告白
教室のドアを開けると彼女とぶつかりそうになる。
「あれ、まだ残ってたんだ。他の奴等は、とっくに帰ったぞ」
と、彼女に声をかける。
「ちょっと遣リ残した事が、あって…。今から、帰るところです」
彼女が、言葉尻を強く言う。
「そっか。気を付けて帰れよ」
って、“送るよ“って言えないオレ。
「はい。さようなら」
彼女は、一言だけ言って、背を向けて行ってしまった。
その背中をただ、見送っていた。
彼女は、ちゃんと居たんだ。
この学校に……。
オレは、クラスを確認した。
2‐C。
やっと、見つけた。
オレの片想いの相手。
明日、もう一度、彼女の名前を聞いてみよう。
この事を話せば、教えてくれるだろう。
そう思いながら、家路についた。
翌日。
オレは、朝練の為に早めに家を出る。
今日こそは、彼女の名前を聞き出してやる。
そう意気込んでいた。
朝練が終わる頃に彼女が、登校してきた。
その、柔らかな笑顔に釘付けになる。
「オーイ、玉城。早くしないとホームルーム始まるぞ」
と、声を掛けられて、我に返る。
そして、部室に戻り着替える。
彼女のあの笑顔、オレが守ってやりたい。
そういう感情が、込み上げてくる。
オレは、急いで教室に行き、優基を捕まえて、問い詰めた。
すると。
「彼女の名前は、水沢詩織だ。」
簡単に教えてくれた。
オレは、呆気にとられた。
昨日まで、あんなに拒み続けてたのを今日は、やけにあっさりと言うから…。
「昨日と、違うじゃん」
「まぁな。彼女が、教えて良いって言ってたからな。それ以上、俺の口からは、言えん」
優基が、口を瞑った。
「おい、玉城。席に着け。ホームルーム始めるぞ」
担任が、壇上から声を掛けてきた。
「はい」
オレは自分の席に着きながら、今日、彼女に告白する事を決意した。
放課後。
オレは、彼女のクラスへ向かって、走り出した。
彼女が帰ってしまったら、もともこうもない。
オレは、彼女の教室に着くと入り口で。
「水沢、水沢詩織、居るか?」
って、大声で言う。
入り口で彼女を探す。
すると、窓際で彼女が、顔を上げてオレを見た。
少し、不思議そうな顔をしてる。
「ちょっと、時間有る?」
オレは、冷静を保ちながら、言う。
内心、心臓がバクバクいってる。
「何でしょう?」
彼女の声が、警戒してる様に聞こえた。
オレは、彼女を校舎裏まで連れ出した。
人気が無いのを確認すると、彼女の方に向き直り。
「水沢詩織さん。好きです、オレと付き合ってください」
言い切った。
恥ずかしい。
だが、彼女を他の男にとられるのは、嫌だ。
何も言わない彼女に。
「詩織ちゃん?」
思わず、ちゃん付けで呼んでしまった。
恐々、彼女を見る。
驚いた顔をしているが…。
「いいですよ」
って、飛び切りの笑顔が、返ってきた。
「本当!!」
オレは、嬉しくて、思わず聞き返していた。
詩織ちゃんが頷く。
「一つ質問していいですか?」
詩織ちゃんが、訪ねてきた。
「なぁに?」
しまった。
嬉しくて、柄にもなく甘い声になる。
「先輩は、何で私の名前を知っていたんですか?どこにも接点なかったのに…」
彼女の不思議そうな顔が、目につく。
「去年の文化祭で、バンド組んで歌ってただろ?」
オレの言葉に詩織ちゃんが、キョトンとする。
「あの時にちょっと気になる女の子になってた」
オレは、照れながら言う。
「私は、ただの助っ人だったのですが…」
「そうだったの?だけど、物凄く堂々と歌ってたから、てっきり軽音部だと思って、友人に聞いたら、あっさり教えてくれたから…」
オレの言葉に彼女は。
「その友人って、兄ですか?」
って、聞いてきた。
兄?
「優基だけど…」
「だと思いました」
彼女は、フと笑顔になる。
「えっ!?」
オレは、ビックリした。
「軽音部の水沢優基は、私の一つ違いの兄です」
彼女は、真顔で答える。
「嘘だろ。…って事は、オレ、ずーっとアイツに君の事ばっか話してた。なのに一言もそんな事言わなかったぜ」
オレの驚きように彼女は、笑い出した。
「笑い事じゃない!オレ、アイツに何もかも話してしまった」
彼女が、オレを見て。
「兄からは、何も聞いてませんよ」
って、笑顔のままで言うから、オレはほっとした。
「優基から聞いたけど、今付き合ってる奴とか居ないと…」
オレは、遠慮がちに言う。
「居ませんよ。私と付き合う人が気の毒で、誰とも付き合っていません」
彼女は、クスクス笑いながらも言い切った。
「気に毒とは?」
オレは、気になって聞いてみた。
「私には、三人の兄が居るんです。一つ違いの優基兄と三つ違いの双子の兄達が…。優兄は、一つ違いなので、そんなに私の事を気にも留めませんが、双子の兄達が、何時も煩いので、付き合えないんです。でも…」
彼女は、そこで言葉を切った。
「でも?」
「今回は違いますね。実は、私も先輩の事をずっと好きでした。だから、兄達の前は、言えないことも多々あります。それに家にこられると門前払いされるのが、目に見えていたので、あえて言えませんでした。でも、優兄の友人としてなら、大丈夫だと思います」
そんな…。
「ハードル高いなぁ」
オレが、落胆したのを見て、彼女は。
「どうしますか?諦めますか?」
って、聞いてきた。
「誰が、諦めるかよ。こんな可愛い子、他の奴に取られるのは性に合わん!」
オレは、ますますやる気(?)になる。
「ってことで、これからよろしくね、詩織ちゃん」
「よろしくです、先輩…」
柔らかい笑顔を見せてくれる彼女だけど、不安そうな顔が、目に焼き付いた。
彼女は、部活が終わるのを待っててくれた。
「お待たせ、行こうか」
「はい」
オレ達は、学校を出た。
暫くすると。
「先輩は、進学するんですか?」
って、聞いてきた。
「オレ…。オレは、教育学部に進学するつもりだけど…」
オレは、不思議に思い彼女を見る。
「どうしたんだよ。そんな事聞いて」
おもむろに聞いてみる。
「何でもないです」
彼女が慌てて言うから、顔を覗き込む。
「ところでさぁ。その“先輩“って言うのやめてくれない。よそよそしいと言うか、なんか遠巻きで言われてるみたいで、嫌だ」
オレが言うと。
「何て呼べばいいんですか?」
彼女は、聞き返してきた。
オレは、少し考えてから。
「護でいいよ」
って言うと。
「護…さん」
彼女の顔が、みるみる赤くなっていく。
可愛いぞ。
「詩織ちゃん…“さん“はなくていいよ」
オレは、真顔で言う。
「無理です」
って、即答された。
「徐々にでいいから、敬語も無しにね」
そう言いながら、笑顔で言う。
「わかりました」
詩織ちゃんが、渋々頷いた。
オレは、詩織ちゃんを家まで送った。
「じゃあ、また明日な」
オレは、そう言って手を振る。
「家まで送ってくれてありがとうございます。お休みなさい」
詩織ちゃんが、嬉しそうに言う。
彼女の笑顔が可愛いから、ついニヤケて仕舞う。
オレは、自分家に向かいながら、アレコレと考える。
本当に詩織ちゃんが、オレの彼女になってくれたんだよな。
嘘じゃないんだよな。
オレは、自分の頬をつねる。
「イッテー」
やっぱり、嘘じゃないんだ。
これから、彼女の事、守ってあげないとな。
オレは、そう心に誓った。