て鍵を閉める。
職員室に鍵を返しにいく。
「先生。今日は、ありがとうございました」
詩織が、先生にお礼の言葉をかけていた。
「失礼しました」
職員室から出てきた詩織に。
「お前、本当に徹底してるな」
苦笑して言う。
詩織が、何の事かわからずに首をかしげる。
「さぁ、帰るか。明日の待ち合わせの時間も決めないとな」
詩織の手を握る。
指先が冷たい。
これは、詩織が頑張った証かもな。
「そうだね」
詩織が、嬉しそうな声をだす。
「護。さっき、ちひろさんと出てきたよね」
おもむろに詩織が質問してきた。
「あぁ。それがどうした?」
オレの言葉に詩織が、黙り込んだ。
「何?気になるのか?」
詩織の顔を覗き込むと、微かに首を縦に振った。
「帰り際に捕まっただけだよ」
素直に頷いた詩織に素直に答えた。
なのに。
「本当にそれだけ?」
疑いの目を向けてくる。
「疑ってるのか?」
「だって、ちひろさん。帰り際に“玉城君は頂くわね“って…」
何で、そんな事を言ったんだあいつ。
詩織が、不安げな顔をする。
「確かにちひろに誘われたが、断ったよ。オレが、今ここに居る事で立証されるだろ」
「嬉しそうにしてたよね」
詩織が、何時もより食って掛かってくる。
それって、ひょっとして…。
「それって、妬きもちか?」
「……」
オレの言葉に詩織は、無言になる。
「はぁ、全く…。ちひろとは、門のところで別れたよ。詩織が居るのに誘いに乗るわけないだろ」
オレは、詩織の頭を撫でる。
「クラスの奴等にも誘われた。でも、先約があるからって断った」
詩織の耳元で言う。
「ありがとう」
詩織が、笑顔でお礼を言ってきた。
「当たり前だろ。こんな可愛い彼女を一人で帰すわけないじゃん。それに、おれ自身も詩織と一緒に居たかったしな」
照れ隠しのように笑う。
すると、詩織がオレに抱きついてきた。
ワッと…。
辛うじて受け止めて。
「何?」
詩織に聞くと。
「嬉しいなぁ。こんなに思われてるんだなって、改めて思った」
そんな事か…。
当たり前だろうが…。
オレの中には、詩織しか居ないんだから…。
「ハハハ。それより、その格好寒くない?」
薄着の上にコートを羽織ってるだけの詩織が、心配だった。
「大丈夫だよ。護に包まれてるから、暖かいよ」
可愛いことを言う。
「それならいいんだが…」
詩織が、オレの顔を覗き込んできた。
そして。
「護は、心配性なんだから…」
と、呟いた。
「仕方ないだろ。オレは、お前が一番大切なんだから」
オレは、本心を口にする。
そんなオレの言葉で顔を赤くする詩織。
「顔が、赤いぞ」
茶々をいれると。
「誰がさせたんですか?誰が…」
詩織が、膨れながらそっぽを向いた。
「そんな顔するなよ。可愛すぎて、食べたくなるだろうが」
オレは、詩織の耳元で囁く。
すると、ますます顔を赤くする詩織。
「あれ、さっきより顔が赤いよ」
オレは、詩織の頬を擦る。
すると、詩織がオレの手に自分の手を重ねてきた。
「詩織」
オレは、そのまま詩織の唇に軽く自分に唇を重ねた。
「ん……」
詩織から、甘い吐息が漏れ聞こえる。
そんな声出すなよ。
止まらなくなりそうだ。
「詩織、愛してる」
オレは、そっと囁くと再び唇を奪った。
「明日は、九時半に駅で待ち合わせな」
そう告げると家路についた。
明日、水族館の後に家で、夕飯でもご馳走するか。
って、初めて家に招待じゃん。
ヤベ。
掃除してない。
帰ったら、掃除して夕飯の下越しらいしておかないと…。
と思ったら、自然と早足になる。
夕飯、何にしよう?
帰って、冷蔵庫を見てから決めるか…。
何か、残ってたっけ…。
頭の中で、明日の事をアレコレ考えながら、家に辿り着いた。
家に入ると、早速リビングを片付けて、掃除機をかける。
何時もより、念入りにしておかないとな。
って、これじゃあ、主夫じゃんか…。
何て、一人突っ込みしながら、笑ってる自分がいる。
こんなもんかな。
次は、夕飯っと…。
オレは、流しで手を洗うと、冷蔵庫を覗き込んだ。
挽き肉に玉葱か…。
定番のハンバーグなら、直ぐに出来るなぁ…。
玉葱を炒めて冷ます時間は、無さそうだな。
それだけでもやっておくか…。
オレは、玉葱を取り出して皮を剥くと、微塵切りにして、フライパンに油を引くと炒めだした。
飴色になるまで炒めると、火からおろして冷めたところで、タッパーに入れて冷蔵庫に仕舞う。
後は、サラダ用の野菜は…。
トマト、レタス、キュウリ、カイワレ…。
ちゃんと、揃ってる。
買い足ししなくても大丈夫そうだ。
よし、準備万端だ。
これで、心置きなく久し振りのデートが楽しめる。
オレは、風呂の準備をして部屋に戻る。
明日渡すプレゼントは、机の上にのせて、忘れないようにしないとな。
気に入ってくれるといいんだが…。
着替えを持って、風呂に行く。
オレは、明日が待ち遠しくなっていた。