走れ走れ異世界トラック
免責事項
・商業作家の天原先生がpixivに掲載している一コマ漫画に多大な影響を受けています。
・つまり、男性向けの作品ってことさ!
車谷いすずは1人親方のトラック野郎である。
いや、女なので女郎と言った方が正確か。
施設育ちで、身寄りはなく男まさり。
高校を出てすぐ運送業の仕事を始め、スキルと資金を貯めて独立したのは自分にとって素晴らしい選択だったと自負している。
一日に数百キロを運転する仕事は大変だか、自由もあり楽しい。
運転中は好きなアニソンやネットラジオを楽しめるし、ご当地の美味しいものだって食べられる。
ただーー
「最近ちょっとマンネリ気味なんだよなぁ」
仕事を終え、土砂降りの山道を運転しながらの帰り道でいすずは呟く。
十年を超えるキャリアの中で、全国各地をあらかた一回は訪れた。仕事は順調で今のところ資金繰りに不安もない。
いい事であるが、同時に新しいワクワクが乏しくなってきたのを感じる。趣味=新天地への旅である自分、休日も最近は肉と酒と女性向けエロ漫画を愉しむくらいしかやる事がない。
まあ、それはそれで幸せではあるのだが、せっかくの一度きりの人生だ。
もう少しこう……新しい刺激とか、トキメキとかワクワクが欲しい。
「いっそ海外で働くかね?いや駄目だ、アタシ英語できねーや。あー、異世界転生とかできねーかなぁ」
その言葉がフラグだったのだろう。
激しい稲光りで視界が白く染まったあと、彼女は乗っているトラックごと現実世界から消失した。
◇
「車谷いすずさん、貴方の望みを叶えましょう。チート能力を決めて下さい。」
「マジっすか……」
気がついたら、白い空間でエロい服を着た女神に話しかけられていた。判断が早い。
「えっと、使命とか成功報酬とか事前に教えてもらえます?もしかして『魔王を倒せ』とかそういう系ですかね。」
異世界転移は自体はウェルカムだが、何せこちらは社会人。
個人事業主としての経験から、受注前に契約内容は詳細に詰めておかねばならぬと学んでいる。
「いえ、特にこれをして下さいとかはないんです。貴女は自由に異世界ライフを満喫して頂ければそれで。その分報酬はないですね。行く前に任意のチート能力と言語翻訳は与えますが。」
「なんか話がうますぎませんか?女神様にメリットがないような気が……」
「いえ、貴女が異世界に行くだけでメリットがあるんですよ」
訝しむいすずに、女神は説明を続ける。
「日本人の大人って、基本的に倫理観が高くて野心は低めじゃないですか。だからチート転移で自由にさせても基本的に異世界を混乱に貶入れたりはせず、いい感じに治安や文化を改善してくれるんですよね。」
「熱帯魚水槽の苔取りにオトシンクルスを入れる……みたいな感じ?」
「はい、メダカ飼育ケースにタニシを入れるような感じです」
何故安っぽい方に言い直したし
「それで、チート能力は何にしましょうか?とは言っても、世界を滅ぼすようなスーパーパワーや不老不死は差し上げられませんが。」
「じゃあ……私が乗ってたトラックを常にガソリン満タンのオーバーホール状態で使える様にして下さい。あと、予約のある仕事のキャンセルしといてもらえません?」
せっかくの異世界に行くのだ。
後顧の憂いなくあちこちを旅したい。
長年の相棒である大型トラックが使えれば、今までと同様に行商でやら何やらで稼げるだろう。仮眠スペースは宿代わりにもなる。
「お安い御用です。しかし本人の持ち物を少し強化するだけとは、随分と慎ましい願いですね。ポイントが余るので、悪路でも振動を抑えられる加護もサービスしておきましょう。それでは、よい異世界ライフを」
◇
気がつくと、トラックに乗った状態で平原にいた。三百六十度視界が開けており、遠い空には竜の様なものが飛んでいる。
「うわー、本当に来ちゃったよ異世界。なんか年甲斐もなくワクワクするな」
周囲を見渡すと、剥き出しの地面に一部だけ雑草がほとんど生えていない場所があり、一本道を作っていたので道沿いに進んでみることにする。
十キロ程進んでみて、改めてチートにトラックを選んで良かったと思った。
この距離を歩くなんて、考えだけでもゾッとする。反面、トラックの中は空調もUVカットもあり快適だし、道中で狼の様な動物を見かけたときもサファリパーク気分でいられた。
「ん、あれは……」
道沿いに人影。
女騎士っぽい外見をしている。
あちらもこちらに気づいた様で、一瞬呆けた表情をした後、警戒心をあらわに剣を抜き放っていた。
とりあえず、少し離れたところにトラックを停車。ドアミラーをあけて敵ではないことを説明し、この世界の事を教えてもらおうと試みる。
「噂にきく『転生者』様にお会いできて光栄です。イスズさんは王国に来ればきっと厚遇されますよ。災害支援や通商に役立つ非常に有効な能力をお持ちですし。」
「そうなのね、じゃあお世話になろうかしら。他に行く当てもないしね」
女騎士(仮)はロイスと名乗った。
年は自分よりも10ほど下らしい。
宝塚の男役の様な中世的な美貌と長身にドキドキするが、胸部のプレートメイルは特盛である。
ロイスは単独任務中に狼の魔物に襲われて、それは撃退したもの物資を積んだロバを失い一度王都に戻るところだったらしい。
初めはこちらを警戒していたロイスだが、いすずが転生者だとわかると態度を軟化させた。十年に一度くらいの割合でやってくる転生者は世界の色んな場所で活躍しており、評判がいいのだという。女神の思惑通りだ。
「ねぇ、王国まではあとどれくらいかかるの?」
「このペースなら2時間くらいですかね」
「そっかぁ……ねぇ、ちょっと休憩しましょう」
道の左手に雑木林が見えていた。気はすすまないが、今のうちにあそこで花を摘んでおこう。そろそろ膀胱が限界である。
「この辺って危険な魔物とか出るかしら?」
「出ないと思います。ただ、私の声が聞こえる範囲よりも遠くには行かない方がいいですよ。」
そのアドバイスに従いつつ林の中でガサゴソ花を摘んでいると……急に大きい花も摘みたくなってしまった。そして多分これは音もするタイプのやつ。
異世界人って耳もいいのかしら?
聞こえると恥ずかしいな、それと尻の処理はどうしたものかと思案していると、水の音が聞こえた。どうやら近くに小川があるらしい。
「まあ、少しくらい大丈夫か」
軽い気持ちで小川まで行き、花を摘んだついでに天然ウォッシュレットを済ませた後、足を水に浸して気持ちいいーとかしていたいすず。
すると突然後ろから盗賊五人組に襲われて猿轡をかまされてアジトに連行されてしまった←イマココ!
「よし、猿轡を解いていいぞ。」
「ぶはっ……あんた達、何するつもりよ。」
「ぐへへ、言わなくてもわかるだろう?久しぶりの女だからな。」
盗賊の言葉を聞き、ロイスの助言を聞かなかったことを後悔するいすず。自分だってもういい年した女だ、この後の展開は安易に予想できてしまう。
おそらく気高い女騎士なら「くっ、いっそ殺せ!」とでもいう場面だろう。しかし、いすずとしては死ぬのはちょっとごめんである。
なんとかならないかと笑みを浮かべる盗賊達を観察する……よく見たら北欧系のワイルドや、イケメンと言った顔立ちの者が多かった。
「くっ、せめて優しくTL漫画みたいなムードで……」
「何言ってんだこいつ?」
「そんなに世の中甘くねーよ!」
「クス、我儘な子猫ちゃんだ」
一人ノリがいい奴がいたものの、大勢に影響はなく強引に押し倒される。
頭領らしい体格よい男が「お前らしっかり押さえておけよ」と命じ、下卑た笑みを浮かべながらズボンを下ろす。
ピョコン
女性の小指程もの大きさのある、なりなりてなりあまれるもの(日本神話風表現)が元気よく飛び出した!
ああ〜、貞操の危機
「待て貴様ら!」
そこに待ったをかける声が響く。
ロイスだった。
行方不明となったいすずの身を案じ、探しに来てくれたのである。それに対する盗賊達のリアクションはというとーー
「おっと、自分から食べられにくるなんてなぁ」
「おまえ、自分がどれだけ魅力的に見えるかわからねえのか?」
「お前は誰のものか、わからせてやるしかねぇよなぁ」
レディコミックの俺様系だった。
美形で胸部装甲が厚い騎士の登場に沸き立つ盗賊達。しかしこれは、いすずにとっては不幸な事であった。
「わ、私の時よりも大分テンションが高くてノリもいい……」
「お、俺は君も同じくらい魅力的だと思うよ」
「……ありがと」
それはそれとして、重要なのは盗賊達がロイスすらも油断できる程度の獲物としてしか見ていない事だ。
しかしそれも当然だろう、一般的に女は男よりも筋力に乏しい上に多対一の状況にあるのだから。
「いいかお前ら、殺すなよ。それと、後で楽しめる様に顔も傷つけずに捕えろ。」
頭領の指示に従い襲いかかる盗賊達。
しかしーー
「がっ!?」
「ぐぼ?!」
「ぎえ!!」
ロイスは強く、瞬く間に三人を打ちのめした。
残るは二人でだけである。
「畜生、仕方ねえ!おい、殺すつもりでやるぞ」
「お仕置きが必要なようだね」
拘束を諦めて本気を出してきた二人は強かった。ロイスはさらにTL漫画口調の男を昏倒させたが、その隙に頭領はナイフを魔力で強化しロイスのプレートメイルの中心を深く貫く。
「ロイス!」
「へ、へへ、お前が悪いんだぜ……」
しかし、ロイスはそれに動じた様子を見せず、頭領も殴り飛ばして昏倒させた。
「だ、大丈夫……?」
「ええ、身体には刺さっていませんよ。」
心配するいすずを安心させる様に、ズボッとナイフを引き抜くロイス。
確かに血はついていなかった、上手く谷間に挟まったのだろうか?巨乳ってすごい。
「さあ、縛り上げたら早く王都に戻りましょう。コイツらは後で騎士団に回収させます。」
◇
王国では大変な歓待を受けた。
謁見した国王は何故かパンツ一枚しか纏っておらず、初めは内心大丈夫かコイツと思っていたが、話してみるとなかなか大した賢王だった。
服装についてはあえて突っ込まなかったが、もしかしたら異世界の王族は『薄着こそ正装』みたいなマナーでもあるのかも知れない。
ロイスが見立て通り、いすずの特別で有益な力を国民のために役立てて欲しいと懇願される。
いすずに対して、『強制的に協力させるつもりはない、お互いwinーwinとなる関係を結びたい』と様々な情報を提示し、有効に能力を活用する方法を提案してくる国王。
「では、これで契約締結という事でよろしいな?」
「はい、ありがとうございます。」
結んだ契約は次の様なものだった。
いすずは、能力を使って王国から依頼された被災地支援や貿易に必要な物資を輸送する。
代わりに王国は、地位と家と出来高報酬をいすずへ提供。また仕事中は専属の護衛として精鋭騎士のロイスをつける。
そして初仕事の日。
飢饉の起こった僻地の村へと食糧を届ける、やりがいのある仕事だ。ロイスと会うのは数日ぶりだが、楽しい女二人旅になりそうな予感がする。
と、思っていたのだがーー
「ロイス、なんであなた男装しているの?!」
あー、やっぱり気づいてなかったかという表情のロイス。
「実は私、男なんですよ。」
なんでも、元々ロイスの任務は盗賊の討伐だったらしい。
女騎士に変装して油断させ、向こうからノコノコ出向いてきたところを逆襲する策略だったそうだ。
「国王様が言うには、盗賊は慰みものにしようと殺意が抑えられ、その一方で騎士は捕らえられたら『女装した変態』として恥を晒すため死に物狂いで戦うという一石二鳥の策だそうです。」
「そ、そう……」
どうしましょう?必要なら女騎士へ護衛の変更を依頼しますがとロイス。
「んー……このままでいいかな!」
「よろしいのですか」
よろしいのですよ。
だって年下イケメン騎士との二人旅でしょーう?
旅の非日常が心を開放して焚き火の下で語り合ってホテルでは一部屋しか取れなくてゴールインなんでしょーう?
「それでは出発!」
物資と煩悩を乗せて走りだす異世界トラック
この後二人は多くの人を助け、様々な事件に巻き込まれ、それはそれとして恋愛的な進展は全くなかったのだが……
それはまた別の話である。
国王様がパンイチな理由は下の転移魔法陣から↓
あと星塗りつぶして評価もしてくれたら嬉しい(*´ω`*)