集まる影
第十四話です。
影は、
突然現れるわけではありません。
多くの場合、
誰かの後悔や、
言えなかった言葉や、
消えなかった感情が、
少しずつ
同じ場所に残ります。
森を抜けると、石の広場があった。
古い建物の跡地らしい。
壁の一部だけが残っている。
屋根はない。
空が広く見える場所だった。
風が吹いている。
だが
広場の中央だけ
空気が重い。
彼女が足を止める。
「……ここ」
騎士も止まる。
剣の柄に手を置く。
沈黙。
風が弱く揺れる。
彼女が言う。
「たくさん」
少し考える。
「残っています」
騎士が聞く。
「影か」
彼女は首を振る。
「まだです」
沈黙。
「でも」
広場を見る。
「なりかけています」
騎士はゆっくり広場を見渡す。
石の床。
崩れた壁。
誰もいない。
だが
空気は重い。
騎士が言う。
「理由がある」
彼女は頷く。
二人は広場へ入る。
風が弱く揺れる。
彼女は中央に立つ。
目を閉じる。
空気を感じる。
怒り。
恐怖。
後悔。
悲しみ。
いろいろな感情が残っている。
彼女が小さく言う。
「ここ」
沈黙。
「誰か」
少し考える。
「追いつめられました」
騎士が言う。
「なぜ分かる」
彼女は少し考える。
それから言う。
「空気です」
風が草を揺らす。
だが
広場の中央だけ
流れが弱い。
騎士が言う。
「……そうか」
沈黙。
彼女は広場の地面を見る。
石の間に
古い跡がある。
何かが落ちた跡。
擦れた跡。
そして
小さな石がいくつも転がっている。
騎士が言う。
「子どもか」
彼女が頷く。
そのときだった。
空気がわずかに揺れる。
広場の中央。
黒い歪み。
煙のようなものが生まれる。
騎士の手が剣にかかる。
だが
まだ抜かない。
影はまだ薄い。
形もない。
だが
感情が集まっている。
騎士が言う。
「大きい」
彼女が頷く。
「ええ」
沈黙。
騎士が続ける。
「これだけ集まれば」
風を見る。
「いずれ影になる」
彼女は広場を見渡す。
静かな場所だった。
だが
ここには
たくさんの時間が残っている。
怒鳴り声。
泣き声。
笑い声。
そして
言えなかった言葉。
彼女が小さく言う。
「まだ」
沈黙。
「間に合います」
騎士は彼女を見る。
長い沈黙。
やがて言う。
「……どうする」
彼女は少し考える。
それから言う。
「待ちます」
騎士が聞く。
「何を」
彼女は広場を見る。
風が弱く揺れる。
「戻るものを」
騎士は何も言わない。
風が広場を通り抜けた。
第十四話を読んでくださりありがとうございます。
ここではまだ、
影は完全には現れていません。
ただ、
いくつもの感情が
同じ場所に残っている。
それだけです。
けれど、
そうした場所から
影は生まれます。
物語はいよいよ
二人が向き合う最大の影へ近づいていきます。




