嫉妬心
あれから、オレは受験勉強に精を出した。
「おーい、護。図書館に付き合え」
優基が、オレの首根っこを掴んできた。
まぁ、いいか。
ちょうど、オレも行きたかったし…。
「お前、詩織とはどうなんだよ?」
突然、聞いてきた。
「どうって?」
オレは不思議に思い聞き返す。
「里沙ちゃんがさぁ、詩織の周りにまた男共が、ちらついてるって言ってきたからさ、少し気になっただけ」
そうか。
里沙ちゃんって、詩織と同じクラスなんだ。
「最近は、会ってないかな」
オレの言葉に、優基が愕然とする。
「お前、それって、ほったらかしにしてるって事?」
優基の言葉に。
「そうじゃない。詩織から言い出したんだよ。オレの勉強の邪魔になるといけないから、少し距離をとろうって…」
オレは言い返す。
「お前、よく受け入れたな。俺なんか、里沙ちゃんに会わない日があるだけで、色々考え込んで仕舞うのに…」
優基の言葉にも一理あると思う。
だけど、今頑張らないで、いつ頑張るんだって事になる。
「まぁ、その分詩織が、色々と準備してるみたいだがな」
と、またもや意味深な発言で、オレを困惑しようとしてる。
何が?
『二年C組の水沢詩織さん。大至急、生徒会室に来てください』
と、放送が入る。
詩織、何かしたのか?
オレは、不思議に思いながら、調べ物をする。
暫くして、オレは詩織を感じたくて、教室に向かう。が、そこには、詩織を中心にして、人だかりが出来ていた。
「詩織。これ、何の騒ぎ?」
オレは人垣を掻き分けながら、詩織に近付く。
詩織は、オレの訪れに少し戸惑いながら。
「佐久間君、里沙。後、お願いできる?」
「オッケ」
声の方を向く、また、あいつが居る。
何の集まりなんだ。
オレは、首をかしげる。
詩織が、オレの所に来る。
「どうしたの?」
そして、何でもないように繕う詩織。
久し振りなのに…。
「お前こそ、この人垣何?どうして、こんなに集まってるんだよ。オレ、心配…」
「何でもないよ。ちょっとした、お祭りみたいなものだよ」
詩織は、そう言うとオレの腕を引っ張り、渡り廊下へ…。
「護、勉強頑張ってる?」
詩織が、笑顔で言う。
「おうよ。お前の為にもな」
詩織の頭を撫でながら言う。
「頑張り過ぎて、充電しに来たら、あの騒ぎだったから、何かあったのかと思って…」
デート以来、詩織とは会っていなかったから。
オレは、詩織の事を遠目では見ていたが、やっぱり触れ合いたくなってきて、こうして出向いたのだが…。
「ちょっとさ、ギュットさせてくれ」
それだけ言うと、詩織を腕の中に抱き締める。
そして。
「お前は、オレのだからな。絶対に他の奴のところへ行くなよ」
詩織の耳元で囁く。
「うん。大丈夫だよ、私は。護だけしか見てないから…」
詩織が、笑顔で答えてきた。
「そっか…。相違や詩織って、何でオレの事を好きになったんだ」
告白した時言ってたよな。
詩織が、オレの事を好きだって。
どこかで会った事あったか?
「今、言わなきゃダメ?」
詩織が、上目遣いで聞いてくる。
そんな可愛い顔するなよ。
「聞きたい!」
オレは、思わずそう口に出していた。
食らい付きすぎた。
詩織の驚いた顔にそう思った。
そして、恥ずかしそうに。
「私が、高校入る前からな」
って言い出した。
「そんなに前から!」
オレは、ビックリした。
そんな前から、オレの事を気にしてくれてたなんて…。
優基の家には、遊びに行った覚えはないし…。
一体、何時だ?
「うん。中学の三年生の高校見学の時。私と里沙と他の二人の四人で、優兄の先導で学校の下見がてら、校内を回ってた時に窓越しにグランドで、黙々と練習に打ち込んでる姿に一目惚れしたの。こんなにも一つの事に打ち込んでる姿、余り見なかったから。高校に入って、優兄に名前だけ教えてもらってた。そして、凄く優しい笑顔の人なんだなって思ったら、急に胸の鼓動が早くなって、あっ私、本当に好きなんだなって思って…。護から、告白された時、ビックリしたのと同時に物凄く嬉しかった」
詩織の頬が、赤く染まる。
「オレの事、そんなに見ててくれたのか?」
オレは、俯いて赤くなってる詩織にの顔を覗き込んだ。
詩織が、ゆっくりと頷く。
「そっか。オレ、詩織の事、独り占めにしていいんだな」
確認して、安心するオレ。
オレが、詩織に惚れるよりも先にオレの事を…。
そう思っただけで、嬉しい。
って事は。
その時から、オレの事しか見ていなかった事になる。
うわー。
マジに嬉しい。
「そうだよ。だから、受験頑張ってね」
詩織が、オレの頬に口付けてきた。
ヤバイ。
可愛すぎるだろ。
「大好き」
満面の笑みを浮かべて言う詩織に。
「オレも、愛してる」
人目も気にせずに、詩織の唇に唇を重ねた。
「じゃあな。今日も送ってやれなくてごめん…」
オレは、詩織と離れるのを惜しむように言う。
「気にしなくていいよ」
詩織が、寂しそうな笑顔を見せながら言う。
そんな詩織を残して、オレは自分の教室に向かった。
教室に戻ると。
「おいおい。人前で、妹と堂々とキスするなよ」
優基が、オレの耳元で言う。
見られてた。
「…で、詩織、何だって?」
何が?
「お前、さっきの放送の事聞きに行ったんじゃないのかよ」
優基が、呆れたように言う。
「いや。オレは、ただ、最近会ってなかったから、勉強に身が入るように充電しに行っただけだ」
オレの言葉に。
「何やってるんだよ。生徒会からの呼び出しがかかるって事は、次期生徒会長を詩織にやらせるって事だろ」
あっ……。
優基に言われて、気がつくオレって…。
この学校って、生徒会選挙って無くて、今の生徒会メンバーが会長を決めて、呼び出しをするんだった。
しかも、この次期から引き継ぎを行う為に早々と決まるんだよなぁ。
って…。
エエーーーー。
まさか、詩織が生徒会長なのか?
「護。反応遅い」
呆れた顔を見せる優基。
「まさかだよなぁ…」
オレの言葉に。
「多分、詩織の事だから、引き受けてきたんじゃないのか?」
そういや、クラスに行った時、詩織の周りに人垣が出来てた。
あれって、自分以外の役員を決める為に集まってたってことか?
でも、それなら納得できる。
詩織は、さっきその事一言も言わなかった。
オレには、言えない事なのか?
「おーい、護。戻って来い」
優基に声をかけられて、我に返るが…。
「詩織に聞いた訳じゃないから、想像でしかないがな」
でも、あの詩織だから、断るわけないだろう。
うわー。
また、不安要素が増えてる。
さっき、やっと落ち着いたと思ったのに…。
「護さぁ。もう少し、詩織の事信じてやれよ。アイツ、お前の為に頑張ってるんだから」
オレの為って…。
優基の言葉は、右から左に抜けていく。
確かに、詩織の事を信じてる。
だけど、今は不安だらけだ。
「ほら、塾の時間じゃないのか?」
優基に言われて、時計を見る。
ヤバイ。
「優基。この事は、詩織には…」
「わかってる」
オレは、優基の言葉を聞いて、教室を出た。
塾に着き、授業を受けるが、詩織の事が気になりそれどころじゃなかった。
一時間だけ講義を受けて、直ぐに詩織の家に走った。
さっきの事を確認したくて。
ピーンポーン。
オレは、詩織の家のチャイムを押す。
「はーい」
玄関に出てきたのは、詩織そっくりの女性。
当たり前だ。
彼女の母親なんだから。
「どちら様ですか?」
「すみません。玉城って言いますが、詩織さんは?」
丁寧に答えてる自分が居る。
「玉城って、優基の友達の玉城くんだよね。あれ、もしかして、詩織の彼なのかな?」
彼女は、クスクス笑いながら言う。
オレが、タジタジになってると。
「オッ、護。詩織なら、まだ帰ってきてないぞ」
優基が、出てきた。
「まぁ、やっぱり。詩織の…」
って声。
「母さん。声が大きい」
優基が、母親をたしなめてる。
「そうか。なら…」
オレは、それだけ言って、通学路を戻った。
暫くいくと声が聞こえてきた。
「しかし、優基さんの彼女が、里沙ちゃんだなんて…」
オレは、気配を消しながらその会話を聞いていた。
「そうでしょ。私も初めて知った時、ビックリしたもん。でも、仲良しだよあの二人」
詩織の声も聞こえてきた。
「そうみたいだね。優基さんの笑顔、物凄く優しかったし…」
こんな遅く迄、一体何をしてたんだ?
「あの優基さんでも、あんな顔するんだ」
男も一緒なんだ。
「そういえば、詩織ちゃんも彼氏居るよね」
えっ……。
オレの事?
「うん」
詩織が、即答してる。
「嘘。俺、詩織狙ってたのに…」
男の声が、一段と大きくなった。
「本当かな?」
また、男が食いつきそうな言いかたしやがって…。
「本当だよ。拓人ったら、毎日詩織ちゃん可愛いって、私の所まで言いに来るんだもん」
何だとー!
なんか、胸が苦しくなる。
このモヤは、一体…。
「忍。それは言うなって…」
男が慌ててる。
「ごめんね、拓人君」
詩織が、申し訳なさそうに言う。
そんな事したら、余計付け入るだろうが…。
「それ以上言うな。余計に落ちこむだろ」
声が、落ち込んでた。
「詩織!」
オレは、いてもたってもいられなくなって、叫んだ。
詩織が、驚いた顔をする。
「護。どうしたの?」
オレは、詩織に近付く。
「詩織。何で、こんなに遅いんだよ。オレに何か隠してる?それに、そいつ誰?」
一気に、詩織に質問した。
「ちょっと、待って。彼は、山本拓人君。優兄の友達で、近所に住んでるから、一緒に帰ってきただけだよ」
詩織が、慌てて説明する。
「じゃあ、何でこんな時間なんだ!」
オレ、みっともないことしてる。
自覚はあるが、止められない。
「図書館で、勉強してたの。期末試験が近いし…」
詩織が、何かをごまかすように語尾を弱める。
「そうなんです。私達、図書館にある個室を借りて、勉強してたんです。詩織ちゃんに色々と教えてもらいながら…」
詩織の隣に居た女の子が、詩織を庇う。
なんか、やましい事でもあるんじゃないのか?
「本当に?」
オレは、詩織の顔を覗き込みながら、聞き返す。
「本当だよ。何で、護に嘘つかないといけないのよ」
詩織が、真顔で言い返してきたが、腑に落ちない。
「前にもあったから、また隠し事されてるのかと…」
オレの言葉に詩織が、焦り出した。
「大丈夫だって。護、心配しすぎだよ」
そんな詩織をオレは、抱き締めた。
何処かに、行ってしまいそうだったから…。
オレから、離れて行ってしまうのではないかと、不安がオレの頭を掠めていく。
「詩織。心配させ過ぎ。オレ、ずーっと、ドキドキしっぱなしだよ。受験どこじゃない…。いっそうの事、お前の事閉じ込めたい」
オレは、詩織の耳元で囁いた。
詩織が、オレの顔を見上げてきた。
「護の気持ち、凄く嬉しい。でも、そんな事したら、犯罪者になっちゃいますよ。私は、護の夢を叶えて欲しいから、邪魔しないようにしてたのだけど…」
詩織が、苦笑いを浮かべながら言う。
「邪魔じゃないよ。詩織が居ないと寂しい…」
つい本音が漏れる。
そんなオレに詩織は。
「護…。何、弱気になってるのよ。護には、凛として欲しいな。そしたら、堂々と護のところにお嫁さんとしていきたいなぁ」
小声で、オレに言う。
オレは、思わず顔が綻ぶ。
「それ、本当?約束してくれる?」
嬉しいけど、ちゃんと確認したい。
そんな思いで聞き返した。
その言葉に、詩織は頷いた。
「やったー。その約束だけで、オレ頑張れる」
オレって、本当に単純。
口約束だけど、それだけで頑張れる。
それほど、詩織の言葉って、オレには意味のあるんだと、つくづく思う。
「帰ろうか。送るよ」
オレは、詩織の手を握る。
詩織が頷いた。
「ごめんね。拓人君、忍ちゃん。ビックリしたよね」
詩織が、さっきの二人に向き直って言う。
「いいよ。詩織ちゃんの彼氏?」
彼女は、小声で詩織に言う。
「そうだよ。紹介してないよね。私の彼の玉城護」
詩織が、照れながらもオレの事をちゃんと彼氏って紹介してくれる。
それが、凄く嬉しくて。
「初めまして、玉城です。拓人君だっけ、驚かせてごめん」
って、彼にだけ挨拶をする。
「初めまして、山本拓人です。玉城さんって、三年生ですよね。何で、詩織ちゃんと付き合ってるんですか?」
彼は、興味津々に聞いてきた。
「だって、あの双子の兄ちゃん達が、よく許したなと…」
彼が、不思議そうな顔をしている。
って、何でこいつ、双子の兄達の事知ってるんだ?
オレは、そっちの方が気になるが…。
オレは、詩織と視線を交わしてから、最初の質問に答える。
「そうだな。詩織を気にしだしたのは、去年の文化祭の時のステージで、一目惚れしてた。親友の優基に相談してた。告白する時に背中を押してくれたのも優基だった。告白してから、詩織の兄貴だって知らされて、オレもビックリしたよ」
オレは、その時の事を思い出しながら、話した。
「双子の兄貴が居ることも、詩織から聞いていたから、少し不安もあったが、いつの間にか認められてた感じかな」
詩織に目線を戻すと、詩織はオレの方をじっと見ていた。
その顔は、少し赤くなって微笑んでいた。
「そうなんだ。じゃあ、オレの入る隙ないじゃんか」
彼はそう言って、肩を落とした。
「いいなぁ、詩織ちゃん。こんなに思ってくれる人がいて。私も欲しいなぁ…」
羨望の眼差しを向けて詩織を見ている彼女に、詩織が。
「大丈夫だよ。忍ちゃんにも、ちゃんと出会う事が出来るよ」
って、優しい笑顔を向けて軽く彼女の背中を叩いていた。
「じゃあね、バイバイ」
二人と別れて、詩織と歩く。
「そうだ。護、何であんなところに居たの?」
詩織が、不思議そうに聞いてきた。
「オレさぁ。さっきの人だかりの山を見て、また詩織をとられるんじゃないかって思って、お前の家に行った帰りだったんだよ」
オレは、恥ずかしながら本当の事を言う。
ただの妬きもちなんだろうが…。
だが、し詩織の顔を見て安心したかったのかもしれない。
突然、詩織が抱きついてきた。
「詩織…、ちょっと…」
オレが、その行動にあたふたしてると。
「護、可愛すぎる。それって、妬きもちかな?」
詩織が、嬉しそうに聞いてきた。
「悪いかよ」
オレはぶっきらぼうに答えたが、顔が火照りだした。
すると。
「チュッ…」
詩織が、オレの頬にキスしてきた。
オレは、余計に熱くなり。
「不意打ち禁止」
そう言って、自分の照れを隠すように唇を奪った。
「護、ゴメンね」
詩織が、突然謝ってきた。
「何に対してのごめんなのかな?」
「色々だよ。私、護の事誰よりも愛してるから、絶対に目標の大学、受かってよね」
詩織が、笑顔で言ってきた。
誰よりも愛してる。
オレは、その言葉を聞いて、嬉しく思いながら。
「そうだな。絶対に合格して見せるよ。でも、息抜きは詩織にさせてもらうからな」
オレは、そう言って笑顔を見せる。
「約束だよ」
「約束」
そう言って、もう一度唇を重ねたのだ。