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親父の存在

今回、長くなってしまいました。

すみません。

翌日。

オレは、何時もと同じ時刻に家を出て、待ち合わせ場所ではなく、詩織の家の前で待つ事にした。

暫くして、詩織が家から出てきた。

「おはよう、どうして?」

詩織が、驚いている。

「待ち合わせするよりも、この方が早いと思ってさ」

オレは、笑顔で言う。

「それに雪菜に邪魔されないだろ」

オレの言葉に詩織が領C。

「腕、組んでもいい?」

詩織が、恥ずかしそうに聞いてきた。

「いいぜ」

オレは、笑顔で言うと詩織が腕を絡めてきた。

「詩織って、何かする時は聞くんだな」

「嫌がるかなって思うと断りを入れてからの方が、いいのかなって…」

詩織が、ちょっと主惑いを見せてくる。

「詩織からなら、断る事しないよ。他の子だと嫌かもな」

オレは、少し考えながら言う。

「雪菜ちゃんだったら?」

詩織が意地悪な質問をしてくる。

「雪菜は、別かなぁ。妹みたいなもんだし…」

オレの答えに詩織が、俯いた。

「詩織が、嫌ならしないが…」

「ううん、いいよ別に…」

声のトーンが下がる。

やっぱり落ち込んでる気がするが…。

そこへ。

「おはようございます」

雪菜が現われた。

「おはよう」

詩織と声がはせる。

雪菜は、相変わらず詩織を目で睨んでいるが…。

そこからは、会話もなく学校へ向かった。


ハァ。

何で、雪菜が、一緒になると会言舌がなくなるんだ?

共通の話ってないのか?

「おはようー護!」

オレが、頭を抱えてる時に限って、優基の明るい声が妙にムカつ<。

「おはよーじゃねぇ。人が悩んでる時に限って、明るいトーンで話しやがって」

オレは、優基を睨み付ける。

「どうしたんだ?怖い顔をして?」

優基が、キョトンとしてる。

ハァーー。

こいつには、悩みなんて無いんだろうなぁ…。

オレは、優基の顔を見ながら苦笑する。

「何、笑ってるんだ?」

優基の百面相にオレは、救われてるのかもしれない。


「さーて。今日の一時間目は、体育祭の出場種目決めを行います。各自、自分がやりたい種目に名前を書いてなぁ」

そう言いながら、体育委員の優基が、黒板に種目を書き出す。

と同時にオレの名前を書き出す。

「優基!何で、オレの名前まで書くんだ!」

オレは、優基に抗議の声をあげる。

「ああ。お前の出るのは、人がやりそうにない種目にエントリーさせてもらったから」

訳のわからん理由を付けて言う。

「それだったら、優基が出ればいいじゃん。オレより足速いんだし…」

オレが、もう抗議すると。

「仕方ないだろう。俺、他の仕事あるし…。それに護の方が体カあるだろう。毎日走っているわけだし…」

って、もっともらしい理由を付けて、オレにやらせようとする。

「詩織も見てるし…」

と、小声で優基か言う。

「……なっ……」

オレは、絶句した。

そんな車言われたら、何も言い返せないだろうが…。

確かに、詩織も見てるだろうけど……。

なぜ、優基がオレの競技を決める権利があるのだ?

オレは、自分で競技を選んでは、駄目なのか?

何て、考えてる内に全部の競技に全員の名前が埋め尽くされていた。

ってことは、オレの出る種目は、二百と八百と借り物競走の三種目。

…エッ……。

借り物競走って、本当に物なのか?

変な題だったら…。

って、今から心配しても仕方ないか…。

オレは、開き直る事にした。

三種目とも一位取ってやろじゃん。

クラスの為とかじゃなく詩織が、応援してくれるなら…。

オレは、断然やる気が出てきた。

今年で最後の体育祭だし…。

楽しんだもの勝ちって事で、自分で納得する。


その日の放課後。

オレは、部活を終えて詩織を教室まで迎えに行く。

「詩織」

オレは、教室の入り口で声を掛けるが、返事がない。

何時もなら、直ぐに返事が返ってくるのに…。

オレは、中に入って行く。

「詩織。オーイ、詩織。帰ろうぜ」

「エッ…。あっ、うん」

詩織の傍まで行って、言うまで全気付いていなかった。

「どうしたんだよ。ぼーとして…」

「うん、ちょっとね。考え事を…」

何かに悩んでるみたいだが…。

「オレに話せる事?それとも無理?」

オレは、詩織の顔を覗き込む。

「うーん。無理の方かな…」

難しい顔をする。

何をそんなに悩んでるんだ?

「まぁ、頑張って悩め。オレに出来ることがあれば言えよ」

オレは、詩織の頭を撫でる。

「うん。ありがとう」

そう言うと詩織が、腕を絡めてきた。

「そういえば、今日は雪菜ちゃん居ないの?」

「雪菜なら、先に帰ったよ。部活終わる前にあがってったから…」

オレは、語尾を濁す。

「雪菜ちゃんが居なくて、寂しい?」

詩織が変な質問をしてくる。

「全然。雪菜が居ると、詩織と話す時間が無くなるしな」

オレは、言葉を選びながら言う。

「詩織」

「何?」

「体育祭、何に出るんだ?」

オレは、話題を変えてみた。

「私は、障害物競走だよ」

って、おどけるように言う。

「それだけ?」

「それだけだよ。私、運動の方は苦手だから…。里沙に押し付けられた形になるのかな」

何だ。

ちょっと、残念だなぁ…。

「護は?」

詩織が、興味深々で聞いてくる。

「オレ?オレは、ニ百と八百、それから借り物競走」

「やっぱ、毎日走ってるから、クラスに期待されてるんだね」

尊敬の眼差しを向けてくる詩織。

「違う。全部、優基に押し付けられた」

溜め息混じりにオレが言うと。

「優兄って、体育委員?」

って、聞いてきた。

「そうだよ。だから、あいつが勝手に決めたんだよ」

オレの言葉に詩織が、1人で納得してるが…。

何だ?

何があったんだ?

「でも、凄いね。私には、そんな体力無いもん」

詩織が、笑って言う。

「凄くないよ。全、信じられない。1人で三種目やるのって、オレだけじゃないか…」

オレが、呆れたように言うと。

「頑張ってね。応援してる」

詩織が、ニコニコしながら言ってくる。

「ありがとう。詩織もだぞ」

「うん」

色々と話してる内に詩織の家に着いた。

「じゃあな」

「うん。また明日」

お互いの唇が、重なった。



数日後。

オレは、何時ものように詩織の教室に迎えに行く。

だが、なぜか汗を掻いてる詩織が居た。

教室の中、そんなに暑かったのか?

それとも、何かあったんだろうか?

「詩織、帰ろう」

そんな詩織に声を掛けた。


「詩織。お前、オレに何か隠し事してるだろう」

学校からの帰り道。

オレは、詩織の顔を覗き込みながら聞く。

「ないない。隠し事なんかしてないよ」

詩織が、慌てて否定する。

おかしい…。

詩織の目が、泳いでる。

「本当だな。嘘ついたら、ただじゃおかないからな」

オレは、詩織を睨みながら、釘を刺す。

「うん」

詩織が、笑顔で頷いてみせる。

でも、何か隠してるのは、間違いない。

「明日の試合、頑張ってよね」

何か、話を変えられた気がするのだが…。

「ちゃんと、オレを応援するんだぞ」

オレは、詩織の頭を撫で回す。

「わかってる。しっかり応援してあげる」

詩織の頼もしい返事に笑顔が、こぼれた。

「じゃあな」

「お休み」

オレは、詩織に見送られながら、家に帰った。


自室で、宿題をし終えて、風呂に入る。

湯船に浸かりながら、明日の試合のイメージトレーニングする。

…が、どうしても詩織の事が気になり、中断する。

オレ、どうかしちまってるな。

こんなにもあいつの事が、頭から離れない。

あの笑顔も、オレのものなんだよなぁ…。

自信が、無くなってる。

彼女に隠し事をされるだけで、こんなに乱されるとは…。

オレは、湯船に潜る。

あー、もう。

オレらしくもない。

もう、出て寝るか…。

湯船から上がり、さっさと水滴を拭って服を着る。

脱衣所から出ると。

「ただいま」

親父が、帰ってきた。

「お帰り。今日は早いじゃん」

オレが声をかけると。

「ああ。思ったより、仕事が早く片付いたんだよ」

そう言って、リビングに行く親父。

「夕飯は?」

「何かあるか護?」

「うーん。ちょっと待って…」

オレは、冷蔵庫を覗く。

「ビールと酒のつまみ要るだろう。直ぐ用意する」

オレは、つまみになりそうなのを取り出して、調理する。

「護。明日、試合なんだろ?俺の事はいいから、寝ろよ」

「親父。気に掛けてくれてたんだ」

オレは、それだけでも嬉しかった。

「そりゃあ、気になるだろ。大事な一人息子の事だからな。それに、教師目指してるんだろ。頑張れよ。俺には、応援する事しか出来ねぇからな」

珍しく、親父が話してくれる。

まぁ、親父は刑事だし、それなりの感は、働くらしい。

「それから、今度、ちゃんと彼女も紹介してくれよ。お前が熱をあげてる子には、興味があるからな」

そこまで、知ってるとは…。

「わかったよ。ちゃんと紹介する。ほら、つまみ。親父こそ、体壊すなよ」

不規則な仕事だから、余計に心配になる。

「俺の事は、心配する事無い。自分の事だけ考えな」

「わかったよ、親父。じゃあ、お休み」

オレは、それだけ言って、リビングを出た。

自分の部屋に戻り、ベッドに入るが、眠れずにいた。

親父は、オレの事をよく見てる。

母親を早くに亡くして、親父はオレをここまで育ててくれた。

何をするにも反対された事無かった。

“お前がやりたいのなら、やれば良い。やらずに後悔するなら、やって後悔した方がいい。“

が、口癖の親父。

だから、オレがサッカーをやりたいって言った時も、反対せずにやってこ言って、小学校の時からやってる。

まさか、ここまで続くとは、思ってなかったが…。

明日の試合、頑張らないとな。

詩織の笑顔も見たいし…。

あー。

もう、今から楽しみだ。

子供みたいにはしゃぐ、自分が居た。


翌日。

グランドから、会場を見渡すが、詩織の姿はなかった。

あいつ、また遅れて…。

そんな心配しながら、パス練習をする。

「玉城くーん」

突然、名前を呼ばれて振り向くと、ちひろ達が来ていた。

何で、あいつらが…。

「おい、玉城。嫁さんに手でも振らないのか?」

クラスメート兼部活仲間が言う。

「誰が、嫁だって?」

オレは、嫌々と答える。

「お前とちひろの関係。今日が最後の試合だから、応援しに来たってと言っといた」

余計な真似しなくてもいいって。

「ちひろとは、何でもねえよ。オレは、ちゃんと彼女居るから」

それだけ言って、パス練習に戻る。

練習に集中してると、試合時間ギリギリに詩織が、現れた。

オレは、詩織に手を振る。

詩織が、オレに気付き、駆け寄ってくる。

「おっせ-よ。来ないかと思った」

詩織の顔を見て、安心しきって、出た言葉だ。

「ごめん」

詩織が、肩を落とす。

詩織の目元に薄くクマが出来てるのが見えた。

ああ。

あさ、早く起きて、弁当を作ってくれたんだって思うと。

「もういいよ。しっかり応援してくれよ」

としか、言えなかった。


ピッピー。

試合開始のホイッスル。

オレは、キャプテンマークを付けて、チームメイトに指示を出す。

状況を一早く察知して、的確に指示を出す。

相手も同じだ。

「頑張れ、護」

詩織の声が聞こえてくる。

詩織の前では、格好悪いところ見せたくない。

オレは、その一心で、闘った。

ピッピー。

試合終了の合図。

三対二で勝った。

「やったー!」

詩織の声が届く。

オレは、詩織の方を見て軽く手を振る。

その後方に、ちひろ達も居る。

詩織が、笑顔でオレに手を振り返してくれている。

その様子を見ていたちひろ達の顔が、曇っていくのがわかった。

だが、それには気付かない振りをした。


試合終了後。

オレ達は、この間の川原で昼食を食べる。

「おめでとう」

詩織が、改めて言ってきた。

「ありがとう」

「今日の試合、凄かったね。ハラハラしっぱなしだよ」

詩織が、興奮気味に言う。

「そうだな。オレも詩織の応援が無かったら、どうなってたかわからなかったけどな」

オレが、真顔で言うと、恥ずかしそうにする。

「あのピンチの時、詩織の声が聞こえて、底力が出たんだ」

オレは、その時の事を思い出しながら言う。

「嬉しかった。オレ、こんな所で負けたくないって思った」

詩織の応援があったからこそ、自分の力が出たんだと確信する。

「でも、よくわかったね。他の声援もあったのに…」

詩織が、不思議そうな顔で聞いてきた。

「詩織の声は、耳からじゃなくて、心に届いたんだ」

オレは、照れ臭くなって顔を背けた。

「本当に?」

「嘘ついて、どうするんだよ」

オレは、微笑みながら言う。

気付いたら、詩織の声が心に届いたのは、たしかなんだよな。

気持ちが、通じてたからなのかな。

「これで、オレの出番は終わりだな」

オレが、呟くと。

「寂しい?」

詩織がオレの顔を覗き込んでくる。

「そうだな、ちょっと寂しいかな。今まで頑張ってきた分な」

オレは、今までの事を思い出した。

辛かったけど、サッカーがオレを変えてくれた。

そう思う。

「しょうがないか。オレは、受験生だもんなぁー。そろそろ本腰入れて勉強しないとな。オレの目標は、教師だから…」

夢に向かって、進むしかないもんな。

詩織が、オレの事をじっと見つめてる。

「どうした?オレの顔に何かついてるか?」

オレの質問に詩織が、首を横に振る。

「いいなぁ。護は、目標があって…」

詩織が、羨ましそうに言う。

「詩織は、オレの傍らで笑っててくれればいいんだよ」

そう言って、詩織の頭を撫でる。

撫でる事で、詩織の髪からシャンプーの匂いが本の少し香る。

「でも、それじゃあ、何も出来ない子じゃんか…」

詩織が、口を尖らせて、抗議してきた。

「それでいいんだよ。オレが居ないと、何も出来ない女で」

オレは、詩織が傍に居てくれることで、力が発揮出来るんだと確信する。

「今日で試合も終わったし、来週は、デートでもするか?」

何気なく言ってみた。

「勉強は?」

詩織が、心配そうに聞いてきた。

「息抜きしてからでもいいだろ。体育祭もあるしな」

オレは、おのずと笑顔が漏れる。

そんなオレに、詩織が突然抱きついてきた。

「こらこら、こんな所で、抱きつくなよ…」

顔が熱くなってくる。

「嬉しいんだもん」

詩織が、笑顔でオレの耳元で囁く。

「しょうがないな」

オレは、詩織以上に嬉しくて、腕を詩織の背中にまわし、抱き締める。

「今だけだからな」

そう言うと、飛び切りの笑顔を返してくれる詩織。

そんな笑顔を返されたら、どうしたらいいのかわからなくなる。

可愛すぎるだろうが…。

さっきよりも熱くなっていく。

どうしよう…。

「どうした?急に黙ったりして…」

オレは、詩織の顔を覗き込む。

「ううん。なんでもないよ」

詩織が、無理して明るく言う。

「ならいいけど…」

オレは敢えて、追求するつもりはなかった。

詩織の事だ、そのうち話してくれるだろう。

「さぁ、そろそろ帰ろうか?」

オレは、名残惜しいが、そう言う事で不安をかき消す事にした。



詩織を家まで送り届けて、自分の家に帰ると。

「お帰り。試合どうだった?」

親父が、珍しく家に居た。

「なんとか、勝てたよ」

「そっか。じゃあ、今度は受験に力入れてくれよ。サッカーは、暫く封印してな」

「ああ、そのつもりだよ、第一志望に受かりたいからな」

「頑張れ、お前なら出来る」

「ありがとう」

オレは、一人で闘ってるんじゃない。

って、思わされる。

親父に言葉は、何時も自信をくれる。

それは、凄くありがたい事だと思う。

オレは、汚れ物を洗濯機に入れて、洗い出した。

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