優基の存在
昼放課。
オレは、昼飯を早めに食べると優基と図書室に向かった。
「すみません」
オレは、受付に声を掛ける。
「はい」
司書の先生が返事をしてくれた。
「今日の放課後、個室って空いてますか?」
「ちょっと待ってね」
先生は、パソコンを使って調べてくれた。
「一部屋空いてるわよ。どうする?」
「じゃあ、そこに入れてもらってもいいですか?」
オレは、間髪入れずに言う。
「ええ。何年生の誰?」
先生は、驚きながら言う。
「三年生の玉城です」
「三年生の玉城君ね。予約入れといたから、時間まで使ってくれていいからね」
「ありがとうございます」
オレは、先生に頭を下げた。
「護。よく思い付いたな」
横で、優基が感心してる。
「ああ。この間、詩織が個室で勉強してたって話してたからな」
オレが言うと。
「この間って、詩織が帰ってくるの遅かった時か?」
「そうだ。あの時に確かそんなこと言ってたからさ」
「そうだったんだ」
教室に向かって廊下を歩いていたら、詩織達が前から来た。
うわー。
やばい。
さっきの事があるから、顔を会わせ面い。
でも、今伝えないで、何時伝えるんだ。
自分で格闘する。
詩織は、オレの横を素知らぬ顔で通り過ぎようとした。
そんな詩織の腕を掴んだ。
「詩織…。さっきは、ごめん。お前が怒るのも無理はないな。だから、図書室ですることにした。だから、一緒に帰ろ」
オレは、極力優しい声音で言う。
…が。
「別にいいよ。気にしなくても大丈夫。一人で帰るから」
と、強がりを言い出す。
「何時まで怒ってるんだよ。じゃあ、どうしたら許してくれるんだよ」
オレは、詩織に詰め寄る。
すると。
「じゃあ、ここでキスして」
オレを上目使いで覗き込んできた。
こいつ、オレを試してるのか?
って、これやばいだろ。
こんなの可愛すぎる。
顔が、火照り出す。
「ずるいぞ、詩織。そんな可愛い顔で言われたら、言うこと聞かないわけいかないじゃん」
オレは、詩織を引き寄せて両手を詩織の頬に添えると、唇に口付けた。
詩織が、驚いた顔をする。
煽ったのは、そっちなのに…。
詩織の顔が、真っ赤に変わっていく。
「……ったく…。こんな所でさせるなよ…」
オレは、恥ずかしながら詩織の耳元で囁く。
「これで、許してくれるか?」
俯いてる詩織の顔を覗き込むようにして聞く。
詩織が、ゆっくりと首を縦に振る。
「じゃあ、私からも言わなくちゃいけない事があるの。絶対に怒らないでね」
しおらしく言う。
何だ?
こういう時って、オレによくない報告なんだよなぁ…。
「何だよ」
オレは、普通に答えたつもりだが、声音が裏返る。
「実は、生徒会役員メンバーに佐久間君が、入ってるの…」
佐久間?
あいつか?
「おい!嘘だろ。なんで、あいつが、入ってるんだ!!」
オレは、声をあらげた。
「詩織、ちゃんと説明しろ!」
詩織に詰め寄った時だった。
キーンコーンカーンコーン…。
予鈴が鳴る。
「ヤバイ。遅刻しちゃうよ。詩織、早く着替えに行こう」
里沙ちゃんが、詩織の腕を引っ張る。
「詩織、後でちゃんと説明してもらうからな」
オレは、詩織に聞こえるように大きな声で言ったのだった。
ハァーー。
オレは、特大な溜め息をつく。
何で、今になってあいつの名前を聞く事になるんだよ。
今、一番の問題じゃん。
授業が終わり、図書室の個室借りて、勉強会をしていた。
「玉城。ここ教えてくれ」
何で、あいつなんだ。
わけがわからん。
「玉城ー?」
耳元で言われて、我に返る。
「どうした?」
「なんでもねえよ。で、何処だ?」
「ここなんだが…」
オレは、丁寧に教える。
「そっか。やっぱり、わかりやすいな」
ハァー。
「玉城くん、ここ教えて」
ちひろが言ってきた。
オレは、ちひろの側に行き教え出す。
ちひろが、必要以上に引っ付いてくる。
「玉城。嫁さんにはやけに丁寧だな」
周りが、囃し立てる。
「嫁って…」
オレは、呆気にとられた。
ちひろは、少し頬を染め、嬉しそうだが…。
「ちひろとは、なんでもないんだが…」
オレは、否定する。
その言葉にちひろが、不機嫌になる。
「嘘だ。そんな接近されたら、誰だって…」
男どもの冷やかしに。
「護。これ教えてくれ」
優基が、助け船を出してくれる。
「ああ」
オレは、優基のところに行く。
「サンキュー」
小声で言う。
「なんの」
優基が、笑顔を返してくれる。
ほんと、優基が居てくれて、助かる。
こいつの機転で、下手に詮索されずに済んでる。
こっちは、こっちで問題だが…。
オレは、どうやら悩みばかり抱えてるみたいだ。
暫くして、携帯が鳴る。
「悪い」
オレは、携帯を確認する。
“終わったよー
下駄箱で待ってるね。 詩織“
詩織からのメールだった。
皆の手前、手短めに。
“了解“
とだけ打って、返した。
すると、その横で。
「そろそろ切り上げるか」
優基が言う。
「そうだな」
納得していくクラスメート。
「ねぇ、玉城くん。送ってくれるんだよね」
ちひろがおもむろに言い出した。
「送っててやれば」
周りの奴まで、やんやする。
「悪い。オレ、この後用事があるから無理…」
語尾を濁すように言う。
「何それ?どんな用なの?」
まさか、突っ込まれるとは…。
「俺の兄貴に頼まれ物してるんだよ、護は」
優基が、すかさずフォローしてくれる。
ありがたい。
「お前の兄貴って、双子の?」
「そうだよ。大事な頼まれ事だからな。それを疎かにしたら、雷が落ちるのが目に見えてる」
優基が、恐れをなして言う。
「そっか。それじゃあ仕方ないか…。俺等が送っててやるよ」
ハハ…。
オレは、タジタジになる。
「私は、玉城くんに送ってもらいたいから、このまま一緒に行くね」
ちひろが、オレの横に並ぶ。
「じゃあ、また明日」
仕方なく、ちひろと共に下駄箱に向かう。
その間、ちひろは話続けていた。
オレは、そんなちひろをそっちのけで、詩織が待っているであろう下駄箱に急いだ。
下駄箱に着くが、詩織の姿が見つからない。
オレの方が、先に着いたのか?
キョロキョロと詩織がいそうなところを見るが…。
「ちょっと、玉城くん。聞いてる?」
ちひろが、怒り口調で聞いてきた。
が、そんなの無視。
すると、なんか視線を感じて、そっちを見る。
そこには、詩織の姿が。
「詩織。いつからそこに居たんだ」
オレが、言葉をかけると同時にちひろがオレの腕に腕を絡めてくる。
何だよ。
オレは、詩織の方に笑顔で近付くが…。
詩織が、寂しそうな顔をしてる。
オレは、そんな顔を見たく無い。
「ちひろ、離せ!」
オレは、低い声で言う。
そして、無理矢理ちひろの腕をほどいて、詩織の肩を抱く。
「お前、また隠れて…」
オレは、そう言いながら空いてる方の手で、詩織の頬に触れた。
その頬は、冷たかった。
「何時から、そっこに居たんだよ。顔が冷たいし…」
「護が来る三十分ぐらいかな」
詩織が、明るい声で言う。
無理しやがって…。
「まったく…。早く出てこいよな。また、昨日みたいに帰ったかと持ったじゃんか」
オレは、心配しながら言う。
「ごめん。でも、私、お邪魔かなって…」
詩織が、なぜかしおらしく言う。
って言うか、なんで遠慮してるんだか?
「何言ってるんだよ。オレ達、婚約するんだろ。もっと自信持ちな。オレにとって、一番大事な女なんだからな」
オレは、本心をちひろに聞かせるように言う。
詩織は、首を縦に振る。
オレ達は、ちひろを残して、下駄履きを後にした。
「…で、昼間の続きだが、なぜ佐久間が入ってるんだ?」
帰り道。
オレは、詩織に問いただした。
一番の危険人物が、詩織の側に居る。
そんなの、オレ、やりきれない。
しかも、オレが居なくなって一年は、確実に近くに居るんだ。
ちゃんと説明してもらわないと…。
「話すと長くなるんだけど、護が倒れる前日に生徒会からの呼び出しがあったことは、知ってるよね」
詩織が、困ったような顔をして話し出した。
「あぁ」
「あの時、会長役を仰せ使って、自分で役員を決めろと言われて、クラスに戻って、里沙と話してたら、立候補してきたの。邪険に扱うわけにもいかないし、その時は里沙、告白されてる事なんて、知らなかったから、直ぐに副会長に納まっちゃったの」
詩織が、言いにくそうに説明してくれた。
そうか。
里沙ちゃんには、言ってなかったんだ。
オレは、てっきり話したものだと思ってた。
「よりにもよって、アイツが副会長になぁ。心配だなぁ。オレが卒業したら、あいつ、ちょっかい出すだろうし…」
オレの心配事の一番の要因なんだよな。
「大丈夫だよ。私には、護だけだから…。何があっても、護のところに戻るよ」
詩織が、笑顔で言う。
詩織を信じてる。
けど、詩織は気付いていない。
そこを狙って、男が詩織に近づこうとしてるのを…。
「本当だろうな?」
オレの言葉に、詩織が。
「約束します。私は、護のものです」
って、近い出す。
それ、生殺しだから…。
「じゃあ、昼間みたいにキスしてくれ!」
オレが、悪戯っ子のように言う。
こんな場所で、詩織がする筈がないだろうと思っていったのだが…。
詩織が、オレの首に腕を回してきて、背伸びをしたかと思うと、オレの唇を奪う。
それも、何時もより長く…。
詩織……。
どうしよう…。
オレは、そんな詩織の背中に腕を回して抱き締める。
「気持ちの篭った口付けをありがとう。絶対に詩織を守るし、幸せにする。約束だ」
そう告げると、唇を奪った。
そして、唇から、首筋に移動していく。
「護。そこは、ダメだって…」
詩織が、抵抗しだす。
「ダメじゃない。オレのって印をつけてるだけ」
オレは、次から次へと口付ける。
その度に、詩織がのけぞる。
「くすぐったいよ」
詩織の甘い吐息に。
「我慢しろ」
オレは、そう言って、おもむろに口付ける。
「ちょっと、護、やめてよ。そんな事したら、明日の生徒総会の時に私が恥ずかしい」
詩織が、突然言い出した。
「エッ…」
オレが、口付けをやめると。
「明日の生徒総会の時に新メンバーで、挨拶する事になってるの。生徒会長の私が、こんな目立つ所にキスマークつけて、壇上に上がれないよ」
詩織が、情けない声で言う。
「それを早く言えよな」
オレは、それを聞いて焦る。
まさか、明日だなんて…。
「髪の毛で、隠せないか?」
オレは、慌てて後が付いてるところを確認する。
すると、その慌て振りが可笑しかったのか、詩織が吹き出した。
「何、笑ってるんだよ」
どうしたらいいかわからずに居る。
「何って、そんなに焦らなくても…。明日の朝までには消えてる事を願うしかないね」
詩織が、クスクス笑ってる。
詩織の方が、肝が据わってる。
詩織には、負けるなぁ…。
「そういえば、隆弥さんS大だって…」
オレは、話を変えた。
「うん、そうだよ。隆弥兄も護と一緒で、教師目指してるんだよ。だから、わからないところは、隆弥兄に教えてもらってる。教え方も上手だしね」
詩織が、ニコニコ顔で話してくれる。
「そっか。オレも、隆弥さんに教えてもらいたい…」
オレが言うと、詩織は。
「今日は、バイトも休みなはずだから、家に居ると思うよ」
って、寄っていけばいいじゃんって感覚で言う。
「本当か?お邪魔させてもらおうかな」
オレは、えんりょなくいうと。
「そうしなよ」
詩織が、背中を押すように言う。
オレは、頷いた。