彼女の異変
さて、オレはどうするかなぁ。
詩織が終わるまでの時間をどこで過ごすか…。
教室だと厄介な奴等に捕まりそうだし…。
とりあえず、図書室で勉強するか…。
詩織の教室を出て、図書室に向かった。
ほんとんどの生徒は、帰ってしまった後みたいで、図書室は貸しきり状態だ。
これで、心置きなく勉強ができる。
オレは、わからない箇所があれば、調べながら進めていく。
集中してたら、机に置いていた携帯が震えた。
゛今、終わったよ。
一緒に帰ろう 詩織゛
詩織にしたら、簡潔気味だが。
゛わかった。
下駄箱で待ってて 護゛
オレは、詩織にメールをうち返して、片付ける。
図書室を出て、廊下を歩いていると詩織の姿が見えた。
オレは、詩織に近付こうとしたら。
「玉城くん。学校来てたんだ」
ちひろが、いきなり現れて腕に絡み付いてきた。
「ねぇ。今日は、どうしたの?何で欠席した玉城くんが、学校に居るわけ?」
質問攻めだ。
何で、こいつらに説明しないといけないんだ。
っと。
詩織は…。
あれ、さっきまでそこに居たと思ったんだが…。
まぁいいか。
下駄箱で待ち合わせてるんだし…。
それが、仇になるとは思わなかった。
ちひろ達をどうにか撒いて、下駄箱で詩織が来るのを待っていた。
だが、一向に姿を表さない詩織。
あれから、三十分経っていた。
なにか、詩織の身に何かあったんじゃないかと不安になる。
そんな時だった。
teuuuuu…truuuuu…
携帯が鳴る。
「はい」
オレは、その電話に出る。
『護。今どこに居るんだ!』
優基の慌てた声。
エッ…。
「学校だけど…」
オレの言葉に。
『詩織が、変なんだよ…。お前、心当たり無いか?』
って。
何で…。
詩織は、もう家に居るのか?
オレが、答えずにいると。
『とりあえず、急いで家に来い!話はそれからだ』
優基は、それだけ言って電話を切ってしまった。
何だ?
詩織は、オレを置いて家に帰ってるんだ。
って、さっきの優基の声、切羽詰まってた。
詩織に何かが起こってるのは、間違いない。
詩織…。
オレは、詩織の家に向かって走り出した。
詩織の家に着くと、呼び鈴を押す。
すると。
「早かったな」
優基が出てきた。
「詩織が、どうしたんだ?」
オレの質問に。
「見た方が早いかもな。とりあえず、上がれよ」
優基もどうしたらいいのかわからないという感じだ。
「お邪魔します」
オレは、上がらせてもらう。
「詩織の部屋、こっちだから…」
優基がそう言いながら、二階に上がっていく。
オレは、その後を追う。
コンコン。
優基が、部屋の前に止まりノックする。
返事がない。
優基は、そのまま部屋のドアを開ける。
優基が、オレに入れと促す。
そこには、見た事もない詩織の姿が…。
「あいつ。帰ってきたかと思ったら、部屋に閉じ籠ってしまって、隆弥兄も心配してて、声かけても返事しないんだよ…」
優基が、心配そうに言う。
「だから、お前と何かあったんじゃないかって…」
詩織の目には、何一つ映っちゃいない。
オレの事も…。
見てるようで、見ていない。
どうしたんだよ。
オレの好きな詩織が、こんなに固まってる。
どうしたら、戻るんだよ。
「おい。詩織、詩織!」
オレは、詩織の身体を揺さぶる。
まだ、戻らない。
早く、正気に戻ってくれ。
オレは、ありったけの気持ちを込めて。
パッシーン!!
詩織の両頬を叩いた。
「詩織、しっかりしろ!」
オレは、詩織を抱き締める。
「こら!詩織。オレの声聞こえてるか?」
詩織の耳元で話す。
だが、まだ虚ろの目を浮かべてる。
詩織…。
こんな詩織みたくない。
オレは、詩織の唇を塞いだ。
「詩織。オレの所に戻って来い!!」
もう一度、詩織の唇を奪うと。
「…まも…る」
詩織が、オレの名を呼んだ。
安心して、笑顔がこぼれた。
「やっと、戻ってきたな…」
オレは、詩織を力一杯抱き締めた。
優基が、部屋を出てい行ったのがわかった。
「何で、護が居るの?」
詩織が、不思議そうな顔をして、オレを見る。
「そりゃないよ。詩織のようすが可笑しいって、優基から電話もらって素っ飛んできたのに…」
オレは、苦笑いしながら答える。
「お前がフリーズしたの、オレのせいだよな」
そう思いたくはなかったが、確かに心当たりがあるのは、確かなんだよ。
だが、詩織は黙ったままだった。
そんな詩織に。
「いい加減、素直になれよ。逆に心配になるだろうが…」
優しく言い、抱いていた腕に力を込めた。
「今日は、朝から悪かったよ。まさかぶっ倒れるとは思わなかった。詩織が、優基を呼んでくれたお陰で、病院で注射打ったら、直ぐよくなって、学校に出てきたら、詩織の様子が可笑しいって、里沙ちゃんに言われて、教室に行くと思いっきり固まってるし、元に戻ったかと思って安心したら、まただ。それって、オレのせいなんだろ?何かしたか?オレ」
オレは、心配させたことを謝りながら、本当の事は伏せておいた。
「さっき…」
「ん?」
「さっき、女の子に囲まれていたよね」
詩織が、弱々しく言う。
「あぁ…」
「しかも、腕まで組んで…」
詩織の視線がそらされる。
「あれは、詩織を見つけて声を掛けようとしたら、クラスメートに捕まったんだよ」
やっぱり、オレが原因か…
「それを見たら、居ても立っても居られなくて、逃げ出してた」
詩織の声が、震えてる。
「ただのクラスメート。詩織が気にすることなんか無いんだ」
オレは、詩織の頭を撫でる。
「凄く、綺麗な人に腕を絡まれて、楽しそうだった」
拗ねた口調で言う。
もしかして、妬きもちか?
「ハァー。それってちひろの事か?」
オレは、つい下の名前で言ってしまった。
詩織が、勘違いしなきゃいいが…。
…って、落ち込んでやがる。
「ちひろは、お前と付き合う前の彼女。って言うか、一方的に言い寄られてただけで、何もない!」
それだけは、断言できる!
「本当に?」
詩織が、疑いの目を向けてくる。
「本当さ。オレは、詩織だけしか触りたいとは思わない。他も女なんか、眼中にないよ。それに腕だって、詩織以外の奴とは、したいとは思わない」
オレは、そんな詩織が愛しい。
「オレが、本当に好きで、ずーっと一緒に居たいと思うのは、詩織だけだよ」
オレが、耳元で言うとゆっくりと顔を上げて。
「ほんと?」
詩織が、視線を合わせてきた。
そんなマジ顔が、可愛い。
「あぁ、本当さ。朝も言ったと思うけど、婚約して、同棲したいくらいだ」
オレは真顔で答えた。
「そろそろ、帰るかな」
詩織を抱き締めていた腕をほどく。
それを聞いた詩織が、寂しそうな顔をする。
「そんな不満そうな顔するな。帰れなくなる」
オレは、詩織の頬に手を添える。
その時、ドアがノックされた。
「はい」
詩織が答える。
「護。飯食ってけって…」
優基だった。
「でも、迷惑じゃ…」
オレが、戸惑いながら言うと。
「何か、話があるんだってさ」
優基が、意味深な台詞を言う。
オレは、詩織と顔を見合わせた。
三人で下に降りていくと、詩織の両親、双子のお兄さんもいた。
エッと…。
オレは、どうしたら…。
そう思っていたら。
「どうしたの?珍しいね、皆が揃ってるなんて…」
詩織が、驚きながら言う。
「詩織と護くんだっけ。空いてる席に座りなさい」
詩織のお父さんが言う。
オレは、その指示に従うしかなかった。
「父さん、俺は?」
優基が聞き出す。
「お前は向こうだ」
と、顎でリビングを差す。
「やっぱり…」
聞かなくても、わかってたって感じがするが…。
優基は、一人リビングのへ行く。
席に着くと、突然。
「護君は、将来どうするつもりなんだ」
と聞かれた。
「僕は、教師を目指しています」
オレは、淀み無く答える。
「じゃあ、恋愛してる場合じゃないだろ」
詩織のお父さんは、オレを試すような質問をしてくる。
「僕は、そう思っていません。詩織さんが居るからこそ、僕は頑張る事が出来ます」
オレは、そう断言する。
「そっか……。なら、条件を出してクリアしたら、詩織との婚約を許そうじゃないか」
エッ…。
それって…。
「わかりました」
オレは、そう返事するしかない。
「条件一、大学に合格する事、条件二、高校を卒業する事。この条件がクリアされ次第、婚約を認めてやろう」
オレは、詩織のお父さんの目を見てその条件を聞いていた。
そして。
「はい。その条件、必ずクリアしてみせます。詩織さんの為にも頑張ります」
って、真顔で答えた。
「よかったな、詩織」
オレの斜め前に座っている隆弥さんと勝弥さんが言う。
リビングかからも。
「よかったな、詩織」
優基の声が聞こえてきた。
よかった。
本当は、付き合うなって言われるんじゃないかと、冷や冷やした。
「護君の両親にも、伝えないといけないな」
詩織のお父さんが言う。
「僕、父一人、子一人なので、父親さえ許可してもらえれば、大丈夫なので…」
オレは、同情されないように明るく言う。
「そうなのか?悪い事を聞いてしまったなぁ」
詩織のお父さんが、すまなそうに言う。
「いいえ、大丈夫ですよ。僕、この賑やかな食卓なんて、久しぶりで楽しいです」
オレは、心のそこから思った。
「じゃあ、毎日夕飯を食べ二おいでよ。一人で食べるよりいいでしょ」
詩織のお母さんが笑顔で言ってくれる。
「そんな、悪いですよ」
オレが、遠慮がちに言うと。
「何時も、余分に作ってるから、大丈夫だよ」
詩織のお母さんは、おおらかに微笑んでる。
「それに、毎日詩織を送ってきてるんだ。遠慮する必要ないだろ」
隆弥さんが言う。
それは、オレが心配だからで…。
「それなら、護の親父さんの帰りが遅い時だけ、うちで夕飯を食べるってのは?」
渋ってるオレに、勝弥さんが言う。
その条件だと、ほぼ毎日伺うことになってしまう…。
「そうしましょう。私は、嬉しいわ。色んな話を聞かせて欲しいなぁ。家の息子達、何も話してくれないから、寂しくて…」
って、詩織のお母さんは、ニコニコ顔だよ。
「今更、話す事何て無いだろ」
隆弥さんの言葉に二人が同意して頷いてる。
「何時も、こうなんだから…」
「詩織の家族って、楽しいな」
オレは、何時しか笑顔を浮かべていた。
オレが、この中に入っても大丈夫なんだって、思わせてもらえた瞬間だった。