影になる場所
第十五話です。
影は、
静かに生まれるとは限りません。
ときには、
溜まり続けた感情が
一気に噴き出すことがあります。
広場の風が止まった。
さっきまで揺れていた草が
ぴたりと動かなくなる。
静かすぎる。
騎士の手が剣の柄を握る。
彼女は広場の中央を見ていた。
空気が歪む。
最初は
水面の揺れのようだった。
だが
ゆっくり
黒いものが浮かび上がる。
煙のような影。
地面から染み出すように広がる。
騎士が剣を抜く。
金属が鳴る。
その瞬間だった。
影が
膨らんだ。
広場の空気が震える。
石がかすかに鳴る。
彼女の胸が圧迫される。
息が重い。
騎士が叫ぶ。
「下がれ!」
影が
裂ける。
黒い腕のようなものが
地面から伸びる。
壁にぶつかる。
石が崩れる。
騎士が剣を振る。
鋼が影を裂く。
だが
斬ったはずの影は
すぐに戻る。
煙のように集まり直す。
騎士が舌打ちする。
「くそ……」
影がうねる。
広場の空気が唸る。
声が聞こえる。
言葉ではない。
だが
はっきり分かる。
怒り。
悔しさ。
後悔。
影が膨れ上がる。
人の形に近づく。
だが
崩れている。
腕がいくつもある。
顔が歪む。
叫びが広場に響く。
彼女が息をのむ。
騎士が言う。
「影だ!」
剣を構える。
「離れろ!」
影が
突進する。
地面を滑るように
二人へ迫る。
騎士が踏み込む。
剣が閃く。
黒い腕を断つ。
影が裂ける。
だが
消えない。
裂けた影が
さらに増える。
広場の空気が震える。
壁の石が落ちる。
騎士の声が低くなる。
「……大きすぎる」
影がうねる。
叫びが広場を満たす。
彼女が小さく言う。
「怒っています」
騎士が言う。
「影だ!」
剣を振る。
影が裂ける。
だが
また戻る。
影が膨らむ。
広場の中央が
完全に黒く染まる。
風が消える。
音がなくなる。
影がゆっくり形を作る。
人のような
巨大な黒い塊。
騎士が息を吐く。
「……来るぞ」
影が動く。
地面が震える。
広場の石が転がる。
彼女は影を見ていた。
その奥に
感情の渦が見える。
怒り。
恐怖。
後悔。
影が
ゆっくり
二人に向かって
手を伸ばした。
第十五話を読んでくださりありがとうございます。
ここで、
これまでとは違う影が現れました。
ひとつの感情ではなく、
多くの感情が重なった影です。
二人はこの影に
どう向き合うのでしょうか。
物語はここから
最大の戦いへ進みます。




