ライバル、増幅?
翌朝。
オレは、昨日詩織に着けてしまった、キスマークが気になった。
居てもたっても居られず、詩織の家に向かう。
詩織が出てくるのを待っていると。
「おはよう」
詩織が、笑顔で言ってきた。
「おはよう。昨日のは…」
オレは、急かすように聞く。
「キレイに消えてるよ」
詩織が、おかしそうに言う。
オレは、その言葉に昨日着けた場所を凝視する。
消えていた。
「よかった…」
オレは、安堵の溜め息をつく。
「ほら、学校行こう」
詩織が、オレの腕をとって引っ張る。
「そうだな」
オレ達は、学校までの距離をたわいない話をしながら行く。
詩織と居ると楽しい。
って言うか、安心できる。
居心地のいい場所だ。
その場所を誰にも譲る気はない。
オレは、そんなことを思いながら、学校に向かった。
教室に入ると。
「おはよう、玉城。昨日は、嫁さんと二人どうだったんだ?」
声をかけてきた。
嫁?
オレにとっての嫁は、一人しか居ない。
それをどうだったかって、話が見えないのだが…。
それより、こいつが指す嫁とは?
オレが、訝しげな顔をしてたのか、わからんがそいつは。
「ちひろの事だよ」
と、聞きもしないうちに言い出した。
なぜだ?
なぜ、ちひろが出てくるんだ。
オレにしては、ありえないんだが…。
「はァーー!ちひろとは、何の関係もないが?」
オレは、素で答える。
「何を今更隠してるんだよ。クラス公認の癖に…」
ちょっと待て。
それは、一体どういう事なんだ。
「お前、ちひろをモノにしたんだろ?」
モノにしたとは?
詩織ならしたが…。
「いや、してないぞ」
「嘘だー。ちひろは、お前と寝たって…」
言葉尻が小さくなる。
ハァーーーー!
オレは、もう絶句するしかなかった。
一度も一緒に帰ったこともないのに…。
「そもそも、ちひろはオレの嫁なんかじゃない。オレの嫁は、優基の妹だし…」
オレは、真顔で言う。
「その方が、嘘っぽいぞ」
と言われる始末だ。
どうしたら、信じてもらえるんだか…。
「おはようさん。って、何を深刻な顔をしてるんだ?」
そんな時に限って、優基の暢気な声が聞こえてくる。
「おはよう、優基。昨日、玉城が嫁さんと帰ったからさ、冷やかしてるんだよ」
優基にそんな説明をする。
「嫁さん?ああ、昨日は俺の妹と帰ってきて、しかも俺の兄貴になんか相談してたっけ…。その後も、夕飯も一緒に食って、勉強見てもらってから、帰ったんだよな、護」
と、優基は昨日の事を堂々と告げる。
そうなんだけど…。
「嘘だ!」
なぜ信じてくれんのだ。
「嘘言ってどうするんだよ。昨日は、兄貴が護を送っててる。護の嫁は、俺の妹の詩織だし。それにこいつ、妹喰っちまってるし…」
「優基!」
要らんことを言う。
「優基の妹を喰ったって…」
そいつは、信じられないって顔をする。
「そうだぜ。全く、手が早いって…。それから、ちひろは、ただ護に振り向いて欲しくて、デマを言ってるだけだから、気にするな。ちひろの事好きな奴がいたら、そう言ってやって。護は、なんも関係ないから…」
それにわをかけて、肯定してから、ちひろとの事を否定する優基。
それも、あっけらかんと…。
優基の言葉にそいつはなんとか納得したようだ。
…が、半信半疑のままだ。
一体、何人がちひろのデマに振り回されてるんだ?
「おっと、そろそろ移動しないとな」
優基が、思案してるオレの首根っこを引っ張り、移動した。
「優基。ありがとな」
ついでに要らんこともいってくれて…。
って、これは口に出さず飲み込んだ。
「気にするな。って、オレが、詩織に怒られるからした事だし…」
詩織に怒られる?
それは、一体なんだ?
「まぁ、ちひろはアレぐらいで引くとは、思わないがな」
優基が、怖い事を言う。
「ところで、護。詩織のクリスマスプレゼントは考えてるんか?」
エッ…。
「その顔は、何も考えてないな」
優基に突っ込まれる。
「詩織、楽しみにしてるぜ。クリスマスイブのデート」
何で、知ってるんだ?
って言うか。
勉強の事ばかりで、プレゼントの事忘れてた。
いや、今年はクリスマスどころじゃ…。
でも、待てよ。
初めてのイベントなんだから、やっぱりプレゼントぐらいは、ちゃんと用意しておかないと…。
と悩みだした。
「おーい、護さん。何を考えてるんだよ」
「うわー」
優基がオレを覗き込んでた。
それが、ドアップで我に返る。
「酷いな。そんな驚くことかよ」
「悪い。何でもない」
怪しげな顔をしながらも。
「いよいよ、新役員のお披露目だな。里沙ちゃん可愛いから、狙われないか心配だよ」
って、落ち着きがない。
「それを言うなら詩織だって、負けずに人気あるからオレ不安だ」
オレも優基に対抗するように言う。
「お前はいいよ。なんだかんだ言ったって、詩織はお前しか見てないわけだし。それに比べ、里沙ちゃんは…ハァ…」
優基が、珍しく弱気だ。
取り合えず、コイツはほっといて、詩織でも探すか…。
オレは、体育館を見渡す。
お、居た。
後ろから見ても、よくわかるもんだな。
その立ち姿に見いっていたら、詩織が振り返った。
オレは、笑顔で“頑張れ“と口をパクパクと動かす。
詩織がそれに気付いて、ゆっくりと頷いて、笑顔を見せてくれる。
可愛いぞ。
オレ、今すぐ行って、抱き締めたくなった。
その衝動をやっとの事で押さえ込んだのだった。
『只今から、生徒総会を始めます』
スピーカーを通して聞こえてくる。
いよいよだ。
って、オレが緊張してどうするんだ。
『今日の生徒総会は、来年度の新規メンバーの紹介を行います。新規役員は、壇上の方に上がってきてください』
オレは、詩織の動きを見ていた。
大分緊張してるみたいだが、大丈夫なのか?
っていうか。
なんか、詩織を見てる野郎共がやたらと居るんだが…。
まさか…。
ありえないだろうけど…。
オレの気のせいであって欲しい。
メンバーが舞台に上がると、紹介が始まった。
『生徒会長、水沢詩織さん』
詩織が、一歩出てお辞儀をする。
その仕草一つとっても、可愛い。
遺憾。
これは、相当重症だ。
『以上の七名が、来年度の役員です。新会長から一言お願いします』
メンバー紹介が終わると新役員代表で、詩織が話し出した。
『私達、新メンバー七名。力を会わせて頑張りますので、宜しくお願いします』
そう言い終えて、深々とお辞儀する詩織。
オレは、そんな詩織に惜しみ無い拍手をする。
拍手と同時に詩織が、頭を上げた。
満面の笑みだ。
ヤバイ。
可愛すぎる。
抱き締めたい。
と衝動と格闘してるオレ。
同時に周りからも。
「メチャ、可愛い」
「ほぅ…」
との声が、聞こえてくる。
オレは、周りの奴に今すぐ“オレの彼女だ“と宣言したくなるくらいだ。
その思いをただひたすら押さえるのに、必死だった。
ハァー。
オレは、教室に戻る途中、大きく溜め息をついた。
「護、どうした?」
案の定、優基の暢気な声。
「どうしたって、さっきのアレでまた敵が増えた」
オレが言うと。
「まぁ、あの笑顔で引き付けられるよな。我が妹ながら怖いぜ」
優基は苦笑しながら言う。
「わかってた事だけどな…。アイツは、意図してやってないところが怖い。まぁ、オレは、自分なりに詩織を守ることにしたから」
オレは、新たな決意を固めていた。
「しかし、仲良しメンバーの生徒会になったなぁ…」
ポツリ呟く、優基。
?
「どういうことだ?」
オレの疑問に。
「あっ、護にはまだ伝わっていなかったのか?あそこに居るメンバー、佐久間以外は詩織が仲良くしてた奴等だよ」
は?
「詩織が、真に信頼してるメンバーが集まったってこと」
そういうことか…。
「山本兄妹には、この間会ったけど、後の二人は?」
「凌也は、隆弥兄達の子弟だし、柚樹ちゃんは、塾で知り合った友達だからな」
そういう繋がりだったんだ。
「なるほど。…で、一番厄介なヤツをどうするかだよな…」
オレの呟きに。
「佐久間の事か?詩織からも聞いてるけどなぁ。取り合えず、生徒会室では、二人っきりにならないように言ってはおいたが…。里沙ちゃんにもそれとなく気にしてもらうように言ってあるよ」
優基は、そういう細かいところのフォローもしてくれる。
「まぁ、今年度中は、大丈夫なんじゃないか?お前も居るしな」
優基が、にこやかに言う。
本当にそうなんだろうか?
不安だが…。
心配しすぎても仕方がない…か。
「ほら、二時間目始まる。急ぐぞ」
優基に急かされ、教室に急いだ。
放課後。
オレは、日直日誌を書いていた。
今日に限って、日直だったりする。
はぁ。
せっかく、詩織とゆっくり帰れると思ったのに…。
溜め息をついてる場合じゃない。
さっさと終わらせて、詩織のところに行くぞ。
残りの日誌を一気に書き上げて、日誌を職員室の担任に届け、そのまま詩織のクラスに向かった。
詩織のクラスが、何やら騒がしい。
オレは、詩織を呼ぼうと中を覗き込んだ。
「そんな事ない!玉城くんは、私の事が好きなはずよ。あんたなんかに渡さない」
この声、ちひろか?
オレは、ゆっくりと近付いていく。
「何で、“はず“と仮定的な言い方なんですか?私は断言できますよ。私は、護に愛されてます」
詩織が、はっきりとした口調で言う。
「そんな事…」
なんだ?
「玉城くんは、私のよ!」
何の言い合いなんだ?
「護は、物じゃない!」
詩織が叫ぶ。
そして、詩織がオレに気づいた。
「じゃあ、本人に聞きますか?」
詩織が言い出す。
何の事だ?
オレが不思議に思ってると。
「ちょうど、本人が来たので…」
詩織の言葉で、ちひろが振り返る。
オレは、ちひろがここに居るとは思っていなかった。
振り返ったちひろも顔を引きつらせてる。
そして、オレの口から出た言葉は。
「ちひろ、何やってるんだ!まさか、詩織を脅しに来たのか?」
だった。
近付いてわかったのだが、詩織の左の頬が、赤くなっていた。
ちひろが、困惑し出した。
そして。
「玉城くん。この子に言ってやってよ、私と付き合ってるって!」
ちひろがオレの腕に絡めて、胸を押し付けるように言い出す。
だが、オレはそんなちひろの腕を振り払って。
「ちひろ。悪いけど、オレは詩織を愛してる。もう、結婚の約束までしてるんだ」
そう事実を告げた。
「嘘でしょ!」
ちひろが、声を荒げた。
「信じない」
そう言うと、ちひろがオレの唇にそれを重ねてきた。
「キャーーー」
周りから黄色い声が上がる。
オレは、無理矢理ちひろから離れ、袖口で唇を拭う。
そんなオレの動作を見た、ちひろが。
「あり得ないよ」
そんな言葉を吐き出した。
何が、ありえないだ!
それは、こっちの台詞だってんだ!
「悪いが、オレ、詩織以外のキスは、受け付けない!」
オレは、ちひろを冷ややかな目で睨み付けた。
その言葉を聞いたちひろは、顔色を曇らせた。
「詩織、消毒しても良い?」
詩織の了承を得ようと見ると。
「どうやって?」
詩織が、キョトンとしながらも一生懸命考えてる。
「こうやって…」
オレは、そんな詩織の唇に自分の唇を重ねた。
そのまま、詩織の背中に腕を回す。
詩織が、戸惑いながらもオレを受け入れてくれる。
角度を変えながら、リップ音をさせて…。
唇が離れると、視線が絡み合う。
そうやって、ちひろに追い討ちをかけたのだ。
「もう、良いわよ。玉城くんなんか、あんたにくれてやるわよ!」
ちひろは、苦し紛れの言い訳をしながら、出て行った。
って、オレは基から詩織のだ!
そう口にしたかったのを押し止めた。
ハァーー。
これで、本当に諦めてくれたのならいいんだが…。
「水沢。さっきの本当か?」
って、奴が聞いてきた。
奴って、もちろん佐久間だ。
やべぇ。
言うつもりなんか無かったんだが…。
頭にきて言っちまってたな…。
詩織が、困ったようにオレの顔を見る。
取り合えず、この場から離れた方がいいだろう。
そう思い、詩織の鞄と腕を掴んで、そこから逃げ出した。