裏切り
ダルクの背中を追って暗闇を進んでいくと、聞き覚えのある声が聞こえた。
「魔王って本当にこんなとこにいんのかよ」
「出てくる魔物も雑魚ばっかだわ」
「でも気配はあるからいると思う」
ファルとヨビアとミーリャだ。良かった。今のところ怪我はなさそう。
「みん_」
名前を呼ぼうと口を開いたが、ダルクの低い声が遮った。
「止まれ」
「え?なんで?」
問い返した私の口元に、ダルクが人差し指を当てた。
「これから面白い事が起こる。いいから聞いとけ」
私はダルクの声に従い、そっと物陰から声を聞くことにした。
「帰るか?」
「いいけど、リリアンはどうするの?あの子なら絶対わたし達を待ってるわよ」
「崖に突き飛ばせば」
なん、で…?
「仲間だったじゃん…」
仲間って言ってくれたのに。一緒に笑って、一緒に戦って、一緒にご飯食べて、…みんな嘘だったの?信じてたのは私だけだったの?
「正直キモい」
「仲間とか綺麗事吐いてれば戦わなくていいと思ってたんじゃないかしら」
「なら殺して帰ろうよ。魔物に殺られたけど、仲間だったから遺体は持ってきたって言えば『仲間思いの最強の英雄』になるんじゃない」
「いいわね」
笑い声がした。それは私が知っている笑い方なんかよりもずっと楽しそうだった。
「人間」
ダルクがそっと声を掛けてきた。
「これが真実だ。分かっただろ?」
「…………」
「裏切りってのはよくある。特に負けそうな場合だと平気で仲間を見捨てる。そしてこう言い放つんだ、『お前は仲間なんかじゃない』『仲間じゃない俺等が仲良くしてあげたから最後くらい助けろよ』とか。で、見捨てた奴が絶望に打ちひしがれている間に自分たちは逃げて、俺に喰われて腹の中でさいかーい」
コイツは励ましてんのか?それとも煽ってんのか?
なんか急に腹立たしくなってきた。それに…なんか吹っ切れた気がする。あっさりし過ぎかも知れないけど、だけどそれは_。
「…もういいです。帰りたいです」
「俺が喰ってきちゃダメ?」
立ち上がった私の袖をダルクが引っ張った。
「…………」
「あいあい、分かりましたよー。…人間」
「名前で呼んでください」
「忘れた。一々人間の名前なんて覚えられねぇよ」
「はぁ。もういいですよ。なんですか?」
「腹の中で再会エンドどう思う?」
うん。やっぱりコイツふざけてるわ。
「私を食べるのはどうでもいいですけど、私の仲間はみんな強いので貴方が負けるかもしれませんね」
「まだ仲間とやらを信じてるんだな」
「…信じてないですよ。でも『魔王』だって自称する人が負けたら面白そうだなって」
「じゃあやってやろうか。まずは」
そうダルクが舌なめずりをした時だった。どこからか大きな地響きがした。
「あっれ〜〜。ここに魔王サマがいると思ったんだけど〜〜、な〜〜んだただの人間か〜〜。あは〜〜」
長い銀髪に猫のように鋭い緑眼。武器は2本のナイフだけのようだ。
口元に手を当て大げさに笑いながら登場した男は、剣を構え直したファルの肩に手を置いた。
「ね〜〜、魔王サマ見てないかな〜〜?」
男が手に力を込めると、ファルの肩から嫌な音がした。
「うっ…」
ファルは苦痛に顔を歪ませている。
「ファルを離しなさいよ!それにアンタが言っている『魔王様』は見てないわ!」
「ふ〜〜ん。でも近いんだよね〜〜。絶対この辺にいる気がするんだよね〜〜」
男は更に力を込めた。バキッという鈍い音が鳴り、ファルの絶叫が響いた。
「うるさいな〜〜っと、そこにいるよね〜〜魔王サマ〜〜」
「げっ。逃げるぞ人間!」
ダルクは私の手首を掴むのと同時に走り出した。
「えっちょっとなんで逃げるんですかっ?魔王様でしょ!」
「アイツは無理無理。てか、おしゃべりは後にしろ。舌を噛むぞ」




