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同じ速さで

前書き


第十三話です。


人と人が安心できる瞬間は、

大きな出来事ではなく、


火の音や、

食べる速さのような、


ほんの小さなものだったりします。



森の夜は静かだった。


風は弱い。


葉がゆっくり揺れている。


騎士は薪をくべた。


火が小さく鳴る。


彼女はパンを取り出した。


二つに割る。


ひとつを騎士に渡す。


騎士は何も言わず受け取った。


沈黙。


火がぱちりと鳴る。


彼女はゆっくり食べる。


急がない。


騎士も同じだった。


同じ速さで食べている。


誰も急がない。


森の奥で風が揺れる。


長い沈黙。


やがて騎士が言う。


「……お前」


彼女は火を見る。


「はい」


騎士が言う。


「食べるのが」


沈黙。


「遅いな」


彼女が少し笑う。


「そうですか」


騎士はパンを見る。


少し間がある。


それから言う。


「いや」


沈黙。


「ちょうどいい」


風が森を通る。


火が小さく弾ける。


彼女は火を見る。


騎士も火を見る。


長い沈黙。


彼女が言う。


「騎士さん」


騎士が言う。


「なんだ」


彼女は少し考える。


それから言う。


「今日」


沈黙。


「兄の話をしました」


騎士は何も言わない。


火が揺れる。


彼女が言う。


「変ですね」


沈黙。


「人に話したの」


少し考える。


「初めてかもしれません」


騎士は火を見る。


風が森を通る。


やがて彼が言う。


「……俺もだ」


彼女は少し顔を上げる。


騎士が続ける。


「妹の話」


沈黙。


「誰にもしていない」


火花が一つ跳ねる。


長い沈黙。


彼女が小さく言う。


「不思議ですね」


騎士が言う。


「何がだ」


彼女は火を見る。


「騎士さん」


沈黙。


「ほとんど話さないのに」


少し笑う。


「なぜか」


火を見る。


「安心します」


騎士は何も言わない。


風が森を通る。


やがて騎士が言う。


「……俺もだ」


それだけだった。


薪がぱちりと弾ける。


彼女は火を見る。


騎士も火を見る。


二人は同じ速さでパンを食べている。


急ぐ必要はなかった。


森の風が静かに流れる。


その夜、


世界はとても静かだった。


第十三話を読んでくださってありがとうございます。


この回では、大きな出来事は起きません。


ただ、


火のそばで食事をし、

同じ速さで時間を過ごす。


それだけの時間です。


けれど、


人が安心を覚えるのは

こういう時間なのかもしれません。


物語はここから、

二人が向き合う最大の影へ近づいていきます。

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