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体育祭

体育祭当日。

オレは、今日の日を待ちわびていた。

って言うのは、嘘だ。

何で、こんなにいい天気なんだよ。

「おはよー護。今日は、頑張ってな」

優基が、暢気に言う。

「頑張る気無いけど…」

オレは嫌みっぽく言う。

すると。

「今年は、護が頑張ってくれれば、うちのクラス優勝するはずだから」

と、笑ってる。

「どこにそんな自信があるんだ?」

「だって、詩織が護の事を応援するのは、確かだし…。まぁ、あの格好を見たら、余計に頑張るだろうし…」

優基が、意味深な台詞を言う。

「じゃあ、俺仕事があるから…」

そう言って、去っていく優基。

詩織が、何かやらかすのか?

そんな事、オレは何も聞いてないが…。

それは、直ぐにわかった。

開会式が終わり、入場門に向かう途中で。

「詩織、カッコいい」

って声が聞こえてきた。

オレは、その方を向いた。

詩織が、学ランを着て、鉢巻きを巻いてる。

何だ。

そのりりしい格好は…。

「僕に惚れるなよ!」

って……。

いつもより低い声で言う。

メチャクチャ、可愛いじゃないか。

他に男子生徒まで、釘付けになってるし…。

今すぐ、隠してしまいたい衝動に駆られる。

あぁ。

競技がなければ、傍に行って褒めて…イヤ、今すぐやめろ…って言いたい。

たぶん無理なんだろうなぁ。

クラスの中で決められた事なら、無理にやめさせる事は出来ない。

どうしたらいいんだ。

この矛盾だらけの感情を……。

「護。早く並べよ」

優基が呼びに来た。

「優基。お前、知ってたんか?」

オレの言葉に。

「もちろん。兄妹だし。それに里沙ちゃんからも報告されてたからな」

余裕な回答。

優基が、やけにニヤついてやがる。

何だと!

優基も知ってて、オレだけのけものか?

何か、腹立ってきた。

どうしたもんかな。

と、そこに。

「玉城君、頑張ってね」

ちひろの取り巻き達に囲まれる。

「言われなくても、頑張るさ」

笑顔を振り撒いてやった。

入場門に整列する。

まずは、二百メートル走。

スターターの合図と共にスタートする。

オレのレーンの隣が、詩織のクラスの奴だ。

詩織は、応援団長らしく、そいつの応援をしだす。

くそ、同じクラスってだけで、応援してもらいやがって…。

メチャ、羨ましいぞ。

…って、違う。

こいつにだけは、負けたくないな。

オレは、全力で駆け抜ける。

堂々の一位で、予選通過だ。

どうだ。

詩織の方に振り返ると。

満面のスマイルが、飛び込んできた。

うわー。

まずい。

そんな顔を見たら、飛んでいきたいじゃねぇか。

「玉城先輩、カッコいい。惚れてしまいました」

って、数人の下級生の女子に捕まった。

エッ…と。

どう答えようか迷ってると。

「先輩。彼女って居るんですか?」

って、甘い声で聞いてきた。

あれ?

もしかして、知られてない?

何で?

良く良く見ると一年生だ。

そりゃあ、知られてるわけないか…。

あんな事したのに…。

一年は、校舎違うからか?

「玉城くーん。カッコよすぎだって」

ちひろの取り巻き達が、一年の子達を追い払う。

気持ち悪いぞ、コイツら。

しかも、この違和感は何だ?

そうこうしてるうちに、八百の召集が掛かる。

オレ、行かないと。

回りの奴等を振り払って、入場門に向かう。

詩織の応援姿をみいって居た。

一生懸命応援してる姿が、愛らしく感じる。

詩織の声、やけに通るんだな。

こんな声で応援されたら、断然頑張ってしまうんだろうなぁ。

同じ学年がよかったかも…。

何て、思ってても仕方ないか。

詩織に、堂々とオレの事応援してもらいたい!

何て、欲張りすぎか…。

「おい!護。詩織に見とれてるなよ。次出番だ」

優基の余計な一言が、やけに胸に刺さる。

「わかってるよ」

オレは、不貞腐れながらそう言うと、スタートラインに立つ。

ペース配分は、考えなくてもいいか…。

取り合えず、何時もの通りに走るか…。

スタート音に合わせて、走り出した。

気が付けば、なんなく八百まで一位で終わってた。

オレは、詩織の方を見た。

詩織は、一生懸命応援してる。

終わった後、声枯れてるだろうな。

その様子を暫く見つめていた。


「玉城くーん」

「玉城先輩」

って、いつの間にか女子に囲まれていた。

うわー。

何だこれ?

身動きとれないじゃないか。

オレは、その群れを掻き分けながら進む。

腕には、ちひろが引っ付いている。

あ、もう…。

「いい加減、離してくれないか…」

オレはそう言いながらちひろの腕を振りほどく。

たかが、一位を取っただけで、これはないだろうが…。

応援席に向かいながら、一人落胆する。

『続きまして、障害物競走です』

って、アナウンスが入る。

詩織が出るやつじゃん。

オレは、グランドを食い入るように見る。

詩織は、どこだ?

グランドの中央に目線を向けると、詩織が緊張した顔で、スタートラインに並んでいた。

スターターの音で、スタートする詩織。

少し、出遅れてる。

でも、あの一生懸命な顔。

可愛い。

網の中に入って、困惑してる詩織も、またそそる。

あっ…。

って、何考えてるんだ、オレ。

顔が、熱くなってくる。

詩織が、オレの前まで来た。

「詩織、頑張れ」

オレが声をかけると一瞬だけ、こっちを見た。

エッ…。

それが、意外にも笑顔だった。

何だ、あの笑顔は…。

反則だろ。

オレは、思わず口を手で押さえた。

オレの口許が、ニヤけてしまいそうだったから。

オレは、最後まで詩織を見届けた。


昼食を終えて、午後の競技に入る。

午後一で、二百の決勝が入っていた。

うわー。

マジかて……

オレ、昼食い過ぎて、走れるかなぁ…。

「お、護。決勝、頑張れよ」

優基が、他人事のように言う。

「さっき、詩織に会ったぞ。“頑張って“だってよ」

優基が、さりげなく詩織からの伝言を伝えてきた。

何だよ。

そんな事言われたら、頑張るしかないじゃんか。

オレって単純。

その一言で、こんなにやる気になるんだからな。

「ほれ、召集かかってる。行けよ」

優基に背中を押されて、入場門の方へ向かった。


スタートラインに並ぶ。

メンバーは、ほとんど陸上部だ。

オレ、この中で走るんかよ…。

って、ここで項垂れてるわけには、いかないか。

詩織が、応援してくれてるんだ。

自分が出せるだけ、出し尽くせばいいか…。

「位置について」

オレは、構える。

パーン。

ピストルの音と同時にスタートする。

流石に、差が出るか。

その時。

「護。ガンバー」

って、声が聞こえてきた。

オレは、全力で走った。


気付いたら、ゴールテープを切っていた。

エッ…。

オレが、一位なのか?

周りを見る。

そして。

「やっりー!」

って、思わず声を出して、ガッツポーズしてしまった。

我ながら、恥ずかしいかも。

「護、頑張ったな」

優基が、苦笑いしながら近づいて来た。

「今の詩織も見てたと思うぞ」

って、ボソッと囁いていく。

オレは、慌てて詩織の方を見た。

詩織と視線が会うと。

「お・め・で・と・う」

と、詩織の唇が動いた。

「あ・り・が・と・う」

オレも、ゆっくりと口を動かして、お礼を伝えた。

と同時に、女子に囲まれる。

今日は、散々だなぁ。

詩織とは一緒に居られないのに、コイツらばかり引っ付きやがって…。

詩織の事が気になるが、こいつらをどうにかしないと…。


最終種目は、借り物競争。

無理矢理エントリーさせられてるオレは、渋々ラインに並ぶ。

スターターの合図。

オレは、スタートして、お題の入った封筒を手にする。

そこに書かれていたのは。

“彼女“

だった。

うわー。

何だ、このお題は。

物かと思ってたのに…。

人かよ…。

って、考えてる暇なんて無い。

オレは、一目散に詩織の所に駆けていく。

「詩織、来い!」

オレは、詩織の手首を引っ張る。

詩織が。

「わっ…」

突然、倒れ込んで来た。

オレは、とっさに受け止めた。

「危なっかしいな」

そう言いながら、詩織をお姫様抱っこする。

「しっかり掴まっておけよ」

詩織が、オレの首に両腕を回してきた。

オレは、詩織を抱き抱えて走り出した。

今日、始めての触れ合いが、こんな全校生徒の前でのお姫様抱っこって、役得じゃん。

これで、全校生徒に知らせれる。

周りが、何か言ってるが、気にもならない。

オレは、そのままゴールまで疾走する。

「お題は、何でしたか?」

優基が、聞いてきた。

「学ラン姿の女の子って、書いてありました」

優基は、疑いの目をオレに向けてきた。

「そうですか…。一位、おめでとうございます」

それだけ告げて、他に行ってしまった。

「本当にそうなの?」

詩織が、不思議そうな顔をしながら、オレを見てきた。

オレは、ズボンのポケットに入れてたお題を取り出して。

「本当は、“彼女“って書いてあったんだ」

詩織にその紙を渡しながら、耳元で囁く。

詩織の顔が赤くなっていく。

もう、期待を裏切らない反応。

「詩織。学ラン似合うじゃん」

その言葉にますます赤くする。

可愛い。

「最初はビックリしたけどな。一生懸命応援してる姿が、可愛いよ」

オレは、照れを隠すように詩織の頭を撫でた。

詩織が、少し潤んだ目でオレを見つめてくる。

やめろ。

そんな目で見つめるな。

可愛すぎて、オレ…。

我慢出来なくなる…。

詩織の唇を指でなぞる。早くここに重ねたい。

「そろそろ、戻るね」

詩織が、そう口にする。

詩織が、応援席戻ろうとする。

待って……。

オレは、詩織の腕を掴み。

「次のレース始まってるし、危ないよ」

「でも、やっぱり戻るよ」

詩織は、オレの手を振りほどいて、応援席に戻って行く。

詩織…。

オレは、その背中を見送る。

……が、直ぐに詩織がまた戻ってきた。

あいつ…。

この間の。

「ごめんな、水沢。お題が“鉢巻きしてる人“だったから、お前しか居なかったんだよ」

って声が聞こえてきた。

絶対、嘘だ。

ただ、詩織に触りたかっただけじゃねぇか。

って、オレ、心せまって…。

「ううん、気にしなくていいよ」

詩織は言うが…。

少しは気にしろよ。

お前は、オレのだろうが…。

オレは、内心穏やかでは居られなかった。

「俺としては、気にして欲しい」

しょうも無い事を言いやがる。

オレは、そっちを振り返る。

多分、今のオレは、何とも言えない顔をしてるに違いない。

胸の靄が、そうさせている。

「じゃあ、私は戻るから」

詩織の声が聞こえる。

オレは、奴を睨み付ける事しか出来なかった。


体育祭も終わり、モヤモヤが残ったまま、優基と二人詩織のクラスに向かう。

「護。詩織の事、許してやれよ。あいつ、お前に見せたくて、頑張ってたんだからな」

優基が真顔で言う。

「エッ…。その事なら、とっくに許してるよ。あんな可愛い姿を見た時にな」

「じゃあ、何でそんな難しい顔してるんだ?」

優基が、不思議そうに聞いてきた。

まぁ、優基は、知らないからな。

詩織が、他の男に言い寄られてる事なんて…。

「ちょっと…な」

そんな事を話しているうちに教室に着く。

「里沙ー」

「詩織ー」

オレ達は、教室の入り口からそれぞれ呼び出す。

二人は、同時にこっちを見た。

里沙ちゃんは、笑顔で優基のところに来たが、詩織は何か戸惑ってるようだ。

オレは、そんな詩織の方へ自分から近付いて行く。

「どうした?もしかして、喉痛めた?」

オレは、詩織に優しく声を掛けた。

「大丈夫だよ」

って、笑顔で言う詩織だが、声は嗄れていた。

「ありゃりゃ。凄い声だね。可愛い声が、台無しじゃん」

オレは、自分の鞄からのど飴を取り出す。

そして、その包みを開けて。

「ほら、口開けな」

詩織が、素直に口を開けた。

そこにオレは、飴を放り込んだ。

「ありがとう」

そのとたん、詩織の片方の頬が、ぽっこりと膨らむ。

可愛い。

「帰ろう」

オレは、詩織の鞄を掴む。

「うん」


「詩織。借り物の時にお前を引っ張ってきたのって、あの時の奴だよな」

校門を出てから、オレは詩織に聞いてみた。

「そうだけど…」

やっぱりな。

「まだ、諦めてなかったんだな」

オレは、呟くように言う。

「って言うか、お前、隙有りすぎだろう。また、隠れファンが増加するだろうが」

オレは、嫉妬丸出しで言う。

「そう言うけど。護だって、今日の活躍で、女の子に大人気じゃんか。陸上部より走るの速いって、反則じゃん」

詩織が、珍しく妬いてるのが伺える。

「もしかして、妬きもちかな?」

オレは、嬉しくて口を綻ばせてると。

「どうとでも、とってくれて結構です」

詩織が、膨れっ面で言う。

「そんな可愛い顔するな。キスしたくなるだろう」

オレは、詩織の頬にキスを落とす。

「くすぐったいよ」

詩織が、ニコニコしながら言う。

「詩織は、オレのだからな。どこにも行くなよ」

オレは、真顔で言う。

「うん。私も、護の傍に居たい」

詩織が、オレの目を見て言ってきた。

また、可愛い事しやがって…。

オレは、我慢出来ずに詩織の唇を塞ぐ。

お前が、愛しくてたまらない。

離したくない。

そんな思いを込めて、口付けをする。

「詩織、可愛すぎ」

オレが言うと、仕返しのように。

「…フフフ。護も、可愛いよ」

詩織が言う。

「可愛い、言うな!」

オレは、照れを隠すように詩織から顔を背ける。

そんな姿を見ていた詩織が、笑顔になる。

「その笑顔、オレが守るから」

オレは、自分に言い聞かせながら、誓いのようにもう一度、唇を重ねた。


「明日のデートだけど、どこに行きたい?」

オレは、詩織に聞いてみた。

詩織が行きたい所なら、どこでも連れて行きたいと思ってる。

「じゃあ、遊園地!」

って、即答された。

遊園地か…。

「よーし。明日は、遊園地に行くか」

オレは言うと。

「エッ、本当に?」

聞き返してきた。

行きたいんじゃないのか?

「本当だよ。明日の九時に駅で待ち合わせでいいか?」

「いいよ」

詩織が、突然抱きついてきた。

何だ?

どうしたんだ?

軽くパニックになりながら。

「こらこら、そう抱きつくなよ。恥ずかしいから…」

って、普段は自分か引っ付くんだが…。

オレは、どうしたらよいのかわからず、動揺してしまう。

自分からなら平気なんだが…。

「護の顔、赤いよ」

詩織が、からかいながらオレの顔を覗き込んでくる。

「誰のせいだよ」

オレは、不貞腐れながら言う。

そんな姿をさらしたオレに詩織は、噴き出す。

「笑うなって…」

オレは、どうしたら良いかわからなくなり。

「そんなに、笑うなって」

そっぽを向いて、自分を落ち着かせる。

が、詩織が何時までたっても笑ってるから、黙らせる為にその口を自分の唇で塞いだ。

詩織の驚いた顔。

「やっと、止まった」

詩織が、俯いてしまった。

「あんまり、からかうなよ。オレだって、本気にしてしまうだろ」

詩織が、顔を上げる。

「お前を帰したくなくなるだろ」

オレは、詩織の耳元で囁く。

そして、詩織の腰に手を回して。

「オレの弱点は、お前だな」

詩織を抱き締めながら言う。

詩織の顔、真っ赤だろうな。

人の事言えないが…。

「じゃあな。明日遅れるなよ」

オレは、詩織から手を離して、家路に着いた。


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