表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/62

思わぬ事態

オレは、詩織を送ってから、家に帰った。

玄関を開けると、鍵が珍しく開いていた。

「ただいま」

オレはが、中に入ると親父が、リビングで寛いでいた。

「お、お帰り」

「今日は、やけに早いんだな」

「お前なぁ。塾から電話かかってきたんだよ。途中で抜け出して、何があったんだ?お前らしくもない」

親父が、心配そうに言う。

「悪い。ちょっと、気になる事があって、勉強どころじゃなくてさ」

オレは、言葉を濁しながら言う。

「それは、彼女の事か?」

相変わらず鋭い。

「あぁ…」

「恋愛はするなとは言わんが、今は、自分の人生がかかってる大事な時期なんだから、そこのところしっかり自覚しろよ」

「わかってる。忙しいのに、オレの為にゴメン」

オレは、親父に向かって謝る。

「いいさ。お前の事で、抜ける事なんて、そう滅多に無いからな」

「親父…」

「俺は、お前の事を信じてるんだ。自分の事は、自分で切り抜ける事が出来るって、だから気にするな」

「ありがとう」

オレは、親父の有り難みを改めて知った。

親父が、オレの親父でよかった。


自分の部屋で勉強をしてたら、突然机の上に置いていた、携帯が震えた。

゛護へ

明日の朝、話したいことがあるから

一緒に学校に行こう。

詩織゛

と、メールか送られてきた。

何だ?

話したい事って?

取り合えず簡単に。

゛わかった。

明日、七時半ごろ迎えに行く。

お休み゛

と打って、送り返した。


今日の分の遅れを取り戻すように、勉強に没頭した。



翌朝。

オレは、少し気だるさを感じながら、詩織の家の前で詩織が出て来るのを待っていた。

「おはよう」

詩織が、少し緊張気味に挨拶する。

「おはよう」

オレは、笑顔を浮かべるのがやっとだった。

「行くか」

オレは、詩織の手を捕ると歩き出した。

暫くして、詩織が。

「護。昨日、私、来年度の生徒会長に選ばれたの」

って、嬉しそうに言う。

やっぱり、隠してたんだ。

「ふーん。っで…」

オレは、かなり苛立っていた状態だったと思う。

「…っでって…」

詩織が、聞き返してきた。

「どうして欲しい?喜んで欲しいの?それとも怒らせたいの?」

オレは、自分で言いながら、怖くなる。

熱があったとはいえ、この言い方は無かったかも…。

自分で反省しながら、どうにもならない自分がいる。

詩織を見ると、怯えた目をしてる。

「詩織。昨日のうちにその話してくれてれば、許したのに。なんで、今、言うんだよ。これでまた、お前の人気が出て、オレには見向きもしなくなるんだ。オレは、詩織とずっと居たいのに…。何で、わかってくれない…」

ヤバイ。

自分が、どんどん暴走し出してる。

だが、止める事が出来ない。

オレは、無理矢理、詩織を引っ張る。

「詩織のこの髪も、この唇も、胸も、細越も、全部オレのものだ。誰にも触らせたくない」

オレは、詩織の唇に指を這わせる。

独占欲の塊のオレ。

こんなにも、執着してる。

詩織を力の限り抱き締める。

「いっそう、このまま婚約して、同棲してしまいたい」

オレは、語尾を強めて言う。

「護。私は、どうすればよかったの生徒会長を辞退すればよかったの?それとも、ちゃんと護に相談してから受ければよかったの?」

詩織が、オレに感情をぶつけてきた。

初めての事で、オレは戸惑った。

「ごめん。詩織にカッコ悪いところ見せた。昨日から、どうも調子…悪くて…。なんか…」

オレの意識は、そこで途絶えた。


「詩織。こんなところに居たらダメだよ。学校行こう」

オレは、詩織の手をとって立たせた。

そして、ゆっくりと学校に向かわせた。


次に気がついた時は、見知らぬ天井がオレの眼に入ってきた。

「ココは…」

オレが、身体を起こそうとしたら。

「無理に起きるな」

と声がした。

「護、大丈夫か?」

優基の声。

「お前、無理しすぎだぞ」

と、呆れた顔をする優基。

何が、あったんだ?

「優基。俺、外で待ってるから、そいつにいきさつ説明しておけ」

「わかったよ、隆弥兄」

そう言って、優基が見送る。

隆弥兄…さん?

「お前、詩織と登校してたの覚えてるか?」

「あぁ…」

その辺の記憶は、ある。

その時に詩織から、生徒会長に選ばれたって話になって…。

「その時に倒れたんだよ。詩織が、オレに電話してきて、隆弥兄にココに運んでもらった」

ココって…。

「ココは、病院だよ。隆弥兄がいつもお世話になってる所だから、気にするな」

優基が、ニコニコしながら言う。

「しかし、お前の精神力は凄いな」

優基が、感心したように言う。

オレは、何が言いたいのかわからずポカンとしてた。

「お前、隆弥兄に一回車を止めさせて、詩織のところに戻って、学校まで連れてくんだもんな」

優基が言うが、オレは全然覚えていない。

「……」

「覚えてないのか?座り込んでいた詩織を立たせて、学校まで送り届けたかと思ったら、また、ぶっ倒れやがって…。手間かけさせるな」

優基が、苦笑する。

「…で、学校は?」

オレが聞くと。

「は?お前、そんな状態で学校に行くつもりかよ。って言うか、今から行っても放課後だぞ」

優基の言葉にオレは、壁に掛かってる時計を見た。

四時半……。

「優基、お願いだ。オレ、学校に行かないと…」

オレは、自分がした事を思い出した。

今頃、詩織は自分を攻めているだろう。

そんな詩織に安心してもらわないと…。

「わかったよ。詩織の事が気になるんだろ。その前にその点滴終わらないとな」

そう言うと、優基が部屋を出て行く。

オレは、今の自分の状態を確認した。

オレの腕には、管が繋がっていた。

「お前、詩織の事よろしくな。あいつの事、一番に考えてくれてありがとう」

突然入ってきて、そう言われた。

少し怖そうだけど、根は優しいのかも…。

「そろそろ終わるか。看護師呼んでくるな」

そう言い残して出て行く。

ああ、あの人が詩織の双子の兄なんだ。

まともに話した事無かったけど、いい人じゃないか。

オレは、そんな事を思いながら、詩織の事を考えていた。


隆弥さんに学校まで送ってもらい、詩織の教室に向かった。

詩織が、自分の席で呆けてる。

思った通りだ。

オレにせいで、放心状態じゃんか…。

オレに気付いた里沙ちゃんが。

「先輩…。詩織が、変なんです」

心配そうに言う。

「わかってる。その為に来たんだから…」

オレはそう言うと、詩織の前の席に座る。

そして…。

パシン!

詩織の頬を叩いた。

里沙ちゃんを始めとする他のクラスメートが、唖然としていた。

詩織が、オレを捉えたと同時に。

「詩織。お前らしくないじゃん。ほら、ちゃんとしろ」

オレは、笑顔を向ける。

「護…」

詩織が、ポロポロと泣き出した。

「どうしたんだよ。そんなに泣くなよ」

オレは、指で詩織の涙を拭っていく。

「だって…。安心したら、急に溢れてきて、止まらない…んだもん」

全く、可愛い事言いやがって…。

「…ったく。何時もの詩織らしくないじゃん。自信家で、キラキラしてるお前が一番好きなんだから。ほら、皆が心配してるだろ」

詩織が、オレの言葉で周りを見渡す。

「いい加減、泣き止め。お前の仕事が待ってるんだろ」

オレは、朝の事を許していた。

本当は、何で隠していたのかを聞きたかった。

でも、それはオレのためだってわかってるからこそ、聞かずにいた。

「エッ…。いいの?生徒会の仕事しても?」

詩織が、驚いた顔をする。

「朝、言われて最初はまた、厄介な事を引き受けてきたって思ったけどな。よく考えたら、詩織にしか出来ない事だと思って。人気もあるし、頼れる奴なんて早々いやしない。仕方ないと思ったよ。オレの大好きな子が、学校の為に頑張ってる所を見たいって思う」

オレが、詩織に笑顔を向ける。

本当は、目立つ事はして欲しくない。

来年は、オレはココに居られないからこそ、心配事を増やしたくなかった。

本心とは矛盾してる事は、わかってる。

でも、今はこうでもしないと納まらないだろう。

「じゃあ、本当にやってもいいんだ」

詩織が、笑顔に戻っていく。

「いいよ。皆が待ってるんだろ。帰りは、一緒に帰ろう。終わったら、メールくれればいいから」

オレは、にこやかに言う。

「ありがとう」

詩織が、嬉しそうに言って、筆記用具を持って、教室を出て行った。

ハァー。

そんな役回りかも…。

でも、これでよかったんだよな。

詩織の可能性を潰したくない。

オレは、自分の矛盾と格闘する事となる。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ